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科学入門シリーズ2
アインシュタインの「E=mc2

第6回  超新星爆発


 この回ではこのシリーズの最後、超新星爆発のエネルギー源を話したいと思います。

 超新星とは、新星と書いてありますが、新しく生まれる星のことではなく、逆に星が死ぬ時に起こす大爆発のことです。この爆発のために、夜空に何の前触れもなく突然明るく輝く星が現れたように見えます。昔の人は、この現象を新しい星が生まれたと思ったので、新星、特に明るい新星を超新星と呼びました。

 超新星にはT型とU型の2種類のタイプがありますが、ここでの議論はU型の超新星に関するものです。

 太陽の8倍以上の重さを持つ星は、星の中心での核反応が急速に進みます。
 重い星の中心は太陽よりもずっと高い温度になるので、太陽のエネルギー源で考えた核反応に加えて、重い原子核を作る核融合反応、特に、
      ヘリウム4 + ヘリウム4 + ヘリウム4 → 炭素12 + ガンマ線
が最初に起き、その後酸素やマグネシウムやケイ素が次々と作られ、そしてそれらは新たな核反応の材料として使われていきます。このような核反応は太陽の中心で起きる反応とは比較にならない早いスピードで進行します。そのためこのような重い星は何100万年から何1000万年という短い時間で燃料を使い果たしてしまい、その最期を迎えます。

 星の中心には核反応の最終産物である鉄が積もっていきます。その鉄は半径100キロメートルくらいの球状に固まっていますが、その球の重さが太陽質量の1.5倍くらいになると、重力のために自分自身を支え切れなくなり、中心に向かって恐ろしいスピードで崩落していきます。

 崩落が進んで、かたまりの半径が約10〜20キロメートルになると、鉄はバラバラになって中性子の塊になります。中性子がぎっしり詰まったこの塊は十分な硬さをもつので、そこで崩落は止まります。

 この塊を(原始)「中性子星」と呼びます。

(まるで見てきたように書いていますが、すべて理論シミュレーション計算の結果で、観測による検証が必要です。)

 この過程で大変なエネルギーが放出されるのです。これが今日のお話です。

 高いところから物を落とすと、物はだんだんスピードを増して落下していきますね。つまり、高いところにあったものは低いところに下がるにつれて運動エネルギーを獲得することになります。どうやら、高い場所は、潜在的に大きなエネルギーを物に与える能力があるようです。このような能力を、地球の位置エネルギーと言ったり、ポテンシャル(潜在)エネルギーと言ったりします。
 
 高校の理科では、位置エネルギーは高さに比例して、その比例係数はgと書かれていたことを覚えている方もいると思います。gは地球の重力を表すパラメーターです。

 ご存じのように、地球の重力は、ニュートンの万有引力によって引き起こされていて、その力は距離の2乗に反比例し、物体の質量に比例します。

 地球内部の物質は相互にいつも引き合っているので、地球全体が持つ潜在的なエネルギーを計算することができます。そのエネルギーは、地球質量の2乗×ニュートンの万有引力定数÷地球の半径となります。その前に1以下の係数がかかりますが簡単のために無視しましょう。

 ニュートンの万有引力がなぜすごい発見か、ということをちょっと書いておきます。
 万有引力の法則によって地上で物が落ちる現象を正確に説明することができます。同じ法則は、天体の現象も正確に説明できます。
 つまり、万有引力の法則は、1グラム、1cmの現象から、太陽、恒星、銀河、宇宙全体の現象を説明できるのです。このとき、法則は「普遍的」と言われます。普遍的な法則を最初に発見したのがニュートンだったのです。

 ここで超新星の中心に戻ります。約100キロメートルに広がっていた鉄の塊が約10キロメートルに落ちる時に、鉄の塊の位置エネルギーは鉄の塊の運動エネルギーに、そしてさらに(原始)中性子星の熱エネルギーに変換されます。そのエネルギーを計算してみましょう。

 単位が面倒くさいので、長さをメートル、質量をキログラム、時間を秒で統一的に表すと、超新星の中心の鉄の塊は、
 半径が100、000から10、000に小さくなる、
 鉄の塊の質量は太陽の1.5倍の質量:1.5x1.989x1030 = 3.0x1030
 万有引力:6.673x10-11
 という数値を使うと、
 位置エネルギーの差 = 6.673x10-11x(3.0x10302
                   x(10000分の1−100000分の1)
               = 5.4x1046ジュール。

 このエネルギーが数秒のうちに放出されるのです。この値がどのくらい巨大な値なのか見当がつきませんね。そこで、前に使った太陽の熱発生量、毎秒3.85x1026ジュールを使ってみましょう。上のエネルギーをこの太陽の熱発生量で割れば、太陽が作り出すエネルギーの何年分かが計算できます。5.4x1046÷3.85x1026秒は4.4兆年!
 つまり、太陽が4.4兆年かかって出すエネルギー(その前に太陽はとっくに燃えつきますが)を超新星は数秒で放出するのです!
 
 この超新星エネルギーの99%はニュートリノという素粒子が持ち去っていきます。残りの1%で星は完全に破壊され、銀河全体よりも明るく輝くのです。1%だって、太陽が440億年かかって出すエネルギーですからとんでもない量です。

 5.4x1046ジュールの放出エネルギーは、E=mc2の法則にしたがって、中性子の塊の質量の減少をもたらします。その値は実に太陽質量の30%に相当します。

 太陽エネルギーの原子核反応の効率を質量の現象の割合で表わすと、それは反応エネルギー÷ヘリウム4の質量ですから、その値はたったの0.69%にすぎません。

 ところが、超新星爆発に使われる重力エネルギーの開放は、30%÷1.5=20%に相当します。つまり、超新星爆発のエネルギー発生効率は、核反応よりも30倍も高いのです。宇宙には、まだまだ想像を絶するエネルギー源があるんですね。

 1987年、16万光年離れた大マゼラン星雲で肉眼でも見える超新星が見つかりました。SN1987Aと呼ばれる超新星ですが、日本とアメリカのチームが超新星から来たニュートリノを観測しました。2つの実験で観測されたニュートリノはそれぞれ13個と5個に過ぎませんでしたが、その観測から得られた結果を紹介しましょう。

 超新星の爆発エネルギー:3.7x1046ジュール (誤差約50%)
 放出時間:4.5秒(誤差約50%)
 中性子の塊の表面温度:490億度(誤差約20%)
 中性子の塊の半径:27キロメートル(誤差約50%)

 これらの値は、ジョーン・バコールが精密にデータを解析した結果です。
 観測数が少ないので誤差が大きいですが、爆発エネルギー、時間、中性子星の表面温度や半径は理論シミュレーション計算とほぼ一致しています。

 SN1987Aの観測から、超新星爆発は太陽質量とほぼ同じ重さを持つ鉄の塊が一気に崩れて中性子星になる現象だ、ということが証明されました。

 私が驚くのは、16万光年離れたところにある物体の半径、それも、たった半径30キロメートルの半径が決められたことです。

 次回はまとめを書いていよいよこのシリーズを終わりにします。
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