稽古場見学
取材が終わった後、御厚意により、平田さんの自宅の地下にあるアトリエ「走り穂」にて青年団の稽古を見学させていただいた。そこでは次回公演の「もう風も吹かない」の稽古が行われていた。平田さんが「じゃあ、シーン〇〇からやって」と言うとそこから稽古が始まる。そこから役者の人たちがそのシーンを演じ始める。その後、平田さんが指示を出すまで演技は続く。
出される指示は「その台詞とその台詞は間を空けて」や「そこの台詞を聞いたら少し変な顔をして」などである。非常に細かく演技の動作に指示を出して修正していく。
そして平田さんが「じゃあ、最初から」と言うと、またそのシーンの始めから演技が始まる。そのように、平田さんの稽古方法は同じシーンの稽古を繰り返し行うという独特なものである。それをシーン毎にやっていくことで演劇全体を作っていく。
役者が修正した後の演技を見ても、素人目には修正する前の演技との違いがほとんどわからない。しかし、その本当に微妙なレベルの修正を積み重ねることで、「リアル」な演劇を作り出しているのだ。
実際に稽古場見学をさせていただいた始めのところでは、どこから役者の演技が始まったのかわからなかった。それくらい現実と演技がシームレスに繋がっているように感じられた。
しかし面白かったのは、そのような稽古を重ねてとても厳密な操作のもとで作りこまれている演劇といえども、役者は生身の人間であるがゆえに、繰り返して演技している役者の動きが微妙に違うということである。たとえば、最初はある役者さんが台詞を言いながら指を順番に折っていたのに、演技を繰り返していくうちに五本の指を折るようになっていた。
平田さんの現代口語演劇というと精密さが強調されることが多い。けれども、当然のことながら人間である以上、毎回の演技は微妙に異なっている。そんな発見があった稽古場見学だった。
おわりに
今回の取材では、平田先生の淀みなく、自信を持った語り口にとにかく圧倒された。その語り口は、おこがましいかもしれないが「これが一流の芸術家か。」と思わせられるような迫力があった。平田先生はむしろ小柄な方なのだが、それを感じさせないくらいだった。「民主主義と演劇はほぼ同時に生まれた」、「芸術は100年、200年先に人を慰めるためにある」という語られる内容のスケールの大きさには、平田先生の演劇人、芸術人としてビジョンの大きさを感じた。
編集:吉川裕嗣 写真:吉見洋人
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