KENBUNDEN > 第5回 NINSシンポジウム 東京大学 立花ゼミ
ただいま、第6弾のページ準備中
6月中には公開できる見込みです。

6月12日、立花ゼミと自然科学研究機構の初回ミーティングを予定しています。

▼ 第5弾の記事はこれより下
シンポジウムの詳細はこちら!  http://www.kuba.co.jp/nins05/
会場から生レポート!  「現場レポート! 解き明かされる脳の不思議」

  1.シンポジウム開幕!
  2.イントロダクション
  3.痛みと温度を感じるメカニズム
  4.ジョジョに奇妙な脳科学
  5.中枢神経系の再生戦略
  6.脳機能の発達と回復:神経回路の再編成
  7.損傷から立ち直るための脳の仕組み
  8.脳の中の時間
  9.奥行きのある世界を見る脳の仕組み
  10.ブレインインターフェースの最前線


  【先行公開!】シンポジウム写真集




 東大立花ゼミでは、公演予定の講師の方に前もってお話を伺い、シンポジウムをより親しみやすいものにするためのお手伝いをしています。 この予告ページでは、その時の取材をもとに、シンポジウムの「予告編」にあたる記事を順次公開しています。



講演内容を先取り! (講演順) 記事は先生方への取材をもとにゼミ生が書いたものです

富永真琴先生 (生理学研究所)
 最近、春を感じる温かい日々が続いています。また、もう少しすればもっと温かくなり、そして暑い夏がやってきます。一方、日々を振り返ってみれば先日までは寒い冬が続いていました。このように、われわれの生活は四季に富んでいて、取り巻く環境の「温度」もめまぐるしく季節によって変化します。
 この温度について注目して研究しているのが富永先生です。私たちが温度を感じる時、その情報は受容体で感知され電気信号に変換されて神経を伝わって脳に到達します。富永先生はこのセンサーの機能に関しておもしろい発見をしました。富永先生はそもそもトウガラシを食べたときになぜ、人は辛いと感じるのか?を研究していて、温度センサーの発見をしました。
 周りの温度を感じる時、私たちの体ではTRPチャネルという受容体が大きな役割をしています。このチャネルが熱を感じることで開き、そして電気信号が発生するのです。このTRPチャネルは多くの種類が発見されており、しかおそれぞれが担当する温度帯があることが判明しました。つまり、ある温度からある温度まではある種類のTRPチャネルが、そしてまたある温度からある温度までは別の種類のTRPチャネルが働く、というのです。
 さらにはこのTRPチャネルはおもしろい性質を持っています。トウガラシの主成分であるカプサイシンを受容するセンサーは、熱い温度も受容するセンサーでもあったのです。つまり、辛いと感じる刺激と熱いという情報がまったく同じ経路で脳に到達することがわかったのです。私たちが辛いものを食べて辛いと感じると同時に、熱いと感じる仕組みはここにあったわけです。
 さらに研究をすすめた結果、体の随所にこの温度センサーであるTRPチャネル群が存在することがわかりました。このことは温度を敏感に感じて体の様々な部分が機能していることを示唆します。

