堀江敏幸さんトークイベント

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たまには文学企画っぽい話を。

 

堀江敏幸さんの新刊発売イベントに行ってきた。

@青山ブックセンター六本木店。

 

このイベントの話を人にしたら、堀江さんて誰と返されたから、世間的には知名度低いのかもしれない。

わりと近く(といっても調べたら8年前だった)に、芥川賞受賞されてるんですけども。

とはいえ私も、ものすごく執心な読者である自信はなく……、高3の受験直前期にひどく魅了され食事も惜しんで読んでたが受験直直直前期に手放して、それ以来ご無沙汰、という考えてみれば浅いファン歴。

そもそもの出会いは07年センター国語の2番、というありがちな。

ちなみに問題の正答率は自己最低だった気がする。

 

先日文学企画で永江朗さんに取材させていただいた際(文字起こし…)、早稲田の教授つながりで堀江さんの名前が出たのがきっかけで、最近自分の中で再燃している、その流れでの今日である。

本当は、企画とからめて、事前に依頼メールを送っておこうかとか戦略的なことも考えていたのだが、時間がなくて諦めた。

ゆえ単純に一ファンとしての参加となったのだけどもそれはそれで、どきどきするものですね。

 

内容は、40分くらいのトーク+質疑応答+サイン会。トークは、今月中央公論社より発売されたエッセイ集『正弦曲線』装丁にまつわる秘話から、(野球選手の)キムタクの話まで。

 

売り場に堂々と椅子を並べ、かつ座りきれないほとんどの参加者は立ち見、という豪快な会場作りをする青山ブックセンターはあっぱれだと思う。

ガツガツした客のいない、ゆったりした雰囲気の店だからなせる技かもしれない。

しかし、本棚と本棚のすきまから首をのばして、講談社文芸文庫の向こうに堀江さんを臨む50分間というのもなかなかオツなものだった。

履いてくる靴を間違えたとは思ったが。

 

堀江さんは、見た目にたがわずとても穏やかな口ぶりで、あぁ、この人にしてあの文章あり。

しかしそれだけじゃなく、きっと内に濁りも抱えたひとなんだろうと思わせる。

印象的だったのは、終盤にかたられた「正弦曲線の狂気」の話。

1とマイナス1の間を単調にたゆたう正弦曲線は、じつはとても危ういものを秘めているのではないか。決められた枠を突き抜けてしまうのも狂気だけれど、そんなある種の情熱ももたずただただ同じ幅で振れつづける、そっちの方が、恐ろしいこともある。

いつ破綻するか分からない、「不穏な狂気」と堀江さんはおっしゃった。

自分はそういう小説を、文章を、書きたいと。

まぁ理系さん的には、正弦は正弦だ狂ってねーよ、って感じだろうか。

 

また、この『正弦曲線』、章ごとにページが改まらないレイアウトになっているのだが、それも本人のこだわりで、たえまなくきれまなく同じリズムで延々と続く正弦曲線の感じを出したかったのだということ。

日々読み、食べ、見、聞き、触れ、著した、すべてが因果関係で結ばれて自分の作品が成っており、だから始めから全てを狙ってものを書くなんてことはできなくて、先を、見ているようで見ていない、がっちり正視はしないがぼんやり見てる、そういう姿勢をいつも目指している、ということ。

私の言葉じゃ陳腐に聞こえるだろうけれど、そんな話も心に残っている。

 

大爆笑は起こらないが、終始ささやかなユーモアに満たされた気持の良いトークショウだった。

 

そしてぜひとももっとたくさんお話を聞いてみたい。

文学企画の次の取材目標に勝手に決めました。依頼文書きます。

 

あと、個人的には、サインをいただいた時、私の名前をためらわずに正しく書いてくださったのが嬉しかった。

戸籍登録から18年、初対面のひとに、「みゆき」だと間違われなかったことのほうが少ない。

「安弘みゆき」と勘違いされたのは傑作だったが、もはや誰だよって話。

 

数十人規模の小さなイベントだったのだが、帰り際になぜか、立ち読みをしているクラスメイトを発見。

聞けば同じくこのイベント目当てでやって来たとのこと。

なんという奇遇。

こんな身近に熱心な堀江さんファンがいたとは、ぜひとも彼にも文学企画に参加してもらいたいものです(笑)。 画像 007

 箱入りの立派な装丁。

「おかげで値段がはりますが、それは僕のせいじゃない」とは堀江さんの弁。

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