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科学入門シリーズ3
植物の基本は「いい加減さ」
第1回 植物への好奇心の種
私には、研究で奥飛騨に住んでいた頃の木々(植物)の思い出がたくさんあります。木々の中を歩き、木々の姿を見るのが楽しく、あまり科学的な疑問を持ったり解決すべき問題に突き当たったりすることはほとんどありませんでした。 しかし10年近く植物を見てくると、なぜだろうという好奇心が時々わくことがあります。シリーズ3として、植物に関する好奇心の種を書いて、皆さんにその解答を教えていただきたいと思います
私は元物理科学者ですので、研究で最も大切な点は、自然現象から、信頼できる数字を何ケタ引き出せるか、という文字通りディジット(digit)に生命をかけるデジタル世界に住んでいました。研究で予想と少しでも違う数値が出たら、それは新しい発見か、研究が間違っているかのどちらかです。妥協のない、ファジイ性のない世界です。
植物はデジタル世界とは全く違う世界だなあ、というのがまず実感です。
それでは私の好奇心をかきたてたことをまず書きたいと思います。
植物を観察したとき、葉の形や枝ぶりなど、植物の形のいい加減さにはあきれてします。たとえば、シラカシの葉を見てみると、日向の葉と日陰の葉ではその大きさが1:3くらい違っていることがあります。トウネズミモチは葉が左右対称に出る「対生」ですが、葉とともに出てくる枝のうち半分くらいは対生にならず一つの枝が生えてきます。その生えぶりは全くランダムのように見えます。(下の写真参照。クリックすると大きくなります。)
ヤマグワの葉は切れ目が入ったり入らなかったりで、しかもどのような原因でどの葉に切れ目が入るか(因果律)に規則性が見られません。
植物の枝が幹のどこから出てくるのか興味があって、2cmくらいの苗のころからイヌシデを自宅の鉢に植えました。そしてその成長具合をじっくり観察し、枝が出てくるきっかけ(原因)を探そうとしましたが、とうとう見つかりませんでした。
また、幹から枝が何本出てくるのか、また何本出すべきなのか、ということも決まっていないようです。ケヤキなど1本1本の木が違った枝の数と枝ぶりを持っています。
動物、たとえば人間では、腕が体のお腹のほうから出てきたり、腕が3本や4本でてくることなどありえません。右足が左足より3倍も大きかったりすることもありません。たとえこのような変な動物が生まれても、ダーウィンの自然淘汰によってたちまち絶滅させられてしまいます。
なぜ植物はこうもいい加減なのでしょうか。ここにも当然、自然淘汰は働いているはずです。葉が大きくなったり小さくなったり、枝の張り方もいい加減だったりするのは、動物と違って、地面にじっとして動かないという戦略をとった植物が長年かかって手に入れた知恵に違いありません。
しつこいですがもう少し続けましょう。
ハリギリというウコギ科の高木があります。ハリギリにつく葉はいわゆる分裂葉で、1枚の葉に切れ込みが入っています。葉の大きさと葉にある切れ込みの様子が葉によって(全く)異なっています。ただ、大きさと切れ込みの間に関係があるらしく、ヤツデのように大きな葉は切れ込みもヤツデのように大きいです。小さな葉はイタヤカエデによく似てきて切れ込みがほとんどなくなります。なぜだろう。
シラカシの葉の大きさの違いはどうだろうか。観察によると、日向と日陰の影響がシラカシは葉の大小を決めているようです。シラカシの木は、葉の製造(細胞分裂)を開始してから、このあたりで成長を止めよ、という命令を、いつどんなきっかけで出すのでしょうか。
生物の成長はすべて遺伝子によって制御されているといわれています。
幹のここから枝を作れとか、葉のここに切れ込みをこのくらいの深さで入れよとか、日陰だから葉を大きく何cmくらいに作れ、などという命令をどこかが発しなければならないと思います。
つまり、外界の影響によって遺伝子の時間的発現が大きく制御されているはずです。 (続く)
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