  温度からみる、体の不思議な挙動…富永先生のHOTな講演をお楽しみに。

瀬藤光利先生 (浜松医科大学)
 2007年9月、サイエンスの世界では前代未聞のユニークな“事件”が起こった。人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の作者として知られる荒木飛呂彦さんの絵が、超一流の科学誌“Cell”の表紙を飾ったのだ(※1)。生物学の専門誌の表紙といえば、大抵タンパク質やDNAのスッキリした立体構造図か細胞の顕微鏡写真であることが多く、コミックの1コマから抜け出してきたような派手なヒーローがデカデカと掲載されるなんて、普通は誰も想像しないことなのである。そのうえ“Cell”の表紙ともなれば世界中の生物学研究者のほとんどが目にしているわけで、突如表紙に現われた異形の戦士“SCRAPPER”(スクラッパー=壊し屋)に、ジョジョを知る人も知らない人も「なんだこいつは!?」と思わず視線を釘付けにされたに間違いない。この奇想天外なコラボレーションの仕掛け人こそ、今回のシンポジウムの講演者の中でも最も若く勢いのある、瀬藤光利先生なのである。
 「科学誌の表紙にマンガの絵だなんてけしからん!」と思われる硬派な人もいるかもしれないが、瀬藤先生は決してオチャラけた遊び心だけでこんなことをしたわけではない。「生き物の一番大切な性質って、動いてるってことでしょ?」瀬藤先生はそう語る。表紙一枚という限られたスペースの中で、“ウゴキ”という要素を伝えることはなかなか難しい。行儀よくおさまった写真や図よりも、荒木飛呂彦さんが描く躍動感あふれるヒーローのほうが、ずっと生命の本質を鋭く表現している、という見方もできるのだ。実際、“Cell”誌の編集部もこの企画にノリノリだったという。
 もともと瀬藤先生は、今回の出来事で話題になる前から“Nature”や“Science”といった一流学術誌にトップクオリティの研究内容を発表し続けている優れた研究者。その業績のひとつとして、Klf17(キネシンというタンパク質の一種)の機能の解明があげられる。この分子は神経細胞の中で、「細胞体」と呼ばれる細胞の中心部分から、「樹状突起」と呼ばれるほかの神経細胞と情報をやり取りする部分に、NMDAレセプターという分子を運ぶ役目を果たしている(※2)。NMDAレセプターはシナプスの可塑性、つまり情報の伝わりやすさを調節している分子で、記憶の形成にきわめて重要であると考えられている。要するに、Klf17が樹状突起にNMDAレセプターを運んでいるから、人間は新しい記憶を作ることができるのだ。
 いっぽう、そうやって細胞の中心から、ほかの細胞と接触する細胞末端にタンパク質を運ぶばかりでは、そのうち様々な分子であふれかえってしまい、それはそれで困ることになる。机の上と同じで、いらないモノは片付けて整理しないときちんと機能を果たすことはできないのだ。ということは、細胞末端の側でもいらないモノを捨てるなり壊すなりする役目を持った分子が存在しているはずでは? そういう発想から見つかったのが、今回の表紙絵の題材となったSCRAPPERというタンパク質だ。このタンパク質は神経細胞の軸索末端に存在し、そこでRIM1というタンパク質(これもシナプスの可塑性を調節している)を壊す働きをすることで、人間の記憶メカニズムの一端を担っている。
 そういった研究をしてこられた瀬藤先生が現在取り組んでいるのが、「質量分析顕微鏡」の開発だ。質量分析技術というのは、田中耕一さんがノーベル化学賞を受賞した研究でもあり、質量を測定することで細胞の中にどんなタンパク質が含まれているかを分析するという手法だ。ただし、従来は細胞をすりつぶして作ったサンプルを分析にかけるのが普通だった。これを瀬藤先生は、組織切片をそのままサンプルとして使えるように工夫して、「どこに、どんなタンパク質があるか」といった、組織中や細胞中でのタンパク質の分布の様子まで調べられるように進化させたのだ。“顕微鏡で細胞をのぞくような感覚で、どの場所に、どんな分子があるかを観察することができる”、これが「質量分析顕微鏡」の発想だ。位置の情報がまったく得られなかったこれまでの手法と比べて、飛躍的に進歩したということをご理解いただけるだろうか。
 この質量分析顕微鏡を使って、瀬藤先生はどんな研究をしようとしているのだろうか? それはぜひともシンポジウムに足を運び、直接聞いて確かめてもらいたい。この技術があれば、今のところほとんど解明できていない“こころ”の問題、たとえば統合失調症や自閉症はなぜ起こるのかといった謎にも、分子のレベルからメスを入れることができるようになるかもしれないのだ。
 この記事を読んで、瀬藤先生の研究は難しく、多岐にわたるという印象を持つ方もいるかも知れないが、実は単純なところで一本につながっているようにも思える。キーとなるのは、タンパク質が機能している “場所”が生命現象にとっていかに重要か、という点と、ある場所から別の場所へと“運ぶ”というダイナミックなウゴキこそが生命の本質である、という点だ。こういった生命現象の“場所”や“ウゴキ”の特徴は、遺伝子を見ているだけでは決してつかめない。
 ポストゲノム時代の生物学を担う瀬藤先生の、活き活きとした躍動感あふれる講演を楽しみにしてもらいたい。

※1 生物学の専門誌としては最高峰といわれ、2006年のインパクトファクター(雑誌の品質の高さを表す指標のひとつ)はNatureやScienceを抜いて全雑誌中1位となった。最近話題となっているiPS細胞の論文(京大・山中教授)もCell誌に掲載されていた。
※2 神経細胞は「細胞体」という中心部分と、そのまわりに樹状に広がる「樹状突起」、そして長い「軸索」という三つの部分からなる。多くのタンパク質は細胞体で作られ、これがキネシンなどの“運び屋”タンパク質によって樹状突起や軸索の末端まで運ばれる。ひとつの神経細胞から別の神経細胞への情報伝達は、必ず“軸索末端から樹状突起へ”という方向で起こり、軸索末端と樹状突起の接触部分をシナプスという。シナプスでの情報の伝達効率が変わること(シナプス可塑性)が、人間の脳で記憶が形成される仕組みの実体であると考えられている。ちなみに、Klf17が運ぶNMDAレセプターは情報の受け取り手である樹状突起で働くのに対して、SCRAPPERが壊しているRIM1は情報の送り手である軸索末端で働いている。

