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「NPO法人 街ing本郷主催 街めぐりツアー@本郷」に参加しました

樋口一葉の旧宅



こんにちは。教育学部3年の末光といいます。学科は教育実践・政策学コースというところ。そこではもちろん、学校教育なども取り扱っていますが、学科を構成する重要な分野として、社会教育を取り扱っている、という特徴があります。

そもそも、「社会教育」とはどんな分野なんでしょう?辞書で見てみると…「学校以外の場で、青少年及び成人を対象として行われる組織的な教育活動。公民館・図書館・博物館などはその代表的な施設。」(広辞苑)とあります。地味な感じですね。

その一方で、「社会教育」という言葉をあえて広い意味で取ろうとした場合、それは学校教育以外のあらゆる教育活動を指してしまう可能性もあります。習い事や学習塾はもちろんのこと、もしかしたらキャリア教育、就活支援なんかも、社会教育と言えるのかもしれません。社会教育というのはそんな、対象とする領域の曖昧な分野です。

実は私も、まだ社会教育というものをぼんやりとしたイメージでしか理解できていませんが、しかし、社会教育の一つの形として、「街づくり」という活動が存在すること。地域の活性化を図る上で、とても重要な役割を担う分野であること。これらはおそらく間違いないと思っています。

それでは社会教育を「街づくり」という形で考えるとして、結局、「街づくり」ってどんなことをしているのでしょう?何がそんなに大切なのでしょう?これらについて、実際に「街づくり」の実践の場を見学させていただく機会がありましたので、それらの報告も兼ねて、記事にしたいと思います。

 

私が見学させていただいたのは、NPO法人「街ing本郷」が主催する、「街めぐりツアー@本郷」というイベントです。

このツアーは、東京都文京区本郷、つまり東大周辺に住んでいた多くの文人(坪内逍遥、石川啄木、樋口一葉、宮沢賢治、などなど)のゆかりの地を訪ねながら、本郷の街並みを練り歩く、というもの。

そもそも本郷地区では、NPO法人「街ing本郷」の主導のもと、本郷を「文人の街」としてブランディングしよう。さらには、同じ文人を地域ブランドとしている他の街と協同して、本郷を「日本の文人のハブ」、つまり文人ブランドの拠点にしよう。このような試みが、「文人郷」の名の下に行われています。

そしてこのツアーも、「文人郷」プロジェクトの一環として4月21日、日曜の昼間に行われた、というわけです。(私は学科のゼミ関連で同行させていただきました。)

 

概要についてはここまでにして。ツアーの内容、感想に入ります。

まず最初に、文京ふるさと歴史館に入り、縄文から近代に渡る本郷の歴史について、簡単に説明していただきました。

最初に発見された弥生土器や、印刷・出版、薬品といった地場産業について。あるいは昌平坂学問所についてであったり、もちろん樋口一葉といった文人についても。また歴史館自体も、徳川慶喜が質素倹約をよびかけた書簡、学童疎開の子ども達を写した白黒写真といった貴重な資料が展示されていたり。歴史に疎い私でも、興味深いと思えるような多彩な内容でした。

(特に、弥生土器が最初に発見されたというのは、街のアピールになりうるのでは…?なんて思ったり。文人とうまくつながらないのが難しいのですが。)

忍足さんと長谷川さん



それから、本郷周辺の郷土史研究を行っている忍足和俊(おしたりたかとし)さんにガイドしてもらいながら、地元の方と一緒に本郷の市街地をめぐりました。

市街地というより、本郷通りから奥に入った先は、言ってしまうと住宅地です。1人で歩いているとちょっと不安になります。それでも、なんとなく人の出入りが多いように感じますし、ところどころ、その土地にまつわる文人の話についての説明書きがなされているのが、ふつうの住宅地とは違うところ。

そしてそのようなポテンシャルは、このようなツアーを組むことで本領を発揮するように思われました。1人で歩いていたときには「ここって何かあるのかな?」といったぼんやりとした印象しか持たなかった場所が、ガイドの忍足さんの深い見識によって、「ここでは誰々という人が、若い頃にこれこれこのように過ごしていたのだ!」というふうに、確かな意味を持って私たちの目の前に現れる。(忍足さんの博識ぶりにはびっくりしました笑)そしてそのような意味を持った空間を、年齢的に全く隔たった人たちによって共有される。とても地味な営みですが、このようなツアーを組むことなしにはありえない体験であることは間違いありません。

 

途中、通りがかった人が、この集団は何をやっているのかと訪ねてくる、ということがありました。NPOで、地域の活性化のためのツアーをやっている、とこちらで答えたところ、「地域活性化になるのかねえ。こんなさびれた街で。」という返事が返ってきました。(うろ覚えで、微妙に台詞が違うかもしれませんが…。)

