ここでは国立大学法人法の規定が各大学でどのように運用されているかを、東京大学と東北大学を例にしてみていきたい。
先に言っておけば、東京大学と東北大学の間では、国立大学法人法の運用に、「規定上は」大きな差がある。
それは主に意向調査をどう扱うか、という点に集約される。
それを念頭に置きつつ、まずは東京大学の方から見てみよう。
東京大学では、第一次候補者を決めるため、代議員会を招集する。代議員会は、各学部や各センターから、のちの総長予定者を決定するための選挙における投票権を有する者から4人、投票権を有さないものから1人を選出して構成される。
(※旧帝国大学はもともと学部制ではなく、「東京帝国大学法科大学」のようにそれぞれが大学の名を冠しており、それの長が学長とよばれ、それらを統べるのが総長と呼ばれた。その後各科の大学は学部となったが、旧帝大の長を総長と呼ぶ伝統は続いている。東京大学や京都大学、九州大学、東北大学、北海道大学などである。)
細かい説明は避けるが、この代議員会における投票で、10位以内になったものが第一次候補者(非公表)とされる。
ただし、経営協議会はその10人のほかに2人推薦することができるが、濱田新総長に決まった去年の選考過程では、経営協議会はだれも推薦しなかった。(濱田新総長も経営協議会の委員だった。)
そして、総長選考会議はこの10人を5人にまで絞る。この5人が第二次候補者と言われ、公表される。総長選考会議が実質的な決定権を有するのはここのみである。
この5人の第二次候補者の中から、総長予定者を決定するため、教授会を構成する全教職員で選挙を行う。今年の2年生は総長選挙のため、午後から休講になった日を覚えているかもしれない。
この選挙で過半数を得票した候補が総長予定者となる。もちろん5人も候補がいては、そう簡単に過半数は得票できない。
過半数の得票者がいない場合は、同様の投票が繰り返されるのだが、3回やっても過半数得票者が現れない場合は、得票多数の2人に絞って投票が行われる。
ちなみに濱田新総長は4回目の投票で過半数を獲得した。まぁ、一回目の投票で過半数を獲得する候補は、よっぽど世にとどろく人望を持っているか、根回しに人生をかけてきた人物なのだろう。
そして、総長選考会議はこの選挙の当選者を総長予定者として決定する。
総長選考会議の権限は著しく制限され、従来通り、全学的な選挙が極めて重視されていることがわかるだろう。
これに対して東北大学では、「制度上」学内の意向調査自体を実施しないことになっている。
経営協議会と教育研究評議会がそれぞれ5人以内で推薦する候補と、助教授または教授30名以上の推薦を得た候補の中から、総長選考会議が最終的に決定するのだ。
2006年には実際にその形式で総長選考が行われた。
しかし、結局は、経営協議会、教育研究評議会がともに井上副総長のみを推薦し、教授・助教授30人以上の推薦を集めた候補はいなかったため、総長選考会議は唯一の候補者を追認することになった。
さらに教育研究評議会は推薦する候補を決めるにあたって、全学で選挙を行ったのである。その結果、他を引き離す票を獲得していたのが井上副総長だった。
経営協議会では、学外委員の推薦に基づき候補を決定するはずだったのだが、結局推薦してきたのが、現職の総長と井上副学長だけだったであり、東北大学は再任を認めていないので、結果井上副学長が推薦されることとなった。
東北大学でもこの制度導入時はもめていたようである。その批判は主に、現職総長が強引に成立させたものであるという点、意向調査を行わないという点、総長選考過程を明らかにしないという点、に集約していた。
しかし、実際に行ってみると、従来通りの総長選挙と変わりないものだったのだ。
つまり今のところ、東京大学も東北大学も、実質的には従来の総長選挙の体制を守っているといっていいだろう。
東北大学は挑戦的な制度を策定してみたものの、結局は他大学と同じような、従来通りの総長選考方法をとっているのだ。