鍋倉淳一先生 (生理学研究所)
 人間は生まれたときから、脳のなかに行動や感覚、認知がインプットされていて、それらをもとに成長をしていくものなのでしょうか?
答えはNOです。人間は胎児の頃から様々な行動パターンを経て、そして生まれてからも様々な過程を通して普通の大人がするような行動のパターンや、感覚、認知のパターンを習得していきます。その例として胎児のころはなんと目の動きの周期と、排尿の周期が同じ、という時期すら存在します。人間の大人では考えられない行動です。
 では人間の脳はどのような仕組みで脳機能を成熟させていくのでしょうか?その問題を解くキーワードが、脳の神経回路です。脳のなかにおいては多くの神経細胞同士が伝達物質と言われるものをつかって、情報の受け渡しをします。この神経細胞同士のネットワークが変化することで、人間の脳のなかで起こる外からの情報の処理する過程や、先ほどあげた行動や感覚、認知のパターンが異なってくることがわかってきました。
 では、その回路が変化する仕組みは一体どのようなものなのでしょうか?その回路が変化する決定的瞬間を、鍋倉先生は「二光子励起顕微鏡」画期的な機器を使うことによって成功しました。
 この二光子励起顕微鏡とは、これまで不可能であった脳のなかで活動する神経の活動を生きた状態で鮮明に観察するということを可能にした観察機器です。この顕微鏡を使うおかげで、生きている脳のなかでしかおこらない、神経細胞の回路の変化を観察することが可能になったのです。この成果は世界初です。

 生まれたときから、講演を聞いている現在、そしてこれから先の未来、私たちが生きている限り続く、脳のなかのダイナミックな神経のうごき…その意義と実際の動きを聞いてください。

伊佐正先生 (生理学研究所)
 コップを手に取ってみて下さい。それは大した事でないように思えるかもしれません。
 でも、考えてみればこんなにも繊細に脳が手を操っているのは驚くべきことではないでしょうか。そうやって私たちが身体を自由自在に動かせるのは、脳からの神経ネットワークが身体の隅々まで張り巡らされているからに他なりません。
 しかし、事故により脊髄などが損傷してしまい、思うように身体が動かせなくなってしまった方もいます。他の器官と違い、神経は再生しません。それはともすれば八方塞がりのようにも思えますが、リハビリをするとかなりのレベルまで回復することがあります。一体なぜそんなことが可能なのでしょうか。
一方で、リハビリには大変な苦労を伴います。赤ちゃんは自然と自分の身体を操れるようになっていくのに、一体なぜ子供の頃と同じように簡単にはいかないのでしょうか。
 リハビリの方法は多くの試行錯誤の中で発達し、今では医療の中でも重要な手段となっています。しかし、どうやってリハビリによって失った身体機能を回復しているのかは殆ど分かっていないのが実情なのです。

 伊佐先生は神経が切断されてしまった場合、リハビリをすることで脳が神経回路からバイパスを探し、使いこなせるようになっていくのではないかと考えました。そして実際に脳の様子を映像化した所、確かに脳内の普段使っていない部分まで使っている事がわかりました。それどころか回復する過程によって脳の使い方が違う事までもが明らかになったのです。リハビリテーションの原理解明へ、大きな一歩を踏み出した伊佐先生の講演は決して他人事ではなく、誰にとっても大切な問題です。

川人光男先生 (ATR脳情報研究所)
 けん玉をスムーズに行うロボット、エアホッケーをするロボット、二足歩行をするロボット、手の上で長い棒を器用に立てるロボット…いかにもSFな感じのするこれらのロボット、じつは日本に存在します。川人先生は人工的に「脳を創る」という大胆なアイデアで人間の脳の働きに迫っています。
 脳を創るといっても、いかにもSFであるような怪しげな試験管や水槽を並べて行うわけではありません。脳の神経回路のモデルをコンピューターでデザインし、実験して検証するのです。その研究の中で生まれたのが先ほどのロボット達なのです。
 また、全身不随に陥ってしまった人の脳と機械をつなぐことで、そのひとが頭で考えていることを実際に機械に反映させて実行するという、これまではSFの世界でしか実現されていなかったことが実現されつつあります。

 この脳の学習や記憶についての理論をロボットを使ってデザインし、実験して検証する方法は世界的に注目されています。
 これまで生物学的手法によってなされていた発見が積み重なって、それらがまた一つ上の段階に大きく前進する、そんな研究現場の最前線レポートをお楽しみください。



過去のシンポジウムの記事
   第4回 「生物の生存戦略」   第3回 「宇宙の核融合・地上の核融合」(別サイト・SCIに掲載)
   第1回 「見えてきた!宇宙の謎。生命の謎。脳の謎。」(SCIに掲載)


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