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Interviews

【ゲーム企画】ときど選手取材(プロゲーマー)

はじめに
「プロゲーマー」という職業をご存じだろうか?今、日本にはゲームをプレイすることを生業とする「プロゲーマー」という肩書を持つ人達がごくわずかだが存在する。e-sports(注1)の目覚ましい発展とともにその存在は認知されつつある。「プロゲーマー」の中でも東京大学出身という異色の経歴を持つときど選手にお話を伺った。

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プロフィール
ときど
名門麻布高校出身で東京大学卒の「プロゲーマー」。世界最多の大会優勝回数を誇る。綿密な理論と機械のような操作精度、そして誰よりも熱い情熱を武器にe-sportsの第一線で活躍している。2014年7月、PHP研究所より自身初の著書『東大卒プロゲーマー』を出版。ゲーマーとしての自身の半生や考え方が綴られている。

―――現在のゲーム業界について、プロゲーマーになられた四年前と比べてどう感じていらっしゃいますか。

プロゲーマーになった頃には、ゲーム業界にどれだけの人が興味を持ってくれるのかなという問題意識がありましたが、ある程度認知されてきたかなと感じます。本も出せましたしね。

しかし、新しい問題も出てきています。それは、ゲームが競技として捉えられつつあることです。もちろん自分は競技のつもりでやってきたけれど、ゲームというのは元々エンターテイメントの世界で成り立っている部分があるので、「この技出せたらかっこいいな」とかそういうものとしてずっとやってこられました。だから、今まで続けてきたファンが、競技化の波に乗れなくてゲームを止めたりしないかなという不安があります。それに、競技としてのゲームには欠陥があり、競技として勝ちを目指すにはゲームはフェアではないんです。

 

―――どのようにフェアではないのでしょうか。

競技の定義は決められたルールの中で勝ちを目指すことだと思いますが、ゲームは元々エンターテイメントだから、不平等な部分がたくさんあります。まず、格闘ゲームにはそれぞれのキャラの性能が違うという点でどうしようもない差が存在しています。プロを名乗る以上、何故一番強いキャラを使わないのかという疑問はついてまわります。

格闘ゲームでは、大会での勝負をみんなで見るという楽しみ方が浸透しています。でもみんなが勝ちを目指して一番強いキャラを使って同じ戦法をとったら絶対つまらないものになってしまう。そして業界が盛り下がってプロが成り立たなくなってしまう。たぶん格闘ゲームをやる人なら、なんとなくわかっているとは思いますけどね。

 

―――格闘ゲームの賞金は年々高くなってきています。そうなると最強キャラで強い戦法をとる傾向は避けがたいのではないでしょうか。

それはとても難しいところで、まだ100万円とかならそういう状況でもないのですが。この前、発表された来年(2015年)のカプコンカップ(注2)の5000万賞金に使いますという話。仮に優勝者が1000万もらえるとしたら、みんなの心構えがどうなっていくのか分かりません。しかも、日本人だけで競っているわけではなく、もっと物価の安い国のプレイヤーもいます。彼らにとって賞金の価値は二倍三倍となり、一回優勝しようものなら何年も暮らせる。今はプレイヤーの良心に任せている段階です。

賞金額を上げると同時に、ルールの改正などを行って、エンターテイメント性と競技性を両立させるような改善をメーカーさんや大会運営者に期待します。

 

―――格闘ゲームをe-sportsとして今後さらに発展させるためにはどうしたらいいでしょう。

今の日本だと、「ちゃんとした人がやっているんです」ということを発信していくやり方がいいと思います。特にこの国ではゲームに対する偏見があって、ゲームを真面目にやることに抵抗がある世代が権力を持っているので、そういう人たちを納得させるような人格を持ったプレイヤーがもっと発信していくべきなんだと思います。たとえば、業界のトップを走っている梅原大吾(注3)さんは人間的にも素晴らしいし、尊敬できる方です。

 

―――本を出すという活動は、そういうことを意識されているのでしょうか。

あの活動は僕の中でとても大きいです。東大卒という冠があったからできたことではありますが。ああいうことをもっとやっていけたらいいと思うし、やっていける人が増えたらいいとも思います。そういう活動を後進のプロの人たちがやっていくためには、多分ゲームがうまいだけだとできない。プロというのは、この業界を発展させることができる人のことであって、勝つのは当たり前。その上で、勝ち方にもこだわってほしいですね。心無い勝ち方ではよくないということを、僕がそういう勝ち方をしてきたからなおさら思います。

 

―――格闘ゲームは、新規で初心者が始めにくい風潮があると思います。新しいゲームは、初心者向けのシステムを増やすなどの努力はなされていると思いますが、プロとして思う所をお聞かせください。

まず、新しい人を取り入れていかなきゃいけないというのは絶対正しい考えです。「どんどんマニア向けにします」となると先はありません。新規向けに新しい要素、できればちょっと簡単に勝てるようなシステムを導入するということは、僕はあったほうがいいと思う。……みんな思っていると思うんですけどね。一部のただ勝ちたい人たちが「ここは俺たちの領域なんだよ」みたいな感じで、新規の人を遠ざけてしまうっていうのはやっぱりよくないことです。でもそういう人たちもゲームが好きだという思いが絶対あって、その裏返しなんですよね。「俺はお前よりもっとこのゲームのことを好きなんだよ」というような思いがあるからなんでしょうね。そういう人たちって人気が低迷している中でも業界を支えてくれた人たちなわけじゃないですか。だからそういう人たちの思いも多少汲み取ってあげて、バッサリ切り捨てることはやめてほしいです。今までずっとやってきた人たちと新しい人たちが一緒になって切磋琢磨できるようなものをメーカーには期待しますし、僕らプロはそこの橋渡し的存在になり、新規の人たちと古参の人たちがうまくやっていけるような意識を広めていかなきゃいけないですね。それに、新規の人たちに「ゲームってこういう楽しいものなんですよ」ということを伝えるのは、やっぱりプロの仕事だと思うから。

 

―――ゲームの楽しさを伝えていくために何か考えていらっしゃることはありますか。

今はゲームセンターに行かなくても、家庭用ゲームのネット対戦機能で対戦ができるようになっています。初心者の人が同じようなレベルの人と対戦できるマッチング機能をもう少し快適にしてほしいですね。オンラインだと相手の顔が分からないというところはちょっと嫌ですけどね。オンラインで対戦して、メッセージ機能を使ってやり取りをして、オフ会なりゲームセンターなりに行って、どんどんのめりこんで行くという流れはいいと思いますね。それと、ゲームをちょっとやるんだけど大会参加まではしないという人たちの中で、大会を見に来たがっている人達がたくさんいることを僕は確信しています。大会を開催するのだったら、もっとみんなが見に来やすいような環境を整備するということも、これだけの規模になってきたら、視野に入れてもいいのかなと思います。

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(注1)e-sports
コンピューターゲームを競技として捉える際の名称。
(注2)カプコンカップ
ゲームメーカー「カプコン」が主催する格闘ゲームの世界大会。
(注3)梅原大吾
日本初のプロ格闘ゲーマー。比類ない実績、知名度を持つ格闘ゲーム界の生きる伝説。