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	<title>KENBUNDEN  -東京大学 立花隆ゼミ-　見たい、聞きたい、伝えたい。東大生の好奇心！ &#187; 使い捨て文学</title>
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		<title>リレー小説『茂雄』</title>
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		<pubDate>Tue, 02 Nov 2010 08:33:58 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/11/02/%e3%83%aa%e3%83%ac%e3%83%bc%e5%b0%8f%e8%aa%ac%e3%80%8e%e8%8c%82%e9%9b%84%e3%80%8f/"><img align="left" hspace="5" width="150" height="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/wp-content/plugins/thumbnail-for-excerpts/tfe_no_thumb.png" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>キミの目、一体何がうつっているんだろうね？――]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">これは、ロラン・バルトの挙げた恋愛小説の要素「</span><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">不在」、「苦悩」、「待つ」、「破局」、「共謀」、「接触」、「不測のできごと」、「告白」、「脱現実」、「ドラマ」、「抱擁」、「あやまち」、「知りがたい」、「嫉妬」、「憔悴」、「手紙」、「雲」、「夜」、「泣く」、「なぜ」、「出会い」、「ひとり」、「追憶」、「自殺」、「あるがままに」、「やさしさ」、「真実」を全て外して書かれた実験小説である。</span></span></span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">茂雄が寮を出ようとした日は、朝から雨が降り続いていた。わずかに冷たい空気とアスファルトを打つ雨音が、外出を億劫にさせる。</span></span></span></p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">茂雄は寮の玄関の前に佇んでいた。愛用している蛍光色のカバンを背負い、透明のビニール傘を持って、今にも寮の玄関を出ようとしている。しかし、茂雄はそこから一歩も動かない。</span></span></span></p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" lang="ja-JP" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;">（まったく、なんて天気だ。こんな気が塞ぐ日に出て行くなんて）</span></span></p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">四日間というもの雨は降ったりやんだりしてどうにもすっきりしない天気が続いた。今は霧雨が降っている。茂雄は日射しが強く降り注いでいるときと同じ顰め面をして、風に舞う塵のような雨粒を睨みつけた。ジーンズのポケットから煙草を取り出し口にくわえると、茂雄はそれに火をつけた。煙をくゆらして、雨に染みた景色をじっと眺めた。</span></span></span></p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">茂雄は目を閉じてこの寮にやってきた日のことを思い返した。その日は快晴だった。薄青色の空が遠くどこまでも続いていた。日射しが優しく、広い玄関の脇に植えられた植物も地面のアスファルトもその日射しを優しく照り返す。そして、寮の建物は日の光を浴びて煌々と輝いている。茂雄はそこで見た景色のどこからも希望の気配を感じ取った。きらきらした輝きを今後の大学生活の暗示だと捉えた。もちろん、彼の心にあった新生活への憧憬はある程度、そこにあった日常の景色を希望の色に染めただろう。茂雄もそのことには気がついている。だがそれでも、その日見た寮を中心とする風景から、大学生活というものに期待せずにはいられなかった。</span></span></span></p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">それが二ヶ月経って、梅雨のこの時期に見る同じ景色はどうだろう。</span></span></span></p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">日の光が届かず世界全体が薄暗い。細かい雨で視界は濁る。濡れそぼった植物はみすぼらしく、哀れな印象を与える。アスファルトも黒く濡れ、なんだか汚らしい。茂雄は深いため息をついて、</span></span></span></p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" lang="ja-JP" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;">「まあ、こんなもんか」とつぶやいた。</span></span></p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">煙草の煙を大きく吸い込み、ゆっくりと吐いた。視界に入った景色に満遍なく煙を吐きかけてやった。少し気分がよくなった。茂雄は玄関から煙草を投げ捨てた。煙草はまだ尖端を赤く光らせたまま宙を飛び、アスファルトの上に落ちた。火は一瞬で消えた。</span></span></span></p>
<p style="line-height: 0.6cm; widows: 2; orphans: 2; margin-bottom: 0cm;" align="left"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">茂雄は鬱屈とした天気をあきらめ、傘を差して寮の玄関を降りた。少し離れて寮全体を振り返って見た。雨に濡れた木造の寮からは乏しさしか感じ取ることができなかった。</span></span></span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="color: #1f1f1f;"><span style="font-size: small;"><span lang="ja-JP">茂雄は顔を正面に戻し、駅に向かった。</span></span></span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　寮から大学までは、電車で十五分ほど要する。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　寮の最寄駅から私鉄に乗り、途中駅で通学用支線に乗り換える。わざわざ寮に入ってまでこの大学に通うことを決めた理由の一つが、その交通の便の良さだった。その大学のためだけにわざわざ支線が用意されている。入試前の下見に来た時、茂雄は心から感心を覚えたものだった。そして今や電車及び乗り継ぎの時間も、この二カ月で完全に頭に入ってしまっていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">電車が来ないことに疑問を感じ始めたところで、駅員のアナウンスが耳に入ってくる。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「お客様に申し上げます。雨による混雑の影響により、この電車少々遅れて運転しております。お客様にはお急ぎのところ、大変・・・」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　周りから、あるいは舌打ちのような音が聞こえてくる。そんな音たちが、車窓への雨粒の衝突が発する音と合わせ、車内の空気をより陰鬱なものにする。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　授業に遅れることは確実だった。しかしありきたりすぎるほどの日常に、少しばかりの変化を与えてくれたこのアクシデントに、茂雄は心の中で少し嬉しさを覚えていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「裏京大学前、終点です。どなたさまも、お忘れ物の無いよう、お降りください・・・」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　いつもより十分ほど遅れて大学に到着した。授業はもう既に始まってしまっている。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">駅に入ってすぐに目に入るのは、光を反射して輝き続ける水面である。大学の裏に存在する巨大な人口湖。校舎によってその大部分は隠れながらも、駅に降りた人間の目は自然とこちらに向く。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄がこの大学に通うことに決めたもう一つの理由は、その湖の美しさであった。もっともそれは晴れた日のこと。雨の日の空を映し出し黒くなった湖が、一層目に映る世界を暗いものにしている。寮を出ようとしたころに比べ、さらに大きさを増して振り続ける雨の中、茂雄は大教室に向かった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　ドアを開ける瞬間、耳に入ってくる教官の声は何かの「呪文」のように感じる。そしてその呪文は席に着き黒板の内容を認識した瞬間、意味ある言葉に変わる。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　４月にはその全てが生徒により埋められていた大教室の椅子も、６月になるともはや空席の方が多くなっているのが現状。茂雄はドアを開けてすぐに目に入った、近くの空席に鞄を置いた。試験のために内容を頭に入れるわけでも、興味深い内容のみ選び出して聞くわけでもない。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">（まあ、シケプリあるし……）</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　頬杖をついて黒板を見始めた茂雄には、教官の声は再び「意味ある言葉」から「呪文」へと化していた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　突然隣に人の気配を感じた。すぐ右隣に何かが入ってきている。茂雄が右を向いたとき、ちょうどそれは通路側の椅子に荷物を置いている最中であった。その後ろ姿から、その人物が女性であることはすぐに脳が理解する。さらにその人物が、語学で同じクラスの立花朔夜であることを認識するのにさらに数秒。彼女は一瞬だけ微笑を向け、茂雄のすぐ右側の椅子に腰を下ろす。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　何故これほど空席があるにも関わらず、わざわざ自分のすぐ隣の席に座ったのか。同じ状況に立たされた人間の九九％が抱くだろう疑問が、茂雄の心にも生まれてくる。しかし授業中に私語を放つというリスクを冒してまでそれを口にする気は起きなかった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そしてその御蔭で、右から残りの授業中ずっと向けられ続けていた視線に、茂雄は気付くことは出来なかった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　授業を終え、教官はさっさと教室を出ていく。それに続くように生徒たちも次々に立ちあがり、教室の前後にあるドアに群がっていく。授業という空間の拘束から、一刻も早く解放されたいという願いが彼らの原動力なのか。空席が目立っていたとはいえ大教室。ドアの前のそれなりの数の生徒の群は、外に出ようとする者の歩みを遅くする。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は混雑を好かなかった。時間稼ぎの意味で、腕の動きをわざと遅くしていた。視線を向けることはしなくても、いやでも視界に入ってくる隣の状況。既にそこには何もなく、隣に座っていたクラスメイトは立ち上がっていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そして突然顔をこちらに向けてきた。そこにあったのは、茂雄の全てを見通すかのように茂雄を見つめ続ける大きな瞳。そしてその口から紡がれた言葉。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「キミの目、一体何がうつっているんだろうね？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄が反応を返そうした時、彼女の姿はすでに群れの中に消えていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　この家の畳はまだ新しく、青々としたにおいこそ数ヶ月の生活のうちにかき消されているものの、表面は相変わらずすべすべとして、茂雄は布団から這い出てなおここで、ごろごろとうつ伏せになるのが好きだった。ただその度に、半年だけ暮らしたあの寮の、毛羽立った畳表が一瞬自嘲的に思い出されるのだ。敷きっぱなしの布団に、朔夜はいつも嫌な目線を送るが、自分からたたんでくれたりはしない。でもたまに、さりげなくシーツと枕カバーが取り替わっている。彼女のそういうところが良いと、茂雄は思う。そういうところ。具体的に何が好きとかどこが好きとか言えない限り、自分はこの家に居座り続けるんだろう。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「私いまからバイトだけど」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　さっき大学から帰ってきたと思ったら、朔夜はもう靴を履いている。黒のパンプスは踵がすりきれているが、別に誰に見せるわけでもないしと言って買い替えようとしない。妙な倹約家だなとからかうと睨まれる。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「なんの」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「今日は塾」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「何時になる」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　バイトにゼミにサークルにと忙しない朔夜に、茂雄は毎日同じ場所から、彼女をちょっと見上げる格好で、同じ質問を繰り返す。返ってくる答えもいつも同じだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「わかんない。ご飯食べてていいよ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「作っとこうか」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「またレシピ増えたの」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「まあね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　夕飯の買出しは、外出するきっかけになる。何でもない家庭料理で育ったけれど、手先の器用さと要領の良さ、これにレシピサイトの情報が加わって、かろうじて茂雄は自分の生活の意味を認めることができていた。彼女の帰宅を見計らって、夜遅くにレンジを回し鍋をあたためる。そしてありきたりな文句を言われるのだ、こんな時間にこんなに食べたらまた太るんだけどなあ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「茂雄くん、料理で単位もらえる授業あったらいいのにね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜は苦笑して扉を開ける。鍵、かけといて。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　ぱたんと音がしてから、茂雄はのろのろと立ち上がった。寮では鍵さえほとんど開け放しにしていたのに、最近はチェーンにも自然と手が伸びる。この家に懐き始めたころ、しょっちゅう怒られたのが効いている。東京は物騒なんだから。学校から自転車で十分とかからないこのマンションは、オートロック完備であるし、管理人も一階に住んでいる。汚くて、いつも得体の知れない奴らがたむろしていた寮よりもずっとずっと安全だろうにと、はじめこそ呆れていたけれど、今はあまりにも、この家に、朔夜の生活に、馴染んでしまっている。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　この三ヶ月で。あっというまに。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　彼女とは、中学、高校、大学と、考えてみればずっと同じ学校に通っていた。同じ組になったことも幾度かあるはずで、たぶん一緒に日直をやったことだってあるのだろうけれど、日誌私が出しとくね、ああお願い、その程度の会話の記憶は、退屈な学校生活の中にうずもれていく。義理で年賀状を送ったこともないし、名前と顔がかろうじて一致するだけで、それ以上に知っていることなどなにもなかった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　だから、大学の教室で、ふっと投げつけられた彼女の意味深な言葉は、茂雄の耳にいつまでもねっとりと残った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　次に彼女と出くわしたのは、大学裏の湖のそばだった。茂雄は古いベンチに座ってぼうっとしていた。あちこちささくれ立っていて、誰もつかいたがらないベンチだ。座るところさえ気をつければ、この時期太陽のひかりを吸収してあたたかく、居心地は良いのに。ここで髪の毛を熱されていると、三限の授業も、友達も、バイトの面接も、すべて遠くに思われて、あたまが停止する。あたたかいのか、あついのか、そんな言葉の違いもどうでも良くなって、目を閉じる。それで、彼女はふらっと現れたのだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「やあ、こんなところにいたんだね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　停止していたあたまに涼やかな声が透き通り、茂雄はゆっくりと目を開けた。前と同じように、茂雄の全てを見通すかのように茂雄を見つめ続ける大きな瞳が、そこにあった。そしてその口から紡がれた言葉。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「キミの目、一体何がうつっているんだろうね？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　しかし今度は、ふふ、という小さな笑い声とともに彼女の口から発せられたのだった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「さあ……なんだか奇妙な、腐れ縁の女の子とかじゃないかな」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は、うう、という声を漏らしながらからだを伸ばしつつも、今度は反応を返すことができた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「へえ、私のこと、ちゃんと覚えてくれてたんだね。てっきり、もう覚えてないもんだと思ってた」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　微笑みながらそう言うと、朔夜は少しだけベンチのささくれを気にしながら茂雄のとなりに腰かけた。朔夜の纏う香りが、ふわりと、茂雄の気分を良くさせた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「まあ正直なところ、思い出らしい思い出なんて、何もないけどね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「それもそうかもしれないね。でも、私は茂雄くんのこと、いつも見てたよ。それでなんとなく、いつも茂雄くんの視線の先が気になってたんだ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄の目をじっと見つめて話す朔夜であったが、茂雄の感想は、へえ、ふーん、そうなんだ、という程度のものであった。茂雄は物事をあまり深く考えない男だった。そんなことよりも、その日は面倒がって朝も昼も食事を抜いていたために、腹が減っていることの方が問題であった。そしてそのことを思い出してしまい、茂雄の胃が鳴った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「あれ？　お腹空いてるの？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　微笑んだままで朔夜が言った。いや、茂雄には微笑んでいるように見えただけで、実際には微笑んでいるのとは少し違っていた。茂雄はそれに気がつくことができなかったのだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ああ、食事の用意をするのが面倒だったからね……ついでに言うと、財布を寮に忘れてきた」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ちゃんと食べないとだめだよ。ていうか、茂雄くん、寮だったんだね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「そうだよ。電車でそんなにかからないけど、わざわざ帰ってまた来るのも面倒でね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は、べつに普段から面倒くさがりというわけではない。ただ、新しく始まった大学生活にも慣れと惰性が生まれ始め、まあ一日くらいいいか、という思いが茂雄を汚染していたのだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「それじゃあ、私の家ここの近くだから、今から来ない？　なにか作ってあげるよ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　その朔夜の発言に茂雄は少なからず驚いたが、まあそれもいいか、というような気持ちで</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「じゃあ、お言葉に甘えようかな」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　などと答えてしまった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　それからというもの、茂雄はたびたび朔夜の家に足を運んだ。朔夜は料理が特別うまいわけではなかったが、ひねくれた食生活を数ヶ月続けてきた茂雄にとっては、ありがたいものであった。少しずつ試験期間が近づいてくる頃でも、一緒に勉強しようなどという名目で茂雄は朔夜の家に通い続けた。わざわざ電車に乗って寮に帰るよりも、歩いて朔夜の家に行った方が楽だったのだ。朔夜の家から大学に向かうこともあった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　いつの間にか雨の季節は彼方へと過ぎ去り、夏が来ようとしていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　試験の季節である。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　試験開始から数十秒たってから、やっと茂雄は仕方なく問題に目を通し始めた。友人から奪取した、いわゆる「試験対策資料」あるし、と高を括ってはいたものの、その手のものはプリントアウトするだけで勉強したような気分になれる不思議なアイテムであるということを一年生の茂雄は身をもって理解することとなった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　それに「試験勉強」という言葉は茂雄にとって、朔夜の家に入り浸るための口実でしかなかった。朔夜も「もう勉強おわり？」なんて嫌味をちくちく言ってくるタイプでは無く、かといって一緒になって無為な時間を過ごすわけでも無く、猫のように転がっている茂雄を見ながら自分の勉強に取り組んでいた。そういうときの朔夜の表情には何か柔らかいものがあって、そのおかげで茂雄は安心してこの試験にほぼ無勉で臨むことができたのである。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　試験開始から数十分が経過した。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　前の席の答案を盗み見たところ、どうやら黒い字でびっしり埋まっているようだ、ということを茂雄は把握した。これまでの茂雄ならここで「やれやれ」の一つも言いたくなったことだろう。しかし茂雄は別のことを考えていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;">――<span style="font-size: small;">「試験どうしようもなくて、もうだめだー！　ってなったときにさあ、考えてたんだ、この話をしたら何て言われるかな、って」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　妄想の中で茂雄は朔夜の家にいた。「試験とか死んだし」という学生におきまりのネタを嬉々として披露している自分を試験中に想像する自分（笑）、というわかりにくいネタを朔夜に言ってみたいと茂雄は思った。朔夜はもしかしたら、</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;">――<span style="font-size: small;">「全く、茂雄くんってば」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">と、あの微笑むような表情で言うかもしれない……そうした可笑しな妄想を膨らませて茂雄は時間をやりすごした。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　周りから見れば、このときの茂雄はイヤな生徒</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;">A</span></span><span style="font-size: small;">といったところだろうか。周りの席の人は一生懸命答案を書いているというのに、茂雄ときたら腕を組んで虚空を見据えながら、時折笑みを浮かべ、あまりにも泰然としていたからである。しかしそんなことまで茂雄が慮るはずがない。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　結局試験のことはあまり話題に上ることは無かった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「試験どうだった？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「まあまあかな」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　というたわいのない、似たような会話を何回かしたような気もするが、茂雄にとってそれはあまり重要では無かった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　大事なのは、試験が終わってもいわば成り行きといったかたちで、茂雄が朔夜の家に通い続けたということである。朔夜の家に行く（あるいは「帰る」）のに特に理由が要らなくなったのがこの頃だった。そして寮に帰る（あるいは「戻る」）のが面倒臭くなってきたのもこの頃だった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　夏休み中も朔夜の家にだらだらと居着くつもりだった茂雄は、帰省という一大イベントを忘れていた。しかし朔夜が二週間ほど家を空けると聞いたとき茂雄は自分なりに「いいこと」を思いついた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「じゃあ留守番しとくよ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そう言うと朔夜は少し困ったような顔をしたけれど、意外なことに、東京がいかに物騒であるかということ、ドアの鍵はちゃんとチェーンロックもしておくこと、などを説明し始めた。断られると思っていた茂雄はなんだかいけそうだと察知してそれらの説明をまじめに聞いた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「じゃあ、よろしくね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　ことはあっさりと運んだ。地元が一緒なんだから一緒に帰省すればいいのに、と思わないでもないが、とりあえず茂雄は満足していた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　いくら腐れ縁とはいえ、留守番させてほしいなどというとち狂った申し出が簡単に通るとは、全く朔夜は防犯意識が高いのやら低いのやら、とつまらないことを考えながら茂雄は部屋を見回した。きちんと整えられているのに、息苦しくない空間。それに比べれば寮の自分の部屋なんてもうどうでもいいと、その時の茂雄に聞けばそう言ったかもしれない。それほど茂雄は浮かれていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　二週間のお留守番を果たしたことで、朔夜からある程度の信用を得ることができて茂雄はまさにしてやったりといった心持ちだった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　こうして夏休みを乗り越え、次は秋休みである。大学生の休みは長い。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　折角の長期休みだというのに、茂雄はほとんど外出もせず、朔夜の家に入り浸って過ごしていた。歯ブラシや着替えなど、生活用品を少しづつ持ち込んで、いまや寮に帰らずとも十分に過ごせるようになっていた。うずたかく部屋の一角を占領していく茂雄の私物に、朔夜は当然嫌な顔をした。が、既に食事のほとんどを茂雄に任せてしまっている引け目もあったのだろう。たまに片づけを命じられるぐらいで許してもらっていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　いつも何やかやで予定を詰め込んで、毎日どこか飛び回っている彼女にも、久しぶりに休みが入ったらしい。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「茂雄くん、明後日って予定開いてる？