確かに、やっていることは、住宅地を練り歩くという、ささいなことです。おまけに人数も15人と少なめです。参加する前は、地域振興にしては定員数が少ないのではないか、これで本当に意味はあるのかと思っていました。でも、参加してみて、ちょっと考えが変わったところがあります。

もちろん、15人を超えると住宅地を集団で歩くのが難しくなる、ということもあります。でもそういった物理的な理由だけではなくて。

歩いていると、意外と住宅地に住む人々と、通りすがることが多いんです。私たちから見れば、ごくふつうにツアーを楽しんでいるだけなのですが、通行人からすれば、「こんなところで、集団がいったい何をしているんだ?」といった、一つのハプニングなわけで。(おまけに、文京区民チャンネル、つまり地方メディアの職員さんが、大きなカメラと風防付きのマイクを持ってついてきてるわけですから。)当たり前の日常が、その瞬間だけ当たり前でなくなるわけです。

そしてそのような、いわば異化の経験が、たとえば隔週に一回、というふうに習慣化されれば、それは一回限りの偶然ではなく、そのような「何かが起こる街」だからだ、という認識が生まれるはずです。自分が「何かが起こる街」に住んでいるということ。そしてその「何か」に関われる可能性に期待すること。そのようなささいな希望を、一人一人が持つことができれば、それは地域の活性化が進んだ、というふうに表現してもよいのではないでしょうか。

といったふうに、20人ちょっとの人間によって街を練り歩く行為がどんな機能を持ちうるのか、ということを考えてみました。ツアー自体も、坪内逍遥旧宅脇の炭団坂や樋口一葉の旧宅などといった印象的な場面が多く、本郷という街に対して認識を改めさせられました。

炭団坂…坪内逍遥旧宅脇



一時間ほど歩いて、「お休み処ひとは」で休憩。これもまた「文人郷」の取り組みの一つ、文人スイーツをいただきました。おいしかったです笑

休憩がてら、他の参加者の方とお話させていただく機会をいただいたのですが…その中の一人、おばあちゃんの話がとても面白くて。

そのおばあちゃんは現在幕末の勉強をされているのですが、「手塚治虫の祖父が蘭学者だと知って、『陽だまりの樹』を読み直した」「森鴎外は私立の医学校を『三年しか勉強してないやつら』と馬鹿にしていた(学閥そのまま!)」「でも最近ついに順天堂が天皇陛下の手術を担当した。民間でもできることがあるのよ。」などと、次から次へと興味深い話を聞かせていただいて。その教養の深さにびっくりしました。

おそらく、現在の社会の変化の中で、従来通りの「お年寄りの知恵」、経験知というものはもはや通用しなくなっているのでしょう。しかし、高齢の方が持つ視座というものは、やはり私たちとは違った貴重なものです。それらの視座が、老後の学び、生涯学習という形で拡張されることで、学術的とも言えるような、おそろしいまでの教養知が引き出されうる。そのような可能性さえ、社会教育、生涯学習というものは秘めているように思われました。

「人生もう50年から80年、間違えれば100年になるんだから、最高学府にいるうちにたくさん寄り道しときなさい。」と、先のおばあちゃんに聞かされました。一見ふつうの説教のように聞こえますが、先の話の後だったこともあり、とても説得力のある、含蓄に満ちた言葉のように思えました。…寄り道していいんでしょうかね笑

 

今回のツアーは、こんな感じで解散となりました。

これを見ていただいた方は、「で、結局街づくりやら社会教育やらっていったい何なんだ?」というふうに、さらにもやもやされているかもしれません。私としても、いまいち社会教育というものを説明できずにもやもやしているところがありますが、少なくとも、私の抱いている社会教育、街づくりのイメージについては、なんとなく理解していただけたのではないかと思っています。今後もできる限り、街づくりの現場に足を運び、このHP上で報告していきたいと思っていますので、興味の湧いた方は、どうかよろしくお願いします。

今回のツアーは、NPO法人「街ing本郷」の長谷川さんの主導によって企画されました。本郷地区の活性化のために様々な事業を行っている、行動力のある方です。どうして、どのようにNPOを設立したのか、どんな活動を行ってきたのか、などなど興味深いところではありますが、今回は長谷川さんとゆっくり話をする機会を取れず。また今度の機会に話を伺いたいと思います。

(たぶん、また私の学科の方でお世話になると思います…笑)

近所の曹洞宗のお寺にて



それでは、また、次の機会で。

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