「今、雑誌は流行らないよ」
この連載の冒頭にも書いた、雑誌企画を立ち上げた当初、幾度か言われた言葉である。
雑誌をよく知り、雑誌を愛する人々の言葉だった。一人は大手出版社で書籍発行を主導した人間で、一人は零細出版社に出入りして雑誌作成に関わった人間だった。
今世紀に入ってから慢性的に叫ばれている出版業界の不振、中でも雑誌媒体は最早「雑誌不況」という言葉が定着しつつある。
有名な例だけでも、1915年以来の歴史を誇った『主婦の友』が2008年に(主婦の友社HP『主婦の友 休刊のごあいさつ』)、日本きっての国際情報誌として知られた『外交フォーラム』が2010年に(Asahi.com 2010年2月25日『「外交フォーラム」休刊 日本唯一の専門オピニオン誌』)、それぞれ廃刊している。
アメリカでは、『TIME』に並ぶ大手総合雑誌と言われていた『NEWSWEEK』が経営危機に陥った。結果、所有者であるワシントンポスト社は破格の安さで『NEWAWEEK』を売却した(日刊スポーツウェブサイト2010年8月3日『記録的赤字のニューズウィーク売却』)。
これらの、雑誌の花形ともいえる大手総合雑誌の陰では、無数の中小雑誌や娯楽雑誌が泡沫のように潰れている。
今年有名になった映画『ソラニン』の原作漫画が連載されていた『週刊ヤングサンデー』は、2008年に廃刊した(olicon life『「週刊ヤングサンデー」休刊正式発表』)。
この理由づけに、活字離れという言葉が世間では一般的に使われることもある。
また、ネット媒体の発達による紙媒体の衰弱を指摘する声もある。
しかし本当にそうなのだろうか、ということで、実際に調査して見た。
総務省統計局の統計データ(日本統計年鑑第23章10節、日本の統計第23章6節)によると、雑誌の出版点数は、05年の4581部をピークに減少し、09年には4215部となっている。
出版点数、つまり雑誌の種類は8%減で、そこまで悲惨には見えない。
だが、『FACTA』オンライン2007年8月号に載せられた日本ABC協会の資料はより深刻だ。
この記事によると、2001年から05年の5年間で、主要50誌の売上総数は01年の1325万部から05年には1012万部に減少、なんと4年間で24%減である。
そして雑誌全体を見ても、公正取引委員会の資料(公正取引委員会 著作物再販協議会第8回会合 資料1『書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状』 08年6月19日作成)によると、雑誌全体の発行部数は1997年に、発売部数は95年にピークを迎え、07年までに販売部数は30%以上の、市場規模では、25%近くの大幅縮小である。
一方で、返品率は年々上昇傾向にあり、07年には35%を突破している。市場に実際に出回る雑誌の寮は、発行部数に増して落ち込んでいるのだ。
一方で書籍や新聞の総発行部数は、それほどの落ち込みを見せてはいない。
公取委の同資料によると、書籍の販売部数は1988年にピークの9億4千万部を記録して以降穏やかな減少を続けている。だが、99年からは7億冊台を保ち続け、03年から07年にかけては微増傾向にすらある。
新聞媒体も、新聞協会経営業務部HPによると、2001年の5368万部から2009年には5035万部と、発行部数全体では9割ほどに減少した。だが、その減少幅は雑誌と比較しても軽微なものだ。
紙全体を見通して、活字媒体自体は雑誌ほど衰えていないと言えるし、そもそも電子媒体の活字に関してどれだけ読まれているかと言う統計はないため、活字離れという言葉自体が実態を把握しきれていない。
結果として分かったことは、事態は雑誌にとってはより深刻、つまり「出版不況」以上に「雑誌不況」であるという残酷な事実であった。
何故、活字媒体の中で雑誌だけが、こうも危機に陥っているのだろうか。
この現状を打開するには、そもそも雑誌とはどういう媒体なのかを、より詳しく分析する必要がある。雑誌の本質を見極めてこそ、現在の低迷をより理解でき、そして乗り越えられるものと考えて、次の記事では、そもそもの雑誌の本質に迫ろうと思う。
== 続く ==(文責:田村修吾)