5月23日、水曜日。午後11時30分の新宿駅東口に私たちは集まった。
「深夜の東京を観光してみたい」「終電逃した後の東京散歩!」というノリで実行にまで至ってしまったこの企画も初回の実行から約1年が経過した。今回は新入生たちを迎え、新たな面々で夜の東京にくり出した。
今回は新宿から東京新名所「東京スカイツリー」までの道中を記そう。
終電前のJR新宿駅は家路を急ぐサラリーマンでごった返し、気怠い空気を充満させていた。その中で目を爛々と輝かせ、これから始まる冒険を期待に胸をふくらませる学生たち。間違いなく彼等はその時間帯の新宿駅には相容れない物体であっただろう。
JR新宿東口を出てまず私たちを迎えてくれたのは妖しく光る色鮮やかなネオン街だった。日本最大の夜の繁華街は日付をまたごうとしているにも関わらず熱気に包まれており、終電で帰る気なぞ、毛頭もない人間が騒ぎ散らかしていた。しきりにカラオケ・居酒屋を勧めるキャッチのお兄さんたちをあしらいながら、私たちは靖国通りを東に進む。
靖国通りを東に進むなかで、初めに私たちを興奮させたものは向かって左側に現れた防衛省庁舎だった。防衛省は深夜ではあったが省庁勤務の官僚たちが目まぐるしく出入りを繰り返していた。しかし、厳重に警備されたこの庁舎で私たちは何を血迷ったのか午前1時に記念撮影を行い始めた。当初非常に警戒をしていた警備員も私たちが怪しくもはありながらも危険な団体ではないということを察してからは警戒を緩めてくれたようだ。
無事、防衛省を後にした私たちはさらに東へと進み靖国神社に辿り着いた。もちろん深夜であるため内苑への神門は閉ざされていたが、靖国外苑は都心のど真ん中にも関わらず厳かな空気を醸し出していた。初めて目にする深夜の靖国神社を前に興奮を隠しきれないゼミ生も何人かいたようだ。深夜の疲れを忘れ靖国外苑を走り回っていた。
靖国神社を後にしたわたしたちは目前の日本武道館に向かった。まさか開門しているはずはないだろうと思われた田安門は昼間と変わらず開門しており、そのまま私たちは田安門から深夜の北の丸公園と侵入した。深夜の武道館はもちろん何のイベントも開催されてはおらず、多くのトラックと屈強なオジさんが翌日のイベントに向けての会場設営に精を出していた。日本武道館の深夜の裏側を見た気分であった。(因みに日本武道館は音楽バンド東京事変の解散ライブを2011年度ゼミ長、福井が観に行った会場である。)
その後、私たちは秋葉原へと進行した。午前3時の秋葉原。土日は歩行者天国で賑わうこの街は深夜とは思えぬ程に街灯が煌々と輝きまるで昼間のようであった。誰もいないということを除いては。ここに来て土地柄もあり一部アニメファンが発狂。それまで疲れた顔でとぼとぼ歩いていた人間が別人のように饒舌になり、アニメショップの解説始めてしまった。サブカルチャーの力は偉大だと確信した瞬間だった。
秋葉原からは蔵前橋通りを東へと進み蔵前に到着した。この蔵前という地はかつて東京工業大学が存在していた地であり、「東工大発祥の地」の石碑を必死で探しまわった。一度は見落としてしまう程分かりづらい場所にあるのである。「東工大発祥の地」の石碑は今も東京都下水局の管理下にある第一ポンプ場の駐車場にひっそりとたたずんでいる。
蔵前からは江戸通りを北上し浅草へと向かった。この途中にある株式会社BANDAIの本社前に並ぶ数々のキャラクターの前で、私たちは一時記念撮影に没頭するのであった。そんなことをしている合間に日が昇り始めてしまったのだからシャレにならないのだが・・・。BANDAI本社に浅草に辿り着くとそこには普段とは全く違う浅草が広がっていた。昼間に雷門の前をウロウロしている日本観光に訪れた外国人が一人もいないどころか、本当に人っ子一人いないのである。この光景を目にすることができたのは非常に貴重な体験であった。そして、これは非常に個人的な感想ではあるが雷門前にある隈研吾設計の「浅草文化観光センター」はなんとも美しい姿でそびえたっていた。浅草に来たのであれば銘酒「電気ブラン」発祥の地である神谷バーの前を通らせていただいた。浅草1丁目1番地1号の地で営業するこの店は明治の時代から庶民に親しまれてきた老舗だ。この企画が森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」のリスペクトである以上、一度はゼミ生たちとこぞって訪れたいものである。
浅草をすぎるとゴールのスカイツリーはすぐそこである。最後の力を振り絞り、かの地スカイツリーを目指す私たちは無言で歩いていた。体力の限界が訪れたのである。
・・・そして、参加者のほとんどが極限状態の中で目的地スカイツリーに到着した。営業開始翌日のスカイツリーは明朝でも人がちらほらいるのかと思われたが、全くの無人だった。そう、営業開始翌日のソラマチをゼミ生が占拠してしまったのである。達成感でその場倒れる者(普通の人)、うれしさではしゃぎ出す者(底なしの体力馬鹿)など様々な体現の仕方あったようだがこの冒険は無事に終わったようだ。
今回の企画は見応えのある景色が多く、非常に楽しいものであった。次はどこへ行こうか・・・。