「星新一が好きだ。」
こんなことを言うとなぜかゼミの同胞からは「あんなものはSFじゃない」と批判されてしまうのだが,この本はショートショートではない。
日本三大SF作家の一人である著者の父であり,実業家でもある,星一(ほし・はじめ)の半生を綴った爽やかなノンフィクション評伝である。
アメリカ帰国後の星一の苦難は同著者の『人民は弱し 官吏は強し』(新潮文庫)に詳しい。
簡単にこの本で描かれている星一の略歴を紹介しておきたい。
時は明治初頭。福島の田舎に星一は,東京に出て文明に触れ,苦学しながらも渡米を果たしコロンビア大学に留学,帰国後に星製薬株式会社を創立する。
星一は頼らない。
これは,他人を信用していないというのではなく「自助努力」の精神によるものである。
星一はとどまらない。
他に流されず,自分の信じた道に対して周到な計画と克己心を持ってずんずんと突き進む様は清清しい。
無計画な野心は身を滅ぼすだけだが,向学心を失わず計画と行動力があれば人生なんとでもなるらしい。
とりあえずの「国際国際!」「留学留学!」という借りてきた意識の高さは捨てて,自分が本当に学びたいことは何か,そこに人生を賭すことができるのかをできるだけ早く真剣に考えたほうが良さそうである。そこに生まれる「意識の高さ」は人を惹きつけ,信じる道を進む助けになるのかもしれない。
勿論それができたら苦労はしないという話だが,簡単にできないからこそ目標を立て周到な計画を準備し,自助努力できる人間はかっこいい。
他の可能性を切り捨て,自分を信じるというのは怖いし辛い。
反対に,その場限りの見栄を張り,目前のことから目を背け,道を選ばないという選択は簡単で楽なのだ。
超がつくほどの他力本願な自分には見習うべき点しかないような一冊だった。
最後に,『西国立志篇』(サミュエル・スマイルズ)とともに,星一の「自助努力」の精神の中心となっている杉山茂丸の教えを載せておきたい。
「人間は遊ぶ動物ではない。働く動物である。
教えるまでもないことだろうが、念のために処世上の注意をあげておく。
粗食でもいいから十分に食え。十二分に食うな。
栄養をとったら、くたびれるまで十分に働け、十二分に働くな。
くたびれたら、十分に眠れ、十二分に眠るな。
それで肉体の調和がたもてる。
脳の調和は、無駄な空想に浸らないことでたもて。
何か問題にであったら、ひとつずつよく考えて検討せよ。
そして、考えがまとまったら、いかなることがあってもやりとげるのだ。
悪い結果になることもあろうが、いずれにせよ、その経験だけは決して忘れてはいけない。」
この言葉を胸にまずは正月太りだけでも避けたいものだ。