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　出来立ての炒飯を上品に頬張りながら、唐突に朔夜は質問した。敷きっぱなしの布団で昼過ぎまでごろ寝し、寝転んだままパソコンを開き、思いついたように買い出しに出る。茂雄の秋休みが毎日そんな風だということを、朔夜はよく知っているはずで、であるから当然、明後日といわず三日後だろうと四日後だろうと、茂雄の予定は空いているはずであろうことだって、彼女にはわかっているはずだった。茂雄はごろりと寝返りをうった。開いてるだろうと分かっていても一応聞いてみるその態度が朔夜らしいなと思った。が、相手の予想通りの答えを返すのは少し悔しい。本当に予定が無いか考えてみた。しかし案の定、どう考えても明後日に特別な用事はない。暇としか言いようがない。明後日だけでなく、その次だって暇だ。ついでに言うと、その次の次も。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「開いてる、けど」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「じゃあさ、一緒にどこか行こうよ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「一緒に？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　一緒。一緒に、か。当然のように家に居ついておきながら、そういえば一度も朔夜と出かけたことが無かったなと、茂雄は今更のように気づいた。さらさらと、スプーンと皿が触れ合う音が聞こえる。首だけ動かして見上げてみると、朔夜は炒飯をかき集めだしていた。茂雄は思い出したかのようにたずねた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「二人で？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「二人で」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　こくりとうなずいて、朔夜は大儀そうに炒飯を飲み込んだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「二人で。どこか」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「どこかって、行きたい場所でも？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　外出できればそれでよかったらしい。スプーンを置いて、彼女はむうと唸りだした。足をぷらぷらさせて、寝っ転がっている茂雄を見る。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「散歩がしたいな。景色の綺麗なところに行きたい」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「いい景色、ね……大学の湖とか？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜は笑い出した。いくらなんでも色気がなさ過ぎたのだろうか。茂雄は妙に恥ずかしくなって起き上がった。ひったくるように皿を片付け、自分の分の麦茶を入れる。朔夜は湖かあーと感慨深げに繰り返していた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　次の日の夕。買出しから戻った茂雄は、マンションの玄関前で立ち止まった。スーパーの白い袋を左手に、鍵を探して右手をポケットに突っ込む。心地よい風がひゅうと吹いた。今晩はシチューでも作ってみようか。朔夜の帰りはいつぐらいになるだろう。あと、そうだ、明日は久しぶりに早起きして、お弁当を作ろう。指先で鍵を見つけて引っ張り出すと、レシートも一緒についてきた。器用にレシートだけもとに戻して、オートロックに手を伸ばす。と、そのとき。誰かの気配を感じて、茂雄は振り返った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男が街灯の下に立っている。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　その表情も服装も、悪夢から這い出たように暗い。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　足元にぼんやりと影を落として、茂雄をじっとりと見つめている。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　目が合った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男は動かない。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　妙に冷たい風が吹いて、袋がガサガサ鳴った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男は動かない。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　先に目をそらしたのは茂雄だった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　意識から男の視線を振り払い、オートロックを解除して、扉の中の暖かな、こもった空気へ踏み込んだ。袋を右手に持ち替えて、エレベーターへと早足で向かう。乗り込む瞬間、来た道をちらりと横目で振り返ると、透明なガラス越しに、男がまだ、そこにいるのが見えた。そして茂雄は、朔夜のやけに戸締りにうるさい態度と、妙にあっさりと帰省中の留守番を承諾してくれたことを思い出したのだった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄がマンションの中に入っていった後、男はしばらくエレベーターを見つめていた。そしてエレベーターのランプが四階を指したまま止まったことを確認した後、男はマンションを見上げ、おもむろに携帯を取り出した。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「・・・もしもし」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男は喉の奥から絞り出すような、しかし妙に深く響く声で言った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ついに捜し出した。ああ、もう少し様子を探るつもりだ。またかけ直す」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男は相手の返事を待たぬような速さで電話を切り、他人の目にはほとんど気付かれないような笑みを浮かべて、暗い街に去っていった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　翌朝、茂雄は時計のアラームより先に目を覚ました。アラームが鳴る前に不意に手にした時間は、ひしめく建物の間に発見した細長い青空に似ていると茂雄は思った。鏡がまだ何も映していない時間帯。一日が雑然とした日常に染まる前のほんのわずかな時間帯。茂雄はそれを再発見したような気がした。茂雄もかつては持っていた、しかしだいぶ前に失ってしまったもののようにも思えた。いや、と茂雄は思い直す。この爽やかな朝の空気は何の暗喩でもない、決して。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　二人分の弁当を作り終え、日差しがいつも通りの朝を演じることに慣れてきた頃、二人は大学へと向かった。もっとも、茂雄にとってはいつも通りの朝とは言い難い。弁当以外の全てを持って大学へ行くことはあっても、その逆なんてそうよくあることではない。それに、幼なじみの女の子と二人で弁当を持って出かけるなんて発想は今までなかった。通り忘れていた青春少し前の甘酸っぱさをこの年になって今更経験するみたいで、茂雄はちょっと笑った。ピクニックという響きに包まれた子供っぽさは、こんな青空の下でなら純粋さという立派な名前を与えられて今日だけは信じてもいいような気がした。ともかく、茂雄は久しぶりに自分の心が躍っているのを感じていたのだった。それは昨日の不審な男の存在を完全に記憶の彼方に追いやってしまうほどに。そんな茂雄が朔夜の目にどう映っていたかなど、茂雄には知る由もなかった。しかし朔夜は朔夜で、いつもよりも晴れやかな笑顔、軽やかな足取りで歩いているように見えた。子供時代の夏に置いてきたひまわりをもう一度見るようだと茂雄は思った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　二人は大学の正門を通り抜け、講義棟に背を向けて湖に向かって歩いた。構内には人がほとんどいなかったので、まるで知らない場所に来たようだった。学期中の昼休みの騒々しさが嘘のようだ。この静かで穏やかな空気のほうが、大学本来の姿に近いような気がした。茂雄と朔夜の会話はいつも通り他愛なかったが、それはこの空気を壊すどころか淡く心地良い色彩を加えているように感じられた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　湖は優しく太陽を映していた。水がとてつもなく綺麗だと言えば嘘になるが、ピクニックの風景としてこれ以上のものはなかなか見出せないに違いない。どちらが言い出したのでもなく、茂雄と朔夜は湖のほとりの古いベンチに座った。数ヶ月前二人が偶然出くわしたあのベンチである。とは言っても、そのことを感慨深げに思い出すような二人ではなかった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜は湖の向こうを見ていた。ぼんやり、というよりは真剣に。しかし何かを見つめているわけでもなく。遠くを見る朔夜の瞳は美しかった。二人で並んでいるときに朔夜が茂雄に向ける瞳より、こちらのほうが綺麗な光を宿して見えた。そしてそう感じた自分はまだまだ朔夜の恋人にはなれないな、と茂雄は心の中で苦笑した。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ねえ、」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　こんなタイミングで不意に朔夜が何か言いかけたので、茂雄は思わずどきりとした。だが朔夜が発した言葉は茂雄の考えからはほど遠いものだった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「こんなふうに湖を見てると、何か罪悪感を覚えるわ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は何のことを言っているのか分からず一瞬聞き直そうとした。が、朔夜の口調にいつもはない響きを感じ取って茂雄は口を閉じ、次の言葉を待った。しかし朔夜はそれっきり何も言わない。茂雄が昨夜の男のことを思い出したのはこの時だった。もちろん何の関係もないことだろう。居心地の悪い妙な空気が、茂雄の脳裏で男の不気味な影と勝手に結びついただけだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「湖か、なんかそんな戯曲あったな。そのせいじゃない？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　重くなりかけた雰囲気を振り払うように茂雄は言った。ひどく曖昧で何の慰めにもならない言葉だな、と自分でも反省しつつ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「なあにそれ。あ、わかった、あれでしょ、『かもめ』。」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そう返して朔夜が笑いかける。その笑顔は本心からのものではなかったのだろうが、続ける自信のない話題の方向性を変えるきっかけを与えてくれたことへの感謝の表れとも受け取れた。それと同時に、ちゃんと聞くべき話を聞くタイミングを自ら取りこぼしてしまったような申し訳なさを茂雄は感じていた。不審な男のことも言いそびれたまま、雰囲気は明るさを取り戻し、会話はまた他愛のない方向に進んでいった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　弁当を食べたり、湖のほとりを散歩したりしているうちに、日差しがだんだん影を帯びてきた。食べて話して、普段家にいるときと変わらなくても、それぞれの密度が何となく濃いような気がした。普段はただ同じ場所にいるだけだが、こうして湖の前にいるとお互いが時間と空間をちゃんと共有しているような気がした。そんな気がするだけでも十分なんじゃないかと茂雄は思った。朔夜のことが前よりも分かるようになった、というわけでもないのだが。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「そろそろ帰ろうか」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　伸びをしつつ朔夜が言った。ちょうどそんな頃合いだろうと思っていた茂雄は同意した。風が少し肌寒かった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「今日の夕飯は私が作るわ。さっきのお弁当のお礼。食材買って帰るから、先に帰ってて」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そう言って朔夜は茂雄と反対の方向に歩いて行った。買い出しくらい一緒に行くよ、と茂雄は言おうとしたが、何となくタイミングを逃してしまった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は一足早くマンションに戻り、エレベーターに乗った。何も考えなくても指が自然に四のボタンを押すほどに、朔夜との生活は日常の中心になってきている。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　四階でエレベーターの扉が開く。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「あっ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は思わず声を出しそうになった。扉が開いたところにあの男がいたのだ。服装は昨夜と全く同じ、マンションの廊下の明かりの下で、暗い印象は薄れるどころかより一層際立って見えた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は全身をこわばらせた。昨日のじっとりと舐めるような男の視線を思い出す。薄暗い街灯の下ではっきりとは見えなかったが、あの目は確かに茂雄を捉えていた。そして今のこの状況。偶然とは思えなかった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　横目で男を観察しながら、茂雄は足早に歩き始めた。男は廊下の壁に寄りかかって俯いている。もしかしたら茂雄の存在に気づいていないのかもしれないが、確かめるすべはなかった。背は高く痩せこけていて、服から除く肌は驚くほど白い。それはある種病的な白さで、長い入院生活によって太陽を忘れた患者のようであった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男の横を通りすぎるとき茂雄は妙な感覚に襲われた。どこかで感じたことのある感覚。記憶の底から沸き上がってくるような既視感。だが同時にそれはひどく懐かしい感覚でもあった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　その時、携帯電話の着信音が鳴り響いた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄はびくりと体を震わせたが、すぐにこの着信音が自分のものではないことに気がついた。男は懐から携帯電話を取り出すと、電話には出ずに切ってしまった。ちっと軽く舌打ちをして男は携帯を懐に戻し、エレベーターに乗り込んでいった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　扉の閉まる音を背中越しに聞いて、茂雄はやっと緊張を解いた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　エレベーターに乗り込んだ男はいらついていた。タイミングが悪すぎる。扉が開くと同時に走りだし、電話をかけた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ふざけるな。ちょうどあいつが通りかかったところだったんだ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男は怒りをあらわにした。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「いや、すまない。言っても仕方が無いことだな。もともと様子をみるという話だったんだ。あいつがたまたま通りかかったのだから仕方がない」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男は大きく息を吸った。そして仕切り直すように落ち着いて話しだした。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「どうやら俺のことを見てもわからないようだった。だが、あいつであることは間違いないはずだ。あれから何年も経っているが見間違えるはずもない。あの目――何が映ってるのかわからないって表現はほんとぴったりだ。あのいけ好かない目は全然変わってない」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男は不敵な笑みを浮かべたまま街へと消えていった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜が帰ってくるのは遅かった。と言っても特別に遅かったわけではなく、茂雄が買い物に行くのに比べたら遅かったというだけだ。その間に茂雄はさきほどのことを思い出していた。あの男は誰なのか。朔夜が茂雄を残して帰省したり、戸締りを強調したり、いやそもそも恋人でもない茂雄を部屋に置いたりしていることと関係があるのか。だが堂々と姿を表している以上、こちらに危害を加える意図はないのかもしれない。そもそも考えすぎという可能性も大いにある。一応朔夜には話しておくが、不必要に怖がらせる必要はないだろう。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜は一時間ほどしてから部屋に戻ってきた。手には抱え切れないほどの荷物を抱えている。茂雄はいくつかを朔夜から受け取って、それぞれのあるべきところに配置していく。茂雄はすでに調味料の配置からシャンプーの替えの場所まで完全に覚えてしまっている。それだけ朔夜との生活がすっかりなじんでしまっているということだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　それから朔夜は茂雄を台所から追い出し、料理を始めた。テレビでも見ていて、という朔夜の言葉に素直に従って茂雄はテレビをつける。やがて部屋には朔夜の作る料理の匂いが広がり始めた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「今日は唐揚げ？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　からからと油の揚がる音がする。油は処理が大変だからと普段朔夜は揚げ物を作らない。だが、以前茂雄が唐揚げを好きだと伝えたら、子どもっぽいなあと笑いながら作ってくれたことがある。それ以来朔夜が揚げ物料理をするときは必ず唐揚げだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「んー。秘密」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜の歌うような微笑が台所から聞こえる。そういえば袋から買ったものを取り出すときも、朔夜は茂雄に食材の入っている袋は触らせなかった。これも朔夜なりのもてなしなのだろう。茂雄もそれ以上は聞かないことにした。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　まもなく茂雄のいる居間に、料理を持った朔夜が入ってきた。ふたり分の食事を食卓に並べると、朔夜は大げさな仕草で自分の作った料理を説明し始める。唐揚げと思っていた料理はフリッターという代物らしい。朔夜はこういうよく聞いたことのないものが好きだ。そしてそれをうれしそうに茂雄に話す。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　やがて料理も食べ終わり、二人は居間でくつろぎ始める。だが、今日はこのままくつろぎ続けるわけにもいかなかった。あの男について朔夜に話をしなければいけない。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「朔夜、ちょっと大事な話があるんだ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は真剣なまなざしで言った。朔夜はちょっと考えた後、</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「それは私に関すること？　キミに関すること？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">と尋ね返す。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「一応は僕に関することかな」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「じゃあ私もある」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は面食らってしまった。だが朔夜の目は真剣だった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ちょっと待ってて」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　と言い残し朔夜は去っていってしまった。朔夜も何か話があるらしい。それも茂雄に関して。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜はすぐに戻ってきた。その手には綺麗に包装された小包がある。その小包を茂雄に向かって差し出しながら、朔夜は屈託の無い笑みを見せた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ハッピーバースデー。誕生日おめでとう、茂雄くん」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は状況がつかめないまま、間抜けな表情で朔夜を見上げていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜からのプレゼントはネックレスだった。中にリングが通してあるだけの非常にシンプルなもので、だからこそ朔夜のセンスが光る。リングは外せば指輪にもなるらしく、私は男避けに指輪として使うと朔夜は言った。朔夜はお揃いで自分の分も買ったらしかった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「しかし、私が今まで誕生日プレゼントあげた人の中でもこんなにすごいリアクションを取った人は初めてよ。『え、今日って何日？』って。思わず吹き出しちゃった」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜はさっきから何回もその話をしている。茂雄の間が抜けた顔がよほどおかしかったらしい。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は朔夜に言われるまで誕生日のことなどすっかり忘れていた。そもそも九月ももう半ばになるということを茂雄は全く気づいていなかったのだ。毎日自堕落な生活をしているとこうも日付感覚がなくなるらしい。秋休みもいつのまにやら後半戦だった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　プレゼントは確かに嬉しかった。びっくりどっきりが基本の朔夜流もてなしは十分に功を奏していたと言えよう。だがプレゼントを貰うということへのくすぐったさと、朔夜とおそろいであることの気恥かしさに加えて、朔夜がやたらとからかってくるので茂雄は居心地が悪い。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄はもうふて寝を決め込もうと考え、部屋の隅で横になった。朔夜は冗談だよ、ごめんごめんと言いながらふて寝する茂雄のそばに近づく。だが、おおいと呼びかけてみても返事がない。しばらくゆすったり叩いたりしてみたが一向に反応がない。仕方がないので、朔夜は諦めてシャワーを浴びに立ち上がった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜がシャワーを浴びる音が聞こえてくると、茂雄は眼を閉じたまま少し笑った。正直、女の子からプレゼントらしいプレゼントをもらったのは、今回が初めてだった。だから、どう反応すればよいか茂雄には全くわからなかった。素直に喜んで「ありがとう」などと言えるほど冷静ではいられなかったが、かといって何事もなかったかのようにあっさりとした態度でいることもできなかった。どうすればいいのか迷い続けたのち、結局茂雄はふて寝してしまったのだ。自分でも、もっと良い反応の仕方があったとは思う。でも、こんな形でも、朔夜にはちゃんと感謝の気持ちは伝わっているはずだ。そう思えるほどに、茂雄は朔夜を信頼していた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　たとえ目を閉じていても、風呂場から聞こえるシャワーの音と、そこで朔夜が動いているガタガタという音を聞いているだけで、茂雄は朔夜の存在を感じられた。真っ暗な世界で、唯一聞こえてくるのは朔夜の音だけだ。もっとこのまま、こうしていたい。そんなありきたりな言葉が、茂雄の心に浮かんだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そのまま少し眠ってしまったらしい。茂雄は、携帯の着信音で目を覚ました。起き上がって周りを見たが、朔夜はまだシャワーを浴びているようだった。着信音からして、電話が来たのは朔夜の携帯だった。朔夜のバッグの中を覗いてみると、その中で朔夜の白い携帯が、緑色の光を発しながら震えていた。その携帯を見つめながら、茂雄は自分の意識が徐々にはっきりしてくるのを感じた。それと同時に、忘れてはならない出来事を思い出した。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　携帯の着信音。あの男は一体誰なんだろう。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　しばらくすると着信も切れてしまった。茂雄はバッグから離れ、ベランダに向かった。今ではこのベランダは、茂雄の喫煙所になりつつある。朔夜は、部屋の中で煙草を吸われることを嫌う。茂雄も、朔夜の気持ちを無視してまで部屋で煙草を吸おうとは思わない。だから自然と、このベランダが茂雄の喫煙所になっていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　煙草を吸いながら、茂雄は男について考えていた。彼は俺に会いに来たのか。それとも朔夜に会いに来たのか。でももし仮に俺に会いに来たというなら、何も話しかけず去ってしまったのはどうしてなんだろう。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そもそも、このマンションはオートロックである。鍵を持った人か、マンションの住民に鍵を開けてもらった人しか、玄関から中に入ってくることはできない。ではあの男は、どうやってそこの廊下までたどり着いたのか……。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そんな疑問の中で、一番気にかかったのが、男の横を通り過ぎたときに感じた妙な懐かしさだった。彼はどこかで会ったことのある人物なのか。それとも俺が一方的に知ってるだけの相手なのか。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　とにかく、今度会ったときはきちんと顔を見てみよう。これまでの雰囲気からして、彼は突然襲い掛かってきたりはしないだろう。きっと大丈夫だ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そんなことを思っていると、朔夜がシャワーから出てきていた。ちょうど煙草も吸い終わった茂雄は、部屋の中に戻っていった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男は街を歩いていた。すれ違う人々はみな、彼が纏っている空気に並々ならぬものを感じ取っている。半ば本能的に、男と関わってはいけないと身体が理解し、彼とぶつからないよう大きく蛇行して道を歩いていく。そのため彼は、多少の人ごみでも真っ直ぐ歩いていくことができる。周りの人からそんな風な目で見られていることに気づいたのは、まだ彼が中学生の頃だった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　男は、あてもなく歩いているわけではない。彼にも、行くべき場所があるのだ。そこには「みんな」がいるはずだ。この計画をともに進めている、「みんな」が。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　だがその前に、いくつか確認しておかなければならないことがある。男は街の中にある小さな公園のベンチに座り、携帯を取り出した。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「このマンションにさ、朔夜の昔からの知り合いとかって住んでる？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄がそう聞くと、朔夜はあからさまに不審そうな表情をした。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「なに、突然。……別にいないけど」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　もしあの男が茂雄の知り合いだとしたら、中・高と学校が一緒だった朔夜の知り合いでもある可能性があるのではないか。そう考えた末の質問だった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「そっか。なんかさ、最近よく見かける人がいるんだけど、その人が俺の知り合いかもしれなくて……」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄がそう言うと、朔夜は一瞬狼狽した表情を見せた。思いがけない場所で、思いがけない人物と出会ったときに人が見せる表情。だがそれもすぐに消え、朔夜の顔にはいつもの明るい笑みが戻っていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「気のせいでしょ。そんなの。あっ、それより、なんでネックレスつけてないの？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜はそういうと、食卓の上に置いてあったネックレスを茂雄にかけ、満足そうにそれを見つめた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ずっとつけてて。