「火事だ!」で心はどう動く?
伊藤さん じゃあコミュニケーションの課題ってなんなのかと言った時に、突き詰めていくと「心の動き」のことなんです。基本的に僕らができることというのはこの相手の心の動きに対してどういう風にその課題を解決していくのか、ということです。怒っている恋人を、どうしたら怒っていない状態に変えてけるのか、それを考えるのがコミュニケーションなんですね。
伊藤さんは東京外国語大学の大学院『平和構築・紛争予防コース』で教鞭をとっている。
(その内容についてはこちら(立花ゼミ平和教育班のページ)で別途取材しているので参照されたい。)
簡単に紹介すれば、伊藤さんはボスニア・イラク・アフガニスタンなどの紛争当事国からの留学生に対して、「平和構築・紛争予防に活用する広告的コミュニケーションのあり方」について教えている。
伊藤さん なぜ僕が今「ピース・コミュニケーション」をやっているのかというと、学問の世界では紛争分析などのいろんな手法があります。たとえば構造分析といってA族とB族の間で紛争が起こったとき「なぜ紛争が起こったのか」というのを構造的に分析します。資源の分配が偏っていたのではないか、もしくは歴史認識の違いが引き金になったんじゃないか。そのトリガーになったところまで分析することがあります。では僕がそこで何をコミュニケーションでやるのかというと、どんな物事でも、それが起こった時には人の心は動くんです。今ここで火事が起きたら皆さんの心は何かしら動きますね。怖いとか逃げようとか助けようとか。どんな物事も突き詰めれば必ず人の心の動きに行きつくんですね。心の動きが集積して何か物事も起こるわけです。僕が大学でやっているのは、じゃあ資源の分配が不平等であったことでそもそもどういう感情になっていたんだろうか、とか。そこが見えてこないと、分配の仕方を直しただけでも紛争は解決しないかもしれない。それが僕が大学でやっているコミュニケーションインサイトというものです。
相手の心の動き、とはいえそれを考えるのは難しい。ふとしたことで踏み誤ればミスコミュニケーションが起きてしまう。