何を今さら、という感じかもしれないが、ジュール・ヴェルヌの
『八十日間世界一周 Le tour du Monde en Quarte-vingts Jours』を読んだ。
小学校の時に図書館で借りて読んで以来だから、これを読むのは十年ぶりぐらいである。
再読した理由はまあ色々とあるのだが、十年ぶりで読むと昔と楽しみ方が全く変わっていることに気づいた。
昔読んだ時は賭けの結果が気になるのは勿論、この旅に出てくるユニークな登場人物たちの動きや会話を追うことに
集中していた事を覚えている。
「パスパルトゥーもフォッグ氏もかっこいいなあ」、とか、「意外にアウダ夫人強いな」、とか、「そんなオチありかよ」とか。
今読んでみると、そうした登場人物たちの動きが極めてオペラ的であることに気付かされる一方、
なによりもヴェルヌの描写力に驚かされる。人物の描写よりも場所の描写が巧みで、時代を反映してステレオタイプな
ところはあるにせよ、様々な地域を「それらしく」描いている。この小説から風景描写を全て省いてしまえば、
いくら登場人物たちのドタバタが面白くても味気ないものになってしまうに違いない。
この小説が書かれた当時と違い、今や世界を一週間すらかからず廻ることが可能な時代になったが、
世界をそんなスピードで回ってしまってはこのように豊かな風景・地域描写は不可能になってしまうだろう。
そういう意味では、80日間で世界を廻る時代というのは非常に豊かな時代だったのかもしれない、と読後に思った。