外しちゃダメ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そんな朔夜の言葉に、茂雄はただ照れるように笑うだけだった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そのとき、再び朔夜の携帯が鳴った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「あ、そういえば、さっきも鳴ってたよ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄がそう言うと、朔夜はゆっくりとバッグの方へ歩いていった。携帯を取り出すと、朔夜は茂雄の方を見て「ちょっとごめん」と言った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　何に謝られたのか分からないまま茂雄が頷くと、朔夜はベランダに出ていってしまった。先ほどまで茂雄が煙草を吸っていたその場所で、朔夜は電話に出た。そこでの会話は、中にいる茂雄には全く聞こえなかった。茂雄は、朔夜の存在が少し遠くなってしまったように感じた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　どれくらい経っただろうか。茂雄はまた少し眠ってしまったらしい。携帯を閉じ、朔夜は戻ってきた。ベランダからさらさらと流れ込んだ秋の夜風と虫の声で茂雄は目を覚ました。朔夜の表情は、先程までと変わらないように思えた。いや、わずかに違っていたのかもしれないが、茂雄はそれに気付くほど朔夜を注視することはなかった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「誰だったの」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　自然と口が動いた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜はまたも狼狽の表情を見せたが、それを隠すようにベランダの方を向いてしまった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「えっ、んー。バイトの先輩。シフト変わって欲しいんだって」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ふーん」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「うん」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　当たり障りのない返答を、茂雄は少し残念に思った。不自然な間が微かにあったかもしれないが、自堕落な生活に慣れきっていた茂雄の思考回路は、一度眠りに落ちたことで、それ以上の穿鑿活動を断固拒否した。意識が遠のく中で、ベランダの窓ガラスに映る朔夜の表情を、茂雄は見た。見覚えのあるあの微笑みが浮かんでいたのだが、驚くほど別人のように感じられた。そしてどこか、懐かしさを覚えた。あの男に似た懐かしさ。ただ茂雄が寝ぼけていただけかも知れないが。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「私いまからバイトだけど」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　</span><span style="font-size: small;">夕方のいつもの時間になって、朔夜は出かける準備を始めていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「なんの」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「今日も塾」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　</span><span style="font-size: small;">と返答しながら、塾で働くにふさわしい地味さ加減のパンプスをすでに履いている。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「何時になる」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は毎日同じ場所から、彼女をちょっと見上げる格好で、同じ質問を繰り返す。返ってくる答えもいつも同じだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「わかんない。ご飯食べてていいよ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「作っとこうか」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ご飯はうれしいんだけど、そろそろ部屋を片付けて欲しいんだな」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　</span><span style="font-size: small;">茂雄の荷物が、部屋の一角にコロニーを形成しつつあった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「わたしの洗濯物はそのままでいいから。帰ったら自分でやる」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜が出勤してしまうと、茂雄はネットサーフィンしていたマッキントッシュを閉じた。部屋の隅では、わずかばかりの教科書とプリントが層をなし、その上にたたんだ洗濯物が重なって、今にも雪崩が発生しそうだった。やれやれ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　ため息をつきながらも、茂雄はすぐさま片付けに取りかかった。もともと家事と呼ばれる作業は嫌いではない。皿洗いにしても、アイロンがけにしても、雑然としたものがみるみる白くきれいになってゆく様を見るのは、昔から好きだった。淡々と整理し、棚に並べ、タンスへ収納する。しかし、その単純作業をしていた手がふいに止まった。今まで見たことのない、古いアルバムのようなものが出てきたのだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜が帰省した折りに持ち帰ったのだろうか。中を見るには、若干の躊躇があった。もう長いこと周囲から見れば同棲のようなことをしているが、人の部屋のものを勝手に物色するようで、気が引けたからだ。だがその躊躇もつかの間、次の瞬間にはボール紙の表紙をめくっていた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　そこには、小学校一・二年生くらいの女の子と男の子が、見知らぬ校庭で遊んでいる写真が貼付けてあった。綺麗なえくぼの少女は鉄棒につかまりながら一輪車にまたがろうとし、少年は鉄棒に寄りかかって少女の方を向いているが、どこか虚空を見つめている。茂雄はどのどちらの子にも見覚えがあった。女の子はまぎれもなく朔夜で、男の子は他でもない茂雄本人だ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は立ちくらみがするのを感じてた。自分の記憶には、なにか大きなものが欠落している気がする。手が次々とアルバムのページをめくり出す。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　今の今まで忘れていたが、自分は確かに、小学校に入る前から朔夜と頻繁に遊んでいた。なのに、どうして小学校高学年に上がるころにはすっかり疎遠になってしまったのか。同じ中学・高校に通学していたときは、用事さえなければ、ほとんど口も聞かなくなってしまっていた。別々の小学校へ通っていても低学年のうちはいつも一緒だったのに。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　写真は懐かしい地元の風景をたくさん捉えていた。茂雄の小学校、朔夜の家の近くの公園、二人ともそんなに好きでもないのに繁く通っていた駄菓子屋。どれも、構図がいまいちだったり、傾いていたり、へたくそな写真ばかりだった。それでも、帰郷しなかった茂雄にはノスタルジアをかき立てる光景ばかりが続いている。だけど、なぜ両方とも大して好きでもない駄菓子屋へ、日々より道をしていたのだろう。どうしても思い出せない。どうしても思い出せないけれど、茂雄と朔夜をつなげる何かが、そこにいたんじゃないのか？　茂雄は、自分ら二人を撮っているへたくそなカメラマンが妙に気になった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　携帯の振動音が響いた。朔夜が持って行き忘れたやつ。初秋にもかかわらず、茂雄は背筋が冷えるのを感じた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　</span><span style="font-size: small;">電話を取るべきか。そうすれば自分の中で渦巻いている疑問を解くことが出来る。茂雄には確信があった。この電話をかけているのは懐かしい感じのしたあの男。そして彼は自分と朔夜の間にいた「彼」だったと。この電話を取って、忘れてしまっていた過去を取り戻したい。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　そんな過去への欲求が一瞬にして閉ざされる。様々な光景が一瞬にして茂雄の脳内でフラッシュバックされた。電話が鳴った時よりも凄まじい寒気が茂雄を襲った。立っているのも困難になりその場に倒れこむ茂雄。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　耳に響く子供の泣き声。女の子の声だった。泣き声に混ざって名前らしきものも叫ばれている。一つは自分の名前。そしてもう一人、一緒にいた彼の名前。視界に入るのは地面、そして自分自身の手。その他いっさいの感覚は閉ざされてしまっている。もちろん身体を動かすことも出来ない。せめて手を延ばしてあげたかったのに。声をかけてあげたかったのに。だいじょうぶ、ボクはだいじょうぶだって。大すきなさくやがないてるのはいやだったから。でもむりだった。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　茂雄の意識はその瞬間途絶えた。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">「出ないか……仕方ない」</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　男が手に持っていた電話を切る。電話先に起きていることについて、彼には大体の想像が出来ていた。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">「もしあの事を思い出すきっかけになったんだとすれば……少し急すぎるか……？」</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　電話が終わっても、彼はしばらくその場にじっと立っていた。道の真ん中で電話をかけていたにもかかわらず、それを煙たがるものも注意する者もいない。道を歩く群衆が皆彼を避けて歩いているのだ。汚いものを避けるような動作ではない。そこに立っているのは「穢れ」――この世の理に外れたものであるかのような、たとえば死体を見た時の反応のような。現に一部の人間は彼のそばを通る際、苦しそうに口元を押さえながら通っていく。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">「やれやれ……そんなに俺は気持ち悪いかねえ」</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　彼自身も分かっていた。自分がこの世界にとっての異物、もはやあってはならない存在であることに。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">「が、俺もまだ消えるわけにはいかないんだよな。あいつらがここで上手くやっていけるようになるのを、この目で見届けるまではさ！」</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　その言葉は心の中に留めず、口に出していた。彼を避けながら歩いていた周囲の人間が飛び上がりそうなほどの大声で。それは、彼の世界に対する自分の意志の表出だった。自身のたった一人の妹、そしてずっとその横にいた、妹にとっても、彼自身にとってもかけ甲斐のない存在の幸福を守るという、彼を支えていた強い意志。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　ボクはずっと彼女を見てきた。学校に行く時も何処に行く時も、ずっと隣にいてくれて、ボクの手を引っ張ってくれていた彼女を。ボクの世界には彼女しかいない、彼女こそがボクの世界。だからあの日彼女の姿を失ったボクの世界は、空っぽになってしまっていた。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　目が覚めた時、最初に茂雄が目にしたのは天井だった。そしてすぐに寝室に敷かれた布団の上に寝ていて、毛布までかけられていることに気づく。起き上がろうとして、身体の上に重いものを感じた。重くて暖かい、朔夜の身体だった。茂雄の身体を枕にして眠ってしまっていたらしい。無防備な寝顔がすぐ目の前にあるという事実に、茂雄の鼓動は嫌でも高まってしまう。何とか彼女を起こさないように彼女の身体を横にずらし、茂雄は起き上がった。よく見てみると、朔夜の目は腫れあがったかのように真っ赤になっていた。バイトから帰ってきて、倒れこんでいる茂雄を見てどんな様子だったのか。いつものようにマイペースな調子で眠っている茂雄に布団を運んだんだろうか。それとも混乱の中全力を振り絞って茂雄を布団まで運んでくれたのだろうか。回想の中にいた女の子なら、多分後者なんだと思う。</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;"><span lang="fr-FR"><br /></span></span></span><span style="font-size: small;">　茂雄は思い出していた。幼いころ朔夜、そしてその兄である勢地郎（いちろう）と共にいた日々のことを。そして彼らと別れるきっかけとなった事件のことも。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は窓を見遣った。二十日を過ぎて下弦になった月の光が、喫煙所を明るく照らし出していた。やれやれ、と茂雄は思った。ぜんたい、なぜ忘れていたか、なんて考えても仕方がないのだ。それは大事な思い出であったようにしか茂雄には思えなかったが、実際のところはどうでもよかったのだろう。だから今の今まで忘れていたのだ。どうせ今思い出したところで何も変わらないし、変えることもないだろう。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄は朔夜の頭を撫でた。髪の毛越しに仄かな温かさが伝わってくる。その柔らかさはまるで、この空の月に墨を流し込んでパンケーキの如く焼き上げたかのようで。明日は学校に行ってシラバスを貰いに行かなくては。いや、朔夜が貰ってきてくれたかもしれない。確認しなくては、そう思いつつ、茂雄は眠りについた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　黒服の男は街灯の下で静かに佇んでいた。いつもは闇に溶け込んでいるその漆黒の外套は、青白く不謹慎な光に曝されて、その存在感を何時になく際立たせている。深く被った山高帽のひさしの陰になって、その顔はうかがい知ることはできない。頭のてっぺんから足のつま先まで全身を黒に染め上げた男の姿は、まるで誰かが影法師をそのまま置き忘れて、日が暮れてからひょっこり立ち上がったかのようだった。そしてそこには、その男自身の影はなかった。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　影法師から声が漏れ始めた。うめくような、静かな、しかし不快感を与えるような嗄れ声である。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　耳障りで目障りで肌触りで舌触りな影法師は言った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「朔夜……。これで良かったんだな。誰も変わらず、誰も変えず……。奴をこのままにしておくこと、俺は得心したわけではない」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　虚空を睨む影法師は、いや虚空を睨んでいるかもわからないのだが、途端に砕けた口調になる。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「だが、他ならぬお前の頼みだ。お兄ちゃんは引いとこう。俺は、いや俺たちは帰るぞ。元のあるべき場所に……」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　ヒラリ、と音が付きそうなほどに身を翻した男は、頭だけをグルリと反対向きに曲げた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「茂雄。一つだけ言ってやる。言い放ってやるぞ。耳かっぽじってその狭苦しい耳と心の穴をよっく広げとけ。いいか……」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　すう、どころか、ずどどどどどどどどどうと音がしそうなほどに身体を膨らませると男は絶叫した。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「俺の大事な朔夜ちゃんの心を奪いやがって許せん朔夜ちゃんは小さい頃から俺だけのものだったはずなのにどうしてこうなった何故だ？　服が黒すぎるのか？　いやいやそんな事はないはずだあいつが幼稚園に入った歳に帰ってきた朔夜ちゃんはこういったんだ『私お兄ちゃんと――』」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　その後、都合一〇分ほど、そばの塀で丸まっていたブチ猫がその声に目覚め、恐れをなして逃げていってしまうぐらいに、誰も突っ込んでくれないのを良い事に言いたいことを言い尽くすと、男の身体はパッと、消えてしまったのだった。まるで、登る朝日の光線の中に溶けていってしまったかのように。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　後には白く丸く照らされた道が、翌朝の学生の登校を待っていた。もうすぐ、新学期が始まるのだ。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　</span><span style="font-family: Times New Roman, serif;"><span style="font-size: small;">5</span></span><span style="font-size: small;">年後。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"> </p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「おめでとうございます！」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ありがとう。ここまで来るとは思ってもいなかったけど、人生ってわからないね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　花束を持って部屋に入って来た大学のサークルの後輩達に向かって、朔夜は笑顔を見せた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「え、でも就職したときにはもう秒読みって感じじゃありませんでした？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「そうそう、すっごく仲良くて、一緒に住んでて、息もぴったりで」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「一緒に住んでたとは言っても成り行き任せだったし、彼がまた適当な人だからねえ。正直なところ、まだ実感がわかないぐらいなんだから」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「またまたー。そんな事言いながらおめでたなんですよね？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「え、そうなんですか？　実感無いだなんて、すっかり夫婦じゃないですか」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　他人の事なのにわいわいとはしゃぎ出した二人を見て苦笑しながら、朔夜はお腹に手を添えた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ふふふ。どんな子が生まれるのかしら」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「朔夜さんに似た女の子ならいいですね。茂雄さんに似たら……」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「こら、そんなこと言わないの。全くデリカシーないんだから……」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ふふ、でも彼には似ないと思うな」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「え？　どうしてですか」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「だってこの子、彼の子じゃないから」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「……は？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「言わなかったっけ？　彼とはまだしたことがないの。これは精子バンクから取り寄せた人の子」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ど、どどどどうしてそんなことを？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「だって『接触』は禁忌ワードじゃない」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「禁忌和……？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「なんでもない、こっちの話」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　朔夜が慌てて取り繕うのを訝し気に聞いていると、茂雄の声が扉の向こうから聞こえた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「朔夜ー。ネクタイ結べないんだけど、どうすればいいんだ？　助けて」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「ネクタイ？　いつも会社行く時に結んでるじゃない。どうして今日に限って結べないの」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「いやあ、いつもと違うネクタイだからか、どうしても長さが異常に長くなっちゃって……」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「全く……、あの頃から変わらないね君は」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「あの頃って？　大学一年生のあの授業の日かい？」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　ドアを開けて茂雄が部屋に入ってくる。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「違うよ、もっと前。……そうか、大学で最初に再開したのはあの授業の時だったね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「そういえば、あの時何か言われたよな……なんだっけ？　確か目がどうこうって」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄の声を朔夜は遮った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「大したことじゃないよ。昔、君の瞳の不可思議さを指摘した人がいてね。それを再確認しただけだから」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「まあいいや。結ぶの手伝ってよ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　茂雄がネクタイをぐいと差し出すのを見て、朔夜達は思わず顔を見合わせて笑った。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「はいはい」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「茂雄さんホントに社会人ですか？　何かまだ学生みたい」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「甘えんぼさんですね」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「あー。そうだねえ、僕はまだ子どもなのかもねえ」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　適当な返答を繰り返す茂雄に呆れつつ外を見やると、上から声が降ってくるような気がした。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「茂雄マジで俺の朔夜ちゃんを掠め取りやがってこのやろう」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">「誰だったのよ、あんた」</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　誰にともなく言い放つと、朔夜はカーテンを閉めた。</span></p>
<p style="margin-bottom: 0cm;"><span style="font-size: small;">　　　　　　　　　　　　　　　　　</span><span style="font-size: small;">―完―</span></p>
]]></content:encoded>
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		<title>リレー小説『茂雄』　前書き</title>
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		<pubDate>Tue, 02 Nov 2010 08:29:36 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/11/02/%e3%83%aa%e3%83%ac%e3%83%bc%e5%b0%8f%e8%aa%ac%e3%80%8e%e8%8c%82%e9%9b%84%e3%80%8f%e5%89%8d%e6%9b%b8%e3%81%8d/"><img align="left" hspace="5" width="150" height="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/wp-content/plugins/thumbnail-for-excerpts/tfe_no_thumb.png" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>夏休みの間、文学企画では水面下、ひとつの企画が動いていた。
余興企画、「文学企画内リレー小説」。
]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<p style="margin-bottom: 0cm;" lang="ja-JP"><span style="font-family: ＭＳ ゴシック;">夏休みの間、文学企画では水面下、ひとつの企画が動いていた。<br />余興企画、「文学企画内リレー小説」。<br />その名の通り、一本小説を書き上げて、どっかの小説賞に応募しよう。<br /><br />しかしただ闇雲に書くのも面白くないから、なにか縛りを入れようということで出てきたのがロラン・バルトである。<br />彼の著書『恋愛小説のディスクール』には、恋愛小説の要素（？）なるものが列挙されていて、じゃあそれらをすべて「排除」した恋愛小説は書けないものか。<br />とりあえず挙げられている要素を全部並べ、重複してる、あるいはこれはいらんだろうと（独断で）見なされるものは削り、三十個弱の要素に絞った。<br />中には「接触」「告白」「真実」など、これ無くしてどう恋愛するのだ、小説するのだ、というワードも多く含まれていたのだが、それなりに事前に登場人物の像を設定することで対応した。<br /><br />そして丁度、夏休みの終わりが締め切りの文学賞をターゲットに、一ヶ月かけて原稿を回しあった。<br />（メーリスを使ってバトンを渡していくのだが、私としては、モスクワ行きの機内で書いて遠くポーランドから送信したのが思い出深い。）<br />結果、ゼミ生の個性（殊に、日頃親しんでいる本のジャンル）と妄想がいかんなく発揮され、内輪向けにも（そして願わくば外向けにも）面白い物語が立ち上がったと思う。<br />文体はころころマイナーチェンジするし、展開や収束は無理矢理だけれども、通して読んでみると辻褄があっていなくもない。<br />こうしてこの企画のテーマ「乱創される文学」にあえて加担しつつ、再び企画は元の方向どおり、取材を計画しています。<br />（リレー小説第二弾も動きだしていますが……。）<br /><br />※リレー順<br />１中尾仁→２後藤亮→３廣安ゆきみ→４寺岡慶佑→５片岡祥子→６鳥居萌→７細川瑠璃→８福岡成雄→９坪井真ノ介→１０福井康介→１１廣瀬暁春→１２後藤亮（再）→１３岡田空馬 <br /><br /></span></p>
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		<series:name><![CDATA[乱創、使い捨て文学]]></series:name>
	</item>
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		<title>６．取材◆太田克史さん（編集者）</title>
