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【映画企画】矢田部吉彦さんインタビュー

はじめに


去る10月31日、第28回東京国際映画祭が閉幕した。東京国際映画祭への出品数はどんどん増え、今年はなんと1400本もの作品の中から16本を選び抜いたという。結果は、『ニール』が2000年以来15年ぶりの中南米圏からの、またブラジル映画としては初となる最優秀賞を獲得し、話題を呼んだ。
東京国際映画祭に出品される作品はどのように選定されるのか。また、海外の映画業界と日本の映画業界はどのような問題を抱えているのか。
東京国際映画祭・プログラミングディレクターの矢田部吉彦さんにお話を伺った。

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1.矢田部さんのコト 「あまり人生後悔したくないなと思い、まだ30台前半だったら動けるだろう、ということで決めたんですね」



――まずは矢田部さんご自身のお話をお伺いしたいです。映画を好きになったきっかけはなんですか。

親によく映画館に連れて行ってもらってディズニー映画とかを観ていたので、それで好きになったのだと思います。そこからだんだんのめりこんでいった、という感じですね。決定的に映画が好きになったのは、『タワーリングインフェルノ』(1)とか、『スター・ウォーズ』(2)がきっかけでしょうか。本格的に、いわゆるアート系にのめりこむようになったのは、『第三の男』(3)がきっかけでしたね。

――一度は銀行に就職されたそうですが、その後、映画業界に飛び込む際、結構迷われたと思うのですが、その時の心境をお聞かせ願いたいです。

僕にとって映画はすごく好きなことだったのですけれど、趣味だったので、大学を卒業するときは仕事にしようと考えなかったですし、考えたこともなかったです。作る側とは無縁で、ずっとただのシネフィルでした。卒業した当時はバブル末期で、あまり多くのことを考えず銀行に入ったのですが、あまりハッピーではなくて、「このままここでやりたいこともないな」という思いを抱えていました。が、途中、「やっぱり現状を打破しないかんな」ということで会社の制度を使って留学しました。留学先のキャンパスに映画館があってそこの映画館を片っ端から観ているうちに、「とてもおもしろいのに日本に紹介されていない映画ってこんなにたくさんあるんだ」と身を持って感じました。日本にいたときも世界中の映画が観られると思ってはいませんでしたが、「これほどふるいにかかっているんだ」というのは改めて感じられ、「外国映画を日本に紹介する仕事があるとしたらそれをやりたいな」と思い始めたんですね。仕事に煮詰まっていたのと、「映画の仕事をしたいな」と思い始めたのが同じぐらいの時期だったんですけれども、「やっぱり趣味を仕事にしたらいかんのではないか」と思い3年ぐらい悩んでいました。でも、32歳ぐらいでしたかね、「もうこんだけ好きだったらいいかな」ということでやめたんですが、ものすごく悩みました。ただ、あまり人生後悔したくないなと思い、まだ30台前半だったら動けるだろう、ということで決めたんですね。

――配給会社にいかずフランス映画祭(4)と東京国際映画祭どちらにも行ったのには理由があるのですか?

30歳を過ぎて未経験者が配給会社のドアを叩いても、誰も開けてくれないだろうなというのは自覚していたので、「自分で始めるかな」という感じだったんですよね。退職金が出たので、自分で映画の買い付けをやってみたりして。「自分の金で自分で修行した」という感じですね。他にもドキュメンタリー映画の監督に声をかけてもらって一緒に一本作ったりとか、そういう縁もあって、そのうちに、僕は海外にいたとき外国の映画を日本に持ってきたいなと思うようになりました。そのきっかけの一つがロンドン映画祭(5)だったんですけれども、「やっぱり映画祭っていう場がいいな」と思っていたので一年間世界の映画祭を回ったりして、自分で買い付けの作品を見つけたりしました。

――特にフランス映画祭、東京国際映画祭を選んだことには、何か特別な意味があったのでしょうか。

まずは、目の前で映画に関連するものがあったら首を突っ込んでみようと思っていました。どこかでアルバイトを募集していたら行ってみたり、ボランティアを募集していたら行ってみたりとか。僕はちょっとフランス語が出来たので、フランス映画祭でボランティアを募集しているときに応募して、そこで色々駆けまわっている時に東京国際映画祭のスタッフをしている人がフランス映画祭の方も兼務していて、「じゃあうちにも来ない?」と誘われたのが東京国際映画祭をやるきっかけにもなった。そういう、縁が繋いだという感じでしたね。

(1)ジョン・ギラーミン監督作品。超高層ビル火災を描いた映画。本作品は1970年代中盤期のいわゆる、「パニック映画ブーム」の中でも最高傑作と評されている。1974年度のアカデミー撮影賞、編集賞、歌曲賞を受賞。
(2)ジョージ・ルーカス監督作品。全世界に非常に多くのファンが存在することで有名。
(3)キャロル・リード監督作品。映画史に残る傑作フィルム・ノワール。
(4)日本初公開となるフランス映画を上映する映画祭。
(5)イギリス最大の映画祭。例年10月ごろに開催される。