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2010年度《見聞伝 駒場祭特設ページ》
2010.2.19 | by admin

学生へのインタビュー

「貧困と東大」のチームで行った東京大学三鷹国際学生宿舎でのアンケート。多くの回答の中に、ひとつだけ、メッセージとともに連絡先が書かれていた。

「協力できることがあれば、他にもアンケートや質問に応じます。」

私たちはそこに書かれた連絡先にメールを送り、大学入学までにどのような人生を歩んで来たのかを尋ねた。

返事はすぐに返ってきた。

小学2年生の時に父親を亡くし、母子二人で生きて来た。その上母親は長時間働くことができない身体。それでも「知識は重たいものではないから」と言われ、勉強を重ね、東京大学に現役で進学した。

テレビゲームはなかったけれど、周囲の人々に支えられ、努力を重ね、いまを掴み取った。

「お金持ちでなくても東大で学べる」それを地で行っている。

今のところ(まだ入学して2か月ちょっとですが)、大学生活には満足していますし、充足感でいっぱいです。

どうせなら何事もポジティブに考えた方がいいと思っているので。

私たちは、この非常に力強く前を向いた若者にインタビューを申し込んだ。

ここにそのインタビューでのやり取りを記す。ただし、プライバシーの観点から一部削除改変した部分がある。

大学入学まで

#あなたの生い立ちについて、大学入学前まで時系列に沿った形でお話しください。

最初は普通の家庭でした。両親とも大学を出ていません。

小学校2年生のときにいわゆる過労死で父を亡くしました。結構突然でしたが小学校2年生なのであまり覚えていません。

全く働けないというほどではありませんが、母はあまり身体が丈夫ではりませんでした。父を亡くした時に「働くかわりにテレビゲームを買うとかいろいろ遊ぶ生活がいいか、働かないでちょっと苦しい生活にはなるけれど一緒に過ごせる生活がいいか」ということを相談して、私は後者を選びました。まだ小学生だったので。ここで母に働いてもらうという選択をしていたら、たぶん私は東大に来ていないでしょう。小学校の5,6年生のときにグレかけたので。それからは遺族年金で暮らしてきました。でもお金のことで細かいことはわかりません。特に苦しい、困っているという感じはありませんでした。

中学生の時に塾に通い始めましたが、私自身は行かなくてもいいかなと思っていました。学校の勉強だけで賄えていたし、それなりの成績はとっていましたから。しかし、母から「能力があるんだったら能力を発揮しないのはもったいない」と言われて、せっかくだしちょっと行ってみようかなという感じで始めました。

高校は公立の進学校に進みました。高校でも塾に通っていました。授業料は一部免除されていました。1,2年生の時は地元の国公立大学に行けたらいいかな、と思っていたのですが、頑張って勉強していたら十分に成績が伸びたので、東大を受けました。どうせなら高いレベルに挑戦したいというのが大きな理由です。だから、これがやりたいから東大ってことはありませんでした。逆に、東大は進学振分があるおかげで1,2年生の間は学部学科が決まっていないことが魅力でした。

#大学入学までにお金に困ったという体験はありませんでしたか?たとえば、高校生になると交友範囲が広がったり、携帯電話を持ったりしてお金がかかりますよね。

中学校の友達の方が遊ぶ感じだったので、高校に入ってからは特に言うほど交際費はかからなかったと思います。進学校だとみんな勉強で忙しいですからね。携帯電話も持っていましたし、普通の高校生活を送りました。テレビゲームをやらなければ音楽もあまり聴きませんでしたし困ったということはありませんでした。

#高校の時にも奨学金を受けていましたか?

ふたつの奨学金を受けていました。

ひとつは、高校の同窓会の奨学金です。同窓会は先生が教えてくれて、同窓会で学業優秀でそれなりにお金の少ない生徒に奨学金を与えていますがどうですか、という相談をいただきました。高校2年生の時です。選ばれたのは学年で2,3人程度でした。月に1万円くらい、卒業まで奨学金を受けました。

もうひとつは、こちらも先生から紹介していただいたのですが、企業かなにかが財団を作っていて、その財団から奨学金をいただきました。学校の中で3人くらいの枠でした。金額は、同窓会より多かったのですが5万円とかはもらっていませんから2,3万円くらいでしょうか。こちらは高校3年間でした。

