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科学入門シリーズ2
アインシュタインの「E=mc2」
第2回 放射線と太陽のエネルギー源(2)
前回の続きです。特殊相対性理論の帰結E=mc2から始めましょう。「質量mの物体は、mに光速c(毎秒30万キロメートル)の2乗した数をかけたエネルギーEと同等である」という意味です。
具体的に言わないとよく分からないでしょう。例を挙げたいと思います。
水素には反物質の反水素があります。水素1グラムに反水素1グラムを混ぜたとしましょう(現在の技術では不可能ですが)。このとき、水素と反水素の質量はすべてエネルギーに変換されます。
ちょっと情報を並べます。
・水素原子の質量:m=1.67x10-27キログラム
・1グラムの水素中に含まれる水素原子の数:N=6.02x1023個
・光速:c=3x108メートル
水素1グラムと反水素1グラムの全エネルギーは、
E=2xmc2xN=1.81x1014ジュール となります。
前回の記事に書きましたが、石炭1グラムの燃焼熱は20〜30キロジュールでした。つまり、1グラムの水素と1グラムの反水素を混合すると、9000トンの石炭を燃やしたのと同じだけの熱を得ることができるのです!
E=mc2がいかにすごい原理なのかおわかりになったでしょうか。
ラザフォードの発見した放射線のエネルギーも、実はこのE=mc2の原理を使っていたのです。ラジウム226の崩壊はアルファ線を出して崩壊するとラドン222の原子核になります。式で書くと、アルファ線はヘリウム4の原子核なので、 ラジウム226 → ラドン222 + ヘリウム4 となります。
ラジウム226に出てくる数字226のことを質量数といいます。また、ラジウムは元素の一種ですから原子番号も持っていて、その値は88です。 ラドン222の質量数と原子番号は222と86です。 ヘリウム4の質量数と原子番号は4と2です。 (いろいろな数字が出てきていやになりますね。我慢してください。)
ヘリウム原子の質量は正確に分かっています。しかし、ラジウム226とラドン222の質量は、これらが崩壊することもあって精度良く測れていません。そこで、原子核物理学者は、同じくらいの質量を持つ鉛やウランなどの質量にいろいろな理論的な考えを加えて、原子核の質量数と原子番号を与えれば簡単に計算できる質量の公式を作っています。
上に書いたラジウム226の崩壊式で、左辺と右辺の質量を求め、それに光速の2乗をかけて見ます。面倒くさい計算ですが、答えを書くと、
m(ラジウム226)c2 − m(ラドン222)c2 − m(ヘリウム4)c2 ≒ 400万電子ボルト と出ます。質量公式はあまり精度が良くないので100万電子ボルトくらいの誤差があります。
つまり、右辺の質量が左辺の質量よりも400万電子ボルト相当分だけ減ってしまいました。この減った分がエネルギーに変換されたと考えます。つまり、ヘリウム4(アルファ線)の運動エネルギーは大体400万電子ボルトのはずだということです。
アルファ線の運動エネルギーの実測値は487万電子ボルトでした。誤差の範囲で計算値と一致しています。
あまり精度が良くないのですが、このことからアインシュタインのE=mc2が原子核崩壊のエネルギー源なことが分かりました。
皆さんは、以上の考察がかなり大雑把で本当かな、と思う方もいると思います。
E=mc2の本当の検証は、素粒子を使って行われています。
電気を持ったパイ中間子は湯川秀樹博士が予言した粒子です。パイ中間子は平均1億分の2.6秒で崩壊して別の2つの粒子、ミューオン(電気を持っている)と呼ばれるものとニュートリノ(電気を持っていない)と呼ばれるものに変化します。式で表すと、
パイ中間子 → ミューオン + ニュートリノ
最近ニュートリノが小さな質量を持つことは分かりましたが、パイ中間子やミューオンと比べると全く小さいので、ここではニュートリノの質量はゼロと思って良いです。
パイ中間子とミューオンの質量は正確に測られていて、それらをmc2で表してみると、単位として100万電子ボルトを使うことにして、
mc2(パイ中間子):139.57018
mc2(ミューオン):105.658369
mc2(ニュートリノ):0
上の崩壊式の左辺は右辺よりだいぶ大きな質量を持っています。減った質量分がミューオンとニュートリノの運動に使われます。
実験では、運動量という観測量が精度良く測定されます。運動量の説明は省きますが、上の質量差からミューオンの運動量を正確に計算することができます。結果は、 運動量(ミューオン)=29.791789 となります。(運動量には単位として「100万電子ボルト/光速」があるのですが面倒なので省略します。)
1991年、スイスの研究所で測定されたミューオンの運動量の値は、 29.79179 (誤差0.00053) でした。
予想値と実験値は見事に一致しています。これから、E=mc2がものすごい精度で確認されていることが分かると思います。
またまた紙数がなくなりました。続きは次回。
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