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Interviews

シリーズ「生命とは何か?」3. 小林憲正先生


3. 地球上とは異なる「生命」のすがた

地球外生命――高まる期待感

――先生のご著書を読むと、宇宙の地球以外の惑星に生命が存在するという期待が持てる気がしますが、最近の研究ではそういった地球外生命に対する期待感は高まりつつあるのでしょうか?

ジェネラルに言って、昔から上がったか下がったか、というと、上がっています。これで一番大きいのは、天文屋さんが地球外の生命探しにすごく乗り気になったこと。その一番のきっかけが、1995年に太陽系以外の惑星が初めて見つかったこと。それまでは実は一個も見つかっていなかったのです。そこで一旦見つけ方がわかるとみんな競って探し始めて、いま数百個から、候補まで含めると数千個の惑星が見つかっています。当初はサイズの大きいものしか見つけられなかったのが、最近は地球の2倍くらいのサイズのものも見つかってきた。それくらいのサイズだと、水を持っている可能性がかなり高い。実際水がみえるわけではないのだけど、いろいろと計算をしてみると水があってもおかしくない。そうすると、水を持った惑星がこんなにたくさんあれば、そのうち何割かは生命が生まれてもおかしくないのではないか、という期待が高まったわけです。

そもそも、地球外生命がいるかいないかという議論が、これが極端で・・・天文屋さんは昔から「生命が存在する確率はかなり高い」「いなきゃおかしい」としていた一方、生物屋さんは「こんな複雑なものがそう簡単にあってたまるか」という立場。純粋に、もっとナマモノの生物を扱っているひと、タンパク質とか核酸とかいじっている人では「地球外の生命なんてそう簡単にできないぞ」と考えている人が多いようですね。

――地球外生命の可能性が0という人の根拠は何なのでしょうか?

生命の起源を考えるときに一番普通なやり方は「地球の生物はこのタンパク質とこのDNAを持っている、だから(生命として在るためには)これらを作らないといけない。でもこれをつくるのは大変だよー」という話になるわけですね。そういう風に考える人はピンポイントに「ここがゴールです」というのがあって、そのゴールに向かって化学反応をさせようとする。そうすると、とても難しい話になってしまう。

――生命というものを地球に存在する生物を基準に捉えてしまうと難しくなる?

ゴールはいっぱいあるんです。地球の場合は幾つもあるゴールの中でたまたま私たちの知っているところにランディングしたというだけで。だから地球外生命が地球上の生命と同じ点に着地するという確率は非常に低いのだけれど、ここでもここでもいいんだってなれば可能性はずっと広がります。

 

未知の自己複製物質があってもおかしくはない

――今のアストロバイオロジーでは暗に生命は有機物から成るという仮定をしているように感じます。突飛な話ですが、まったく有機物とは異なる物質からできている生命の可能性はないのでしょうか?

これは常に議論しています。研究者で有名な例では、ケアンズ・スミスというイギリス人、かれは最初は核酸なんて出来っこないから、粘土が最初の生命だったという説を出した。まさに「ケイ素生命」ですね。結局、ある程度大きな分子で機能を持たせるとなると、周期表の炭素の縦の列、炭素やケイ素、だろうということになるんですけど、宇宙にケイ素もそれなりに多くあるんですけど、炭素やケイ素をいろいろとつなげてみたときの柔らかさのようなものを考えてみると、明らかに炭素の方がいい。ケイ素の生命もなくはないかもしれないけど、炭素は宇宙のほとんどどこにでもあるし、やっぱり炭素を使ったほうがいいんじゃないかなと。完全に否定するものではもちろんありませんけど。

――やはり炭素は宇宙の生命にとってもエッセンシャルな分子なんですね

アミノ酸は、C,H,Oがうじゃうじゃあってエネルギーを加えれば簡単にできてしまう。それなら有機物の中でもアミノ酸を使わない手はない。でも核酸をどうやってつくるかはほんとに難しい。自己複製をしうる高性能な化学物質として私たちは核酸系以外のものは知らないけど、我々のまったく知らない自己複製物質があってもおかしくはありません。地球の場合はそういうところ(核酸を使う)にたどり着いたようだけれど、かならずそこがゴールかはわからない。DNAだけを探すのでは視野が狭くて、ちょっと違うものを使っているという可能性を考えなければいけないんです。

――DNA以外で自己複製しうる分子は探求されている?

