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イントロダクション
 科学の終焉と脳科学の未来
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● 永山國昭先生(生理学研究所) 講演


 立花先生からのくだけた紹介から、永山先生によるシンポジウムのイントロダクションが始まりました。テーマは「科学の終焉と脳科学の未来」。「科学の終焉」という一言にギョッと驚いてしまう人がほとんどかもしれません。
 しかしその大胆な考えは永山先生の独自のこれまでの科学の発展に対する解釈に裏付けされたものだったのです。

講演する永山國昭先生
 初めに、科学の終焉とはどういうことなのか、それについてのお話が始まりました。
 科学の発展の大きな流れとして、まず始めに物理科学を考えます。この物理科学というのは時間構造と空間構造を記述する、理解するためにこれまで長い時間をかけて人類は研究を重ねてきました。まとめれば、今生きているこの世界の仕組みを理解するために研究を重ねてきたわけです。有名な人物として、アインシュタインがあげられます。
 その物理科学なのですが、ひも理論、超ひも理論(String Theory , Super String Theory)という理論が出されてから、停滞期に入り、特に超ひも理論に関してはここ20年で10000本近い論文が出ているにも拘らず、未だに物証もなく実現可能な予測もない、という状態になっているのです。

 「こういう状態になってくると『Not Even Wrong 』それはもはや間違ってすらいない、という風に結論づけるしかない。こういう状態は物理科学の終焉と言っても過言ではない」

 永山先生は言い切ります。つまり物理によるこの世界の記述が終わった、というのです。


 永山先生の話は生物科学についてと続いていきます。
 生命科学の大きな目的は「生物の情報を客観的に記述すること」です。具体的に言えば、生命の情報が記述されているDNAをすべて解読することにあるのです。現在、生命科学は爆発的なスピードで発展しており、DNAの情報を読み取る技術は10年で1000倍のスピードで読めるようになっているのです。これは20年経って1000倍で発展している半導体技術とくらべると如何に早いかがわかるかと思います。このペースでDNAを読むスピードが上がれば、永山先生の予想では早くて2030年にはすべての生物のDNAが読み尽くされるということが予測されるそうです。すなわち、この時点で「DNAにある情報の読み取りを目的とする」生命科学は終焉したのだ、と言えるのではないか、と永山先生は主張します。


 つぎに、「生命の非還元構造」というものについてのお話が続きます。
 生命の非還元構造とはどういうことかというと、Michael Polanyiによって提唱された二重制御理論という理論によって提唱された、生命の構造に関する理論のことです。その中で、生命のメカニズムは「人間のつくる機械と同じで、物理法則と情報によって制御されていて、それらは互いに独立している」と定義されています。
 かなり分かりにくい言い回しですが、かなり噛み砕いて言えば「アミノ酸などの単純な構造をしたものが、いろんな生体内における法則にしたがって、お互いにネットワークを形成することで複雑な機能を持つ」ということなのです。

 機能をもつ仕組みはわかったわけですが、それらを決定する情報というものは一体どこからやってくるのでしょうか?永山先生はここで話を大転換します。
 確かに、生体内にはルール決める様々な情報が存在するのですが、それらの起源はどこにあるのでしょうか?

 ここで永山先生は「アイゲンの進化方程式」を紹介します。これはあの有名なダーウィン進化を数理化したもので、そのなかで以下のように答えが与えられています。

 「自己触媒を含む化学反応ネットワークの中から情報の根源である遺伝コードが生まれた。」

 すなわち、情報起源は自己複製系の確立の中にあるというのです。
 上の定義に従えば、たしかに自己複製系というものは化学反応ネットワークであるので、納得できます。


 では、自己複製系、いいかえれば生命が生まれる確率というのはどのくらいのものなのでしょう?
 計算したところ100000000000000000000(10の20乗)回宇宙が生成を繰り返して、やっと一回発生するほどの偶然なのです。
 どれだけ生命というものが偶然の産物であるのか、わかります。


 そして話は脳科学の未来について言及していきます。
 まずダーウィン系、という言葉について解説です。先生によるとダーウィン系Tとは「遺伝子を情報キャリアーとした生物系」、ダーウィン系Uは「文化子を情報キャリアーとした人間社会」だそうです。

 そして世界を永山先生也に三段階にわけた「三階層」という見方を展開します。
三階層とは

  

 ここでダーウィン的進化が脳について起こるというのはどういうことなのでしょうか?

 Jean-Pierre Changeuxは
 「分化は幾重にも入れ子状になっている脳内の組織階層で生起する複数のダーウィン的進化の所産」
 と答えています。
 すなわち、遺伝子レベルでの研究の発展、つぎに神経ネットワークの研究発展、そして社会脳の研究へと脳科学の発展はつながっていくわけです。

 今日の講演では
遺伝子/細胞レベルの研究最前線として、富永先生、瀬藤先生、岡野先生が
ネットワークの研究最前線として鍋倉先生、伊佐先生、北澤先生、泰羅先生が、
そして社会脳の研究最前線として川人先生が講演されます。

 ぜひ、脳科学のこれからの未来を示す最前線研究を、楽しんでお聞きください。



 以上が、永山先生による大胆、かつ理論に裏打ちされた壮大なイントロダクションでした。



記事執筆:東京大学立花隆ゼミ 酒井寛

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