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2010年度《見聞伝 駒場祭特設ページ》
木許 裕介の本棚 2009.6.3 | by admin

『経験を盗め』 (糸井重里 中公文庫,2007)

 

 糸井重里『経験を盗め 文化を楽しむ編』(中公文庫、2007)を読了。随分前に買って最後のほうだけ読み忘れていたので、ドイツ語の時間に暇を見つけて読んでしまった。日本を代表するコピーライターの糸井重里が、各分野の達人たちとその分野を巡って繰り広げた議論の様子が収録されている。さすが「欲しいものが欲しいわ」のコピーを生み出した糸井だけあって、「経験を盗め」というタイトルも刺激的。思わず買ってしまう。  この本の中で触れられているテーマは、グルメ・墓・外国・骨董・祭・作曲と詞・日記・花火・ラジオ・トイレ・豆腐・落語・水族館・喋りなどである。一見して分かるようにかなり広範囲にわたるテーマを扱っており、糸井との対談に登場する方々も多様である。同じくコピーライターの仲畑貴志が骨董を語るかと思うと、東大先端研の教授である御厨貴が話術について語ったりする。(まったくどうでもいいのだが、この両者を取り上げたのは「たかし」が共通しているからである。そういえば立花さんも・・・。)全体を通じて軽妙な書き起こしで、大変読み易い。印象に残った部分は「グルメ」についてを扱う章で里見真三が述べた言葉。「これは私の持論ですが、上半身であれ下半身であれ、粘膜の快楽を過度に追求する者はヘンタイと呼んで然るべきです。」

 次に、「花火」についてを扱う章で冴木一馬が述べる「日本の花火は三河地帯が発祥とされています。中国人が作った花火を最初に見たのが徳川家康で、一緒にいた砲術隊が家康の生誕地である三河に技術を持ち帰って伝えた、と。当時、火薬は砲術隊、鉄砲屋しか扱えなかった。ところが徳川政権が安定してくると戦争がないから鉄砲が売れない。それで鉄砲屋が花火屋に移行していったようです。」という言葉。 

 そして「豆腐」についてを扱う章で吉田よし子が述べる「ちなみに穀類プラスその二割の量の豆を食べるだけで、全必須アミノ酸をバランスよく摂ることができるんですよ。人類は、穀類と豆の組み合わせで生き延びてきたと言ってもいい。」などだろう。「落語」を扱う章には先日行ってきた新宿の末広亭の名前が挙がっており、何となく嬉しくなった。あと、御厨さんが登場する章では、御厨さんの様子を御厨ゼミに所属しているS君から時々聞いているので、それと重ね合わせて読むと妙に面白く思えてしまった。(読後すぐにS君に本書を紹介した。)さらっと読める割に、内容がしっかりある素敵な本だと思います。 

木許 裕介の本棚 2009.6.3 | by admin

『快楽の動詞』(山田詠美 文春文庫,1993)

 

 山田詠美『快楽の動詞』(文春文庫、1993)を読了。何とも軽妙なエッセイ集。エッセイと小説の間、ある種の批評といった方が的確かもしれない。作品の中に入り込む「書き手」としての視点と、作品を読む「読み手」としての視点を山田詠美が自由自在に行き来する妙技が味わえる。やはりこの人は文章が上手い。

 さらっと読める割には、随所に鋭い指摘があって読んでいて頷かされることも多々あった。「単純な駄洒落は、〈おもしろいでしょ〉というそれを認めた笑いを求める。しかし、高品位な駄洒落は正反対に、〈おもしろくないでしょう〉という笑いを求めるのである。前者の笑いは、わはははは、であるが、後者の笑いは、とほほほほ、である。」  うーむ・・・なるほど。