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2010年度《見聞伝 駒場祭特設ページ》
木許 裕介の本棚 2009.6.3 | by admin

【番外編】『Nuovo Cinema Paradiso』(トルナトーレ,1989)

 

 「こんな本を読んできた」企画と称しながらこっそり映画を混ぜてみたり。というのは、あまりにもこの映画が素晴らしかったからだ。疑いようもなく、今まで見てきた映画で最高の映画だ。最後のシーン(完全版に入っている「あの」シーン)だけでなく至るところで泣かされた。涙だけでなく、体が何度も震えた。主人公が彼女の家の下で待っている時のシーンなど、一切台詞無しにそのショットだけで金縛りにあったような感動を与えてくれる。暗い青、壁の苔、落ちる影、そして遠くにあがる花火。奇跡のように美しいショットだ。あげていけばキリがないぐらい素晴らしいショットやシーンがこの映画にはある。冒頭の波の音とともに暗闇に風が吹き込んでくるようなショットに始まり、雷の鳴る中で回り続ける映写機をバックにして彼女と会うショット、錨を前にして海で話すショット、「夏はいつ終わる?映画なら簡単だ。フェイドアウトして嵐が来れば終わる。」と語ったあと豪雨の中で眼前に彼女が突然入ってくるショット、五時を確認しようとする時の時計の出し方、映画とリアルの素早い交錯、電車が離れていく時にアルフレードだけ視線を外している様、どれも上手すぎる!再会するシーンで編みかけのマフラーがほどけていく構図、明滅する光を互いの顔に落としつつ話すショット、最初の葬儀のシーンと最後の葬儀のシーンとでのトトの成長を映しつつ周囲の人や環境の変化をさり気なく見せる対比の鮮やかさ、そして最後のあのフィルムを見るときの少年に戻ったような様子などは天才的としか言いようがない!!青ざめた光と暗闇の使い方が神がかっている。

 ショットだけでなく、胸に刺さるようなセリフも沢山ある。

「人生はお前が見た映画とは違う。人生はもっと困難なものだ。行け。前途洋洋だ。」

「もう私は年寄りだ。もうお前と話をしない。お前の噂を聞きたい。」

「炎はいつか灰になる。大恋愛もいくつかするかもしれない。だが、彼の将来は一つだ。」というアルフレード、

「あたしたちに将来は無いわ。あるのは過去だけよ。あれ以上のフィナーレは無い。」というエレナの台詞、

どれも忘れる事が出来ない。それとともに音楽の何と上手いことか。使われている音楽はさほど多くないが、メインテーマを場面に応じて微妙に変奏し、旋律楽器を変え、リズムを崩し、何度も何度も繰り返す。繰り返しが多いだけに、途中で突然入ってくるピアノのjazzyな和音連打を用いた音楽が頭に残る。そして、この特徴的な音楽を、最後のシーンでなんとメインテーマに重ねてくる!モリコーネの凄いセンス!!

 最後に。この映画に流れるテーマは「時間」ではないだろうかと感じた。人の成長、恋愛、生死、周囲や環境の変化、技術の進歩、そして時間を操る芸術としての映画!どれも時間を背負うことで成り立つものだ。本映画は「時間」を軸にして沢山のものを描いている。映画に出てきたNew Cinema Paradiseは時とともに朽ち果ててしまったが、この映画は長い年月に耐えうる名作に違いない。