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科学入門シリーズ5 ニュートリノ
第1回 体感できない粒子
ニュートリノ観測装置、スーパーカミオカンデの内部 (水を抜いた状態)
電球のようなものは高感度光センサーの光電子増倍管。
科学は、目や耳や皮膚で観察することのできる現象を理解することですが、世の中には、体にまったく感じず、精密な機械を使わないと観測できない現象が多くあります。
ニュートリノもその一例です。ニュートリノは万物の基本粒子の一つで、実は宇宙の中で最も数の多い基本粒子なのです。ビッグバン理論では、ニュートリノは、宇宙の中に1立方センチ当たり300個あると予言しています。少ないじゃないかと思うかもしれませんが、ニュートリノは宇宙の隅々までこの密度で存在しているのです。水素原子を作っている陽子や電子は、ニュートリノと比べると100億分の3くらいしか宇宙にないのです。
ニュートリノの大きな特徴は、電気を持っていない中性な粒子だ、という点です。私たちの体は原子や分子からできていますが、それらを結び付けているのはすべて電気の力です。(中性子は例外です。)ニュートリノは電気を持たないのでお互いにくっつくことができず、だから物質の中には存在し得ないのです。
電気を持たないニュートリノは、水素や酸素などの物質ともほとんど反応しません。体にニュートリノがぶつかっても、何もしないで通り抜けてしまうので、私たちは痛くも痒くも感じません。つまり、ニュートリノを体感できないのです。
太陽は巨大なニュートリノ発生装置で、四方八方にニュートリノを放出しています(これらのニュートリノを太陽ニュートリノといいます)。もちろん、1億5千万キロメートル離れた地球にも降り注いでいますし、私たちの体を常に突き抜けています。
皆さん、どのくらいの数の太陽ニュートリノが体を突き抜けていると思いますか。私たちの体を突き抜けているニュートリノの個数は、体の大きさにも依りますが、毎秒少なくとも10兆個以上という数になります!ニュートリノは地球なぞ易々と突き抜けてしまいますので、私たちの体は昼も夜も常に毎秒10兆個以上のニュートリノが通り抜けています。しかし、痛くも痒くもありませんね。
人間が体感できない太陽ニュートリノを観測するには、標的となる物質を多く準備して、その中でかすかに起こる反応を捕らえます。日本のスーパーカミオカンデ装置は世界で最も優れた観測装置です。装置は5万トンの水を使っていますが、その中心部分にある22500トンを標的に使います。外側の27500トンは外から来るノイズの遮蔽に使っています。22500トンの水を通り抜ける太陽ニュートリノの数は、私たちの体を通り抜ける数よりずっと多く、毎秒10兆個の4万倍にもなります。それでも装置が捕らえることのできる反応は、1日に、たったの15個です。
次の第2,3回の記事で、ニュートリノを紹介してみたいと思います。
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