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立花隆+東大立花ゼミ シンポジウム事前取材

8月30日 東京大学 中畑雅行先生

 早朝に出発し,羽田から富山空港へと飛ぶ。意外と遠い所だ,という印象を持った(実際は,電車を利用した復路の方がずっと長くて遠い道のりだったのだが)。 空港まで車で出迎えてくださったのは,東大宇宙線研究所の中畑雅行教授だ。車中では,ご自身の学生時代についてお話を聞かせてくださった。神岡でニュートリノが見いだされるまでの,小柴昌俊先生や戸塚洋二先生にまつわるエピソードなども,非常におもしろいものだった。

  1時間ほどで,宇宙線研の建物に到着。ここから坑内へは,数多くの基準を満たした専用車しか乗り入れることができない。また,出入り口や坑内に設置された機器にIDカードをかざすシステムになっている。入口付近に立つと,トンネルの中から絶えず涼しい風が吹きつけてくるのを全身で感じとることができた。 それから,トンネル内をしばらくまっすぐに走る。実験施設は,エレベーターなどを使って地中深くに潜るのではなく,標高の低い地表面から山の内部へと水平に伸びるトンネルを行ったところにある。車を降りた地点からは,施設への扉が幾つか見え,どこから発せられているとも知れない機械の運転音がとどろいている。 そこからまず,長いトンネルの奥にあるとは思えないほど開けた場所に案内された。外とは一転して急に辺りが静まり返り,先生の声がものすごく反響して聞こえる。ここは,ダークマターを検出するための装置「XMASS」が設営される予定の空洞である。最近整備されたばかりで,マスメディアで写真を見た方もいるかも知れない。まずは掘削の過程やXMASSの構造などを簡単に説明していただいた。現在あるプロトタイプで得た知見をもとに,1tの液体Xe,650本の光電子増倍管を用いた巨大な実験装置を作る計画だ。

 そもそもダークマターが考え出された背景に話は移る。「重力レンズ」と呼ばれる現象を利用すれば,宇宙での質量の分布を知ることができ,そのデータを別の観測結果と照らし合わせてみると,質量をもつ「もの」が(見ることのできる)原子だけであるとすると,辻褄が合わないことがわかるそうだ。そのようにして今は理論的に予測されているだけのダークマターを実際に捕まえてやろう,というのがXMASS実験の目的だ。具体的なダークマターの「候補」として,量子力学の理論から,幾つかの素粒子が挙がっていたり,あるいは性質が予測されていたりする(かつてはあのニュートリノもそのひとつといわれていた)。

 目下,ダークマターの探索に関しては,上でも少し触れたように,観測精度の向上を巡って激しい国際競争が行われている。今回のXMASS実験によって日本のチームが他に抜きん出たとしても,追いつかれるのは時間の問題だ(ダークマターに限らず,「流行り」の分野では,終わりの見えない「いたちごっこ」が繰り返されている)。 先生のお話から,装置そのものに由来するノイズをいかに少なくするか,という点にいかに力(及び資金)が注がれているのかがよくわかった。人間が日常生活で使う道具を作るぶんには支障がなくても,精密な観測や測定の世界では「邪魔な要素」を含んだものが多いとのこと。装置の巨大化によって,個々のノイズの影響を相対的に小さくする,というのも工夫の一つである。


神岡取材記はこちら→ 「見聞伝・取材史上最長の一日」


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