核酸の類似のものしか今のところいいいものはないですね。DNAをちょっとずつ変えたもの、例えば塩基を他のものに変える。あるいは糖をリボースの代わりにアラビロースにしたっていいし、もっと小さな糖にしたっていいし。というように糖もいろいろ置き換えられる可能性がある。それから、そもそも糖がとにかくできにくいというのがあるので、糖の部分をペプチドにする、ペプチド核酸にする、というのもヨーロッパを中心に結構研究している人がいる。いずれにしても、DNAのような二重らせんができて二重らせんをくっつけているのは塩基ですよ、というのは共通している。

ぜんぜん違う複製物質というのがあってもいいと思うんですけど、いろんな人が一生懸命考えてるけど誰もまだ見つけられてない。ないわけないと思うんですけどね。

――もしかしたら他の惑星で生命が見つかって、我々の知らないような複製物質を使っていることがわかるかもしれませんね。

そうなんですよね、それが楽しみなんです。

宇宙全体を見れば生命は当然いると思う

――宇宙の生命探査には、地球では想像もつかないような化学物質の発見という期待も込められているのでしょうか?

そうですね、それもあります。いくら地球上で生命に多様性があるといっても結局一種類しかないわけですから。これだけをもって「生命」を論じるというのはどうかと思いますけどね。2つ目の生命が一つでも見つかれば、見つけ方がわかったわけですから(生命が)一気に見つかってくるんじゃないかと期待しています。太陽系内にそんなにいくつもあるとは思わないですけど。

――もし太陽系内で生命が見つかったとすると宇宙全体にはたくさんの生命があるはずです。そうするとフェルミのパラドックス(※9)がより現実的になってくるのではないかと思うのですが……

まあ宇宙全体を見れば生命は当然いると思いますよね。ただもうひとつの問題は、ガラクタ生命だったらポンポンできるんだろうと私も考えてるんだけど、そこから高等生命までの進化、文明を持つまでの進化がどれくらいの確率で起きるかはわからない。でも0ではないだろう。宇宙でもどこかにはあるだろう。でもその密度がどれくらいかは言えない。それに物理法則は宇宙で共通だから、光速より速く飛ぶってのはブラックホールとかSFっぽいのを考えない限りできないだろう。さらに文明の活動の寿命というのもわからない。本当に知的なものがいるというのは宇宙の歴史の中では、ほんの数百・数千年のことかもしれない。その(短い)期間に他の知的生命体と遭遇するっていうのは難しいかもしれない。まあ知的生命がどうやって生まれてくるかはよくわからないですよね。

――夢物語かもしれませんが、もし宇宙探査の予算があってしばらくしたら宇宙に出発するとなったら、先生でしたらどのような調査をされますか?

火星はすでに山岸先生と一緒に、生物のもの探すというので、これはまあなんとかやりたいな、と思っています。その次はタイタンなんですけど、これは日本独自で行くのは今の技術だとやっぱりかなりしんどいっていうのがあるので、やるとしたらどこかの国に相乗りして…ということだと思います。
やっぱり「もの」は欲しいですね。この前(ホイヘンス)は現地で降りてく間に調べるところで終わっちゃっててます。メタンの流れがあると思いますので、そこ(タイタン)にある有機物はどこかに溜まっていると思うんですね。溜まったところでごっそり取って、それを持って帰ってきたらすごいことがわかると思う。

※9 フェルミのパラドックス
全宇宙で生命を持つ可能性のある惑星の数の予想から導かれる地球外文明の存在率の高さと、現に我々がそのような文明との接触したことはない、という事実との矛盾のこと。物理学者エリンコ・フェルミが提唱した。