夏学期(いわゆる、前期)をかけて、読書アンケートを実施したり、某文学賞の贈賞式に潜入したり(※記事にはなっていません)、文芸サークル同士の座談会を催したりする中で、出版界・文学界に対する我々自身の知識知見が深まり、これらの活動自体が貴重な経験となったことは間違いがない。しかし、そろそろ。そろそろ、企画の本来の趣旨に立ち戻っても良いのではないか。
実際、贈賞式では現場の編集者の方々と、座談会では他団体の「本好き」のみなさんと、そして何より半年のうちに企画メンバーと重ねた議論(もとい雑談)から、作家や編集者に何を問いたいのか・そして何を知りたいのか、ようやく言葉にできるような気がしていた。「文学企画」なりの「見聞伝」の方向性が見えてきた、と言えば格好良いか。残り半年で何か成果をあげなければ、と若干焦っていたのは否定しませんが。
というわけで夏休み、我々はある芥川賞作家の方にコンタクトを取った。すると、直接の取材は難しいが、メールでのやりとりになら応じてくださるとのこと。そして本当に、こちらの(だいぶストレートな)質問に、ひとつひとつ答えていただいた。その具体的な内容は、残念ながらWEB掲載できないのだが、このお陰で企画に大きなはずみがついた。
そこで次に我々は、フリーライター(兼、現在早稲田大学客員教授)の永江朗先生にお話を伺えないかと目論んだ。というのも、先生は、現代の出版事情について多くの著書をお持ちで、特に09年に上梓された『本の現場 本はどう生まれ、だれに読まれているか』は、まさに我々が抱えている問題意識( intro や 0.起 参照)にも深く切り込む内容だった。しかも、過去には書店員や編集者としてお勤めの経験もおありだという。
そして我々の依頼を快く受けいれてくださった先生への取材は、8月半ば、早稲田大学戸山キャンパスにて行われた。
→記事は4.取材◆永江朗先生(ライター)
永江先生からは、出版界を冷静(当事者的でありながらもとても客観的)に見つめる姿がうかがわれ、私個人としても非常に面白いお話を聞くことができた。
となると今度は、実際に出版界・文芸界の中にある(まるきり当事者たる)小説家の方の視点が気になってくる。もちろん、先述の作家の方から返ってきた回答は、ことごとく示唆に富んでいた。しかしやはり、直接話をしないと得られない(あるいは、ぶつけづらい)ことというのもある気がする。それに、この企画が求めるのが唯一解ではない以上、取材した数だけ得られるものがあるのではないか。
そこで冬学期、浮上したのが、森見登美彦さんの名前である。駒場の生協書籍部の文庫売上げランキングのトップ3を独占するほどの人気ぶりにふさわしく、うちの企画メンバーにもファン多数(私含む)。しかしその作品はどれもどことなくテイストが似ており(京都を舞台にした腐れ大学生ものが多い)、エンタメの王道を行く。では、「森見ワールド」に縛られていると感じることはないのか。「面白かったー」という感想にとどまらず、読者に自分の作品が大事にされている、という実感はあるか。聞きたいことは山積みである。
そして11月下旬、都内某所のカフェで念願はかなった。
→記事は5.取材◆森見登美彦さん(小説家)
ライターさん、作家さん、と取材が続き、そうなると、ぜひ編集者の方にもお話を伺ってみたくなる。そして挙がったのが、講談社BOXや雑誌『ファウスト』の編集長(創始者)、太田克史さんだ。というか、かなり前からお会いしたいと内輪で話していたのだが、延び延びになっていた…というのが本当のところ。
西尾維新や奈須きのこ、竜騎士07…などの育ての親である太田さんは、新本格・メタミステリー・ライトノベルといった、一見「非文学」的な作品・作家を世に送り出し、ヒットを飛ばしている。しかしその仕事ぶりからは、ただ売れればいいというのとは違う、独特の信念・哲学が透けてみえる、気がする。そこで12月上旬、護国寺の、講談社(BOX編集部)まで行ってきた。
→記事は6.取材◆太田克史さん(講談社BOX編集長)