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科学入門シリーズ4
19世紀末 科学の困難 光の科学

第5回  プランクの式


 前回、2.725Kという極低温の黒体放射の理論値と観測値の不一致を説明しました。プランクの式というのが黒体放射のスペクトルをうまく説明することも話しました。

 今日はプランクの式を説明しましょう。ちょっと式が多くなりますが、これを使わないと説明ができません。難しい式ではありませんので、我慢してください。

 マックス・プランクも黒体放射を何とか理解しようと努力していました。1900年、彼はレーリー・ジーンズの式とウィーンの式を一つの式であらわすことに成功しました。
 もう一度レーリー・ジーンズの式とウィーンの式を書いてみます。るつぼの中のエネルギー密度は、それぞれ

     (fの2乗)/(cの3乗)・kT、
     (fの2乗)/(cの3乗)・hf・exp(―hf/(kT))

に比例している、というものです。

 プランクは、とにかく両方の統一式を考えました。その答えが、

     (fの2乗)/(cの3乗)・hf/(exp(hf/(kT))−1)

というものでした。ウィーンの式にある

     exp(―hf/(kT))

という項を

     1/(exp(hf/(kT))−1)

という、分数にしただけです。これが本当にレーリー・ジーンズの式とウィーンの式に一致するのでしょうか。

第3回の記事で、レーリー・ジーンズの式は振動数が小さなところで観測と合うことを話しました。つまり、
     hf/(kT)<<1
の時です。数学の公式に、定数aが0に近い時、
     eのa乗 ――> 1+a
があります。上にある1/(何とか−1)という式で、
     a=hf/(kT)
と考えてみましょう。レーリー・ジーンズの式が成り立つときは、このaが十分小さな時です。このときは、
     exp(hf/(kT))=eの(hf/(kT))乗
のことを思い出すと、この数学公式が使えて、

     1/(exp(hf/(kT))−1)=1/(1+hf/(kT)−1)
      =1/(hf/(kT))=kT/hf

となります。わかりますか?
だから、プランクの式は、

     (fの2乗)/(cの3乗)・hf/(exp(hf/(kT))−1)
      =(fの2乗)/(cの3乗)・hf・kT/(hf)
      =(fの2乗)/(cの3乗)・kT

となり、これはレーリー・ジーンズの式です。

 次にウィーンの式は周波数の高いところで観測をうまく説明できます。つまり、今度は、
     hf/(kT)>>1
の場合です。また、
     exp(hf/(kT))=eの(hf/(kT))乗
を思い出すと、べき乗の指数が1よりずっと大きいのですから、
     exp(hf/(kT))>>1
です。だから下の式で−1の項が無視できて、

     1/(exp(hf/(kT))−1)=1/exp(hf/(kT))

となります。さらに、数学の公式で、
     1/(eのa乗)=eの(−a乗)
を使いましょう。すると、a=hf/(kT)と取れば、プランクの式は、

     (fの2乗)/(cの3乗)・hf/(exp(hf/(kT))−1)
      =(fの2乗)/(cの3乗)・hf・exp(―hf/(kT))

となります。この式はウィーンの式そのものです。

 このように、プランクの式は、振動数が非常に小さい時と非常に大きい時の極端な場合として、レーリー・ジーンズの式とウィーンの式になるということがわかりました。

 エネルギー密度の比例係数はどうかというと、3つの式で同じ値を取ればよく、(8π)という値になります。πは3.14・・という値を取る円周率です。

 科学というのは、単に数式が観測に合う、というだけではだめです。物理学者がよく言うセリフですが、「この式の意味は何か」、「物理的にこの式を説明できるか」ということが問題になるのです。
 つまり、式は何か実際に起こっていることをイメージしていなければなりません。

 プランクは頭を絞って式の意味するところを考え、ついに革命的なアイデア「光はツブツブだ」という考えにたどり着いたのです。ツブツブのことを難しい言葉で「量子、quantum」といいます。

 次回にプランクの考えを説明しましょう。
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