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科学入門シリーズ3
植物の基本は「いい加減さ」
第4回 水はなぜ100メートルも上るのか
私は、樹木の愛好家で植物学など研究したことがないのですが、過去の3回の記事(第1回、第2回、第3回)で私が興味を持った「植物のいい加減さ」の中で、特に葉の多様性について、素人なりに理解したことを書きました。今日はその続きです。
世界で最も高い木は、カリフォルニアにあるレッド・ウッドというセコイヤの仲間だそうで、背丈が115メートルもあります。もちろんてっぺんにも葉があって(針葉樹ですが)光合成をやっています。光合成のためには、地中から水分を、そして空気中から炭酸ガスを取り込まなければなりません。
私が疑問に思ったのは、一体レッド・ウッドはどのようにして水を100メートル以上もの高いところに持ち上げているのだろうか、ということです。
手こぎの水を吸い上げるポンプを見たことがあると思います。ポンプをこぐとピストンが持ち上がって、ピストンの入っているシリンダー内部が真空になり、井戸にかかっている1気圧の大気圧が水を押し上げてシリンダーに水を注ぎこみ、シリンダーについている出口から水が出るようになっています。
1気圧は1平方cmあたり1キログラムの力が加わっていることです。水の密度は1立方cmあたり1グラムですから、高さが10メートルの水の柱の底面には、1気圧の圧力がかかっています。だから、手こぎポンプの位置が、井戸の水面から10メートル以上高いところにあると、井戸からポンプにつながっているパイプの途中10メートルのところまで水が来るだけで、ポンプが動きません。
だから、レッド・ウッドは、手こぎポンプとは違う原理を使って水を持ち上げているはずです。この原理がわかりませんでした。実はこの勉強をするために、前回の記事に出てきた、ピーター・トーマス著、「樹木学」(築地書館)を買いました。
日本語訳の39ページから51ページにかけてそのからくりが出ていました。原理はこうです。
水を運ぶパイプは導管と呼ばれます。針葉樹では仮導管と呼んでいます。針葉樹では、仮導管は木材全容積の90〜94%を占め、樹木を支える役目もしています。仮導管は非常に細く、直径が0.025~0.08ミリメートルほどです。仮導管は数ミリメートルの長さの管で、仮導管どうしは両端に開いた穴を通して木の上までつながっています。 広葉樹の導管はずっと太く、0.5ミリメートルくらいになります。導管になる細胞が死ぬと、内容物が抜けてチューブになります。死んだ細胞どうしは穿孔と呼ばれる穴を通してつながっています。この導管が木のてっぺんまで伸びているのです。
導管は葉の中まで伸びています。導管に気泡がなく、水で充満しているとします。葉は気孔を通して水を外に排出します(蒸散)。
ここで、水の特殊な性質を知る必要があります。水はH2Oと表わされるように、2個の水素原子と1個の酸素原子がくっついた分子です。下に貼り付けた図の上の絵を見てください(クリックすると大きくなります)。2個の水素は酸素に対して104度の角度でつながっています。水素原子にある電子は、水素と酸素の間にいることが多いので、水素を分子の外側から見ると、プラスの電気を持った原子核がちょっと見えるようになります。酸素は逆に、電子が分子の外側に集まる傾向があります。だから、水分子は、水素のあたりがプラスの電気を、そして酸素の近くではマイナスの電気を帯びる、いわゆる電気双極子になります。
すると、図の下の絵にあるように、水分子同士のプラス・マイナスの電気が引き合って、お互いに結び付くようになります。この現象を水素結合といいます。
(コピー:ウィキペディアのリンクから)
細い導管の中にある水分子も、水素結合をして相互につながりを持つようになります。
葉から水が蒸散していくと、水素結合をした水が蒸散で無くなった分だけ上ってくるのです。蕎麦を箸で持ち上げるような感じです。つまり、この水素結合が高い木のてっぺんまで水を持ち上げる原理を担っていたのです。
細い管に気泡が入らないように注意して水をいっぱいに張ります。そして上から水を抜いていくと、何と水を450メートル以上持ち上げることができるそうです。水が昇れる高さは管の直径に関係しているはずで、太い管では水はうまく上がらないと思います。
中学生の実験にちょうど良いですね。ぜひやって、実験結果を教えてもらいたいものです。
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