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2010年度《見聞伝 駒場祭特設ページ》
2011.3.18 | by shuntaroamano

7.”材料”・”道具”、研究だって仕込みが大事

G それは研究にも当てはまることですか。積み上げて積み上げて…

内田 そうそう、もちろんそう。だからその、膨大な先行研究をきちんと踏まえていって、ある程度知識があって、推論の方法についてのきちんとした自分の道具ができていて、そのうえで始める。だから、材料があって、調理道具もあって、包丁もきちんと砥いであるという状態で、さあ料理作るぞっていう感じであってね。材料はもやしと豚肉しかありません。包丁もこんなのしかなくて、なんでこんなのしかないの、って。それで何か作れっていわれても、それは無理だよ、やっぱり。本を読んだりというのは材料の仕入れだよね。もやしがあってレタスがあってこしょうがあって、というふうに調味料があって素材があって。で、研究方法っていうのは調理道具だよね。包丁だったりとかお鍋であったりという。お鍋の火力が強かったり弱かったりというのもあるじゃない。火がちょろちょろしか出なかったら作れる料理は限られているわけ。グオーッと出なければチャーハンができないし、巨大な鉄のなべがないと、おいしいチャーハンができないというのと同じで。その、仕込みがいるわけだよね。

研究だってさ、全部仕込みなんだよね。仕込みがあればあるほど、おいしい料理が出来る可能性がある。もし、すっごく賢い人だったらね、本当にわずかな材料と手持ちの本当に乏しい調理器具でそれを最大限のパフォーマンスで活かせばとんでもなくおいしいものを作れる人だってあるかもしれない。けれど、それは悪いけど一品だよね。せいぜいできてもね。「この材料とこの道具で作りました。」「うん、これは確かにうまい。」ってなるけれども、他には、と訊かれると、いや、これしかできない、って。だけど、材料がいっぱいあって、調理道具も沢山、ぴかぴかにそろえていれば、ずいぶんいろんなものができる。そうめんだけ、というのからフレンチまで。その幅だよね。だから仕込み、研究者の仕込みというのは大切。実際にはその、仕込んでいくのと同じで、ザーッとあって結局使わなかったというのもあるんだよね。これだけ材料も調理道具も沢山そろえて、結局使った包丁もなべもこれだけだし、材料はこれだけだった。他は全部なくてもできたのだけど、でも今度は違うことが出来る。これにこれをのっけたらあれができたね、とか。次はそういうのを作ってみようってなる。

G では時には自分が思っても見なかった料理が完成することもあるのですか。

内田 そうそう。見ているうちに、えーって。これとこれって従来なら組み合わせないけれども、やってみたら結構いけたりして、と思ってやってみたら、これはうまい、っていうのができることがある。やっぱり旬の材料を仕込んでおくのって大切。あとはやっぱり道具だね、とにかく。どんなにいい材料でも、包丁が切れなかったらいい料理にはならないからさ。

X 大学時代は、材料を揃えるのと道具を揃えるのはどちらをするべきでしょう。

内田 同時だと思うんだけれどもさ、その、人の資質によると思う。まず道具をとがらせたいとかさ、ものすごく切れ味のいい包丁っていうのを手に入れたいというタイプの人と、いろんな材料とか香辛料を揃えたいな、という人とタイプがあって、どちらとはいえない。でもあんまり切れ味のいい包丁を先に持っちゃうと、活動領域が狭くなっちゃうというのはあるね。あんまり切れ味のいいのを持っちゃうと、自分のこの切れ味のいい包丁では処理できないものにたいして、料理には使わない、それはないんだ、ってなっちゃって、結局自分がいつもよく使っているスパスパ切れるものばっかり、やわらかい材料ばっかり使うようになることがあるからね。

X 先生は、大学時代は材料を集めるほうだったのですか。

内田 僕はね、材料を集める人というよりは材料を捨てない人だったのね。よく冷蔵庫の中にザーッといっぱい入っていてさ、「なんにもは入らないじゃないか、詰まっていて。」ということがあった。子供の頃から詰め込んだ情報なんかを全部入れていって、何かに使えるんじゃないかな、って捨てないという人だった。

X ブリコルール的な…

内田 そうだね。まあまあ包丁に関しては砥いでいったけれども、材料に関しては捨てない方だね。でも手間は一緒なんだよ、たぶん。集めるのと捨てないのと。だから何か買ってきて、買ってきたーって言ってこれは最新のものだ、って思っていたらさ、奥のほうにあったりするんだよね。「これ?」って。いつ買ったのこれ、というと実は二年前ぐらいにだよ、ってことがさ、結構あるのよね。大体ね、ぼーっと暮らしていても、普段何気なく暮らしていても、これはいつか使えるんじゃないか、という素材はちゃんと材料庫に入れているんだよね。いつか使ってやろう、って。それを自分がそこに入れている、というのを忘れているだけで。最近こういうのが流行りだ、これしなきゃだめだ、って言われたら、「へー、それってこれ?」みたいな。前から持っているよ、というのはある。

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