2.東京国際映画のコト 「好循環を作り出すためには、映画祭としてはワールドプレミアを狙い続けないといけない」
――次にTIFFのお話を伺いたいです。以前のインタビュー(6)で、作品の選定基準に「新しい映画」がいいとおっしゃっていたのですが、具体的にはどういうものでしょうか。
「新しい映画」、というと「スタイルが新しい」という意味合いに聞こえてしまうんですけれども、もっと単純に、10月の映画祭ならば秋のサーキットを周る、という意味での新しい映画ということですね。だから、なるべくその年の前半で、たとえばカンヌ国際映画祭で話題になったような映画は東京国際映画祭のコンペでは改めて取り上げないとか。日本の普通の観客にはピンとこないと思うのですが、映画って世界でワールドプレミアが行われてから日本で公開されるまでに半年から一年ぐらいかかるんですよね。僕としては、世界初の映画を見せるのが映画祭の一つのあり方だと思うので、秋の新作を集めているということです。勿論スタイルとしても新しい映画を追い求めていることは言うまでもないですが、そのインタビューで話したのは多分今言ったような意味だと思います。
――今年は、邦画にフォーカスしたイメージがあります。賞を争うコンペティション部門は15本中3本邦画だったり、往年の名作を上映するクラシックスにも力を入れたり。なにか意図があったのですか?
東京の映画祭なので、日本映画を海外にアピールしていくことは一つの役割だと思うんですよね。それが全てになってはいけないとは思いますが、今までは映画祭の紹介の仕方としていろんな日本映画がいろいろな部門にバラけているのが、少し気になっていたので、もう少しまとめてみようという意図がありました。もう少し、日本映画の「ちゃんとまとめて打ち出している感」を出したかったんですね。で、もう一つが、たまに海外から来たマスコミや映画関係者に「最近の日本映画の旬な作品をまとめて観たい、そういう部門はないのか」と言われることがあったので、「JAPAN NOW」という部門を作って、これを観れば今の日本映画のトレンドがわかる、というようにしました。ただ、コンペに日本映画が3本入ったのは、日本映画を今年多くアピールしていこうという流れに必ずしも乗ったわけではない。最初から3本やろうと決めていたわけではないですね。去年は『紙の月』(7)という作品1本だったんですよ。久しぶりのメジャー作品ということで、これ1本で勝負したいという思いが去年のコンペにはあったんですよね。今年は個性の異なる3本が揃ったので、「これが今の日本映画ですよ」ということでコンペに入れてもいいなという思いを抱けたので3本になりました。その分、今までコンペ部門の作品は合計15本だったのが、コンペ部門全体の本数を1本増やして16本にして、3/16というように、少し薄めるようにしました。
――例えば、ワールドプレミアを増やすことが映画祭では重要ですが、東京国際映画祭は10月の終わりに開催されていて、その前にはヨーロッパの三大映画祭(8)や、10月の上旬には釜山国際映画祭があり、開催時期的にワールドプレミアの作品が限られてくると思うのですが。
そうですね。ワールドプレミアは10月だから難しいわけでもなくて、どこの月で開催しようが難しいと思います。というのは、別に、各国の映画が1月1日から「よーい、どん」と始まっているわけではないので、何月にやっても一緒といえば一緒です。
例えば欧米の作品が、東京国際映画祭にワールドプレミアをとっておくというのは、他の並み居る映画祭を我慢しなくてはいけないわけで、そこまでしてもらう理由をまだ示し切れていないです。ヨーロッパの人に対して「ヴェネツィアのコンペに出すよりも東京のコンペに出すほうがいいよ」と何をもって言えるか、という材料がまだないですね。東京国際映画祭のコンペにワールドプレミアで出したら、どういうステータスになって、どういうメリットをもたらすことができるかを、ヴェネツィアのコンペに出すこと以上のものをまだ作れていない。それは甘んじて受け入れないといけないところだし、自覚しているところだし、大きな課題だと思います。
何でもいいワールドプレミアだったら取れるんですよ。でも、やはり面白いワールドプレミアでないといけないし、つまらなかったとしても有名監督のワールドプレミアであってほしいじゃないですか。ワールドプレミアで観て凄くつまらなかった時に、それが有名監督だったら監督のせいにできるけど、無名監督だったら映画祭のせいになるので。つまらないワールドプレミアを観るぐらいなら、面白い「港区プレミア」を観たほうが絶対いいですよね。そこのバランスは難しいですけど。ただ、仰ったように、ワールドプレミアが多いと、その映画祭のステータスが国際映画祭業界的に上がって、上がっていくと、そこの映画祭に出そうっていうことになるので。要は、好循環を作り出すためには、映画祭としてはワールドプレミアを狙い続けないといけない。欧米作品については今言ったような難しさがある。その代わり、東京国際映画祭はアジアの映画祭なので、せめてアジアの映画についてはワールドプレミアを死守しようと。欧米の映画祭があまりアジア映画を採らないここ最近の傾向があるので、それならなおさらアジア映画を採るべきです。「アジアの未来」っていう部門についても、極力ワールドプレミアをそろえようとしていますが、若干ここはインターナショナルプレミアも、「本国で公開していたらまあしょうがないか」というところはちょっとあって。コンペティションにせよ「アジアの未来」にせよ、ワールドプレミアはこだわっていかなければならない部分だと思います。
(6) http://news.livedoor.com/article/detail/5182621/ (C)ライブドアニュース
(7)2014年公開の日本映画。吉田大八監督作品。銀行員であった女性が、顧客の孫である大学生と恋に落ち、彼のために犯罪に手を染め、堕ちていく様が描かれる。
(8)カンヌ国際映画祭・ヴェネツィア国際映画祭・ベルリン映画祭のこと。世界で最も有名かつ重要な3つの映画祭である。カンヌ国際映画祭は、フランスのカンヌで毎年5月に開催される国際映画祭。ヴェネツィア国際映画祭は、イタリアのヴェネツィアで毎年8月末から9月初旬にかけて開催される国際映画祭。ベルリン国際映画祭は、ドイツのベルリンで毎年2月に開催される国際映画祭。