#経済的な面で先生や学校がいろいろと助けてくれたということですね。

自分でも掲示板とかに(募集要項などが)張ってあるのを見たりはしましたが、先生方からいただいたご支援は大きいと思います。けっこう先生には恵まれました。よかったです。高校の時に奨学金をいただいていたところとは別のところからですが、大学に合格したら奨学金を支給しますという約束をいただいていたので、大学生活にお金の心配はしていませんでした。

#奨学金や授業料免除を受けていると、事務手続きや集会などで出会った人が自分と同じような境遇にあるとわかると思います。高校の友達などで、そういうつながりはありましたか。

一人や二人はいました。でも普段そういう話をしませんよね。

#友達との間で、どうしてそういう話が出ないのでしょうか。

そういう話をする空気にならないのもありますが、私の感覚でいうと、そんなことで何かあった時に「あいつはそういう家だから」とかわいそうな目で見られるも嫌だし、付き合い悪いのもそういうことなのかなと思われるのは嫌ですよね。私自身に対してあからさまにはそういうことは無いでしょうが、裏で言われてそうですよね。何となくですけど。

#ここまでで大学入学前のお話をうかがいましたが、自分の人生に対する現状認識が大きく変わったり、将来設計が大きく捻じ曲げられたりということはありますか。

特に悪い方向に曲がったことはありません。たぶん父が生きていたら東大には来ていなかったと思います。別の人生だったでしょうね。

だけど、やっぱり人に恵まれていました。周りの人もそうだし、先生、学校の先生に当たりが多かったんですよ。勉強が好きになったのも、小学校の先生が珍しく理系の先生で、理学部を出た先生だったんです。それで数学とか理科とかが好きになりました。

好きって伸びるじゃないですか。それが大きかった。その調子で今までどんどん進んで来ました。

#すると大学入学前にはお父様が亡くなられたところ以外は普通の人生を送られて来られたと?

そうですね。普通の学生です。すいません(笑)ほかの人から見たら違うのかもしれないけれど、特に困ったこともないし。

#お金がないからといって、大学にいけないということは無いと。

そういう固定観念はまずいと思います。お金がないということと、大学にいけないということに多少は関係あるけれど、そんなに密接には関連していないと思います。

それなりにお金がなくても(奨学金や授業料免除のような)そういう支援はいっぱいあるし、探せば見つかると思います。

大学入学後

#あなたは進学のために上京されて、今お母様はどのような生活をしているのですか?

一人でさびしいとは思いますが、特には。一人で話し相手がいないので習い事を始めたとか。浪人する可能性もあったのでちょっとはまとまったお金が用意してあったみたいです。私もできるだけ帰省するようにしています。一人だとこっちも不安ですし。

#それで東京に来ますよね。そこで入学前とのギャップに驚いた、ということはないですか。例えば、大学に入ってしまうと奨学金の情報なんてたくさんありますよね。他には友達がすごい勉強をしているとか。印象に残っていることありますか。

友達のバックグラウンドが違いますよね。二浪しているクラスの友達はお父さんが国交省の官僚だそうで、3階建ての大きな家に住んでいます。

#住所が国会議員宿舎の人もいますよね(笑)あとは数学オリンピック金賞とか。

#ほかに、高校時代は考えてもいなかった進路を考えたとかいうことはありますか?

高校時代から進路はそんなにバチッと決まっていたわけじゃないので。でも大学に来てからの方がいろいろ視野は広がりますよね。高校時代は知らなかったけれど、こんな道もあるんだとか。

#大学生になると見える景色が違いますよね。

#大学に入ってからお金に困っていることもないのでしょうか?

いまのところそれはないですね。おかげさまで。そんなに苦しいとか感じるほどではありません。

節約しなきゃと思うことは多少ありますが、贅沢をしようとは思わないので、そこまで切りつめないといけないという感じではありません。

#アルバイトはしていますか?

していません。給与の奨学金を月5万円もらっているので。

#普通、奨学金というと学生支援機構(旧・日本育英会)の貸与奨学金を指すと思いますが、こちらは使っていますか?

使っていません。奨学金のほかには、ひとつ口座を持っていて、残高が無くなったら母が足してくれます。

あとは三鷹寮(*)の家賃が1万円というのが大きいですね。(*通称。正式には三鷹国際学生宿舎)

でも本郷に行ってからが大変ですよね。

#私はもう本郷(*)に行ってしまうので部屋を探しているのですが、あんな家賃は絶対にありえませんよ。三鷹寮には学生は本当に感謝していますよね。(*東大のほとんどの学生は1,2年を駒場キャンパス、3年以降を本郷キャンパスで学ぶ。本郷には大きな宿舎がないため、多くの三鷹寮生は普通のアパートを借りることになる)

#大学に入ってからの人付き合いはどうでしょう。コンパに参加すれば一回数千円は飛んでいきますよね。

しょっちゅうは行かないけれど、それなりには参加しています。テストの後とか駒場際の後とかありますね。お金がないからいけないということはありません。そんなに毎週毎週やっているわけではないですから。

#サークル活動は何かしていますか?