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		<pubDate>Thu, 25 Mar 2010 12:53:17 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/25/%ef%bc%96%ef%bc%8e%e5%8f%96%e6%9d%90%e2%97%86%e5%a4%aa%e7%94%b0%e5%85%8b%e5%8f%b2%e3%81%95%e3%82%93%ef%bc%88%e7%b7%a8%e9%9b%86%e8%80%85%ef%bc%89/"><img align="left" hspace="5" width="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/2010_0308dcamera0032.JPG" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>いわゆる「ノベルス」・「ライトノベル」を世に送り出し、ヒットさせ続けている編集者・太田克史さん（文芸誌『ファウスト』編集長、講談社BOX編集長としても有名）にインタビュー。質問するのは不しつけだが、やっぱり気になる、「世の中に本が増えすぎているのではないか」という疑問に、余すところなく答えていただきました。]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" lang="ja-JP"><strong><span style="font-family: ＭＳ ゴシック, monospace;"><span style="font-size: small;">太田克史さん</span></span><span style="font-family: ＭＳ ゴシック, monospace;"><span style="font-size: small;">×</span></span><span style="font-family: ＭＳ ゴシック, monospace;"><span style="font-size: small;">立花ゼミ文学企画</span></span></strong></p>
<p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" lang="ja-JP"><span style="font-family: ＭＳ ゴシック, monospace;"><span style="font-size: small;">2009.12.10</span></span></p>
<p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" lang="ja-JP"><span style="font-family: ＭＳ ゴシック, monospace;"><span style="font-size: small;">＠講談社</span></span><span style="font-family: ＭＳ ゴシック, monospace;"><span style="font-size: small;">BOX</span></span><span style="font-family: ＭＳ ゴシック, monospace;"><span style="font-size: small;">編集部</span></span></p>
<p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" lang="ja-JP"><span style="font-family: ＭＳ ゴシック;">参加ゼミ生：岡田空馬、廣瀬暁春、廣安ゆきみ</span></p>
<p>『ファウスト』編集長として有名な太田克史さんに取材をさせていただいた。<br />いわゆる「ノベルス」・「ライトノベル」を世に送り出し、ヒットさせ続けている編集者太田さん。質問するのは不しつけだが、やっぱり気になる、「世の中に本が増えすぎているのではないか」という疑問に、余すところなく答えていただきました。</p>
<p><a name="mokuji">【目次】</a><br />１．<a href="#1">「流れ」を作れる編集者</a><br />２．<a href="#2">作家を鳴らすのが編集者</a><br />３．<a href="#3">ラノベのアプローチを使った文学作品</a><br />４．<a href="#4">教科書には、載るよね</a><br />５．<a href="#5">編集者は、強いんです。</a></p>
<p> </p>
<p><a name="1">(1)「流れ」を作れる編集者</a><br />廣瀬<br />：早速ですが、出版点数が膨大になってきていることについてどう感じていますか？<br />太田さん（以下、敬称略）<br />：日本の出版界には「取次」という制度、会社があって、そこが問屋＆商社的な役割を果たしていて、お金的の流れ的にはそこが出版業界の心臓なんですよ。そして、これはぜひ廣瀬さんにも勉強してほしいんだけど、「委託制度」の性質上、出版社はとにかく本を出しさえすれば、時期をおいて、取次からある程度のお金が入ってくるわけです。で、そうやってお金が入ってくれば、また本が出せる。その中の何冊かに一冊が当たればまた次の本が出せる……、っていう感じの自転車操業が出版点数の増大を招いているという指摘が世間にはあって、それは僕もおおむね正しいんじゃないかと思っています、個人的には。これが、まず一点。出版社の経営上の問題からくる原因ですね。<br />で、ある時期までは読者のみなさんもそういった出版社の自転車操業に喜んでついてきてくれていたわけなんだけど、最近はそうでもなくなってきている。以前はサイクリングみたいに楽しい自転車操業だったんだけど（だって、たくさんの本がこの世に生まれてくるのは基本的には楽しいことじゃない？）、今はただただ苦しいばかりの自転車操業になってきているというきらいがあるんだと思いますよ。何しろ、この十数年で日本の出版物の刊行点数はおよそ倍になっているそうですからね。読者もさすがについていけなくなってきているんじゃあないかな。<br />そして、もう一点の原因は、本作りの環境の進化によって、本を作るための実作業がすごく楽になってきたことが挙げられると思う。『ファウスト』を作るにあたって僕も積極的に取り入れてきたわけだけど、DTP（※１）みたいな新しい技術が浸透してきて、「本を作る」ってことは以前はハードルがめちゃめちゃ高かったのに、今は必ずしもそうではなくなってきている。（これも本来は別に悪いことではないよね？）<br />昔だと、例えば活版時代の出版界では、植字工さんがいて、棚にばーっと並んだ活字を一個一個拾って版を作っていたわけですよ。岩波書店さんが版元で、精興舎さんという印刷会社の活字で本を出すというのが学術系では最高の名誉とされていたりした時代ね。それが写植時代になって、今はDTP時代になった。印刷までの全行程は、もうぜんぶパソコン上でできちゃうんだ。</p>
<p>（※１）Desktop　Publishingの略。書籍、新聞などの編集に際して、そのレイアウトをパソコンで行い、データだけを印刷所にもちこんで印刷すること。たとえばフォントを細かく指定したりだとか、編集者や作家が自分の思うとおりのデザインの本を作ることができる。</p>
<p>廣瀬<br />：確かに、執筆もワープロで楽になったし、本を出すことのハードルはすごく下がったと思います。やはりハードルが下がったことによって高品質ではない本も増えましたか。<br />太田<br />：二極化したね。楽になって手を抜いた本と、楽になったぶん、手をかけた本と。いい編集者だと思われるためのスキルも変わったしね。僕が書籍の編集部に入った十何年か前までは「誤植が少ない本を作れる」っていうのが、いい編集者とされる価値基準のかなり上位の位置にあったんですよ。でも今は、きちんとした校閲ときちんとした仕事をしさえすれば、編集者の誰もが同じようにかなりミスのない本を作れるようになったと思う。<br />廣瀬<br />：では、今はどういうことがいい編集者の基準になっているのですか？<br />太田<br />：それは、人それぞれじゃない？　僕の場合は、「流れ」を作れる人がいい編集者だなぁ、と思っているけどね。例えば、かつてミステリ界には「新本格ミステリ・ムーブメント」っていう「流れ」があったんですよ、80年代の後半からね。その「流れ」を起こしたとされている編集者の宇山日出臣さんのように、「流れ」を作れる編集者がいい編集者だなと僕は感じています。けど、それは優れた編集者だからできるというものではないかもしれないし……。うーん、難しいね。複数の作家が実際に同じ方向を向いているか、あるいは、同じ方向を向いているかのように思わせないといけないわけだし、時代の要請も必要だろうからね。<br />廣瀬<br />：その、流れを作っていくというのは、太田さんで言えば、『ファウスト』創刊ですか？<br />太田<br />：そうかもしれないけど、それは他の人が決めることだからね。起こそうと思って起こせるものでもないだろうし。<br />廣瀬<br />：ちなみに、太田さんの場合は起こそうと思ったのですか？<br />太田<br />：うん、起こそうというか、起きるべきだと思ったよ。あの頃の僕は活動家だったからね（笑）。それに何より、読者が「流れ」を待っていた。そして、僕にはそれが分かっていた。『ファウスト』の成立のきっかけについては既にいろんなところで話しているけど、講談社がそろそろ創業100周年になるからということで、それを記念した「新雑誌企画賞」というコンテストを社内で開いたんです。そのコンテストで僕の『ファウスト』の企画が最優秀賞をいただいたので、僕が講談社の役員会と交渉して、どんなに一冊目の数字的な結果が悪くても、二冊目だけは必ず出させてもらう約束をして『ファウスト』を始めたの。その二冊でたまった原稿に、書き下ろしてもらった原稿を加えれば一冊の本として世に出せて、トータルで黒字に持ち込んで三冊目を出させてもらうこともできるだろう……という大人の計算もあったりしてね。そうそう、その二冊包括契約の締結は京極夏彦さんにも褒められた。京極さんには僕、今までの全生涯で二回くらいしか褒められたことがないんだけど、そのうちの一回はそれだった！（笑）<br />廣瀬<br />：なるほど！　『ファウスト』はなぜ、この方向性なのかも教えていただけますか？<br />太田<br />：『ファウスト』の企画書で僕が書いた方針は三つあって、一つは「イラストーリー」。ライトノベルの文法で作られた文学・文芸を振興させようっていうこと。<br />それから、「一人編集」。さっき話したような時代の移り変わりもあって、雑誌の編集は、もうかなりの部分が一人でできる時代になっていた。それに、一人でやれば、人件費がかからないしね（笑）。そうだ、『ファウスト』成立の前段としては笙野頼子さんと大塚英志さんの論争が『群像』であったことを忘れちゃいけない。「不良債権としての『文学』」という大塚さんの文章、ウェブでググったらきっと出てきます（※２）。非常に面白いので読んでみるといいですよ。<br />僕はその大塚さんの文章に現実の側から反論するために、黒字の文芸雑誌を誰かが、というか僕が作らなきゃだめなんだ、と決意したわけ。文学も経済的に自立できるんだ、ってことを証明しなければならないんだと。で、そういう器を作るにはどうしたらいいんだろうって僕が考えた答えが、「一人編集」だった。コスト削減と、できるだけクイックな編集者的意志決定をするためにね。<br />で、その一人で編集をやるための、三つ目の柱が「本物のDTP」。ちょうど2001年あたりからDTPの世界では技術面での大きなブレイクスルーがあったんだけど、まだまだ出版社が積極的に使っていこうっていう感じにはなっていなかったんだよね。でもその頃、僕が担当させていただいていた京極夏彦さんがそういった最新のDTP技術の導入に対してすごく熱心だったから、僕は凸版印刷の紺野慎一さんの助けを借りて必死でDTPを勉強して、その勉強を通じて、「このDTP技術を使ったら単なるコストダウンだけじゃなくって、小説の一編一編でフォントを自由に変えたりもできるし、今よりももっと面白い、スリリングな文芸誌が作れるんじゃないだろうか？」と感じて、『ファウスト』の企画書を書いたんだ。</p>
<p>（※２）ぐぐってみました。<a href="http://www.bungaku.net/furima/fremafryou.htm">http://www.bungaku.net/furima/fremafryou.htm</a><br />　　　　是非通読してみてください。</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="2">(2)作家を鳴らすのが編集者</a><br />廣瀬<br />：例えば『ファウスト』で太田さんが世に送り出していく作家さんの作品について、「ここはゆずれない」「こういうのを送り出したい」というのはありますか？<br />太田<br />：端的に言うと自分にとって面白いもの。自分を叩きのめしてくれるような作品を書いてくれるとうれしいよね。<br />廣瀬<br />：ではその「ゆずれないもの」と売り上げが対立してしまうとき、折り合いはどうつけていますか？<br />太田<br />：作家さんは、いいものを書くことに専念してくれればいいと思う。小説は面白いから売れるわけじゃないしね。言ってしまえば、モテる人間はモテるからこそモテるように、売れる小説は売れるからこそ売れるんです（笑）。だから売れる売れないということについては、作家さんには責任はないですよ。そういう意味では、折り合いなんてない。もちろん僕の側から狙って「売れるもの」を書いてもらおうって場合もゼロではないけど、作家さんにはとにかく面白いものを書いてもらうのが基本です。そして、一冊の本が黒字になるところまで何とかして持っていくのが編集者と版元の仕事だと思います。<br />岡田<br />：太田さんがいいと思ったらなんとしても売る、というスタンス？<br />太田<br />：作家には面白いものを書いてもらう、編集者は売る、それは等価交換でしょう。<br />例えば、作家は音楽の再生装置で言うとCDプレイヤーみたいなもので、本当のところはヘッドホンぐらいしか動かす力はないわけ。電子媒体ならいざしらず、紙を媒体にするならばどんな大作家だって、一人で本を作って行商を始めてみたところできっとたいして売れやしない。出版社を通すから、10万部、100万部と大きくなっていくわけじゃないですか。だから、アンプとかスピーカーの役割は、編集者とか、出版社とか、取次とか、印刷会社とか、書店員さんたちが果たしているんだよね。ただ、そういったアンプやスピーカーが良い鳴りをするためには、Cプレイヤーが発進する最初の信号がすごくいい「1」じゃなきゃだめなんですよ。そして、その、「0」から「1」を作るってことは、この世で作家さんにしかできないすばらしいことで、本当にすごいことなんだ。で、その「1」を「10000」だとか、「100000」、「1000000」にしていくのが僕たちの仕事です。作家さんにはその「1」が、届くべき読者にしっかり届く「1」になるための完璧な「1」を作ってもらう。責任はきっちり分かれていると思うよ。<br />廣瀬<br />：責任をきっちりと分ける、ですか。<br />太田<br />：ただね、やっぱり作家も編集者も人間だから、上手くいったのはぜんぶ自分のおかげだと思っちゃうこともある。作家さんが、売れているのは自分の作品が面白いおかげだと思っちゃったりとか、編集者が、自分では一行も書いていないくせに文学賞を取った気になっちゃったりとかね。得てしてそんな感じで、お互いに滑稽な勘違いが始まっちゃう。そういうのは、美しくない。<br />僕が『ファウスト』で一人編集をやったのは、ひとつには『ファウスト』が売れなかったときに責任を取ろうと思ったからなのね。舞城王太郎さん、佐藤友哉さん、西尾維新さんに被害を及ぼさないようにしたかった。編集長の太田克史がだめだったから『ファウスト』が売れなかった、ってするためには、僕が自分の名前を出して前に出ていくしかなかったんです。だから目立とうというのではなかったね。ファウストがだめだったときに、まず自分に矢が飛んでくるようにしないと、みんなを冒険に引っ張りだせないじゃない？　旗を振っている人間から真っ先に死んでいかないと、フェアじゃない。<br />廣瀬<br />：かっこいいですね。<br />廣安<br />：太田さんが作家に求める面白い本というのは、一読して面白ければいいのか、何回も繰り返し読んでもらいたいのか、どういうものですか？<br />太田<br />：うーん、これはかつて松田優作の言っていたことのちょっとしたパクリなんだけど、いい本は、やっぱり書店で他の本から5センチ浮き上がって見えるんだ。だから僕が本を作るときには、5センチだけ、書店という日常から浮いた本を作ろうとして頑張っている。まあ、僕の場合は、5センチじゃなくって、得てして5メートル浮いちゃうんだけどさ！（笑）5センチだとかっこいいんだけど、5メートルだとだめだよね～。「手、届かないよ！」っていう。<br />廣安<br />：舞城王太郎とか西尾維新が好きだけど、「一読してさよなら～でいい」というゼミ生がいるんですけれど、そういう読者はどう思いますか？<br />太田<br />：全然いいんじゃない？　太田的に読者にこう読んでほしいっていうのはあるけれど、押し付けるものじゃないしね。そりゃ100回読んでくれる人がいたらうれしいけど、1回しか読まない人も、その人がたまたまそういう読み方なんだっていうだけでしょ。買われていった以上、もう著者や編集者の手を離れて読者のものになったんだから、そこで僕らがどうこう言いたくはないじゃない？　もちろん、もっと気合い入れて、魂込めて読めよ、とちらっと思わなくはないけど、それを押しつけはしない。ラーメン屋のオヤジが「胡椒入れんなよ！」って客に注文するのは少し変でしょ？　もちろんそういう心はあるよ、胡椒入れるにしても少し食べてみてからにしてほしいとか。けど、それは言わないお約束。<br />廣安<br />：普遍的な、残る作品を世に出したいというのはありますか？今は旬だけど、そのうち旬が過ぎて、消えていってしまうのは寂しくないのかな、と思うのですが。<br />太田<br />：残り方にも色々あるけどね。例えば、二葉亭四迷は言文一致運動の旗手だったからこそ残っている割合が多いよね。あの太宰治にも時事的な面で残っている割合は歴然としてありますよ。「太宰治の『人間失格』には第二次世界大戦後の喪失感があって……」みたいな読み方ね。だからたとえば奈須きのこさんの『空の境界』が仮に30年後、40年後、読まれているとしたら「21世紀初頭、日本のアニメ・ゲーム・マンガ文化が隆盛を極めていた時代の代表的な小説で…」って感じになる、かもしれないね。<br />しかしね、時代を越えて残るのはいつだって旬なものですよ。普遍的だから残るんじゃない。逆説的だけど。残って、結果として普遍的になっていくのであって、ね。だからただ僕は「こういうのが残っていったら面白いな」って思って、日々仕事をして過ごしているだけですよ。まぁどうせ100年後なんて誰も生きていないんだし、想像は自由でしょう。胸を張ってやっていくしかない。</p>
<p><img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/2010_0308dcamera0032.JPG" border="0" alt="" /></p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="3">(3)ラノベのアプローチを使った文学作品</a><br />廣瀬<br />：作家が増えて、一冊あたり、一人あたりの存在感が薄くなってきていると思うんです。そんな状況の中で太田さんの担当する作家さんは悩まれたりはしませんか？<br />太田<br />：うん、薄くなってきているね。当然、作家さんも悩んでいると思いますよ。けど、それはある程度は仕方ないよ。インターネットの出現によって誰でもクリエイターになれる時代になっちゃったからね。参入障壁が異常に低くなったから、当然のように価値が下がっちゃうっていうことなんですよ。今はまだ、紙になるっていうことである程度の権威はあるけれどね。<br />で、同時に、インターネットの出現によって、僕たち編集者も「クリエイター叙任権」を失った。今は僕らが認めなくても誰でもクリエイターになれちゃう。編集者にとって、「クリエイター叙任権」を失うというのは大きな権益、権力のロストだったんですよ。けど、逆にそのインターネットの出現によって、僕たちは以前よりずっとスムーズに世界中の才能を扱えるようになったじゃないですか。西尾さんの『化物語』のイラストは台湾人のVOFANさんというイラストレーターに描いてもらっているんだけど、昔なら海を飛び越えたそんな仕事、そうそうできないもん。電子メールもないし、色校正ひとつ送るのだって何日もかかるわけだから、本なんかまともに作れない。一つの変化には必ずプラスとマイナスがあるよね。だから、日々刻々と変化する状況に対して作家も編集者も真剣に悩んで、それぞれがそれぞれの未来へ向けて手を打っていかないといけないんじゃないかな。<br />廣安<br />：もう私は書けません、という人はいないんですか？<br />太田<br />：うーん、いるんじゃないかな～。そういう場合は、編集者としても読者としても僕は本当につらいよね。そうだ、佐藤友哉さんにもそういう時期があったんだ！　彼の『クリスマス・テロル』っていう作品なんだけど、事前情報なしで読んでみてよ。そうすれば当時の僕の気持ちがわかるから。はい、この話はおしまい。<br />廣瀬<br />：はい。では、「ライトノベル」と「純文学」の対立について、太田さんはどう思っていますか？<br />太田<br />：対立するようなものでもないような気がするね。僕はライトノベルって、アニメ・ゲーム・マンガの文脈で本を売る「売り方」、つまりパッケージだと思っているから、イラストが表紙を飾っていたら太宰治でもライトノベルだと思うよ。だから、アニメ・ゲーム・マンガに由来するイラストがあったほうが売れる、読者の想像力をより楽しませることができると判断して市場に出された小説は、僕にとってはすべてがライトノベル。<br />岡田<br />：じゃあ、ライトノベルでも、純文学の装幀にしたら純文学ですか？<br />太田<br />：純文学になれると思いますよ。「純文学」だって、ひとつの売り方、パッケージでしょう。市場原理主義的に、シンプルに突き詰めて考えるならね。これは僕が『ファウスト』創刊の2003年当時からずっと思っていることなんだけど、一冊の本の中に絵画的な想像力を全く登場させない、活字だけの平面芸術がこれだけ一般的な存在になったのってせいぜいここ一世紀くらいの歴史にしかすぎないんだよね。異常な時代だったって後から言われるかもしれないんだよ？<br />話を戻すと、「純文学」と「ライトノベル」、それはどっちが上とか下とかという話ではなくて、単なる文学に対するスタンスの違いなわけじゃん。音楽の世界で、ジャズが高級でロックが低級とか、あるいはその逆があるというわけではないじゃない？　ただ良い音楽と、だめな音楽があるように、ただ良い小説と、だめな小説があるだけ。けど、今という時代はどちらかというと、純文学的な想像力ではなくて、ライトノベル的な想像力が世の中に必要とされているな、という思いが僕にはあったんだよね。それで、最高のイラストを小説の世界に取り入れて、作家さんと一緒になって真剣に文学をやろうと思った。まあ、だからこそ僕は純文学の世界からもライトノベルの世界からも石もて追われる編集者になってしまうわけなんですが。だけど、それはむしろ誇りだよね。講談社BOXだって、ライトノベルの代表的な体裁である文庫で出せば、もっと売れたかもしれない。けど、そういうのはやらない。あるいはハードカバーにして、純文学の代表的な体裁で出せば、もっと偉そうにできたのかもしれない、けど、それはしない。<br />廣瀬<br />：これは、ライトノベルの売り方だけど、内容は文学ですか。<br />太田<br />：ライトノベルのアプローチを使った、これは歴然たる文学活動です、っていうことですよ。<br />廣安<br />：文字だけだからできることもあると思いますが、それはしないのですか？<br />太田<br />：文字だけだからこそ小説ができることがあるように、イラストという表現を取り入れるからこそできることに小説が挑戦してみてもいいじゃないですか。そんなに偏狭なものではないですよ、文学というものは。そんなこと言ったら、ダンテの『神曲』だって聖書だって中世のものにはイラストがたっぷりあるよ？<br />廣瀬<br />：ライトノベルは、とにかくどんどん出てどんどん消費され、ブックオフに流れていくではないですか。太田さんの目指しているところはそうではないんですか？<br />太田<br />：ないないない。ライトノベルは経済的にも自立しているしそれはそれでいいんだけど、やっぱりぼくは講談社の文芸図書第三出版部の血脈を引いている編集者で、歴然とした文芸編集者なわけじゃない。だから、ライトノベルの世界にはちょっと寂しいなと思うところはもちろんあるんだよ。それなりの敬意はあるけど、手放しで礼賛はできない。僕があの世界を寂しいなと思うところは、まず、ライトノベルの世界では作家の名前が歴史に蓄積しないというところ。だからいつまで経っても批評が育たないんですよ。どんなに売れていても、ただ作品のタイトルが商業的な記録として残るだけでね。例えば、ライトノベルの世界ではある人気作品のタイトル名が言えたとしても、「それは誰が書いてるの？」って聞かれたときに、たいていの人はスパッと作家の名前は答えられないじゃない？<br />けど、そういう売り方をするほうが、売れるわけ。ただ、それじゃあ切ないじゃん。傑作を書く人がいて、その人が次に書く人に影響を与えて、またその人が次の人に……っていう美しいバトンリレーが文学の世界にはあるべきなんですよ。けど、ライトノベルの世界には、少なくとも目に見える形ではそれがないわけ。見せないほうが売れるんだから仕方ないんだけど。<br />だけど、それは悲しいことじゃない？　例えば僕が好きなミステリーの世界にはちゃんとそういったバトンリレーの系譜があるんですよ。江戸川乱歩がいて、高木彬光がいて、横溝正史がいて、みたいな。ちょっと異端で孤高な作家として夢野久作がいて、その流れが竹本健治にきて、打って変わってメインストリームには島田荘司、綾辻行人、京極夏彦がいて。だから西尾維新を読んだら、この人が尊敬している綾辻行人を読んでみようとか、同時代・同世代作家の佐藤友哉を読んでみようとか、そういうのが、文学の面白さなわけじゃん。そういった流れについての批評的視点もちゃんとあるべきだし。しかし、ライトノベルの世界にはそういう歴史の蓄積がほとんどない。良くも悪くも“たった今”売れている作品がすべてなわけ。ただ、キャラだけがあってね。まああの世界はそこがすごいといえばすごいんだけど、僕はそれとは違う売り方をしていますよ。作家さんの名前をすごく大事にしている気持ちはいつもある。<br />岡田<br />：ぼくらは完全に『ファウスト』の体裁に騙されていたので、意外でした。<br />太田<br />：え、なんで？　僕はそもそもそういった文学的な系譜を感じるのが一読者として好きだから、そこはすごく大事にしていますよ。大事にしているから、作家の名前も残っていってほしいと思うしね。</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="4">(4)教科書には、載るよね</a><br />廣瀬<br />：そうですね。例えば、佐藤友哉や西尾維新さんが、何十年後かにも読み続けられているような作家になると思いますか？<br />太田<br />：なってくれたらいいなと思いますよ。そして、なってくれるんじゃないかと思いますよ、奈須きのこさんや竜騎士07さんも。そうそう、いつか彼らと一緒に教科書に載るのが僕の最近の目標だからね（笑）。<br />廣瀬<br />：国語の教科書にですか？<br />太田<br />：国語じゃないね。歴史の教科書だね。普通の高校生の教科書に載りたいね。<br />岡田<br />：日本史とかですか？<br />太田<br />：そうそうそうそう。学術書の中での文学史とか出版文化史には今のままでも僕の名前はそれなりに残るだろうけど、今からもっとがんばって、普通の高校生の教科書に載りたいね。僕は奈須さんや竜騎士さんは歴史の舞台に残る可能性がものすごくあると思う。そうなると、僕の名前もたぶん残っちゃう。早稲田とかの入試問題のちまーい引っかけ問題で、「次の作家と関係のある人物を選べ」的な選択肢でさ。受験生が「知らねーな、この太田克史とかって、かつふみ？　かつし？」みたいな感じで（笑）。<br />まあ、そんな感じでは残る気はするし、残ってみたい。だってさあ、山川の教科書に名前が残ったりしたら愉快じゃん。それに、今は荒唐無稽に感じるかもしれないけど、可能性としてはゼロじゃないと思うよ。だって、50年後とか100年後の日本の姿を考えたら僕はこの辺りの作家さんしか残らないと思うもん。<br />例えばね、こういうふうに書かれるんじゃないか、っていう気が僕はするわけ。「21世紀前後の日本はマンガ・アニメ・ゲームというサブカルチャーが隆盛を極め、それらの文化は世界へも積極的に輸出され、文学活動にも大きな影響を与えました。当時の作家として、奈須きのこ、竜騎士07らが活躍し～」みたいな。で、その欄外に「当時のライトノベル的文学活動を牽引した文芸雑誌に『ファウスト』があり、その編集者は太田克史～」みたいなさ。山川の用語集では星が「2」くらいの感じで（笑）。そんなイメージだよね、今はとりあえず。<br />だって、浮世絵とかはそういう感じで歴史に残ってるわけじゃん。馬琴と北斎のコラボレーションが歴史に残っているように、例えば竹さんと西尾さんのコラボレーションや、武内崇さんと奈須きのこさんのコラボレーションが歴史に残ったり……、っていう可能性は十分以上にありますよ。今だってすでに武内さんの絵には世界中に理解者がいるんだし、いずれ竹さんもそうなっていくかもしれないし、何より僕がそうする（笑）。で、そうなったら、歴史に残さざるを得ないじゃん。<br />才能がある人を集めてくるのが編集者なんだから、今の日本の世の中で、これだけの数、世界レベルの絵を描く人がいるのに、それが文芸と全くリンクしていませんでしたっていう歴史しか残せなかったらさ、恥ずかしいじゃん、僕ら編集者が。世界的にすごいものが当時日本にあったのに、当時の編集者は何もやってませんでしたっていう歴史になっちゃうぞ、このままだと！　って僕は思ったわけ。だからこそ、金子一馬さんや西村キヌさんと一緒に仕事しようとも思ったんだよね。<br />僕、金子さんの一級のイラストはボスに負けてないと思うし、西村キヌさんが参加したゲーム『ストリートファイター』は全世界で数千万本も売れたんだよ。そういうのって、いずれは必ず歴史に名前が残るからね。だからそういうサブカルチャーと、文学活動とが濃密な接点を持ったってところに、見る目がある後世の研究者が「こんなことやった奴はいったい誰なんだ!?」っていつか気がつくわけですよ。そうなったときに、僕の名前が急速にクローズ・アップされてくるわけ。ハハハ、面白そうでしょ？（笑）<br />廣瀬<br />：面白いですね！　50年後くらいにですか？<br />太田<br />：うん、そうねえ。50年後くらいに再発見されると思う。されたら面白いと思う。ハハハ。<br />廣安<br />：じゃあその50年後に西尾維新さんが、例えば今私たちが太宰を読んで面白いと感じるように、面白く読まれますか？<br />太田<br />：そればかりは、分からないね。なったらいいと思うけどね。ただ、『南総里見八犬伝』ってオリジナルは読んだことないけど、筋は知っていて面白いよね、みたいな感じで翻案のものが残っていたりする可能性もゼロじゃないよね。<br />廣瀬<br />：正月にドラマ化されたり、ですか。<br />太田<br />：そうそう、リメイクされたりして残る可能性もゼロじゃない。アニメだと『ガンダム』なんかはすでにそうなっているじゃないですか。これ以上言っちゃうと予言者の領域になっちゃうけど、歴史的にはそういう可能性は十分にあると思うよ。<br />浮世絵だって、そもそもは日本画をヨーロッパに輸出するときに、その日本画がガタガタ動かないように一緒に箱に詰めていた新聞紙みたいなもんだったのに、それを見たオランダ人が素晴らしさを発見して評価したから今に残ってるんですよ。だから、僕の言っていることも、今は与太話に聞こえるかもしれないけど、十分に実現がありえるかもしれないよ？<br />アニメ・ゲーム・マンガと接近した文学的アプローチっていうのは、今、僕らしか真剣にやっていないから、その点だけでも歴史的には残る価値があるんです。そして、そこに注目する歴史家が出てきたら、僕たちの仕事は確実に発見される。そういう歴史家はもしかすると出てこないかもしれないけど、僕は出てくると踏んでいる。なぜかっていうと、50年後、100年後の日本はぶっちゃけて言うと、たぶん相当に貧しくなっている気がするの。だからそうなってしまった日本では過去の輝かしい日本の栄光を探るムーブメントっていうのが確実に起こるわけ。そうしたら、今現在のアニメ・ゲーム・マンガの隆盛っていう現象はさ、すごい輝かしい時代に見えるわけじゃん。僕の仕事の射程は、遙か未来の未来まで遠いんですよ（笑）。</p>
