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2010年度《見聞伝 駒場祭特設ページ》
2009.12.16 | by admin

感想 近藤伸朗

 山谷ブルースで山谷の名前を聞いたことがあった.あしたのジョーの場所だということは最近知った.たしかに,泪橋の地名があって,橋のところにはそれに関連する落書きを発見した.ドヤ街とはこういう場所だという期待は,立花先生の言った通り,裏切られることになったが,「まぁ,現実はそういうもの」.見なければ何も語れない,見れば「案外そんなものか」.それが現実.

 雨がつらかった.僕らがつらかったというよりは,この雨の寒い中,そしてこれからの冬を彼らは超えていかなければならないのだろうな,という想像力から,つらさが湧いてきた.

 宿泊施設は期待通りのものがあった.冷暖房,カラーテレビ完備.ただ,僕らの泊まったところは幾分か高級なところだった.

 夜中に友人と会話した.夜な夜な語り尽くすという,僕の余裕のない日常では珍しいことだったが,山谷というある種の世の果て(と世間的に認知されている場所)で,素朴な「楽しみ」を得た.ビールを飲んだ.ビールは労働者の飲み物らしい.

 彼らと僕たちの住んでいる世界は違う.簡単に言うと,政治的態度が違う.僕たちは知的好奇心で彼らをピーピングするブルジョアジー,彼らはプロレタリアートだ.人は皆,党派性を帯びて生きている.その党派性は自己中心的なもので,人は皆自分の世界を住んでいる.そして,その世界の果てには穴が空いている.僕たちはその穴を見まいとして生きている.けれど,一回見てしまった穴は見なかったことにできない.

 一番,記憶に残っているのは,公園のトイレに「トイレで寝ないで下さい」という張り紙がしてあり,そこに寝ている人がいたという事実だった.その世界で住んでいる人間のメンタリティーはあまりにも,今の僕たちとかけ離れているだろう.

 リアリティ.それが体験ということ.皆,リアリティを抱えながら,楽しくない楽しさというアンビバレントを抱えて,朝,解散した.長くて短い一晩だった.

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