浅草寺に別れを告げ、僕たちは再び去年のルートを逆に辿りながら秋葉原を目指して歩いていた。深夜の仲見世通りが見せる幻想的な空気に浸っていたために予定よりも滞在時間が長くなり、時刻は午前2時を回ろうとしていた。途中でバンダイの本社の前を通り、僕たちは正面玄関の前に立つキャラクターの像の両脇に立ち、去年と同じポーズと構図で写真を撮った。去年ここを通ったときは夜明け前で、白み始めた空にライトを放ちながら聳えていたスカイツリーの姿を今でも覚えている。
雨は少し前から止んでいたが、空はいつ再び降り出しても不思議ではないと感じさせる妖しさをたえていた。
ガード下を通るとき、大きくてひとつも明かりが点いていない真っ暗な箱がガードの上にあった。山手線の車両だ。昼間ではきっと見ることが出来ないこんな光景に出会えるのも夜短の醍醐味だろう。
中央通りをひたすら南へ、時々寄り道をしながら歩く。秋葉原駅、AKB劇場、オノデン、万世橋、神田、三越、日銀、日本橋、銀座、歌舞伎座、新橋、……
多くの建物はすでにその明かりを消していたが、等間隔に並んでぽつんと灯る街灯や、地下鉄の出口を示すサインや、商業施設の出入り口を照らす蛍光灯の眩しさが、まるで人間の代わりに寝ずの番をしているように感じられた。もちろん、道路をまばらに走るタクシーや車のすぐ脇では、夜間作業用の強い照明の下で作業員の人たちが工事を続けている。
日本橋を過ぎた辺りから再び降り出した雨が少し強くなり、カメラが濡れないように気遣いながらシャッターを切る。道のコンビニの前で休憩し、誰かが差し入れで持ってきてくれたドーナツをかじりながら足を休めた。