<p><img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/2010_0308dcamera0028.JPG" border="0" alt="" /></p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="5">(5)編集者は、強いんです。</a><br />廣瀬<br />：出版点数が多くなっているのって、経済的な要因や技術的な要因も大きいと思っていたんですけれど、それと同時に、文学界が迷走状態に入っているというのもあると思うんですよ。<br />太田<br />：迷走しているよね。迷走状態に入っているのは事実だろうけど、それが出版点数の増加に繋がっているかどうかはあんまりイコールにならないと思う。<br />廣瀬<br />：太田さんは『ファウスト』で迷走状態から脱して時代を切り開こうとしているわけですか？<br />太田<br />：そう、「ぼくのかんがえたぶんがくのせかい」じゃないけど（笑）、『ファウスト』に載っているような作品がもっとガンガン賞を取ってさ、そうすれば文学の興行的な経営はもうちょっとはうまくいくのになぁとは思う。ここから先は剣呑なのであんまり言えないけどさ。<br />けどね、舞城さんや佐藤さんがある程度賞を取るようになったしね、状況もずいぶん変わってきたと思いますよ。新聞でも西尾維新さんのインタビューが組まれたりとかさ。書評欄にも講談社ノベルスの本が出るようになったり。で、その、世の中が大きく変わる方向に歯車を回す側に僕もいたんだっていうのは編集者として大いに誇れると思う。10年前は書店に行ったらマンガやアニメのイラストが表紙の本なんて全然並んでいなかったのに、今は玉石混淆だけどかなりの数が並ぶようになったしね。<br />でも、僕は僕が信じている作家さんと、読者と一緒に生き残るために、無我夢中で必死に戦っていただけ。必死にやっていたら、何かを掴んじゃったわけさ。今から振り返るとかっこ良く聞こえるけど。<br />廣瀬<br />：今の文学界には必死さが必要ですか？<br />太田<br />：僕は、文学者は野生動物みたいな生き方がいいと思うよ。飛べなくなったら死ぬ、牙が折れたら餓えて死ぬ、みたいなね。<br />僕、作家さんはうらやましいですよ。作家をやって食べているご飯って、きっと超おいしいしね。僕も一回、佐藤さん、西尾さん、舞城さん、表紙のイラストレーターさんとして笹井一個さんを集めて文学フリマで同人誌を作って頒布したことがあってさ、僕もみんなと同じ分量の原稿を書いて。で、帰りに講談社前のロイヤルホストで売り上げを山分けしたの、外国マフィアみたいな感じで（笑）。そうしたら、そこにクシャクシャに丸まった千円札があったんだ。同人誌を買いに来て、行列していた読者の手のひらの中で、「本物の佐藤友哉に会える！」っていう緊張の汗で、丸まっちゃってるわけよ千円札が。いいよね、そういうのって。そんなお金を使ってそのとき食べたご飯は本当においしかったもんね。僕、「作家は毎日こんなうまい飯を食ってるのか！」って思った。他の職業では、良くも悪くも、そういう飯の食い方はできない。<br />余計な一言だけど、今の若い人たちで、嫌な本の読み方をしてるなと思うのは、作家や作品を「切る」ために読んでる人がいるでしょ。この作家を「もう追いかけない」と判断するためだけに新作を読んでるみたいな人。あれは気持ち悪いね。あと、僕がまったく分からないのは、よくみんなが「あのマンガがつまらなかった」とか「この小説がつまらなかった」って口々に言うじゃん。それが僕にはまったく分からない。だって僕、編集者の仕事をしてなかったら、つまらないマンガとか小説を一生読まないで過ごす自信があるもん。<br />廣安<br />：読む前に嗅ぎ分けるっていうことですか？<br />太田<br />：当たり前じゃん。言ってみれば本って、魂の食い物なわけじゃん。その魂の食い物を、これは食べられる、これは食べられないっていう見分けが自分でつかないなんて生き物としてナンセンスだよ。そんな奴はもうこれ以上食べなくていいから、精神的には死にながら生きていけ、と言いたい。だって、今、かつてないくらいたくさんの選択肢の中から作品を選べるんだよ？　なんでそこでハズレを選ぶの！　って。自分なりの、自分だけのアンテナさえあったらこんなにいい時代はないでしょ。情報もたくさんあるんだし。それに、本なんて値段はたいてい同じなんだからね。村上春樹の小説だから5万円てことはないんだし。だったら自分の判断、直感で面白いものを選ぼうよって思うよ。<br />廣安<br />：これは日本語じゃないでしょ、みたいな小説も出ていいのですか？<br />太田<br />：それでも、それがいいっていう人もいるんですよ。それに、歴史がそれを望んでいる場合だって大いにある。例えば二葉亭四迷が出てきたときだって「こんなの日本語じゃねえ」って言った人はたくさんいたし、『源氏物語』もさ、当時は「女子供が仮名みたいな嘘っぱちの文字でものを書いた気になりやがって。ものを書くなら漢字だろ。常（識的に）考（えて）！」って当時の大半の男は思っていたわけ。そんなふうに当時の知識人階級はそんな「低級」なものが後世に残るとは夢にも思っていなかったけど、事実、『浮雲』も『源氏物語』も残っているんだから。<br />廣安<br />：確かに。太田さんがやっていることの意味は、読者にちゃんと伝わっていますか？<br />太田<br />：どうだろうね。いや、でも、それは声高に言うことじゃない気もするしね。<br />ただ、そうね、儲かることを儲けるためだけにやろうと覚悟を決めたら、僕はもっとうまいと思いますよ。天才だとも思う（笑）。しかし僕は一貫して「0」から「1」を作る人が好きなわけ。尊敬しているわけ。そういう意味で言うと、例えばあらゆるメディアミックスはどこまでいっても蛇足だと思う。じゃあ、しょせん蛇足なんだから、せめて誠実に、最高の蛇足を作ろうよ！　とはいつも思っているけれど。<br />そうそう、その文脈で言うと、日本の編集者って最強なんですよ。桜庭和志っていうプロレスラー知ってる？　「プロレスってシナリオあるんでしょ。本気じゃないんでしょ」ってプロレスが格闘技ファンから後ろ指を指されていた時代に、彼は総合格闘技の舞台に出て、連戦連勝するわけ。そこでの彼の発言が「プロレスラーは強いんです」っていう一言。<br />日本の編集者も強いんですよ。最強なんです、「0」から「1」を作る人を応援するプロデューサーとして。マンガはご存じの通り、世界で隆盛を極めているし、アニメは『エヴァンゲリオン』の大月俊倫さんやポケモンの久保雅一さん、ジブリの鈴木敏夫さんは全員もとは編集者ですよ。テレビだって、今再放送してるテレビ史上ナンバーワン視聴率ドラマの『HERO』の企画協力は誰がやったのって言ったら、『金田一少年の事件簿』『MMR』の編集者、樹林伸ですよ。日本の紙の編集者はすごいんです。一度やってみたら、本当に楽しいと思いますよ。</p>
<p><img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/2010_0308dcamera0029.JPG" border="0" alt="" /></p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p>記事：廣瀬暁春（、廣安ゆきみ）／写真：廣安ゆきみ</p>
]]></content:encoded>
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		<series:name><![CDATA[乱創、使い捨て文学]]></series:name>
	</item>
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		<title>５－３．取材後記――大学ノートに乗せて</title>
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		<pubDate>Thu, 25 Mar 2010 11:15:39 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/25/%ef%bc%95%ef%bc%8d%ef%bc%93%ef%bc%8e%e5%8f%96%e6%9d%90%e5%be%8c%e8%a8%98%e2%80%95%e2%80%95%e5%a4%a7%e5%ad%a6%e3%83%8e%e3%83%bc%e3%83%88%e3%81%ab%e4%b9%97%e3%81%9b%e3%81%a6/"><img align="left" hspace="5" width="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/morimicolumn_ran.jpg" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>「中学生から大学生まで、毎日大学ノート１ページ、日記をつけていました」森見さんのお話に衝撃？を受けたゼミ生が、ちょっと真似してみたページ。]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<p>「中学生から大学生まで、ずっと毎日日記をつけていました」</p>
<p>　しかも、毎回大学ノート１ページぶん、びっちり。</p>
<p>　森見登美彦さんのお話なかで、衝撃だったことのひとつである。</p>
<p>　取材が終わったあと、マクドナルドで興奮を消化しながら一番に盛り上がったのも、この話題。</p>
<p>「大学ノート１ページ毎日はやばい」「だってシャーペンででしょ？」「無理だ、すごすぎる」</p>
<p>　じゃあ、毎日は無理でも、せっかくなら大学ノートに、なんかコラムを書かないか。もちろん、手書きで。テーマは、いっそ何でもいい。大学ノート手書きってのが、既に「取材を踏まえて」るでしょう。</p>
<p>　そういうわけで書き合ったコラムを、順次掲載していきます。</p>
<p>　読みやすさの関係で、ページびっちり書けないのが残念ですが。</p>
<p> </p>
<p>１．大石蘭<br /><img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/morimicolumn_ran.jpg" border="0" alt="" width="750" height="1000" /></p>
<p>２．廣瀬暁春</p>
<p><img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/morimihirose.jpg" border="0" alt="" width="500" height="1000" /></p>
]]></content:encoded>
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		<series:name><![CDATA[乱創、使い捨て文学]]></series:name>
	</item>
		<item>
		<title>５－２．取材◆森見登美彦さん（小説家）◇後編</title>
		<link>http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/15/%ef%bc%95%ef%bc%8d%ef%bc%92%ef%bc%8e%e5%8f%96%e6%9d%90%e2%97%86%e6%a3%ae%e8%a6%8b%e7%99%bb%e7%be%8e%e5%bd%a6%e3%81%95%e3%82%93%ef%bc%88%e5%b0%8f%e8%aa%ac%e5%ae%b6%ef%bc%89%e2%97%87%e5%be%8c%e7%b7%a8/</link>
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		<pubDate>Sun, 14 Mar 2010 21:17:05 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/15/%ef%bc%95%ef%bc%8d%ef%bc%92%ef%bc%8e%e5%8f%96%e6%9d%90%e2%97%86%e6%a3%ae%e8%a6%8b%e7%99%bb%e7%be%8e%e5%bd%a6%e3%81%95%e3%82%93%ef%bc%88%e5%b0%8f%e8%aa%ac%e5%ae%b6%ef%bc%89%e2%97%87%e5%be%8c%e7%b7%a8/"><img align="left" hspace="5" width="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/morimisann2.JPG" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>森見登美彦さん×渡辺真実子さん×立花ゼミ、取材＠カフェ後編。森見さんの「二十歳のころ」。]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<p><a name="mokuji"></a></p>
<p>12◆<a href="#12">森見さんの「二十歳のころ」</a><br />13◆<a href="#13">射撃に鍛えられた腕</a><br />14◆<a href="#14">リアル中学生日記の効能</a><br />15◆<a href="#15">「成すべき修行」の結論。</a><br />16◆<a href="#16">結局は好きでないと。</a><br />17◆<a href="#17">絵本からの影響</a><br />18◆<a href="#18">お話から小説へ～小学校～中学校～高校大学</a><br />19◆<a href="#19">そもそも「何かしら、書くもんだ」</a><br />20◆<a href="#20">最初の読者のさじ加減</a><br />21◆<a href="#21">「このままでは小説家になれない……！」</a><br />22◆<a href="#22">図書館就職の心は</a><br />23◆<a href="#23">森見さんの恋愛</a><br />24◆<a href="#24">二十歳の君への宿題</a><br />25◆<a href="#25">終わりに</a></p>
<p>&nbsp;</p>
<p><a name="12">12◆森見さんの「二十歳のころ」</a><br />大石「じゃあ『二十歳のころ』いきますか。森見さんが私たちと同じくらいの年齢だったときのことから、今、それから将来のことについてお聞きしたいと思います。二十歳前後のときに小説家を目指していらっしゃったと思うんですけど、そのときに何か小説家を目指して努力されていたことはありますか」<br />森見「うーん。いや、でも、あんまり特別に、こういう修行したとかはないです」<br />大石「心掛けていらっしゃったこととかは」<br />森見「本を読む。本を読むのを、現代の人のを読んじゃだめっていう。現代の小説を読む権利は自分にない、と。まだ昔のやつを読んでないのに、現代に追いついてないから、それより前にまず昔のやつを読まなきゃ。まあ、だからといって昔のやつ山ほど読んだわけじゃないんだけど、基本的にはちょっと古めの本、近代の前のやつを読むようにはしてた」<br />大石「いつごろからそんな感じでしたか」<br />森見「いや…真面目に考えてそういうふうにしてたのが大学入ってから。ドストエフスキーを読まなきゃとか、そういうこと考えて」<br />大石「読書不足っていうのを感じていらっしゃったんですか」<br />森見「もう、自分には全然教養がないって思ってて。だからできるだけ高校のときよりは読むようにはしたんですけど…そんな読んでないですよ」<br />大石「『本好き』でいらっしゃったんですか。ご自分のこと、『本好き』だったと思われますか」<br />森見「まあ普通の人よりは好きだと思うんですけど、あんまり本が好きとか言うと、さぞかしたくさん読んでるんだろうと思われるので、あんまり言いたくない。気が引ける！　そこまで活字中毒というような『本好き』でもないし…。『（新釈）走れメロス（他四篇）』とかああいうの書くと、そういう日本文学とかすっごい徹底的に読んでるように見えてしまう人もいるかもしれない。そこは、すごく、誤解しないでもらいたい。そんなに言うほど読んでない。でも、自分なりには読むように心掛けてたし、まあ一応、小説も書いてるし」</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p>&nbsp;</p>
<p><a name="13">13◆射撃に鍛えられた腕</a><br />森見「あとはまあ、クラブで――ライフル射撃部だったんですけど――部室に置いてあるノートにいろいろ面白いこと書くんですよ。で、友だちが読んで笑うような…わざとクラブの友だちの悪口書いたりして、すごい面白おかしく書いて、笑わせようとして。……始めのうちは適当にやってたんです。でもだんだんみんな『面白い、面白い』って言うようになって。誰かがライフルの試合をしてるときに、その人が今何点撃ったかっていうのを記録して、構えの乱れなんかをチェックするアシストという仕事――１回生が担当する――があったんですけど、そのメモも何かしら面白いことを書かなきゃいけなくなって。僕がアシストをするってなると、なまじ時々面白いことを書いたもんだから、クラブの人らがみんな見に来るんですよ。そうなると、毎回なんか書かなあかん、と。まともなアシストも何もしてなかったですね。……そういう、クラブに４年間いてて、後半２年くらいはずっと何かしら面白いことを書け、みたいな感じで。クラブのＨＰとか試合のパンフレットとか。そんな風に、何となく、周りに楽しみにしてもらえるようなところまでいった。修行といえば、それが一番修行でしたね」<br />大石「そういう（テイストの）小説でデビューされたわけですけど、それとは別に、理想の小説ってのもあったわけですよね。それを目指して、例えば毎日文章書くようにしてたとか、はないんですか？」<br />森見「いやーそういうストイックなもんは、本読んで気が向いたら書く、だけですよ。そんなに『毎日これをしよう』とかはなく……思いついたアイデアのメモを取るくらいですよ。これは中学校くらいからずっとやっていて、これはまぁ修行だったかもしれないけど…。意外に、『これは修行だ』と思ってやってることよりも、自分が意識してないことが修行になってたりするんで。それは、僕が『太陽の塔』でデビューしたときにすごい思ったんですけど。そもそも『太陽の塔』を書ける能力を、自分で育てる気はなかったのに、勝手に育っていったわけで。自分が『こうあるべき』と思ったものと全然違うものになったんだけど、結局はそっちが良かったってことなんで。何が修行になるかわからない」<br />大石「心がけて、古典とかを読むようにしていたっていうのも、今につながっているとは思われますか？」<br />森見「それはそうですね。それと、クラブで馬鹿話を書いて友達を笑わしていたのが、たまたま上手いこと交じり合ったので、今なんとか」</p>
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<p><a name="14">14◆リアル中学生日記の効能</a><br />大石「小説家を志すにあたって、そういう人に何かアドバイスはありますか？　これは最低限必要だ、とかこれはやってた方がいい、とか」<br />森見「……（思案）。あ、思い出した！　日記を書いてました！」<br />大石「毎日ですか？」<br />森見「今は書いてないんですけど、中学一年のときから、大学生まで。その間、一日大学ノート１ページ絶対書く。大学生のときに、大学ノート六十何冊かになってました。それは、修行っぽいですね」<br />渡辺「ですね、だって大変ですもん、そんなの」<br />大石「苦痛に感じることはなかったんですか？」<br />森見「途中で面倒くさくなりましたけど、一日も休まなかったので、途中でやめれないんですよ。今やめると三年の努力が無駄になる、と思うと。ただ、大学入って、いっぺんサボりだすと穴あきが多くなっちゃってダメでしたけど。で、そこでも、日記だから誰も読まないのに、ギャグ書いたりしてた。自分でも、書きながら笑いつつ、これ誰を笑わそうって思って書いてるのか（笑）。それは、結構頑張ってたんですけど、（今となっては）忘れがちになりますね。ワープロとかじゃなくて手書きなんで、シャーペンで大学ノート六十冊分書けって、今言われても、無理です」<br />廣安「ページみっちり書いてたんですか？」<br />森見「みっちり。一日、原稿用紙３枚か４枚くらい。いや、あれは今から考えれば、よく頑張ったなぁと」<br />渡辺「ほんとですね」<br />森見「いやー日記もね、あんまり書きすぎるといい影響を与えないんじゃないかと。日記を書けば書くほど思いつめて行きそうな気もするんですよね」<br />渡辺「書くことではっきりしちゃうから」<br />廣安「内省しすぎちゃうんですかね」<br />森見「で、悔しいこととかも忘れりゃいいのに、書いてるから、後から読み返してまた……ね（笑）。まぁ自分は割と楽しいことばっかり書いてたんですけど」<br />大石「そこには妄想も含まれてたんですか？」<br />森見「入ってたでしょう。やっぱり初恋、も。ちょうど大学ノート二十冊目に当たる（笑）。この二十冊目だけは絶対人に見せたらあかん」<br />（一同、笑い）<br />森見「だから、ずーっと面白い日記を書き続けるのが結構大事だったと思うんです。誰でもにおすすめできるかは分からんけど……。僕から言えるのはそれくらいですね」<br />大石「それは、体裁としては、人に見せられるような形で書いてらっしゃったんですか？」<br />森見「文章は、ちゃんとしたものでしたね。（当時）どういう感覚やったかよく分かんないんですけど、あとで自分で読み返すときに面白いように、と思ったのかもしれない」<br />大石「（小説の場合）その対象が自分から他人になった、ってことですかね」<br />森見「結局、小説だって、一番最初は自分が読む、自分に読ませる。だから自分で読んで満足するようなものを書かないとしょうがないと思うんです。この読者に向けて書くぞって思っても、なかなかそう上手いこといかないんで。だから最初に読む自分のハードルをどこに設定するかで、文章も変わってくるでしょうし。でもやっぱり小説書くときって、何べんも読むんで。最近時間がないときは出来ないんですけど、基本的にはその日に書き始めるときは最初から全部読んで、続きを書くんですよ。だから最初の方は、もう何回も読み返してるんで、最初の一節が一番練られてるんです。前からのリズムを見て、続きの文を書いて、また次の文になったら前の方を読み返して……って。だから、自分は、書いてるんだけど、同時に読んでる。その読んでる自分がＯＫ出さないと、ダメ。読んでる自分が疲れてるときはやや甘くなるけど（笑）、元気なときは、読んでる自分が『こんなのよく書けたな』って感心するようなやつを書けないといけない。『そーいえばこんなん書いたなー』みたいな低いテンションだと、ちょっと寂しい」</p>
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<p><a name="15">15◆「成すべき修行」の結論。</a><br />森見「あんまり、悩みの日記じゃなくて、もっとカラッとした日記を書いたらいいと思う。で、毎日書く。毎日書き続けて一年経つと、まず一年の重みでやめれなくなる。あと、去年の今日はこんな一日を過ごしたってのが分かるようになる。僕は十年くらい書いたので、十年前まで自分がどうしてたかが、分かる。それは書けば書くほど面白くなってくる。しかもそれが中学高校――まぁ大学もかな――のときだったら、一番面白いと思うんですよね。まぁ、アホなんですけど。で、一時的に恥ずかしくなっても、絶対燃やさない！」<br />大石「全部取ってあるんですか？」<br />森見「一応取ってあります、さすがにこれを捨てるのはちょっと…」</p>
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<p><a name="16">16◆結局は好きでないと。</a><br />渡辺「でも、好きだったんでしょうね、書くのが。小説家になろうと思っても、書くことが実は辛かったりとかしたら、職業としてずっとやっては行けないから。やっぱりもともと書くのが好きで、話を考えるのも好きで、で、楽しくて、なんとなく、『やっぱり将来はこれを仕事にしたいな』という風になるのかなと思うんですけどね。長くやれてる人見ると」<br />森見「書くこと自体が好きじゃないと、正直やってられなくて。僕ね、大学のとき研究室にいたんですけどね。植物生化学みたいなことやってる実験室で、」<br />大石「竹林の……？」<br />森見「まぁ竹だけじゃなくて色々手広くやってて。京大の先生なんてね、普通大きな研究室になると教授が自分から実験なんてしないわけですよ。でも、普通学部生とかがしますよ、っていうような実験を、教授自分でしたがるんですよ。忙しいから、夜遅くに自分の仕事が終った後とかに、ちまちまちまちまやってるわけですよ。自分の秘密の研究を。『ちょっと町工場に頼まれて……』とかいって。僕実験大嫌いで、なんて面白くないんだと思ってたんですけど、その教授は、別にそんな大した――大したことないっていうとダメですけど――そんな大発見が待ってるような実験じゃなくても、自分が手を動かして何かしら結果が出たらすごいテンション上がる人なんです。『この人には、勝てへん』と思って。だからやっぱり、そんだけ目の前の作業がまず好きじゃないと、そっから先はなかなかやっていけない。そっから先に何かしたいことがあっても、目の前のことがなかなかうまいこと自分にフィットしなかったら、キツい。それが好きな人間に勝てない。だから、もう、教授を見て『僕は文章を書くのはある程度は苦にならないので、絶対そっち行ったほうが得や』と」<br />大石「目の前のものがフィットした、って最初に気づいた瞬間っていうのはいつですか？」<br />森見「いや、分からないな……中学に入った時点で一日一ページ日記を書いてたんだから、その時点で多分、それは自分にとって好きなことだった。一番最初に僕が作ったお話は、『マドレーヌの冒険』っていう紙芝居で、小学三年生の時友達と一緒に作ったんですけど、以来『お話を書く人になりたい』と。そのすぐあとくらいから原稿用紙に、うにうにうにうに書いてたので、目覚めたっていうよりは、もうすんなりそっち方向に入っていった。だから書くということ自体について、自分が得意なんだとは、小中学校の時から思ってましたけど、自分が人を笑わせる文章を書けるんだって気づいたのは大学入ってからですね。それはすっごい大きなことだった。僕は中学高校のときは人を笑わせるのが得意な方じゃなかったし、そういう雰囲気でもなかったので。……だから、一回目は知らん間にそっちに入っていって、二回目はある時発見した。『あ、こういうこと自分は出来るんだ』って」</p>
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<p><a name="17">17◆絵本からの影響</a><br />大石「最初の読書の記憶は絵本だ、って伺ったんですけど、絵本を読んだ経験と、ご自分の今の世界観や文章書くっていうこと自体との関係って、何でしょうか」<br />森見「文章書くっていうことについていうと、そんなに関係があるのかどうか分からないんですけど、自分の好みとかは、その時好きだった絵本なんかにすごくよく表れてる」<br />大石「森見ワールドの原点、みたいな」<br />森見「なんとなくこう、シュールな感じというか。その、へんてこな感じ。……上手いこと言えないですけど、そういうものの元は、やはり子供の頃好きだった絵本に雰囲気が一致したりするところがあるので、それはすごい分かりやすいなぁと思う。でも自分が文章書くときに子供の頃の絵本から影響を、っていうのは、どうかな」</p>
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<p><a name="18">18◆お話から小説へ〜小学校〜中学校〜高校大学</a><br />廣安「高校生くらいの時は、もう小説を書いてたんですか？」<br />森見「うん、書いてました」<br />廣安「それは、面白いのを狙ったような話じゃなかったんですか？」<br />森見「妙なんですけど、小学校のときは、原稿用紙に童話みたいな……自分の妄想の、別の星が舞台で、変なやつが出てきて…みたいなのをよく書いてたんですけど、中学校くらいになると、明確にこういうストーリーにしようって前もって決めるわけではなくて、イメージ――こういう場面を書いてみたいとか――をなんとなく書いてるうちにお話になって、なんとなく終わるっていうようなものを、大学ノート書くようになって。今読むと逆に面白いですよ。余計なことを考えずに書いてるのが。明るい感じで」<br />（一同笑い）<br />森見「あんまり、教訓どうこうとか、テーマとかを考えずにただ自分が面白いと思うことを書いてて、それがちょっとシュールな感じで。高校ぐらいになると、色気が出てきて、ちょっと真面目に見えるような、シリアスに見えるような感じにしていこうとして、逆に面白くなくなっている。だから、小学校から中学校にかけてが良かったですね。高校生の時は、なんか中途半端で。それがずっと大学までつづくんですけど」</p>
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<p><a name="19">19◆そもそも「何かしら、書くもんだ」</a><br />廣安「『（新釈）走れメロス（他四篇）』とかを書いてらっしゃるから、そういう文学史みたいなのに憧れがあって小説を書いてたのかなって思ってたんですが……。それに近づきたいとか、将来太宰的な人になりたいとか……太宰のアンソロジー（『奇想と微笑』）も出されてるし」<br />森見「いやーでもね、自分でも何で小説家になりたかったのかっていうのは結構曖昧で。最初、なりたいなって思ったのは小学校の時なんで、別にその時に文学者がどうこうとかは思わなかった。ドストエフスキーみたいなものを書いてやろう、なんて思うわけがないので。もっと、なんか、現実的なところから始まってるんです。一番最初は、とにかく自分が字でお話を書いて、母親とかに読んでもらいたい、その延長でそれが仕事になったらそれでいいじゃないかっていう、単純な話だったんです。だから結局今からすると、何でこういう風（作家）になりたいと思ったのかっていうのがそもそも謎に満ちてるんですよ。でも文学史に残りたいとか、あんまりそういうことを思った覚えはない…カッコつけてるわけじゃなくて（笑）。いや、文学史に対して憧れはあるわけですよ、例えば、太宰治が嘗て住んでた家とかに行ったら『おぉ』と思うし、そういう作家がむかし色々いてたっていうことに対する憧れはあるんだけど、自分が小説家になるっていうのが、その人たちの遺志を受け継ぐってことかっていうと、あんまりそっちがメインだった感じはしない。もうちょっと普通に考えてた――自分が得意なことが仕事になったらいい、って。もし僕が、中学とか高校で小説に目覚めた人だったら、もっとね、文学とは何ぞやとか、ややこしいこと考えたと思うんです。それよりもっと前から書いてたので、あんまりそこらへんを悩む必要がなくてですね。そもそも、『何かしら書くもんだ』っていう。いろいろ知恵がついてきて、余計なことを考えるようになってからですよね、『もっと過去のものを読まなきゃいけない』とか思うようになったのは。そんなのは、小賢しくなってから。最初のうちはもっと素直だった。まぁでもね、昔のやつ読むと、それはそれで面白いですよ」<br />渡辺「それにしても、（森見さんの）中学くらいの作品が読みたいです」<br />森見「まぁあれだったら、万が一外に漏れても許せる。高校生のやつはダメ。ここに何か秘密がある」<br />（一同笑い）</p>
