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10. そう遠くない未来の学制

なし崩しの「6・3・3・4制」改編
  • 広がる中高一貫5年制
  • ロースクール、ビジネススクールなど、文系も専門職大学院(プロフェッショナルスクール)の時代に

今現在はですね、戦後出発した6・3・3・4制ってのは、事実上の改編がどんどん進んでるわけです。で、具体的には先ほどの東大の教養の後のいろんなところが修士課程まで入れたり、それから学部そのものを4年制にしてみたりとか、そういうことがどんどん進んでるといいましたけど、それ以外にロー・スクールとかビジネス・スクールとかそういう形でプロフェッショナル・スクールと言いますか、専門職大学院っていうのがどんどん大学の中に入ってるわけですね。で、一方下の方では中高一貫教育の5年制がどんどん進んでいるという、そういう状況にあるわけです。そういうことで、今なし崩し的に変えられようとしているわけです。

学部教育と専門職教育の分離
  • 大学の役割
  • 社会の各部門(研究と企業社会)
  • 企業の立場
  • 「幹部候補生をもらえれば、あとは企業内OJTで」
  • 採用試験前倒しの常態化
  • 大学3年からの就職活動が普通に

基本的に大学とはそもそも何なのかといえば、社会の各部門に高等人材を供給すると、そこに目的があるわけです。それで企業の方は供給を受ける側ですね。しばらく前から企業っていうのは基本的に幹部候補生さえもらえれば、あとは内部教育でやりますみたいな態度です。これは大学生の就活問題にも絡んでくることでして、そこはかつてはものすごく強い縛りがかかっていまして、いつから学生の就職活動、あるいは企業の側からいえば採用活動やっていいかみたいなことが決められていたんです。ところが少し前から、要するに小泉改革あたりから、その辺も野放しになりまして、大学教育が結局教養教育の方からも浸食されるし、企業の側からも浸食されるというような格好で、いま大学の教育の中身がガタガタにされつつあるというところです。

6・3・3・4制は変えるべきか? 変えるとしたら?
  • 人間の成長段階に合わせて与えるべきものを与える必要性(臨界期)
  • 悩む力/恋愛/利害・意見の衝突と調整
  • 青年前期
  • 「場」が必要…同年輩者の相互作用(相互刺激)
  • 青年後期
  • 職業生活にどうつなぐか
    (プロフェッショナルスクール、企業内OJT、各種専門学校)

ここに示したのは「変えるとしたらどういう可能性があるか」ということなんですが、もちろんいろんなところで矛盾が現実に噴き出してますから、そりゃ変えざるを得ない、近い将来そうなると思うんです。だけれども非常に大事なことは、人間の教育というのは、成長段階に応じて、どんな人間のどんな能力もその臨界期と言いますか、ふさわしい時にふさわしいものを与えないと人間っていうのは健全に成長しないんです。そういう意味で、まさに18歳から20歳の青年前期、まさにこの時期っていうのはものすごく大事な時期なんです。この駒場に学生がいる時期ですね。で、その時に講壇からいろいろ先生がやる教養教育、あるいはその他専門教育含めて、そういう教育だけじゃないんです、本当に大事なのは。ここに書いたように、悩む力とか恋愛とか、衝突。いろんなところで衝突が起きてぶつかり合うという、そういうことの中で、つまり学生の生活そのものの中の実体験の中で、相互作用としてお互い刺激しあいながら学びあうという、そういう場としての大学の教養の場っていうのは非常に重要なんですね。ところがこういう部分が今の駒場のキャンパスからはほとんど失われてます。かつてはですね、東大の新制大学、だから僕の若いころは、こういう側面がものすごくあったんです。これは今のキャンパスからはほとんど失われてます。それが大変困ったことで、これからどうするかという問題を考えるときに、いろいろ考えなきゃいけないんですが。

考えるべきポイント
  • 義務教育はどこからどこまでか
  • 青年前期
  • どこで切れ目をいれて、どうコースを組むか
  • リベラル・アーツ
  • どこで与えるか
  • 高校教育を重視し、リベラル・アーツもそちらに
  • 卒業資格を厳格化
  • →大学全入
  • 大学をリベラル・アーツ中心の「前期教育カレッジ」に
  • 専門分化した職業人予備校としての後期教育
  • (企業内OJT・プロフェッショナルを育てる大学院教育)

これから6・3・3・4制のどういう変え方があるのかということを考えられる時に、こういういろんなポイントを考えに入れて、次の構想っていうのを考えなきゃいけないわけですね。(新しい制度(これからのグローバルスタンダード)は旧制に近づくのかもというスライドを示す)おそらく将来日本の大学を骨格から変えていく、そういうことが必要になる時代が、そう遠くない未来に来ると思います。でその姿は、今から微妙に変わりますから、これが一番のメインストリームということはまだ言えません。まだ言えませんけれども、おそらく中等教育は中高一貫の方向に行くんだろうと思います。それはバラバラにやっていますと、その間の部分でものすごく中身的なロスが起きてるんです。で中学高校で教えることは5年あれば十分に教えられますから、そこでその一年を、たとえば駒場の2年にプラスするような恰好です。ここは2年ですが、教養教育は2年でできるわけはないんです。ここを3年にすれば、いわゆるリベラル・アーツ・カレッジになるわけです。でアメリカの大学の一番本質的な部分っていうか、高く評価されてる部分はそこにあるんです。リベラル・アーツ・カレッジとしての大学。だからハーバードなんかにしても、あれはリベラル・アーツ・カレッジなんです。でそれプラスほんのちょっと専門教育的な要素が入りますけれども、大学の教育で一番重要なのはそこなんですね。で、そこを出たら研究職大学院なり、あるいはプロフェッショナル・スクールっていうのはこれも大学院、アメリカでは、即大学院のことです。で、あるいはリベラル・アーツ・カレッジを出て、企業に就職して、OJTでやってもらうっていう、こういう大きな流れっていうのは、アメリカではこれがスタンダードです。日本では非常に独特なことをやりましたもんで、めちゃくちゃその辺で矛盾が起きてしまったんですね。だから多分、非常に近い将来はこれに近いような方向に行くんじゃないかと思います。それで、いずれにしても先ほど挙げたポイントを考えに入れて、新しい教育の流れっていうのを作らなきゃいけないと思うんですが、これはいろんな立場の人がいろいろ議論をして、これから決めていくことだろうと思います。

…というところで終わりにします。どうもありがとうございました。