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ビターなものと一緒に読みましょう-『ワルイコトシタイ』シリーズ 桜賀めい



あがるーあがるーよ、消―費―税―

『川の底からこんにちは』の「しじみ工場の歌」が頭にこびりついて離れません。東京と埼玉の境目からこんにちは。見聞伝更新停滞の隙間に出現するBLレビュー、最近もいい具合に更新が停滞してきました。

荻上直子監督の『バーバー吉野』を最近見て、もたいまさこが鋏と櫛を持って全力疾走する姿が忘れられず、視覚的には全力疾走するもたいまさこ、聴覚的には「しじみ工場の歌」が無限リピート再生され、とってもシュールな感じです。あ、でもたまにペドロ=アルモドバル監督の『ボルベール―帰郷―』がインターラプトしてきます。

そんな感じで目も耳も機能しないので、残された手で相変わらずだるいふくらはぎを揉み、鼻は何物にも使えなくて、仕方がないので消費期限が過ぎたひき肉が食べられるのかチェックするために使っています(ひき肉は茄子とみそと豆板醤で適当に炒めておいしく頂きました)。ようするに何もしていない。たまるばかりで減らない課題!積読!でもBLレビューは変わらずに更新するのです。定期更新はやっぱり大事です。

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『バーバー吉野』で、もたいまさこは言いました。

「大事にしよう町の伝統 早めに摘もう、非行の芽 子供はやっぱり吉野刈り」

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息を切らせて大きく叫び、今月も始めて行こうと思います。今回紹介するのは桜賀めい先生の「ワルイコトシタイ」シリーズです。

 

画像は最新刊の『ワルイ恋人じゃダメ?』ですが、お買い求めになる際は『ワルイコトシタイ』からご購入なさるよう、くれぐれもご注意ください。なぜこれを書影に選んだかはお察し下さい。はい。



今まで自分好みの作品を紹介してきたのだが、そればっかりでは自分の趣向が反映されてしまって面白くないし、食わず嫌いもよくないかと思った。そこで、良さ気なBLを見つけるべく、Cafe801に向かった!

学園モノなら大丈夫だろ、と勘と直感に基づいてズボッと手にとったのが、この「ワルイコトシタイ」シリーズである。読んでみたらけっこうかわいくって気に入ったため、翌日ジュンク堂で半分そろえ、そのまた翌日リブロで残りを買い、全巻購入に至った。消費税が上がる前に買っとかないと…

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感想:ストーリーは王道で、甘い。究極に甘っ甘である。

いつものことながらレビューを書きながら喫茶店でコーヒーを飲んでいるのだが、今日は砂糖を入れる気分になれない。それくらい甘甘である。

苦い苦い就活や、バイト帰りなどに読めば丁度中和されるぐらいであろう。最近苦い出来事があったりしたら、読むといいかもしれない。でも究極にリア充の話なので、失恋直後とかは自傷行為になるおそれがあるためおすすめできない。まぁホモだけどな。

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主人公はドがつくほど天然な不良の永遠(とわ)と、二重人格のエリート生徒会長の帝(みかど)。話の流れは要するにド天然な永遠が腹黒生徒会長に落とされるというもの。生徒会長と不良、学園モノの王道といったところであろうか。この作品で輝くのは何より永遠の天真爛漫っぷりであろう。

永遠は一応不良なのだが、ワルには決してなりきれない。

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悪になりきれないキャラクターって、結構いろいろな作品に出てくると思う。先月紹介した腰乃先生の『あっちとこっち』の中島君もタバコをスパスパ吸うも、彼を不良とは到底言えない、不良になりきれない人である。依田沙江美先生の『ぴかぴか Brand-New Day』(祥伝社、2012)に収録されている『ひよこの耳』の隼人や、ありいめめこ先生の『ひとりじめマイヒーロー』(一迅社、2012)の勢多川もまさにその類であろう。

この「なりきれない」、という中途半端さが飢えだは好きなのだ。漫画の中に登場するキャラクターだから自分と被ることなんてめったにないけれど、この「なりきれない」という所に人間味があって、感情を理解しやすいのかもしれない。