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<p><a name="20">20◆最初の読者のさじ加減</a><br />廣安「私自身も、小学生くらいの時に、作家になりたいと思ってて、（森見さんと）同じように書いたりしてたんですけど、高校生くらいになって、文学的なものを読むと、『こんなんにならないと、書いてる意味はないのかな』って思い始めて。で、『自分はこんな残るような話は書けない、もういいや』って今に至る、という過去があるので、今お話をうかがってて、こういう考え方もあるんだなーと、思いました。『残る』とかいうことに、すごく縛られて、自分はやめてしまったので、やめずに書き続けていられる――しかも小さい頃からずっと――方がどういう気持ちでやってるのか、聞けたので、良かったです」<br />森見「でも、小説書くのって、一番簡単なことですよ、お金かからないし道具もいらんし、ワープロもあるし。ついつい続いてしまったっていうか。……でも僕も努力はしたんでしょう、努力はしたはずなんですけど……」<br />渡辺「努力を努力と思ってないんじゃないですか？」<br />森見「まぁしんどいこともあるし、好きでやってるときもあるし。……うーん、けど大学生のときはあんまり頑張ってなかったですね。ほんとに小説家になりたいんやったらね、大学生のときにもっと……」<br />渡辺「色々やってる人もいますからね」<br />森見「経験や見聞を広げたりですね、やってたら良かったんですよ。ほとんど四畳半にいたからね（笑）」<br />渡辺「いやー、でもさっきの小賢しくなっちゃうって話は結構大きいですよ。やっぱり知識が多すぎると、色んな制約を自分で設けすぎちゃってできない、みたいなケースもあるから、そこだけに一生懸命になりすぎちゃうと、逆に書けなくなっちゃう。なにかゼロから創ることが、怖くなってしまう気がする」<br />森見「さっきも言いましたけど、自分が最初の読者なんで、最初の読者がぎちぎち厳しすぎると、つぶされるんです。だからね、半分バカにしといたほうがいいんですよ。まぁあんまりゆるゆるでもダメだし、そこは兼ね合いが難しいですよね。そこらへんのバランスを取れる人っていうのは書きやすい人かもしれないな」</p>
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<p><a name="21">21◆「このままでは小説家になれない……！」</a><br />大石「私の個人的なこと言わせていただくと、ずっと小さいときから絵を描いたり文章を書いたり話を作るのがすごく好きで、中高生の頃は作家になりたいと思っていたんです。それで文三、東京大学の文科三類に入ったって言うのもあるんですけど、入ってから、周りに比べて、自分のあまりにも教養の少なさと読書量の少なさに打ちのめされて、挫折しかけたんですよ。で、そういうときに、どう立ち直る、どう努力するかと言うことがちょっと自分の中であって、別の道があるのか、結構努力していけるのかっていう葛藤があるんですけど、森見さんはそういう風に挫折された事ってありますか？　同じような要因じゃなくていいんですけど」<br />森見「いやでも、ぼくはずっと、小学校の時から小説家になろうと思っていて、というかなると思っていて、高校生の時に思っていたのは、大学を出たら小説家になるんだから大学どこに行こうとあんまり関係ないやろ、と。今から思うとぼくは阿呆みたいなんですけど高校の時は本当にそう思っていた。それで大学では文学部とは違うことをしようと思って、両親も理系にしろと言うし。医学部を受けたんだけれども、結局京大の農学部に行くことにして。大学に入ってもまだ小説家になるつもりでいて。で、三回生の終わりに、『これはやばいぞ。大学生活は終わるけど、このままでは小説家にはなれないな』と気づいた。そのときにぼくはすごい衝撃を受けた」<br />（一同、笑い）<br />大石「いきなりだめだって、思ったのですか？」<br />森見「いや、少しずつたまっていったわけです。応募したりもしたけれども、一番おっきいのは、自分で読んでて満足できるようなものがひとつもない。というのが積み重なっていって、大学院までは行けるけれども、そもそも自分は小説家になれなかったら何になるんだろうと考えて、いや、今笑いながら話していますけども、目の前が真っ暗になったんですよ。いや、これはやばいと思って。で、結局4回生になって研究室に配属されたんですけど、本当に研究をやっているところが心底嫌で、しかも割と華々しい研究室だったので、ピリピリしてるんですよ。で、ぼくは4月に入って、5月に行かなくなりました。でもうゴールデンウィークの時から行かなくなっちゃって、休学したんだけど、小説家にはなれないだろうし、かといって研究者にもなれないし。それから迷走して1年、公務員試験受けてみて落ちたりとか、色々してて、結局だから、大学院を出るしか無くなってしまって、しゃーないなーと思って大学を歩いてたら廊下に『竹の研究してます』っていう研究室の張り紙があって、研究はしたくないんだけれども、『竹なら……唯一竹なら何とか興味を持てるかもしれないな』と思って」<br />（一同爆笑）<br />森見「前の研究室は途中で辞めてるし、学部は単位だけとって卒業させてもらえるけど、卒論を書いていなくて。けどその研究室に見学に行って、そしたら『あ、来たらいいよ』って。『ぼく研究室を途中でやめちゃって卒業論文がないんですけど』って言ったら『かまへんかまへん』って」<br />（一同、笑い）<br />森見「そんで、公務員試験も受けたんだけど全部落ちたから、大学院の試験を受けて、結局その研究室しか行くとこなかった。それが５回生の夏でした。ここで、経歴をリセットして、大学院出るときにがんばろうと思ってたけど、『今から研究室来てもいいし、来年の春から来てもいいけどどうする』って言われて、今から研究室行くのもなんか忙しいなと思って『来年の春から行きます』って言った。んで、半年暇やから、農学部の勉強しかすることないし、小説でも書こうかと思って。で、そん時に、もうこれが本当に最後だと思って、ここで何かしら逆転を見せなければぼくはもう本当に二度と小説が書けないだろうと思って、今まで絶対に書いてない、こんなの小説ではない、と思っとったやり方で小説を書こうとおもった。それで『太陽の塔』を書いた。その時は、『太陽の塔』を書いたような文章は本当にクラブの友達を笑わせるためだけの使い捨ての文章だったけど、それを使って、自分の大学生活を振り返るように小説を書いて、もしそれが小説になったら、なんとかなるかもしれない。今までと同じような方法でやっていても多分無理だとその時点で思ってた。それで太陽の塔を書いて研究室に入った４月に応募して、６月に新潮社から最終選考に残るというお知らせが来た。だから、ぼくもいっぺん挫折しているんですよ。もう絶対無理と思って。……この話から教訓を引き出すって言うのもなかなか難しいですけど、いっぺん挫折をして、意外なところからふんばるしかないんじゃないかな。結構そこまではこのルートしかないと自分で思いこんでいて、それはたいてい、まずうまくいかない。絶対妨害が入って、迂回しなきゃいけないんです。けど意外にこう、一直線に行こうとしているのを、あっち行ったりしていたらいい感じに行けた」<br />大石「意外な所って言うのは『太陽の塔』みたいなところだったんですか」<br />森見「自分は価値を認めたがらないこと。そうでもないとそれを使って小説を書いてみようって思わなかったんじゃないかな。そこまで追い詰められて、やけくそになってやったんでかろうじて作品になりましたけど。ただ、ぼくは一応すごい恐ろしい思いをしたんですけど。目の前が真っ暗になって将来どうしたらいいんだろうって。あんまりまともに働けそうにも思えなかったし」<br />大石「漠然とした思いが積もっていったんですか。具体的なものではなく」<br />森見「決定的に具体的なものではありませんでしたね」<br />大石「これだからだめだって言うよりだんだんだんだんそうなっていったんですね」<br />森見「そう。だって、誰かに見せてお前才能ないよとか言われたわけじゃなし。もう、自分で思っていったんです。自分でこのままではあかんわ、って分かっていっちゃうんですよ。それまではあんまり人に読ませたりとかしていなかったので。文学賞とかに応募はしてましたけど、それに引っかかることもなかったですし。でも、自分で満足できなかったことが、一番よろしくなかったですね」<br />大石「一回生の時から文学賞は応募していたんですか」<br />森見「いいや、文学賞はもう高校生の頃から応募はしてましたよ。でも落ちてました（笑）あれはね、応募してたって言えば応募してたんですけど」</p>
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<p><a name="22">22◆図書館就職の心は</a><br />廣安「就職できそうもないと思いながら最終的に図書館に就職されたじゃないですか。どういう心があったんですか」<br />森見「だってぼく大学院にいる間に小説家にはなれましたけど、『太陽の塔』一冊出ただけで、文学賞の賞金もろたって、学費と生活に消えるワケじゃないですか。しかも大学院出るときに就職活動をするって言うほどはしてないですけど、もういっぺん公務員試験を受けてみて、もし万が一そこで全部だめだったら、大学に残って欺し欺し小説を書こうと思っていた。けど、無事就職口が見つかったので、これはやっぱり就職した方が大学に残っているよりもちゃんと食っていけるっていうのもありますけど、どっちみち小説を書くので大学の中しか知らんよりいいじゃないですか。もうこれは絶対に外にでた方がいいなと。就職はホンマに嫌でね。まぁ入ってみたらたいしたことはない、いや、たいしたことなくはないんだけどね。とりあえずなんとかなってる」</p>
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<p><a name="23">23◆森見さんの恋愛</a><br />廣瀬「ちょっと二十歳の頃に戻るんですけど、あの、その頃の森見さんの恋愛の状況が……」<br />森見「ええっ、恋愛の状況！？」<br />廣瀬「恋愛の状況がどうだったかということがすごく気になるんですけど」<br />森見「恋愛の状況だったら何も面白いことないですよ。二十歳の頃だったら」<br />廣安「なんか、こう恥ずかしい思い出とか」<br />森見「高校生の時は初恋をしてて、で、まぁふられたんですけど、その時の日記が、だんだん客観的描写が無くなっていくんですよ」<br />（一同爆笑）<br />森見「何が起こっていたのかが分からなくなっていくんですよ。だんだん想いだけになってきて。そういう時期は一時期ありましたけど。大学は、……三回生の時に付き合いましたけど、それまではずーっと、こう、野郎達に囲まれてうじうじとしてましたよ。そんな話をしても誰も面白くないでしょ」<br />大石「気になりますよ」<br />森見「すみません、ちょっとお手洗いへ行ってきます」</p>
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<p><a name="24">24◆二十歳の君への宿題</a><br />廣瀬「あの、一度お願いしてお断りされてはいるんですけれど、」<br />大石「二十歳の君へは教訓とかそういうのではなくて、森見先生の二十歳の頃を踏まえてというか、それで今の私たちに対して伝えていただけることがあればおっしゃっていただきたいんですけれど」<br />森見「なんかあんまり面白いことうかばないっていうか。もちろん勉強した方がいいんですよ。彼女作れるものなら作った方がいいですし。でも、あんまりそういうことを言っても、当の人たちはあんまりそんなの関係無しに自分でやっていくので」<br />大石「日記の話とか」<br />森見「『日記書け』かぁ、いやでもわざわざ二十歳の人たちに日記書けって言うのもさー（笑）。ていうちょっとあんまりかなと思って」<br />渡辺さん「二十歳で日記書き始めても、それからつらい人生を送りそうですよね（笑）。まぁまぁちょっと気恥ずかしいって言うのもありますよね」<br />森見「二十歳は、そうね。なまじ自分がなんかうまいこと小説家になっているので、なんかぼくがいうと、『諸君もこうすれば成功できるよ』みたいになってしまいそうで。ぼくはあんまり若い人に対して『こうすればいいよ』とか言えないんですよ。とりあえず『生き延びなさい」』というだけで」<br />渡辺「前に立花さんがお出しになった『二十歳の頃』という分厚い本みたいにするんですか？」<br />廣安「いや、今回は『オンラインゲームにはまるな』とか『麻雀はしない方がいい』とかひと言ずつもらってるんです。『二十歳の頃』は有名人に行っていたって言う、名の知れた人を対象にしていたのですけど、今回は、一般の人からたくさん集めています。今週末に駒場祭って言う東大の文化祭があるんですけど、そこでゼミの企画としてパンフレットを配る。のがもとだったんですけど、それが面白いねってなったので駒場祭以後も独立したひとつの企画として継続してやっていこうというのです」<br />岡田「機会があればどんどん集めていこう、という趣旨でした」<br />渡辺「なるほど、どん欲に（笑）」</p>
<p>坪井「じゃあ最後にひとつだけ……携帯の待ち受け、って見せていただけないでしょうか！　森見さんの」<br />（一同笑い）<br />森見「……ちょっとこれカレンダーと重なってるのでわからないんですけど、富士山登ったときの僕を描いた絵なんですよ」</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
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<p><a name="25">25◆終わりに</a><br />廣安「実はいままで企画で何人か作家の人に打診をしてみたんですけど、結局断られちゃって。今回森見さんはお忙しいし、きっと無理なんだろうなぁと思っていたから、『えっ』と思ったのですが（笑）」<br />森見「あいや、でもこのお話が今年で最後のお仕事ですよ。朝日新聞の連載をそろそろ終わらせなきゃいけないのと、それと並行して来年に『ペンギン・ハイウェイ』っていう小説を出すんですけどそれの書き直しを進めていて。あまりにも集中しなければいけないので、細かい仕事を段々年末に向けて絞っていっていてですね、その水門が閉じるこう、手前の。今日でついに閉じる、みたいなところです」<br />廣安「最初は意外だったし、後からじわじわ感激でした。『え、え、え、いいんですか』みたいな（笑）」<br />大石「実感できないままここまで来た（笑）」<br />渡辺「まぁでも普段は聞かれないような根源的な。なかなか商業媒体だと、『何で小説家にそもそも』みたいなのはないですからね」<br />森見「そこまで毎回さかのぼってインタビューされたらしんどいですよ。いちいち新作出す度に『なぜ小説に目覚めたんですか』って考えてたら大変ですよ（笑）」</p>
<p>――お忙しい中、長時間お付き合いいただき、ほんとうにありがとうございました。</p>
<p><img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/morimisann2.JPG" border="0" alt="" /></p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p>&nbsp;</p>
<p>【編集後記】<br />森見さんはもちろん、渡辺さんもとても素敵な方で、随所で色々なことをお話してくださった。<br />作家と編集者、両方の立場からいっぺんにお話が聞けるなんてこんな嬉しいことはない。<br />極力削りたくなくて、少々（だいぶ）長編記事になってしまったが、これでも当事者としては物足りないほど。<br />悔しいです。</p>
<p>記事：大石蘭、坪井真ノ介、廣瀬暁春、廣安ゆきみ／写真提供：大石蘭</p>
]]></content:encoded>
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		<series:name><![CDATA[乱創、使い捨て文学]]></series:name>
	</item>
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		<title>５－１．取材◆森見登美彦さん（小説家）◇前編</title>
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		<pubDate>Sun, 14 Mar 2010 21:13:01 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/15/%ef%bc%95%ef%bc%8d%ef%bc%91%ef%bc%8e%e5%8f%96%e6%9d%90%e2%97%86%e6%a3%ae%e8%a6%8b%e7%99%bb%e7%be%8e%e5%bd%a6%e3%81%95%e3%82%93%ef%bc%88%e5%b0%8f%e8%aa%ac%e5%ae%b6%ef%bc%89%e2%97%87%e5%89%8d%e7%b7%a8/"><img align="left" hspace="5" width="150" height="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/wp-content/plugins/thumbnail-for-excerpts/tfe_no_thumb.png" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>2009.11.19＠都内某カフェ。作家、森見登美彦さんとその担当編集渡辺真実子さん（祥伝社）に、インタビューを行った。数時間に及ぶ長丁場をお茶一杯で粘った成果。]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<p><strong>森見登美彦さん×渡辺真実子さん（祥伝社編集）×立花ゼミ文学企画<br /></strong>2009.11.19<br />＠都内某カフェ</p>
<p>参加ゼミ生：大石蘭、岡田空馬、坪井真ノ介、廣瀬暁春、廣安ゆきみ</p>
<p><a name="mokuji">【目次】</a><br />１◆<a href="#1">執筆時に意識していること</a><br />２◆<a href="#2">書くモチベーション</a><br />３◆<a href="#3">「売れる」ことへの意識</a><br />４◆<a href="#4">小説「だから」</a><br />５◆<a href="#5">「森見ワールド」</a><br />６◆<a href="#6">小説家はパン屋さん</a><br />７◆<a href="#7">「エンターテイメント」</a><br />８◆<a href="#8">腐れ大学生モノin京都、という縛り</a><br />９◆<a href="#9">『新釈走れメロス』うらばなし等々</a><br />10◆<a href="#10">表紙・デザインへのこだわり</a><br />11◆<a href="#11">小説は間にありてつつくもの</a></p>
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<p><a name="1">１◆執筆時に意識していること</a><br />大石「小説を書くに当たって、森見さんが一番意識してらっしゃることは何でしょうか？」<br />森見さん（以下、敬称略）「意識していること…。普通は締切を意識しています」<br />（一同笑い）<br />森見「『太陽の塔』を書いていたときは、学生時代の自分の妄想を文章にして書きたい、とか考えていたんですけど、今は机に向かう一番強い動機はまず締切で、それに追われているうちにもやもやと妄想がわいてきて、書くという感じですね」<br />岡田「やっぱり外部から『書いて』と言われないと、書く気にはならないんですか？」<br />森見「学生の頃は勝手に書いていたんだけど、締切に合わせて書くのが四、五年続いているので、段々と締切がないと書くのかどうかわからなくなってきました」</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
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<p><a name="2">２◆書くモチベーション</a><br />大石「小説を書かれるモチベーションは何ですか？」<br />森見「締切ですね（笑）。僕の場合兼業（作家）なんで、締切がないとたぶん書かなかっただろうと思うんです。学生の頃は良かったんですけど、働き出すと、仕事が終わると解放されたと思ってそれだけで満足しちゃうんです。もしそこで締切がなかったら、たぶんあんまり書いてなかったでしょうね」</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
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<p><a name="3">３◆「売れる」ことへの意識</a><br />大石「プロとして小説を書かれていくに当たって、『売れる』ということはどれくらい意識されているのでしょうか？」<br />森見「売れてくれなくては困るとは思っています。でも、それは自分でどうこう出来ないことじゃないですか。僕がデビューして本が売れたのも、たまたまそういうものを喜んでくれる人が世の中に一定数いて、ちょうどヒットするところにたまたま僕が出てきて、それで売れたんだろうと思うんです。自分でそこ（ヒットするところ）を狙って球を投げていくことはあんまりできないので、自分でこういう小説なら面白いだろうなぁと思うものを書いたら、たまたまヒットしてしまったというか…、そういう感覚はあります」<br />廣安「こういう展開にしたら読者は喜ぶかなぁ、とかは意識しますか？」<br />森見「面白くしようというのはあるけれども、その『面白い』の基準は結局自分なんで、自分が面白いと思うものなら、大勢の人も面白いと思ってくれるんじゃないかな、という期待はしています。僕がもっと難しいことを考える人間で、超難しい小説をガッと書いて、それでベストセラーになれ！　って言っても、それは難しいことだと思います。ただ、実際に読んでもらうまでどういう反応になるかはわからないので、自分では結構面白いと思っていたのにそんなに反応が良くない、ということもあるだろうとは思います」<br />大石「自分が書きたいものを書いて、その結果としてみんなが楽しんでくれる、ということですか？」<br />森見「そうですね。ただ、だからこそ逆にプロとして心配なこともあるんです。デビューしたころから割合自分の好きなものしか書いていなくて、世の中の流れを読んで『次こういうのを書けば当たるぞ』という書き方をしてきたわけではないので、いざその流れを離れると、もう戻れないんじゃないかと思うんです。それは不安ですね」</p>
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<p><a name="4">４◆小説「だから」</a><br />大石「先日、森見先生の『四畳半神話大系』がアニメになるという話を聞きました。森見先生の作品は漫画化や舞台化などされていますが、その中で小説でしか表現できないこととは何だと思われますか？」<br />森見「なかなか難しくて一言では言えないですが…」<br />渡辺さん（以下、敬称略）「究極の質問のひとつですね（笑）」<br />森見「もともとは、小説しか書けないから小説を書いていただけなんですよね。漫画を描くのも、映画を撮るのも自分には出来なかったんです。でも、書いているうちにある程度小説でしかできないことも色々あるなぁと。お話の演出の方法とか、細かい語り方のテクニックだったりとか…」<br />廣安「昨日ゼミ生で舞台『夜は短し歩けよ乙女』のＤＶＤを見たんですけど、感想としては『良かったんだけど、小説とはやっぱ違うよね』って感じで…」<br />森見「小説で読むことと、それを映像化したものを見ることとは、絶対に違うと感覚的にはわかるじゃないですか。その中で、小説でなければならない理由はなかなか一言では言えないんですが…、だけど、小説は文章だけで出来ているので、その文章が音楽だったり、映像だったり、そういう全てをあらわしていますよね。文章だけで全てを行っているというか…やっぱり、難しいですね（笑）」<br />大石「やっぱり文章がお好きだから、というのが大きいですか？」<br />森見「う～ん、最初はお話を作るということが好きだったんですが、大学生くらいからは文章自体を面白がり始めましたね」<br />岡田「じゃあもし絵がうまかったら、漫画家になっていましたか？」<br />森見「それはそうかもしれないですね。やっぱり自分に一番向いた、一番使いやすい道具を使うでしょうね」<br />大石「文章は読者に多くがゆだねられているから、想像の余地が大きいですよね」<br />森見「都合の悪いところは省けますよね。京都の風景とかも、僕の好きな風景しか書いてないんですよ。小説で読むとなんとなく古風に思える場所でも、その場所をそのまんま写真に撮ったら、結構現在の感じだった、ということもあります。そういうのも結局は『書いてないから』ということなんです」<br />廣安「森見さんの小説を読むととりあえず京都に行きたくなる、京大に行けばよかった、なんてよく思います（笑）」<br />森見「だからそれも、僕が好きなもの、好きな部分しか書かないからですよ」<br />廣安「森見さんの小説を今度漫画化しようとかアニメ化しようとか言われた時に、『俺の書いた世界観は小説でしか表現できないんだから、他のものに変換してくれるな！』とかは思わないんですか？」<br />森見「自分の小説のことは、自分の小説でしか表現できないとは思いますよ。だから舞台化するときはもう別物、という意識ですね。僕はそういうものに対してああしてくれ、こうしてくれとはあまり言わない方らしいんです。自分の作品と言うのは、完全に自分の書いた文章とイコールなんです。そこから派生するものが何であろうと、もう僕は気にしないんです。もし僕の作品を別の形に置き換えたいという人がいて、それで面白くなれば『僕が原作ですよ』って威張っておけばいいし（笑）。僕の中では、自分の書いたもので満足しているというか、それでオンリーワンだと思うんです」<br />廣安「最近の小説は『とりあえず映画化しとけばいい』『とりあえずアニメ化しとけばいい』みたいな傾向があるように思えて。作家の人はそれで副次的に収入が入ってくるけど、本当にそれでいいと思ってるのか、疑問だったんですが」<br />森見「いや、でもそれでもいいんじゃないですかね。映画とかアニメとか他の分野の人がわざわざ自分の小説を読んで何かをしたいと思うのは、人に対して影響を与えたっていうことですし。それは嬉しいことですよね。その人がうまく別の形に置き換えてくれるかどうかはわからないですけど、その人がやってみたいと思ってくれただけでも、それは成功だと思います。ただ、仮に映画化して、その映画が大ヒットして大変な騒ぎになった、っていうことになれば僕も悩むかもしれないですけど（笑）」<br />渡辺「確かに映画のほうが有名になっちゃって、独り歩きしはじめたら、それはそれで怖いかもしれないですよね」<br />森見「例えば僕の小説を宮崎駿が映画化するとするじゃないですか。それでスタジオジブリで宮崎駿の新作として取りかかる時には、たぶんもう僕は存在していないですよね（笑）。それだったら複雑な気持ちになるかもしれないけど、そうそうね、そんなことは起きないし（笑）」<br />坪井「小説というのは、読み手の想像力に任せる部分が多いので、人によってその解釈が違ってくるということが多いと思うんですが、森見さんは『自分が考えたことが伝わってないなぁ』という気持ちになることはないですか？」<br />森見「気分転換に不気味な話を書いたら、『面白くない』という感想が出たりするんです。そういうときは、いや、もうちょっと違う読み方をしてほしいんだけどなぁ、と思ったりはします。でもどうしようもないことですからね。わざわざ一人一人のところに行って、『これはこう読むんですよ』と解説も出来ないですし。よくよく考えると、僕の小説を『面白い』と言ってくれている人も、読み間違えてそう言っているだけかもしれないし…。なんかプラスマイナスゼロなのかなぁって思います。あまり正確に読まれすぎても困りますし。ある程度いい加減なほうが、いろんな人が読めていいんだろうなと思います。みんなが同じものをぴったりと読みとって、同じ満足を得られるようにするというのは何かヘンです。それよりも、Ａさんはここで面白がっているし、Ｂさんはこっちで面白がっているしという方が、読んでくれる人も増えそうな気がしますしね」</p>
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<p><a name="5">５◆「森見ワールド」</a><br />大石「それぞれの小説にご自分がこめられた思いというものもある中で、結局は『森見ワールド』として、世界として楽しまれてしまうことに関してはどうお考えですか？」<br />森見「それはあんまり抵抗がないですね。全部僕が書いているんだから森見ワールドとしか言いようがないし。抵抗があるのは『面白くない』と言われることで。自分が面白いと思って書いたのに、『面白くない』と言われると、いや、事情はわかるんだけど、悔しいなぁと思います。みんなを面白がらせるなんて絶対に無理ですけど、それでもなんというか…悔しいですね」<br />大石「やっぱり読者には楽しんでもらいたいですか？」<br />森見「う～ん、褒められたいですね（笑）。頑張ったねって（笑）」<br />大石「森見さんの小説はよくエンターテイメント小説と呼ばれますが、そのことについてはどうお考えですか？」<br />森見「いやぁ、エンターテイメントなんだろうなぁ、と」<br />廣安「エンターテイメントというと、面白いけど、あまり心に残らないというか、読んでいるその時間だけ楽しければいい、みたいな意味も含まれている気がするんですが……」<br />森見「それは、どういう風に使うのかは使う人次第ですよね。でも、逆に人を楽しませないように書くって難しくないですか？　エンターテイメントを書いていると僕は思っていますが、ではいざエンターテイメントを書かないとなったら何を書けばいいのかわからないんです」<br />大石「自分の影の部分とかは……？」<br />森見「でもそれをわざわざ人に読ませてもしょうがないじゃないですか。多くの人に分かってもらいたい、ということがあるのかもしれないですが……。たまたま僕はそんな大勢の人に見せられるようなものを持っていないんで、せめて楽しませないと書く意味がないんです。たしかに『捨てられてしまうエンターテイメント』になってしまうのはつらいですけど、『これは読み捨ててもいい小説で、これは読み継がれる小説』というような線引きをするのも、なかなか難しいですよね。他の人は読み捨てているかもしれないけど、こっちの人は大事にしているかもしれないし。たぶん僕の本も、読んだらすぐにBOOK OFFに売りに行く人もいれば、ハードカバーで全部そろえてくれている人もいるだろうし」</p>