科学の楽しさを伝えるサークルをやっています。そのサークルにしたのは、私は小学校から理科が好きで、それと教えることがけっこう好きなんです。小学校中学校では将来の夢は学校の先生でした。理科が好きで、教えるのが好きで、チラシを見てこれだ!と思いました。

#サークルはどのくらいの時間をかけていますか?

不定期ですが駒場際の前には頻繁に集まったり、時間をかけたり、プロジェクトが立ち上がったら集まったり。

#教えるのが好きだったら塾講師や家庭教師は東大ではメジャーなバイトだと思いますが、やっていないのは理由があるのですか。

実家で言われていたことなんですが、いとこがバイトのほうが忙しくなって大学やめてしまったことがあって、バイトするのはあまりよろしくないという感じがありました。本末転倒ですよね。大学の間はしっかり勉強してきなさい、と母に言われました。しっかり勉強するなら行ってもいい。その代わり精一杯やりなさいということでした。

#それでは大学での勉強についてはどうでしょう。

構造化学(*)が意味不明です(笑)(*理系の必修科目。量子力学の基礎を勉強します)

今学期は17コマ履修しています。先学期19コマとったので(単位は足りている)。おもしろそうなやつを履修しています。

#専門課程の進学先もどこに希望をまだ決まっていない状況ですか?

そうですね。まだです。応薬学部を目指しているのですが、化学が好きなので理学部とか。その先は、行けたらいいですけど。また専門課程に進学した中での判断ですが。

#就職なんかも白紙ですか

白紙です。何も決まってないです。だって一年後になにやっているかもわからない(*)じゃないですか。(*進学振分=東京大学では2年生の秋に成績順で専門が決まる)

#学校の先生に恵まれきたというお話でしたが、いまでも交流はありますか。

人間関係は大きいですね。年賀状は出しています。小学校の先生とは今でもやり取りがあります。中学校の時の数学の先生もすごくいい先生でした。かわいがってもらえて。

#将来こういう人たちにどういう風に感謝するつもりだとかいう考えはありますか。

感謝を忘れてはいけないと思います。ただ、この人たちに感謝するのはありますが、次の世代につないでいくのが大事だと思います。何かしら自分が恩恵を受けているから、それは社会に対して返さないといけないなと。

#こういう集まりはアンケート(*)がきっかけですよね。アンケート封筒を見たときにどういう印象を受けましたか?

こんな活動をするのかと、すごくいい取り組みだなと思いました。だって東大と貧困なんて絶対に結びつかないじゃないですか世間の目からして。こんなこと一般の人には知ろうにも知れないじゃないですか。東大の学生でも全然知らないと思いますし。

#こんな感じでも普通に大学生活を送れているわけですよね。

結局何とかなるんですよね。なるようになるし。ポジティブに考えることですよね。

おんなじ状況でも解釈で変わると思うんです。父が亡くなったことも世間的に見ればすごくネガティブなことじゃないですか。それでも私自身にとってはそれほどネガティブなことじゃないんですよね。こう言ったら語弊があると思いますが。

父が健在なら絶対東大には来ていないし、高校もそんなにいいところに行っていたい。

#ばねになったということでしょうか。

基本プライドが高いので(笑)いい方向に開花したというか

#最後に、この記事を読む人に向けたメッセージをお願いします。

私個人が一番重要だと思っているのは解釈です。ものは考えようというか。それが一番大きいと思います。

ものってこっちから見るのとあっちから見るので断然変わって見えると思うんですよ。ひとつのものでひとつの考え方しかできないってことはないと思います。状況でもなんでもそうです。私は基本的にいいほうから見るように努力しています。

#それはお母さんの教育ですか

どうでしょう。元からの性格だと思います。

#お母さんも?

どっちかというとネガティブな人間です。逆にその反発というのもあるかもしれない

二人ともネガティブだったらすごい家庭になるじゃないですか。

今のもそうですけど、世間ではネガティブって悪いイメージだけど、逆にばねになるって考えたらポジティブな考え方になるじゃないですか。そういうのってすごい大切だと思います。

考え方って重要だと思います。

#ありがとうございました。

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