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永遠は嫌いな相手には中指を突きだしてすぐ喧嘩を売ってしまうが(多分本人はそのポーズが真に何を意味するかはわかっていない)、二人の兄に溺愛されて育ち、根っこはとても純粋だ。しかもお馬鹿。ものすごくお馬鹿である。

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帝が毛嫌いする生徒会の人間であることに初めて気が付き、ショックで元気がなくなってしまった永遠を見て、二人の兄は大心配。一番上の兄の永久は「気もそぞろなんだ!」と永遠に声をかけるのも、当の永遠はこんな感じである。

「そぞ…え? なに そぼろ…?」

そしてこう続ける。

「ごめん久兄 くー兄… 今はそぼろ飯な気分じゃねーんだ…」

まあ古典的なおバカキャラなんだけど、屈託のない笑顔と天真爛漫さが絶妙にマッチしている。桜賀先生のギャグセンスがとても光っている。

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帝は永遠の天真爛漫さに惹かれていく。

しかし、永遠の純粋さゆえに、帝はなかなか自分の好意を理解してもらえない。いろいろとしてしまっているのに、永遠は帝のことを「親友」だと思い込んでいる節があるのだ。帝は時にわざと永遠にそっけなく接し、永遠に永遠自身が無意識に抱きつつある感情を気づかせようとする。だいたい目論見は成功して、永遠は帝の思う壺にはまっていく。

でも永遠も帝の手の上で踊らされるばかりではなくて、不意に思いもよらない発言をして、帝をメロメロにしてしまう。

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関係が進展していく中で、永遠は次第に帝に独占欲を抱いていく。帝は元から相当強い執着心を永遠に対して持っているため、こっそり永遠が始めていたアルバイトもやめさせようとする。しかし、永遠はそんな帝の気持ちが理解できなくて苦しむのだが、帝がバイト先に来たのをきっかけに永遠は帝もまた独占欲を自分に対して持っていることに気がつくのだ。

「これが独占欲ってゆーんだよな」

「…そ… そう…だね…」

「なら帝も同じだ! だから…帝のこと怖くなんかねーや!」

なんなんだろうね。キーボードでこのセリフ入力してたら恥ずかしくなってきちゃった。

永遠がこれらの発言を意図して言っているとなんかちょっと気持ち悪いが、もちろん当の本人は何も考えていない。恐ろしい天真爛漫さである。漫画の中でこそ許されるというところか。

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恋のなんたるかもわからない永遠だけど、精神的成長とともに二人+αの関係は次第に変化していくだろう。どう進展させていくのか、予想がつかなくて気になるし、それに何よりラブラブな二人を見ていると、なんかこの世の辛いことはみんなまやかしに見えてくるから、これからも二人の恋模様を見守っていこうと思う。

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ちなみにサブキャラもとても魅力的でスピンオフも展開している。

永遠の二人の兄の永久(ながひさ)と久遠(くおん)は重度のブラコンで、永遠を誘惑する帝にやきもきしている。

帝には姉の君子(きみこ)と兄の七王(ななお)がいる。君子はドS星の住人で、七王は男を落とすことにかけては負けない魔性のゲイである。

永遠の悪友の東雲(しののめ)は、副生徒会長の修二にご執心で、もう片方の優(ゆう)は作中で唯一の女顔だが相手には恵まれない。女子にはモテるようである。言うまでもなくふたりともお馬鹿(永遠よりはマシ)。

すごいな、BL率の高さにクラクラしてしまう。

 

ややこしいが、『ワルイコトシタイ』→『悪いコでもイイ?』→『嫌いじゃないけど』→『悪い男(ヤツ)でもいイイ』→『恋じゃないけど』→『無慈悲なオトコ』→『ワルイ恋人じゃダメ?』→『彼じゃないけど』と進んでいく。

『○○じゃないけど』は東雲と修二、『無慈悲なオトコ』は七王と久遠のそれぞれスピンオフのため、ご購入の際はご注意ください。