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<p><a name="6">６◆小説家はパン屋さん</a><br />廣安「もともとこの企画を立ち上げたのは、作家の人たちは自分の本が簡単に読み捨てられていることに対して恐怖とか気持ち悪さを感じていないのか、だとか、作家の人たちは自分の作品を残そうという意志を持って書いているのか、っていう疑問からなんです。たしかに読者は自分の作品を読んではくれるけれども、今の時代どんなに頑張って書いても一回読んだらそれっきりになってしまうことがほとんどで、そういうことに対して作家の人たちはむなしさを感じたりしないのか、という……」<br />森見「あぁ、たぶん僕はそこまで悩まないですね（笑）。僕にとって小説を書くということには、いろんな楽しみがあるんです。究極の目的として、文学史に残るような作品を書く、ということはあるかもしれないですけど、僕にとってそれはあんまり重要じゃないんです。そういう夢も少しはありますけども、本にしていくまでの間にいろんな小さな楽しみがあるんです。それこそ締切を乗り越えたら楽しいし、原稿料が入ってきたり、新しいアイデアが浮かんで来たら楽しいですよね。編集者の人から良い反応が返ってきたときも楽しい。それが段々と一冊の本になっていくことも楽しい。そしてとうとうそれが本屋さんに並んで、読者の人から『面白い』という感想が返ってきたりすれば、それだけでもうかなり元は取れているんです。僕の場合ありがたいことにある程度本も売れるんで、お金もちゃんと入って来るし、もう何を文句を言う必要があろうか、という感じなんです。それは自分の作品が使い捨てになってもいいということではないんだけど、そこまでの間で充分楽しいので、そこから先を図々しく要求する気になれないんです。（渡辺さんの方を向いて）ね？」<br />渡辺「たしかに森見さんは境遇的にはラッキーというか、本当に素晴らしい状況ですよね」<br />森見「う～ん、まぁ自分の意に沿わない作品を書かされて、しかも読者からは馬鹿にされて、使い捨てられて、しかもお金が入ってこない、っていう風だったらそれはつらいですよ。それだったら僕ももっとひねくれますよ（笑）。でも幸い、デビューの頃から締切の数以外は自分の好きなように出来ているので。まぁそもそも仕事を引き受けてしまうところに弱点があるんですが、それ以外は自分の方針を曲げてまで強制されて書かされたりすることはしないで済んでいるので。まぁパン屋さんがおいしいパンを作るのと一緒ですよ。（パン屋に）来た人がぱくっと食べたら、あとはもう出ていくだけじゃないですか。そこでそのパン屋さんは、そのパンを家に持って帰ってずっと飾っておいてくれなんて思わないですよね。たぶんパン屋さんはパンを準備してつくって、店に並べて、お客さんがちゃんと買ってくれて、お金が自分のところに入ってきて、しかもお客さんがそれを食べておいしいと言ってくれたらそれだけでもう満足ですよね。そこでこうもっと野望のある人だったら、パンのカリスマみたいに注目されなきゃ嫌だ、とか思うかもしれませんけど、普通にパンを作って売りたい人なら、そこまでいけばまぁだいたい良い感じだなと思いますよね。だからまぁ（それと同じで）読んだ人が良い感じになってくれればいいんです。僕なりに読んでこんな気持ちになってくれたらいいな、という理想があって、なんとなくそれを目指しつつ書いている気がするんで、買った人が僕の本を読んで、そういう気持ちになれば、そこで僕の仕事は終わりですね。あとはもう残らなくても。数年もってくれれば（笑）。文庫本とかね（笑）。僕の本が売れても、僕だけがもうかるわけじゃないですからね」<br />渡辺「そうですよ。出版社もそれで食べてますから（笑）」<br />廣安「今の目の前にいる――目の前かわかんないけど――今いる、周りに読者の人に向けて書いているってことですか」<br />森見「多分そうですね。でもまああんまり読者の人のことほんとはよく知らないので、こっちは知らない。でもまあやっぱりそれに近いんじゃないかなあ」</p>
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<p><a name="7">７◆「エンターテイメント」</a><br />廣安「『文学』っていうより『文芸』って感じですか」<br />森見「まあ、『文学』がそもそも僕はあんまりよくわかんなかったので。世の中で一般に『文学』って言われてるものが何なのか結局大学のときよくわかんなかったので、大学生にもなってわかんないってことはつまり『僕はエンターテイメントなんだ』って思ったくらいなので」<br />大石「カタい文学ではなくエンターテイメントの方だ、と」<br />森見「それ（カタい文学）じゃないもの、っていうのが全部エンターテイメントだと思ってたので。純文学というふうに言われているもの、芥川賞とか取るような、あの界隈のものじゃないものっていうのは全部エンターテイメントに入るんだろうと僕は思ってたので、だからまあ、エンターテイメントっていうのに抵抗がなかったから。でも『純文学』とかって言われてるものでも、読んで面白いと思ったりするんだけど、その『文学』っていうのは何ですか、って言われると急にわからなくなってしまう。で、なんかこう、普通に読んでても普通に面白いものとして読めているものが芥川賞とか取ったりして、それを『文学』とか『純文学』って言って。それを、じゃあそれはなんで『文学』って言うのか、って言われた時に、それを説明するのは難しいし、しかもめんどくさい。それやったらまあ、エンターテイメントってことにして、好きに書いていこうと」<br />大石「『太陽の塔』を書かれる前は、でも、ちょっと違った感じの文章を書かれていたんですよね」<br />森見「うん、でも――」<br />大石「そのときのモチベーションとは違うんですか」<br />森見「そのときも、純文学的なものを書いたっていうよりは、まあ青春の悩みをちょっと加えて格好をつけたファンタジーみたいなものを書いていて」<br />大石「うわあー、読んでみたいです！（笑）」<br />森見「うーん、いや、ゼッタイ、ゼッタイにあれは…ね」<br />大石「それもやっぱり人に読んでもらうことを前提にして、人に、楽しんでもらおうっていうスタンスは変わらないんですか」<br />森見「そうそう。多分人が読んでも面白いだろうと思ってたんだけど、でもやっぱりまだね、客観的になれなくて、自分が面白いと思うものを書いてた。自分が面白いと思うものをそのまんま書けば人が面白いと思うだろうって…。<br />今も自分が面白いと思うものを書いてることには変わりはないんだけど、なんかそのときはもっとそれが自分に寄り過ぎてる。だから今から振り返ると、他の人が読んでもあんまり面白そうなものではなかったし、あと、なんとなくこう、青春の悩み的なものを入れるとかっこよくなるだろうと思って…で、そういう助平心がすごい恥ずかしい。それ以来、恥ずかしいものはもう書くまいと。自分が恥ずかしいと思いつつ、でも、これかっこいいかもって生半可な感じで書くようなことは決してすまいと」<br />大石「（笑）。でも、『太陽の塔』みたいな小説は、こういうのは小説とはいわない、と思っていらっしゃったんですよね。てことは、その前に書かれた、そういう青春の悩みを交えたファンタジーみたいなものっていうのは、当時のご自分にとっての理想…」<br />森見「当時は、理想にいこうと思ってたんだけど、まあ、今から振り返ればそうじゃなかった。当時も、うすうすこれはやばいんじゃないかっていうのは思ってて。だから『太陽の塔』みたいなものをヤケクソで書いたんだけど、やっぱり今から振り返ると、どちらかというと『太陽の塔』のほうがまだ『小説』って感じ。大学のとき書いてたのは小説じゃない。ヒドイ…」<br />大石「どういう基準でそう思われたんですか」<br />森見「なんでしょう、なんかこう…なんかこう…、『太陽の塔』は、うーん、なんかちゃんとしてる。ちゃんと…オリジナル、って言うと大げさですけど…そこで一つ、ちゃんとした世界があって、書かれてる内容とか文章とかそういうのが全部絡み合ってて、なんとなく一つのものとなってきゅっとそこにあるっていう感じが、『太陽の塔』はするんやけど、その前のやつは、なんかどっかで見たような場面、なんかこういろいろとまだツギハギな感じで…」<br />大石「完成度、っていうことですか？」<br />森見「そう…なのかなあ。『太陽の塔』も、お話としては無茶苦茶ですよ。でも感覚的にもう、なんとなくええ感じにきゅっと収まってる。そう初めて思ったのが『太陽の塔』」</p>
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<p><a name="8">８◆腐れ大学生モノin京都、という縛り</a><br />廣瀬「『太陽の塔』でデビューされたじゃないですか。で、パッとしない大学生像、っていうものに結構共感を持ったり、ああいう大学生像が描かれる作品をもっと読みたい、という読者が多く出てきて。あの『太陽の塔』でのデビューによって、その後の森見さんの作品の方向性、どういう期待を読者たちから寄せられるかという方向性を、決められてしまうっていうところはあったと思うんですけれど、いわゆる『森見ワールド』的なものに縛られていることについて、どう考えておられますか」<br />森見「でもね、今では思うんですけど、最初にそこで縛られないと、多分消えるんですよ（笑）。あのー、すごいもう、身も蓋もない話なんですけど、最初ね、『太陽の塔』が出たときに、『もう大学生の阿呆な話のネタは全部尽きた。もう書けない』と思って、で、次は『きつねのはなし』を出そうと思ってたんです。で、書いてたんですけど、たまたまそれがなかなか出なくて、先に『四畳半（神話大系）』出ちゃいましたけど。そのときに、なんで『四畳半』を書いたかというと、『四畳半神話大系』の出版社の太田出版さんの編集者の方が、『太陽の塔』はすごく良いんだけど、『太陽の塔』を出したからといって、それは届いてない、ごく一部にしか届いてない、と。だから、同じ路線であと何作かやらないと、誰も気付かない、と。で、なるほど、と。しかも、もう全部尽きたと思ったので、なにかしらこう、『太陽の塔』と別のアイディアも出ないと、書けないと思うから、『四畳半神話大系』というのはあんなヘンテコリンな凝った構造にしたんですよ。それで、『四畳半』を書いたんで、意外に書けたと思って、まだ大学生もので行けるわ、と思って、まあそのために、別の…たとえば『メロス』（『新釈　走れメロス　他四篇』）だったら古典を持ってきて大学生とくっつけたり、もうさすがに男だけでは無理やろと思ったので女の子を出してきて、とかっていうふうに、いろんな手を使って少しずつずらして、学生ものでやってきたんだけど。『（夜は短し、歩けよ）乙女』くらいになって、ようやくみんな気付くわけじゃないですか（笑）。なんか腐れ大学生の話を書いてるやつがいる、と世の中の人がようやく気付くので（笑）。最初の一作が出たときに、自分はもう、こう、なんかもう次にまた同じようなの書いたら二番煎じやと思われるとか、思うんですけど、そんなの気にしないで、どうせ多分ほとんどの人気付いてない、そこらへんあんまり気にしないでわかりやすく行ったほうがいい、っていうのは、最初の頃、『四畳半』のときの担当の人が正しい。それはやっぱりそうやと思う。『太陽の塔』の次に、僕が全然違う作品を書いてたら、多分、『この人誰？』、どういうの書く人なのかわからない、だから『きつねのはなし』とかをちょこっと出したって、意外性もないし、そもそも、作風がよくわからない人っていうだけになってしまう。やっぱり読者の人に存在を知ってもらうのは大事。っていうのは今から振り返るとよくわかります。それは、あそこで人の言うこと聞いていてよかったっていう。あそこで『四畳半』を書かないと、自分はまだ腐れ大学生ものを書けるとは思わなかったから。もうちょっとその路線でがんばってみようという気にならなかったので、結局『乙女』も書いてないし…っていうことを考えると、やっぱりあのとき『四畳半』を書いててよかったなあと」<br />大石「ますますどんどん幅広い層に、今よりもっと知られるようになったら、また新しい境地に入ってみたいと思われますか」<br />森見「うーん、でもね、もう、腐れ大学生ものが、さすがにそろそろ厳しくなってきて…だから、もーう、そろそろ、もーう、いいかなあと」<br />大石「たとえば、あのー、京都以外の場所を舞台にするとか、そういう…」<br />森見「そういうのもあり、ですし、まあでもそこらへんも慎重に…少しずつ少しずつ…。僕はそんなに大胆に、がらっと変えるってことはあんまりしない。『きつね（のはなし）』のときも、結局京都が舞台だったりするので、どっかしら今までのところの片っぽう足を残しつつ、少しずつ移動してて、やっぱり様子を見てる。あんまり自分でもうまくいかんなあと思ったら引っ込められるように、なんとなくこう、用心しながら少しずつ広げるんですけど、まあでもそれで少しずつ移動していって、最終的に全然違うところまでうまく行ける。だから、『太陽の塔』が最初に出たときは、まさかこんな小説を書いた人が、『乙女』みたいな、なんかちょっと可愛らしいものを書くっていうのはあんまり思われなかっただろうし。まあだからそこらへんは、騙し騙し、少しずつ書いていけばいいのかなあー。あんまり急に変えるとまた読んでる人に見捨てられるかもしれないし（笑）まあ、そこらへんは少しずつ」</p>
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<p><a name="9">９◆『新釈走れメロス』うらばなし等々</a><br />大石「『新釈　走れメロス』の提案をなさったのは渡辺さんなんですよね」<br />渡辺「それは、そうですね。まあでも、ラインナップとかは森見さんに任せて、ほんとにざっくり、私は、こういうのにしませんか、って言っただけで。なのであとは、どの作品選ぶかとか、どういうふうに変えるかみたいなのは全部森見さんのアイディアです。私がお話させて頂いた時は森見さんの『腐れ大学生』が何作か出たあとで、もう『太陽の塔』も『四畳半』もあったので、＋α、なにか要素を入れたいな、と思って、で、まあじゃあこういうのはどうですか、っていう提案を、させてもらった。そしたら私が考えていた以上のものが返ってきたので（笑）素晴らしい…」<br />大石「そこでどうしてああいう（『新釈　走れメロス　他四篇』のような本を作るという）アイディアを出されたのですか」<br />渡辺「まあなんとなく森見さんがそういうことをやったら面白いだろうなっていうのはあって。そういう、昔からある作品とかを、書き変えるみたいなことは、文学の世界だったら割とよくある話じゃないですか。それこそ太宰とかもやってるし、いろんな人がやってるんだけど、でもそれですごい成功してるときもあるし、逆に失敗したら目も当てられないだろうし（笑）。だからそんなにおいそれと、頼めるっていうネタではないなって思ってたんですけど、森見さんは本当に個性が強いんで、時を経て古典になっているような強い作品だったり、文豪、みたいな人の作品でも、森見さんくらい個性があれば、絶対、なにか違うものになるなっていう思いが、やっぱりあったので」<br />岡田「何かマーケティング的な意図があったわけではないんですか」<br />渡辺「マーケティング的な意図は全くないですね、最初には（笑）。それはないですね。作家さんと同じような感じで、本を作るときの出発点は、自分が読みたいとか、自分が面白いと思う、っていう、その感覚がないと、始められないので。で、まぁそれが大前提で、でもさらに会社の会議で通すには、『いや、あたしがこう思います』ってひとりよがりに言っただけでは、会議には通らないから、じゃあその説得材料として、やっぱりいろんな理由をあとづけでくっつけて。でまぁほんとに誰か一人が面白い、っていうふうに信じていれば、そのうしろに、百万人はなかなか難しいかもしれないけど、一万人くらいは同じこと考える人がいるかもしれない。自分が面白くないと思ってしまったら、そのうしろに誰もいないかもしれないですよね。まあそれはね、最初のスタート地点は、そういう感じ（笑）」<br />森見「でもまあ、『メロス』とかも、ねえ、『新釈　走れメロス』やから、まあ…引きついてくれますけど、『新釈　山月記』とかやったら（笑）」<br />（一同笑い）<br />森見「多分ねー、売れ行きはちょっと…落ちてるかもしれない（笑）」<br />渡辺「落ちてるかもしれないですね（笑）」<br />森見「タイトルを決めるとか、中の作品を選ぶときに、やっぱりちょっとは、考えてて、『（新釈）山月記』は絶対やめようと。で、『走れメロス』だって…やっぱり他にも書きなおしてみたい作品はあるんだけども、これはちょっとあまりにマニアックすぎる、自分が好きなだけかもしれない、とか、まあ他の人は知らないとか、いうようなものは、ちょっと遠慮しとこうかな、と、そういうようなことは考えてる。だからそれをマーケティングというんだったら、マーケティングだろうと」<br />大石「やっぱり根底にあるのは読者の方に楽しんでもらおうっていうことですよね」<br />森見「あわよくば自分も楽しみつつ読者の人を楽しませる、っていう、両方得することができるラインをうまく探すという。まあ『山月記』とか『メロス』は行けるだろうっていう自信があった…と言うと、あれですけど、なんとなく行けそうだっていう。で、本のタイトルを決めるときには、やっぱり、できるだけみんなが知ってるタイトルを。だから別に中身が全部『メロス』とかそういうわけじゃないけど、誰もが本屋でぱっと見たときに、どういう内容の本かっていうのがすぐわかるには、やっぱり『新釈　走れメロス』というタイトルが一番いい。…そうだ、あれはタイトルがなかなか決められなくて」<br />渡辺「タイトル決める時は結構な長電話になりましたよね（笑）」<br />大石「ちなみに、どんな候補があったんですか」<br />森見「『四畳半日本文学なんたら』とか」<br />渡辺「そうそうそう！『四畳半近代日本文学案内』（笑）」<br />森見「絶対、絶対ダメや（笑）」<br />（一同、爆笑）<br />森見「結局もう、渡辺さんにおまかせした」<br />渡辺「いや、最終的に、森見さんにもう何個か案を出してもらって、本当に原題をそのまま使ってやるか、それとも『四畳半近代日本文学案内』的なサブタイトルをつけるか、っていうので…結構、一か月近くくらい悩んだですかね、最初に考え始めてから」<br />森見「元々ないものにタイトルをつけるのは本当に難しくて、タイトルが先にあれば簡単」<br />渡辺「ね、そうですね。まあでも確かにあれはマーケティングといえばマーケティングですね（笑）。そう、だからスタート地点は確かに『これやったら面白いだろうな』っていう、個人的な信念からだけど、まぁ、一応、出版社なので、買ってもらって、売り上げ出さないと、私たちもお給料が出ないので（笑）。やっぱりだからこういう面白いテーマを読んでもらいたいなって思ったら、じゃあどうするのか、みたいなところは、みんなで考えて、やっていく」<br />廣安「実際うちの親も、『新釈　走れメロス』を、よく、わけもわからず、メロスだからいっか、みたいな感じで買ってきてました（笑）」<br />渡辺「それは…それはすごく嬉しいですけど」<br />森見「騙し討ちみたいな」<br />（一同、笑い）</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
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<p><a name="10">10◆表紙・デザインへのこだわり</a><br />大石「森見さんの本の表紙が私すごく好きなんですよ。で、私が初めて森見さんの作品に出会ったのも、あの（『夜は短し歩けよ乙女』の）中村佑介さんの表紙で、そういう表紙のデザインに関しても、同じような意図を持っていらっしゃるんですか」<br />森見「いや、表紙のデザインは僕はノータッチなので何も知らない。こういうふうにしてくださいとも基本言わない」<br />大石「それはもう、森見さんからなにか要望を出す、ということもないんですか」<br />森見「まあ、ゲラが終わった段階で僕はもう終わったと思ってるので、あとはもうすくすく育っていく、人の手によって育てられていく。まあ、毎回そうなんですよ、どの本もそう。自分でこういうふうな本にしてください、と言うんじゃなくて、そっから先はもう編集者の方の腕の見せどころなので、あんまり自分は首を突っ込まない」<br />渡辺「そういう人の方が売れます！（断言）もちろん、今回の作品にはこのイラストしかあり得ない、この写真しかない！　と著者の方が考えている場合もあるし、それと作るほう（編集）の意見がたまたま一致すればいいですけど、やっぱり作品が人に読まれるとなったときには、いろんな見方がありますよね。あんまりイメージを固定しすぎちゃうと、ちょっと物事を一面的に見すぎてしまうというか。やっぱりそこで、他の人の客観的な視点をいろいろ入れて…だから私たちも、著者の方に『こんな感じにしようと思ってます』とかいうのももちろんお聞きするし、あとは、営業の担当者とかと社内でもいろいろ話し合うし、それはもう本当に商品を作るのと一緒だから、こっちがいいかあっちがいいかっていうのを徹底的に話し合っている」<br />森見「僕の専門のお仕事というのは、要するに文章を書いて、話を作る部分までであって、本を作るっていうのは、プロじゃないので、僕はあんまり偉そうなことは言えない（笑）それはもう、そこにくると作ってる側の人間ではなくて僕は本屋さんで本を買う側の人間なので、そこはもう…お任せします（笑）」<br />大石「こだわりも特に持っていらっしゃらないんですか」<br />森見「いや、でも、どうだろう。こだわり…あるのかなあ」<br />大石「たとえば、表紙の絵が、あまりにも細かすぎて作品と喧嘩しちゃってるとか、そういうことがあったら嫌だとか…」<br />森見「あったら、もしかしたら反対するかもしれないけど、今まであんまりそんなことがなかったので。でもちょっとこれ可愛すぎるんじゃないかとか思うこととか、『乙女』とか」<br />大石「『宵山万華鏡』とか…」<br />森見「いや、『宵山万華鏡』はそんなに違和感なかったんですけど、『夜は短し』を最初見たときに、ちょっとお洒落過ぎると思って（笑）。僕…それまで『太陽の塔』とか『四畳半』とか書いてたのに、なんか『夜は短し』はすごいお洒落な表紙で。すごい良いなと思ったんですけど、でも、いやいやこれはちょっとお洒落すぎるやろと思って。でも、お洒落すぎるって言ってＮＯは出さないので（笑）まあ…いいんじゃないでしょうか！　ただ、もしかしたら、戦うべき事態に至ってないだけで、たまたま今まで幸運だっただけかもしれない。まあだからそんなに毎回、失望する、これはまずいと思う、ってことはなぜかなかった。あんまり編集者の人とかと作品に対して具体的に、大きくずれてるってことがないから。単純に僕の担当の方々がみなさん優秀なので…（笑）」<br />渡辺「（笑）。まあでも確かに、そういうふうに『うわこれで来たか！』っていうのはないですもんね。やっぱりねえ、本によっては、『何だコレは！』っていうのも、もちろん世の中にはあったりはしますけど（笑）森見さんのは幸い、ね、今までそういうケースがなかったっていう」<br />森見「まあでも僕が小説を書いて装丁まで考えるなんてもうやってられませんよ（笑）。僕にそこまでの能力はない…（笑）」<br />渡辺「あとは、森見さんの場合は原稿の段階で既に作品の完成度が本当に高い。それに世界観もはっきりしているので、装丁のイメージが膨らませやすいんです。いずれにせよ編集者としては、原稿を書くという作業は著者の方にしかできないことで、そこだけは何をどうしても他の人は引き受けられない部分なので、それぞれ役割分担していい物を作りましょう、という気持ちはあります。編集者は、本作りはお手伝いできても、小説を一から創り上げることはできない」</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
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<p><a name="11">11◆小説は間にありてつつくもの</a><br />廣安「話の展開について、編集の方がアイディアを出したりとかはしないんですか」<br />渡辺「あ、それはもちろんそういうケースもあります」<br />大石「それに関してはどう思われますか。自分の望んでいない方向に独り歩きしているように思ったりとか」<br />森見「それはだって、もし自分の望んでいない方向のアイディアが出ても採用しないですからね。でもあんまり、そんなにこう、この先の話がわからないから考えてください、って編集者の人に頼むようなわけではなくて（笑）。僕あんまり相談しないほうだとは思うんですけど、僕の場合はたいていはとりあえず作ってみる。それを見て、相談しましょう、的な感じになってそこから始まる。まあ『メロス』とかにしても、大雑把に『まあこんな感じで行きますわー』と最初決めて、で、とりあえず書いて、で、まあ渡辺さんに見せて、相談する。なんか僕、自分が小説家になる前は、自分の小説を人に読ませるっていうのがすごい恥ずかしくて。しかもその小説について、ここは間違ってますねとか、ここはもうちょっとこうしたほうがいいですよ、なんて言われるなんていうのはスッゴイ恥ずかしいことだと思ってて。でも、小説っていうのは、できてしまった「モノ」なんですよね。こう、自分っていうよりも、もっとなんかこうニュートラルというか。ゴロンとこう、目の前にとりあえず出てきたっていう。それを、編集者の人たちと間に挟んで、いろいろ考えるわけですよ。で、そのときに、編集者の人が、この小説について、ここはこうだとかああだとか言わはっても、それは僕に向かって言われてるんではなくて、二人の間にあるコイツに言ってるっていう。それが、小説家になるまでわかんなかった。人に、編集者の人とかに見せて、なんか言われるっていうのは自分があれこれ言われるんやって思ってたんですよ。だけど、今の僕にとっては、とりあえず作ってみた小説を編集者の人と二人で端から見て、あっちこっちつついてる感じ」<br />大石「それはもう、『太陽の塔』を出されたときから、そうなんですか」<br />森見「いや、『太陽の塔』のときはまだそんな感じじゃなかったですね」<br />大石「ターニングポイントは？」<br />森見「それはもう、多分『四畳半』ですね。『太陽の塔』は、書いてたときはとにかく一人で書いてて、いきなり編集者にポンと渡す。で、『太陽の塔』についてあれこれ言われるのは恥ずかしくて嫌だったんですけど、『四畳半』のあたりから、もう『四畳半』も結局とりあえずうわーっとこう作って、で、できたので、見てください、って感じで相談して。そういう意味では恥ずかしくなくなったというか。書いてるときは結構いろいろのめり込んでたりするんだけど、いっぺんできてしまうと、もっと客観的になって、ここはああしたほうがいいんじゃないかとか、ここは余計なんじゃないかとか、それができるようになったというか。なかなか、そこは全然、自分が大学生とか高校生とかのときにイメージしてた小説家っていうのとはちょっと違う。そうじゃないと編集者の人と相談するたびに恥ずかしくて仕方がないと思う（笑）」<br />大石「自分に対して言われているように思う、人格を否定されているように思う、ということですか」<br />森見「でもね、やっぱりそれは、今でもちょっと余韻で残っていて。やっぱり完璧にニュートラルにはなれないので、読者の人に面白くないって言われたらちょっとビミョーな気持ちになるじゃないですか。やっぱそれは、ある程度は残ってるわけだけど、まあ編集者と相談するときは、あんまりそのあたりは気にならない（笑）」</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
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<p>【後編に続く】</p>
]]></content:encoded>
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		<series:name><![CDATA[乱創、使い捨て文学]]></series:name>
	</item>
		<item>
		<title>４．取材◆永江朗先生（ライター）</title>
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		<pubDate>Sun, 14 Mar 2010 18:53:37 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/15/%ef%bc%94%ef%bc%8e%e5%8f%96%e6%9d%90%e2%97%86%e6%b0%b8%e6%b1%9f%e6%9c%97%e5%85%88%e7%94%9f%ef%bc%88%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%82%bf%e3%83%bc%ef%bc%89/"><img align="left" hspace="5" width="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/nagaesennsei1.JPG" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>2009.08.20＠早稲田大学戸山キャンパス。永江朗先生に取材してきました。]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<p><strong>永江朗先生×立花ゼミ文学企画<br /></strong>2009.08.20<br />＠早稲田大学戸山キャンパス</p>
<p>参加ゼミ生：栄田康孝、窪田史朗、関翔平、山口達也、廣安ゆきみ</p>
<p><a name="mokuji">【目次】</a><br />１◆<a href="#1">作っても売れない、売れないから作る</a><br />２◆<a href="#2">価値観の多様化の契機</a><br />３◆<a href="#3">ニューアカデミズムの対立軸</a><br />４◆<a href="#4">岩波＝ヴィトン？</a><br />５◆<a href="#5">「フラット」な今から見た未来</a><br />６◆<a href="#6">電子ブックの未来</a><br />７◆<a href="#7">余裕のない日本出版界</a><br />８◆<a href="#8">結局は、やっぱり金じゃない</a><br />９◆<a href="#9">残るのこらない</a><br />10◆<a href="#10">始めはほとんどドマイナー</a><br />11◆<a href="#11">現代の作品もちゃんと残るんですか</a><br />12◆<a href="#12">就職難の方が深刻です</a></p>
<p> </p>
<p><a name="1">１◆作っても売れない、売れないから作る</a><br />廣安<br />「出版点数が増加する中で、その状況を批判しながら永江先生ご自身も、たくさん本を書いていらっしゃるわけですが、そのモチベーションはどこにあるのでしょうか」<br />永江先生（以下、敬称略）<br />「モチベーションと言われると、困るなぁ。そもそも、点数が増えるってことは、書き手にとってはすごく書きやすい、発表しやすい状況になってきているってことでしょう。もっと下品な言葉でいえば、３０年前だったら本にならなかったような内容、レベル、マーケットのものが今だと可能になってる。それは内容が劣ってる本がどんどん出てるっていうよりも、マーケットや他の要因で昔は出しにくかった本も出やすくなっている、ということですね。出版社の方もすごく書き手を求めているし。<br />例えば笙野頼子（※１）さんは、群像新人賞をとってから１０年間、本が出ていなかったんだよね。今では、新人賞どころか候補作レベルでも単行本になったりしてるでしょう。そういうのに典型的なように、出版点数の増大によって、書き手にとってはデビューしやすくなった。<br />だけど、ベテランの作家にとってみたら、１５年で出版点数が倍になったのに書籍の総売り上げは１５年前と変わらない（※２）っていうわけだから、実質自分の本が半分くらいしか売れない。なんか競争相手はたくさん出てきて、俺の作品の質はそんなに変わってないのに、売れないなぁって、気持ちだろうね。編集者にしてみてもそれは同じで。昔と同じ手間をかけて本を作っているのに、半分しか売れない。だから、昔は月１冊本を作っていた人が今は２冊作んなきゃやっていけない。それが自転車操業ってやつですよね。<br />書籍のマーケットに関しては、そんなに大きく縮小も拡大もしていない。みなさんが生まれた頃と同じくらいの規模なわけですよ。そしてその頃は、みんな『本売れないよね』なんて実感はもっていなかったんですよね。だけど今は、出版界この世の終わり、みたいな感じになってるわけでしょう。その理由は、作っても売れない、売れないから作る、っていうこの状況にあるわけですけどね」</p>
<p>（※１）芥川賞・三島賞・野間文芸新人賞の三冠を達成した唯一の作家。<br />　　　　<a href="http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%99%E9%87%8E%E9%A0%BC%E5%AD%90">http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%99%E9%87%8E%E9%A0%BC%E5%AD%90</a>（wikipedia）<br />（※２）1996年をピークに下り坂、現在1989年くらいと同じくらいである。</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="2">２◆価値観の多様化の契機</a><br />関「じゃあ３０年前っていうのは本の多様性がそんなになかった、今は書き手側の多様性が増してるっていうことですかね？　その原因はどこにあるんでしょう」<br />永江「二つあって、一つは日本の出版流通の条件が、自転車操業にならざるを得ないシステムであるっていうこと。つまり再販制と委託配本制ということですが。<br />再販制度っていうのは、独禁法の例外事項としてあるわけですから法的な問題ですが、もう一つの委託配本制度っていうのは、出版業界の慣行みたいなもので、まったく別個の制度なわけですけどこの二つが一緒になることで、出版社は果てしなく点数を増やし続けなければならなくなっている。そしてそのためにコンテンツもたくさん必要になるわけですよね。<br />まぁありふれた言い方ですけど、日本の社会が消費社会として成熟する中で、価値観がすごく多様化して細分化した契機となるのは、ベルリンの壁崩壊と旧共産圏の雲散霧消ですよね。これによって日本のアカデミズムの体系ががらっと一転した（※３）わけですよね。<br />ニューアカデミズムと呼ばれる流行現象が80年代の頭で起きていますが、そこまでずっと20世紀の知的生産活動がずっと続いていっていて、それがある程度いったところで冷戦終結、今までの価値観はがらがらーと崩れる。そしてそのとどめが95年のオウムと大震災だと思いますけどね」</p>
