都市伝説の定義=“友達の友達”という、決して近い間柄ではなく、特定もできないが、実在することがかすかに感じられる人間が体験したものとして語られる、起承転結が見事に流れる話
1、死体洗いのバイト
流布地:日本
内容:大学病院には、解剖実験に使う死体を保管しておく大きな部屋がある。その中には、ホルマリンで満たされたプールがあり、死体がいくつも浮かんでいる。定期的に死体とプールの大掃除が行われるが、職員だけでは人手を賄いきれないため、バイトが大量に投入される。しかし、高い時給につられて来た応募者も実際の作業が始まると気絶してバタバタと倒れる。常に人手不足のため、時給はさらに上がり、一週間ほどの作業をフルで働くと、新車が購入できるほどのお金が貯まる。
解説:こうした「高額バイト伝説」とでも呼ぶべき都市伝説は今も昔もあとを立たず、このジャンルで最もポピュラーかつ基本形となっているのが、この死体洗いのバイトの話である。このモチーフと考えられるのが大江健三郎の短編小説「死者の奢り」である。同小説の主人公は、死体置き場でアルバイトをしている青年であり、多くの死体で囲まれた暗い部屋で黙々と作業をしている。噂の真偽に関しては、多くの都市伝説研究家が全国の病院に聞き込み調査を行った結果からも明らかなように「偽」であり、このようなバイトが実際に存在した証拠はない。ただ、大江健三郎が同小説の主人公の設定を自ら生み出したのか、それとも何か題材があってそれを描いたのかについては未だはっきりとしていない。
派生した都市伝説:
・すごく稼げるバイトがある。それはバキュームカーのタンク洗い。海パン一丁でタンクに入り、デッキブラシで中を磨く。ただ、タンク内にはメタンガスが充満しており、強烈な臭いが体に染み付くため、いくら風呂に入っても、しばらくは取れない。
・大都市の緊急病院には、亡くなった人の体を洗うバイトがある。医師は手当で精いっぱいなので、死体洗いまで手が回らない。しかし、運ばれたままで家族に引き渡すわけにもいかないため、亡くなった人の体を洗う係が必要となるのだ。バイトは死体1体につき3万円が相場。割はいいが、長続きする人が少ないため、常に募集している。
・横田基地の近くの病院で友達の友達が死体洗いのバイトをした。地下にホルマリンで満たされたプールがあって、死体が浸されている。死体の内部にはガスがたまり、ときどき浮かび上がってしまうため、それを竹の棒でつついて沈めたり、定期的に死体を引き上げてきれいに洗ったりするのが仕事らしい。かなり大金をもらっていたみたいだけど、3日で止めてしまった。体に染みついたホルマリンの匂いがとれず、毎日お風呂に入っても一ヶ月くらい消えなかったらしい。
2、消えた花嫁
ある日本人新婚カップルがハネムーンでヨーロッパに行った。二人は妻の希望でパリのブティックへと向かい、夫は妻がドレスを試着している間ソファーに座って待っていた。ところが、かなり時間が経っても妻は試着室から出てこない。夫が店員に聞いても「試着室にお客様はいらっしゃいません」と言う。その後いくら待っても妻は戻って来ず、夫はホテルに戻るが、ホテルにも妻の姿はない。夫は翌日警察や病院、昨日のブティック思いつくかぎりのあらゆる所に連絡を入れた。しかし、やはり妻の足取りはブティックからぷっつり途切れている。夫はなす術なく帰国することになった。それから5年後、フィリピンを旅行から帰って来た友人から電話があった。話によると、パリでいなくなった妻をマニラで見かけたというのだ。「どこで会ったんだ?」と聞くと友人は言葉を濁した。それでもすがる思いでしつこく問い詰めると、どうやらあやしげな店らしい。さらに聞くと友人はこう答えた。「そこは・・・その、ちょっと変わった店でさ・・・両手両足を切られて男たちの見世物にされてたんだよ・・・」
解説:この話はジャン・ハロルド・プルンヴァン著「Curses! Broiled again」(1989年刊)という本に収録されている。しかし、収録の経緯は米国の大学教授が日本人留学生のレポートをそのままプルンヴァン氏に送った、というものであり、この話が真実であれば、これは日本生まれの都市伝説ということになる。実際にこうした事件が起きたという証拠はないが、ヨーロッパでユダヤ人経営の服飾店に対し意図的に風評被害を生もうとしてあらぬ噂を流したことがこの都市伝説の起源だとする説もある。この話から派生したバーションはバラエティーが極めて豊かであり、いなくなる場所がヨーロッパでなくアジアであったり、いなくなる女性が一人旅の女子大生やOL、あるいは修学旅行中の女子高生という具合に様々に変化を遂げている。女性の海外一人旅や高校の海外への修学旅行の増加など、時代背景に敏感に反応しながら進化していることが伺える。
派生バーション:
・バルセロナのブティックで新婚旅行中の妻が試着室に入ったままいなくなり、夫は必死に探す。結局見つけ出すことはできなかったが、夫は毎年同じ季節、同じホテルに泊まって妻を探し続けた。数年後、夫はついに妻を発見する。場所は田舎の売春宿。妻は麻薬漬けの状態にされており、夫に会っても誰だかわからなかった。
3、遊園地の人さらい
ある年の夏休み。4人家族が某遊園地へ遊びに行った。途中で7歳の息子がトイレに行きたいというので、両親は一人で行かせることにした。ところが、いつまでたっても息子は戻ってこない。父親がトイレを探しても見つからないので、インフォメーションセンターへ行き、職員にも協力してもらい捜索することになった。しばらくして、息子を探す母と娘の前を中東風の民族衣装をまとった外国人旅行客のグループが通り過ぎた。何気なく見ていると、真ん中に体を抱えられている子供がいる。母親の目はその子供がはいている靴に釘付けになった。それは、母親が数日前に息子に買ってあげたものと全く同じだったのである。母親は急いで駆け寄り子供の体を覆っていたローブを引きはがすと、そこにはスプレーで髪を金髪に染められ、カラーコンタクトを入れられた息子の姿があった。すぐにその外国人旅行客は拘束され、息子は手当てのため、医務室へと運ばれた。息子が手当てを受けている間、父と母、そして娘は施設の奥の部屋へと通され、施設の責任者から4年分の無料パスポートを用意したので、今回のことは口外しないでほしい、と告げられた。