イケメンには勝てない。
街中で、キャンパスで、合コンの席で。
パッと見て女の子が「話しかけたい」と思うのは、ストスナ並みにイケてるファッションセンスのイケメンだろう。
つまり、第一印象がイケてないと次のステップ、中身が見てもらえない。
僕たちのやっていることもそういうことだと思っていた。
コミュニケーションという分野にまつわるありがちな誤解として、「カッコ良くしたら」とか「お洒落にすればいいんじゃないか」というものがあります。
そう言って話を始めたのは、伊藤剛さん。
縁あって立花ゼミの場で出合い、その「伝える」という行為へのこだわりに魅かれこの場に至る。
「伝えるプロ」がイケメンを否定する。ここから伊藤さんによるコミュニケーション論の授業が始まった。
第1部 コミュニケーションとは何か
広告なんて、覚えてない!?
伊藤さんは広告代理店勤めを経て、自分で『ASOBOT』というクリエイティブ会社を立ち上げた。その実態は、PRや広告・空間デザイン・エディトリアルと多岐にわたる。伊藤さんは、広告とは「課題を解決するためのコミュニケーション技術」で、そこがアートとの違いだと言う。どういうことか。実は伊藤さんは前もってゼミ生にある「課題」を出していた。右のシートは至ってカンタンなつくりで、自分の長所と短所を思いつくままに列挙させるものだ。授業開始前にゼミ生に埋めてもらった。これを使い、伊藤さんはゼミ生を指名して発表させた。「エロい」「八方美人」「運動音痴」「背が低い」「自虐的」「関西弁」「UFOキャッチャーが得意」「PC弱い」「彼女ができない」などが挙がる。数人に挙げさせた後、伊藤さんはそのうちの一人を指して「この人の自己PRを思い出せるだけ言ってごらん」と言った。ゼミ生がみんなで答えるが、ついさっきのことなのにすでに記憶はおぼろげで、スムーズに出て来ない。
伊藤さん まずだいたい覚えていないと思います。これが広告の前提です。つまり、「広告を見よう!」と思ってメディアを買う人はいない。広告を読むために新聞を、雑誌を買う人はいないんです。普通は別のものを読むために買って、その間に差し込まれているのが広告なんです。その中でどうやって読んでもらうか、読み手をキャッチしていくのかという技術を培ってきたのが広告的コミュニケーションです。広告というのは時間的・場所的な拘束が一切できないし、誰も聞く義務なんてないんです。これが、皆さんが教室の中でやってること、すなわちディスカッションと決定的に違うことでして、目の前に人がいて「さて、このテーマで話しましょう、はい席について、始め」というものではない。そういう中でどうやって相手に伝えたいことを伝えるようにするのかというヒントを今日はお話ししたいと思います。
見聞伝を発信しているインターネットの世界にも同じことが言える。ネット記事は時間的・場所的な拘束ができない。でもまだ腑に落ちない。街の雑踏、有象無象の溢れる中で目を惹くのはやはりイケメンじゃないの?