<p>（※３）典型的なのが本郷の古本屋の価値体系である。ベルリンの壁崩壊以前は、マルクス主義の文献くらいきっちり読んでおかないと学者としてやっていけないという風潮があったのに、崩壊以後、古本屋の値段体系ががらっと変わった。　　</p>
<p> <img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/nagaesennsei1.JPG" border="0" alt="" /></p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="3">３◆ニューアカデミズムの対立軸</a><br />関「そのニューアカデミズム（※５）の流れっていうのは、最後の方は東浩紀に流れてった感じがありますけど、最初の方は、浅田彰さんとか割と左寄りの人ですよね。それはやっぱり元々のアカデミズムから出発しなきゃならないっていうのがあったからなんですかね」<br />永江「当時の私の同時代的な観点からすると、今でこそ浅田さんは左寄りな感じがするけど、左寄りの人からすると右っぽいっていうか。彼が出てきた頃は、それまでの左に対して反動的だと見られていたんですよね」<br />関「じゃあ浅田さんとかに対する対立軸っていうのは日本の場合そんなになかったということですか」<br />永江「んーまぁ、旧・新左翼でしょうね」<br />関「そこの地点で、ニューアカデミズムっていうものが、今の僕からみると、わりと左寄りな部分から出発して、冷戦という時代を経て、終焉を迎えて、それがなんとなく有耶無耶になったまま、アカデミズムというものが出現しなくなって今になって、そのときの対立軸っていうのがようやく、すごく大衆的な形で――小林よしのりとか――出てきちゃったのかなと、思うんですけど」</p>
<p>（※５）ごく簡単に言うと、「特定の学問の領域を超えた思考・研究」。</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="4">４◆岩波＝ヴィトン？</a><br />永江「それを今日の話と無理矢理つなげるならば、ニューアカとかポストモダン思想というのは、『あらゆる価値は等価だ』っていう風にしたわけでしょ。それは価値の紊乱でもあるし、それまでの教養主義的な価値のヒエラルキーを否定することにもなったわけですよね。彼らが否定したかったのは、戦前の旧制高校からずっと引きづられている教養の体系ですよね。古典の名作も、今でいうケータイ小説もライトノベルも、全て等価であるってしたわけですよ。<br />田中康夫の『なんとなく、クリスタル』（1980年）が出たときに彼がよく言ったのは、岩波新書を一冊読み終えたときの感動と、ヴィトンのバッグを初めて買った時の女の子の感動は等価なんだ、って。それは、従来の価値観でいうと、許せないことですよね。そして当時、埴谷雄高と吉本隆明の間で有名なコム・デ・ギャルソン論争というのが起きて（※６）。それに代表されるように、消費社会に嫌悪感があるかどうかっていうのも、大きなポイントですよね。<br />で、結局なんだかんだいって、ポストモダン的な、あらゆる価値は等価だっていう思想が、勝利しちゃったんだと思うんですよ。従来の教養の体系は意味がない、全部フラットなんだ、って。そして後は個人の嗜好だけが残るんだ、って、これが東浩紀が言う、『みんな動物化した』っていうやつですけど。<br />それで95年がなにが象徴的だったかっていうと、まず地震が起きたこと（※７）。次に地下鉄サリン事件（※８）、そして経済危機（※９）。だからみなさんは、生まれたときから『日本はダメだダメだ』って言われた時代なんですよ。だからみなさんの気分からしてみると、『あらゆるものは等価だって言われたってさ……』という感じでしょう？」</p>
<p>（※６） 当時吉本隆明（この娘がよしもとばなな）がコム・デ・ギャルソンの服を着てファッション誌に登場したところ、かつての盟友だった埴谷雄高（長編小説『死霊』が有名）が、「あんな服を着てＣＭに出て資本に使われるなんて」と言い出した。それに対して吉本が「これは優れたものだ」と反論して……という論争。<br />（※７） 日本人、日本の土木事業に与えた影響は計り知れない。<br />（※８）日本は治安良いって嘘じゃん！<br />（※９）＝Japan as NO.1の崩壊</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="5">５◆「フラット」な今から見た未来</a><br />関「そうなんですよ。指標が失われてるっていうか。だから僕なんかは、過去の権威化された文化なんかに、すごく惹かれちゃってるっていう実感があるんです。だからこういう溢れ出す書物の中にも、みんななにか指標を求めているんじゃないかなと……例えば小林よしのりとか（笑）。<br />文学でいえば、書評っていうのがなにか指標になるのかなって思うんですが、今はそれ自体も消費されてる感があって。じゃあ今後出版業界はどうなっていくのか。指標を新たに作り出す方向にいくのか、このままフラット化された状態のままいくのか、未来が気になるんですけど」<br />永江「今指標としてあるのはランキングだよね。年間８万点、一日にすると300点近い本が出版されていて、実際何を買っていいかわからない、そんな中で指標となるのはやっぱり売れているものでしょう。チェーン店の書店なんかだと、本部が各店舗に、トップ40は絶対欠かさないようにって、そういう指令の仕方をするわけですよ。」<br />窪田「売れればまたランキングが伸びる」<br />永江「だから売れるものに集中する、売れないものは消えていってしまう、っていうのはありますね。でもたまに特異な状況がおきます（※１０）。もちろんそれは、従来のランキング依存だと有り得ないことですけれど、でもそれを組織的にやっていこうって考えたのは、本屋大賞でしょう。<br />ただ本屋大賞には構造的な欠陥があって。書店員の人気投票で決めるってことは、書店員がそれを読んでなきゃいけない。読むためにはそれが全国の書店に配本されてなくちゃいけない。全国には１万6000店の書店があるけれど、今文芸書の初版部数って、下手すると3000いかないですからね。しかもジュンク堂みたいなところはどんな本でも新刊は2,30冊は積むわけ。となると、本屋大賞もある程度売れ線の人気の高いものしか選ばれない、というね」<br />廣安「確かに、座談会したときも、『書店員だからって（一般人より多彩に本を）読んでるのか？』って意見があがりました」<br />永江「でも、彼らもそういう構造的な問題があるって分かっていて始めたわけですよね。審査員が討議して選ぶ賞は他にいっぱいあるわけだから、同じことをやってもしょうがない。だからそこでランキング依存でもなく、新しい文学賞を、と。<br />ただ、やっぱり指標のない時代の不安感の裏返しみたいな現象（※１１）は、ここ数年でいっぱい起きていますよね」</p>
<p>（※１０）近年でいうと『世界の中心で、愛をさけぶ』。実際に売れるまでに半年くらいタイムラグがあった。全国の書店の店員が、なぜか示し合わせたかのように、『この本は普通だったらもう返品しないといけないんだけども、もうちょっと置いとこうかな』と、同時多発的にえこひいきしたのがヒットの原因か。<br />（※１１）例えば、光文社の古典新訳文庫のヒット、池澤夏樹の個人編集による世界文学全集（河出書房新社）など。池澤は「カノン（聖典）」が失われた時代だから、そういうものをあえて個人で選んで、全集という形でパッケージするんだと言った。</p>
<p><img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/nagaesennsei41.JPG" border="0" alt="" /></p>
<p> <a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="6">６◆電子ブックの未来</a><br />廣安「でも、たまにそういうヒットが出ても、たいていは忘れ去られますよね」<br />永江「ただね、元々本って、マイナーなものなんじゃないの。だからね、日本の文学史とか近代出版史を見ると、東大早稲田慶応、プラスアルファで作られてる、マイナーな世界だよね。書き手も読み手もね」<br />窪田「狭い世界というか」<br />栄田「読み手も、僕の周りをみても、小学校時代とか、そんな本を携えて遊んでるひととか、あんまりいなかった。今はテレビもあるしネットもタダで見れるし、一冊何千円もする本を小学生も中学生もあんまり買わないだろう、というのが僕の実感で。<br />じゃあ最近電子ブックとかが増えてきていますけど、そういう書店のあり方っていうのは、今後展開されていくと思いますか」<br />永江「それは分かんないよね。まぁ電子化するって方向は間違いないと思うんですが、電子化すれば絶版・品切れがなくなるっていうのは必ずしもそうではないというのが分かってきていて。例えば、パソコンの一番はじめの記憶装置って、カセットテープなんだよね。その次がフロッピーで、でも今はもはやそれを読み取る機械がない。少なくともワープロやパソコンが出始めた当時、『これに入れとけば紙よりも持つ、永久に持つ』と思っていたものが、実は紙よりも命が短かった。あるいは、フォーマットもそうだよね、ワードのフォーマットがいつまでもつか。そういうように、電子メディアだからって永久にっていうことはなくて、やっぱり紙とインクは強い。<br />でも、電子メディアにはそれを補ってあまりある様々な利点はありますよね。例えば、アメリカで今開発されてるのが、Ａ５サイズで表示される電子本で、学校のテキストに使えるんですよ。アメリカの大学では、教授が自分の著作を教科書にするのが禁じられているところが多いので、レポートなんかでいちいち課題図書を指定するんですね。だから今までは、成績が優秀なやつってのは足が速いやつだったわけだけど――いちばんに図書館に走って本が借りられるから――、電子本だったら、学生がそれを一斉にダウンロードすればいいわけでしょう。だから、日本では電子本の端末っていうのはなかなか受け容れられないけれど、アメリカでは市場的に成功している（※１２）。ただ、結局それは出版社と著者のマインド次第、っていうか。日本の出版社って自分の目先のことしか考えないからね」<br />窪田「それは、自転車操業のせい……目先のことしか考える余裕がないってことじゃないんですか」</p>
<p>（※１２）実際、アメリカは電子書籍が安い。大体1000円くらい。逆に紙のハードカバーが高い（日本の倍くらい）。「もしかしたら、『１Ｑ８４』がBook1・Book2（・Book 3？）で千円ですっていったら、もっとヒットしたかもしれない」（永江先生）</p>
<p><a href="#mokuji">△</a> </p>
<p><a name="7">７◆余裕のない日本出版界</a><br />永江「うん、余裕っていうのは、ふさわしい言葉ですね。何に対しても、余裕ないよね。それは出版社だけじゃなくて、書店ももうちょっと余裕もって人を配置させるとか、余裕もって働かせることができれば、もっと魅力的な書店の作り方できるのに、って（※１３）。<br />例えば紀伊国屋書店なんかでも、ベテランの人をずっと雇いつづけて品揃えさせてきたけれど、それがだんだん出来にくくなってきてる。出版社でいうと、今までは雑誌、とりわけコミックで大儲けしてたのに、今コミックも急降下ですから。小学館みたいなところは、キャラクタービジネスで何とか補うけれども、そうじゃないところは厳しくなって、いまは目先のことしか、考える余裕ないよね」</p>
<p>（※１３）東京堂書店などは、余裕がある書店だとのこと。不動産資産を大量に持っているし、日本の近代出版史そのものがあの会社であるし。『金色夜叉』（尾崎紅葉）の金山のモデルは東京堂書店の創業者だったりする。ちなみに、この書店は我らが立花隆氏も行きつけ。３Ｆには立花隆セレクションによるコーナーがある。</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="8">８◆結局は、やっぱり金じゃない</a><br />関「じゃあ、そう余裕がない中で、学術的な、ある種のカラーを出していこうとしている出版社――例えば『ユリイカ』出してる青土社――って、何で踏ん張れてる（※１４）んでしょう」<br />永江「それは、お金だけじゃないっていうことに尽きるんだと思うんですよ。大手に入った人は、３０代半ばで1000万以上の年収を得ていますけども、人文書専門の小規模なところに入った人は、その３分の１ももらえないわけだよね。学校のときの成績は同じくらい（学術書をがりがり編集できるわけだから、寧ろ小規模な方に行った人のほうが上だったかもしれない）のに、金銭としての見返りは必ずしもそれに見合うものでなかったりするわけ。<br />でも彼らは編集者を続ける。それはお金だけじゃないよね、きっと。すごく給料高くて楽しい（マガジンハウスみたいな）出版社をやめて、もっと過酷な状況に飛び込んでいく編集者もいるんだよね」<br />廣安「じゃあ大手の編集者だと、『なんでこんなことやってるんだろう』って常に自問自答、悩みながらやってらっしゃる方もおられるんですかね」<br />永江「特に大手だと、自分で部署を選べないじゃないですか（※１５）。文芸春秋なんかは人気が高いけど、あそこは人事異動、ごちゃごちゃなんですよ。前『ＣＲＥＡ』で一緒に仕事した編集者が、『いやぁ私、先月まで秘書課でお茶くんでたんですよね』って言ってて。『文學界』作ってた人が、いきなり『諸君！』で右翼系の記事チェックしなくちゃいけないとか」<br />関「そういう風なのも大事なのかなって、思うんですけど。いきなり始めから文芸局でっていうよりは、あちこち飛ばされて……っていう方が、最終的には魅力的な編集者になるのかなって」<br />永江「まぁ適性は自分よりも上司のほうがよく分かるっていうのはあるからね」</p>
<p>（※１４）ただ、『諸君！』『論座』『月刊現代』といったオピニオン雑誌もどんどん休刊に追い込まれている。「10年前だったら、どんなに赤字垂れ流しても出版社がやめない媒体だったと思うんですけど、それをやめざるを得ないくらいに、出版社の経営が追い詰められている」（永江先生）<br />（※１５）「一時期、冗談で言われたのが、朝日新聞はマスコミでも人気の高い就職先だけど、新聞本体よりも出版の方が希望者多いって。新聞入ると、必ず地方局のサツ回りからさせられるけど、出版だと東京勤務でしょう。東京大学みたいなところの学生だと、付き合いの範囲も狭いわけじゃない。それが社会部とか配属されて、やくざのおじさんと喋るって、口のきき方も分からないでしょう。だったら出版局で、ちょっと給料安くても言葉の通じる人と仕事がしたいって思うよね（笑）」</p>
<p><img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/nagaesennsei2.JPG" border="0" alt="" /></p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="9">９◆残るのこらない</a><br />廣安「えーっと、ちょっと話を文学の方向に持っていくと。小説の場合、作家の気持ちとしては、それなりに多くの人に届く、残るような話を書きたいんじゃないかなと思うんですが……軽い新書だとかちょっとしたお役立ち本なんかについては、書く方もそんなに『残る』ことを意識したりはしないんですかね」<br />永江「色々、ですよね。ただ、これは書くことに限らず全ての仕事はそうですけど、刹那的にお金に換算されればそれでいいやっていう人は少ないと思いますね。何らかの形でそれが世の中に残って影響を与えてほしい、って。だから、確かに書き手の中にはほとんど自分で書いてない、喋るだけって毎月のように量産している人も結構いるわけですけど、そういう人でも自分のメッセージが何らかの形で世の中に残れば、とは思っているでしょうね」<br />廣安「先生が本を書くときに、『これは何十年後の人も読むかなぁ』と思いながら書かれるんですか」<br />永江「それは…あれですけど、ただ国会図書館には入るじゃない？　日本の場合は法律で納本義務があるからさ。あれは永久に残るわけですよ。だから、お墓買うよりも本書いたほうがいいって思うけど（笑）。でも、それは逆に恐ろしいことですよね、国会図書館には自分の本が残っちゃうんだ、っていう（※１６）」</p>
<p>（※１６）昔、「週刊誌なんてどうせ一週間で消えるから、ちょっと間違ったこと書いたっていい、それが週刊誌の勢いってもんだ」と言う週刊誌の編集者がいたそうだが、残念ながら国会図書館行ったら全部残っている。勢いの歴史が。</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="10">10◆始めはほとんどドマイナー</a><br />廣安「前、ある作家の方を追いかけるドキュメンタリー番組があって、そこでその作家の方が新作を書きながら、『こんなに本がある中で自分の書いているものが世の中に意味をもつのか分からなくなり、書けなくなりました』というナレーションが入っていたんですけど、そこまで悩むことは珍しいんですかね」<br />永江「どうでしょうね。ただ、ここ百年くらいですよ、作家の本を社会のみんながすごく関心をもって読むようになったのは。歴史的名作ってほとんどが始めはドマイナーだったわけじゃないですか。だから、自分の書いたものが世の中に影響を与える、なんて考えること自体が……」<br />廣安「不遜ですか（笑）」<br />永江「そうだねぇ。だって古典名作になるまでに忘れ去られたものがたくさんあるわけですから。ほとんどはもう砂粒ですよ、出版物なんて。それで良いんだと思いますけどね」</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="11">11◆現代の作品もちゃんと残るんですか</a><br />廣安「今、百年前の著作で名作と銘打たれて残っているものは色々あると思うんですが、じゃあ現代の作品で百年後も残る――」<br />窪田「『読みなさい』という形でね」<br />廣安「ものって、少ないんじゃないかと思うんですけど」<br />永江「んー……どうでしょうね、確かに表現の分野がすごく広がってますから――ゲームの名作ってのも出てきてると思うし――小説っていうジャンルの占める割合が相対的に減るっていうことはありうると思いますけど、人間の知的生産能力がそんなに短期間で萎れはしないんじゃないかなと」<br />窪田「そこそこの人間がいたら、そこそこの生産はつづくんだ、と？」<br />永江「そう。だからその意味では私はさして心配していないし、逆に期待もしていない」<br />廣安「才能がせっかくあっても、それが生かされないっていうことも、ないですか？　編集者の人がそこそこの力でしか作家を育てないから、７５％止まりで終っちゃうー、とか……」<br />永江「まぁ、ありうるよね。中上健次がいまデビューしたとして、もう一度中上健次になれるかって、それは分からない。だけどそれはあらゆる人は時代の制約を受けるわけだから、それは、仕方ないでしょう。逆もあるしね。例えば舞城王太郎はいまの時代だからこそだろうし」<br />栄田「僕らが心配していることは、それほど危機的状況ではない、と」<br />永江「まぁ十年単位ではそんなに変わらないと思いますね。ものごと百年単位じゃないと。ま、でもみなさんの就職問題としては相当深刻ですよね（笑）」</p>
<p><img src="http://kenbunden.net/wpmu/files/2010/03/nagaesennsei3.JPG" border="0" alt="" /></p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p><a name="12">12◆就職難の方が深刻です。</a><br />廣安「もってらっしゃる学生さんたちは、みなさん出版界を希望して……？」<br />永江「そうですね、出版界とかメディア界志望が多いようです。みんな、東大早慶くらいだと、入学したときは自分は人生の勝利者だ、って思ってるんですよ。でも３年生くらいになると、『あれ？』って。それは職種にもよりますけども、必ずしも東大早慶ってことで下駄はかせてもらえるとは限らなくて、例えば河出書房新社で私の担当してくれてる人は東大の国文だったんですけども、受けた出版社は全部落ちたって言ってましたからね。それでやっと紀伊国屋に受かって、最初は書店部門。そしたらようやく紀伊国屋の出版部に異動になって、で去年河出書房に移って、って話ですからね。講談社の文芸文庫編集部長になった彼も東大ですが、新潮社は落ちたって言ってたね。大学のブランドで入れるほど出版社は甘くありません」</p>
<p>一同「長々とありがとうございました」</p>
<p><a href="#mokuji">△</a></p>
<p> </p>
<p>【編集後記】<br />どんな取材記事にも言えることですが、これでもかなり削ったほうです。<br />面白かった冗談だとか（笑）、具体例だとか（永江先生のお話は具体例が豊富で、これだけでも勉強になったので）、ことごとくデリートするこの歯がゆさは、文字起こしには必ずついてまわるもの。<br />普段読んでいる雑誌の記事なんかも、こういう苦渋の削除の累々の上に成り立っているんですね。</p>
<p>記事：廣安ゆきみ／写真提供：栄田康孝</p>
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		<series:name><![CDATA[乱創、使い捨て文学]]></series:name>
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		<title>３．承</title>
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		<pubDate>Sun, 14 Mar 2010 17:09:58 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/15/%ef%bc%93%ef%bc%8e%e6%89%bf/"><img align="left" hspace="5" width="150" height="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/wp-content/plugins/thumbnail-for-excerpts/tfe_no_thumb.png" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>夏学期の活動をふまえて、冬学期は実際に方々に取材に行きました。フリーライターの永江朗先生、小説家・森見登美彦さん、講談社の太田克史さん。それぞれに取材させていただくことになった流れを回顧してみる。]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<p>　夏学期（いわゆる、前期）をかけて、読書アンケートを実施したり、某文学賞の贈賞式に潜入したり（※記事にはなっていません）、文芸サークル同士の座談会を催したりする中で、出版界・文学界に対する我々自身の知識知見が深まり、これらの活動自体が貴重な経験となったことは間違いがない。しかし、そろそろ。そろそろ、企画の本来の趣旨に立ち戻っても良いのではないか。<br />　実際、贈賞式では現場の編集者の方々と、座談会では他団体の「本好き」のみなさんと、そして何より半年のうちに企画メンバーと重ねた議論（もとい雑談）から、作家や編集者に何を問いたいのか・そして何を知りたいのか、ようやく言葉にできるような気がしていた。「文学企画」なりの「見聞伝」の方向性が見えてきた、と言えば格好良いか。残り半年で何か成果をあげなければ、と若干焦っていたのは否定しませんが。</p>
<p> </p>
<p>　というわけで夏休み、我々はある芥川賞作家の方にコンタクトを取った。すると、直接の取材は難しいが、メールでのやりとりになら応じてくださるとのこと。そして本当に、こちらの（だいぶストレートな）質問に、ひとつひとつ答えていただいた。その具体的な内容は、残念ながらWEB掲載できないのだが、このお陰で企画に大きなはずみがついた。</p>
<p> </p>
<p>　そこで次に我々は、フリーライター（兼、現在早稲田大学客員教授）の永江朗先生にお話を伺えないかと目論んだ。というのも、先生は、現代の出版事情について多くの著書をお持ちで、特に09年に上梓された『本の現場　本はどう生まれ、だれに読まれているか』は、まさに我々が抱えている問題意識（　<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2009/12/01/%e2%97%86intro-2/">intro</a>　や　<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2009/12/17/%ef%bc%90%ef%bc%8e%e8%b5%b7/">０．起</a>　参照）にも深く切り込む内容だった。しかも、過去には書店員や編集者としてお勤めの経験もおありだという。<br />　そして我々の依頼を快く受けいれてくださった先生への取材は、８月半ば、早稲田大学戸山キャンパスにて行われた。<br />→記事は<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/15/%ef%bc%94%ef%bc%8e%e5%8f%96%e6%9d%90%e2%97%86%e6%b0%b8%e6%b1%9f%e6%9c%97%e5%85%88%e7%94%9f%ef%bc%88%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%82%bf%e3%83%bc%ef%bc%89/">４．取材◆永江朗先生（ライター）</a></p>
<p>　<br />　永江先生からは、出版界を冷静（当事者的でありながらもとても客観的）に見つめる姿がうかがわれ、私個人としても非常に面白いお話を聞くことができた。<br />　となると今度は、実際に出版界・文芸界の中にある（まるきり当事者たる）小説家の方の視点が気になってくる。もちろん、先述の作家の方から返ってきた回答は、ことごとく示唆に富んでいた。しかしやはり、直接話をしないと得られない（あるいは、ぶつけづらい）ことというのもある気がする。それに、この企画が求めるのが唯一解ではない以上、取材した数だけ得られるものがあるのではないか。</p>
<p> </p>
<p>　そこで冬学期、浮上したのが、森見登美彦さんの名前である。駒場の生協書籍部の文庫売上げランキングのトップ３を独占するほどの人気ぶりにふさわしく、うちの企画メンバーにもファン多数（私含む）。しかしその作品はどれもどことなくテイストが似ており（京都を舞台にした腐れ大学生ものが多い）、エンタメの王道を行く。では、「森見ワールド」に縛られていると感じることはないのか。「面白かったー」という感想にとどまらず、読者に自分の作品が大事にされている、という実感はあるか。聞きたいことは山積みである。<br />　そして11月下旬、都内某所のカフェで念願はかなった。<br />→記事は<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/15/%ef%bc%95%ef%bc%8d%ef%bc%91%ef%bc%8e%e5%8f%96%e6%9d%90%e2%97%86%e6%a3%ae%e8%a6%8b%e7%99%bb%e7%be%8e%e5%bd%a6%e3%81%95%e3%82%93%ef%bc%88%e5%b0%8f%e8%aa%ac%e5%ae%b6%ef%bc%89%e2%97%87%e5%89%8d%e7%b7%a8/">５．取材◆森見登美彦さん（小説家）</a></p>
<p> </p>
<p>　ライターさん、作家さん、と取材が続き、そうなると、ぜひ編集者の方にもお話を伺ってみたくなる。そして挙がったのが、講談社BOXや雑誌『ファウスト』の編集長（創始者）、太田克史さんだ。というか、かなり前からお会いしたいと内輪で話していたのだが、延び延びになっていた…というのが本当のところ。<br />　西尾維新や奈須きのこ、竜騎士07…などの育ての親である太田さんは、新本格・メタミステリー・ライトノベルといった、一見「非文学」的な作品・作家を世に送り出し、ヒットを飛ばしている。しかしその仕事ぶりからは、ただ売れればいいというのとは違う、独特の信念・哲学が透けてみえる、気がする。そこで12月上旬、護国寺の、講談社（BOX編集部）まで行ってきた。<br />→記事は<a href="アドレス" class="broken_link" >６．取材◆太田克史さん（講談社BOX編集長）</a></p>
<p> </p>
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		<title>２．文芸（読書）サークル座談会</title>
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		<pubDate>Sun, 14 Mar 2010 11:17:02 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/14/%ef%bc%92%ef%bc%8e%e6%96%87%e8%8a%b8%ef%bc%88%e8%aa%ad%e6%9b%b8%ef%bc%89%e3%82%b5%e3%83%bc%e3%82%af%e3%83%ab%e5%ba%a7%e8%ab%87%e4%bc%9a/"><img align="left" hspace="5" width="150" height="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/wp-content/plugins/thumbnail-for-excerpts/tfe_no_thumb.png" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>UNDER  CONSTRUCTION...]]></description>
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		<title>１．読書アンケート</title>
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		<pubDate>Sun, 14 Mar 2010 10:48:47 +0000</pubDate>
		<dc:creator>廣安 ゆきみ</dc:creator>
				<category><![CDATA[使い捨て文学]]></category>

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		<description><![CDATA[<a href="http://kenbunden.net/wpmu/blog/2010/03/14/%ef%bc%92%ef%bc%8e%e8%aa%ad%e6%9b%b8%e3%82%a2%e3%83%b3%e3%82%b1%e3%83%bc%e3%83%88/"><img align="left" hspace="5" width="150" height="150" src="http://kenbunden.net/wpmu/wp-content/plugins/thumbnail-for-excerpts/tfe_no_thumb.png" class="alignleft wp-post-image tfe" alt="" title="" /></a>UNDER  CONSTRUCTION...]]></description>
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