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電子レンジ兵器をイラクに?

 電子レンジはどの家庭でも使われている便利な調理器です。周波数2.45ギガヘルツ(GHz)、出力500〜1000Wのマイクロウェーブ(ちなみに英語では電子レンジのことをマイクロウェーブといいます)を、水分を含んだ材料に照射すると、水分子が電磁波で励起されて熱を持ち、調理ができるという優れものです。ウィキペディアによると、電子レンジはアメリカのレイセオン社(Raytheon)が1946年に特許をとり、1947年から製品の発売を始めたとのことです。電子レンジにこんなに長い歴史があるとは知りませんでした。
 電子レンジの基本は強力なマイクロウエーブ(電磁波)にあります。マイクロウエーブは小型のマグネトロンという発振器で発生されます。我が家の電子レンジが壊れたときマグネトロンを付け替えてもらったことがあります。10cm角くらいの黒い箱だった記憶があります。
 
 さて、もし電子レンジに使うマイクロウエーブをアンテナで収束し、その焦点にあなたの腕をおいたらどうなると思いますか。マイクロウエーブが集まった焦点の水は急速に励起されてたちまち高い温度になり、下手をするとやけどをする羽目になります。

 エネルギービームの一つとしてマイクロウエーブをエネルギービームとして使う兵器が使用可能であるという記事が出ていましたので紹介します。

 英語でActive Denial System (ADS)というそうです。ウィキペディアによると、電子レンジを発明したレイセオン社がアメリカ軍と契約を結んで開発を続けてきた兵器です。日本語のよい訳を思いつきませんが、「電子レンジ兵器」または「暴徒追い払い器」とでも名付けたらよいと思います。

 電子レンジよりもずっと周波数の高い95GHzの強力なマイクロウエーブをアンテナで収束してエネルギービームを発生させます。電子レンジと同じようにこのマイクロウエーブのスポットが皮膚にあたると表皮にある水分子が励起されて約55度Cの高温になります(そういうふうに設定されている)。95GHzという高い周波数を使う理由は、「スキン効果」を使ってマイクロウエーブが皮膚の深部にダメージを与えないために選ばれています。

 実験に参加した人によると、ADSに「撃たれる」と、熱い電球を押しつけられたような耐えられない痛みと熱さを感じるそうです。
 マイクロウエーブはCW(パルスでなく連続放射)で発射され、ビームの方向は自由に変えられるので、狙い撃ちをすることができますし、機関銃のように暴徒に向かって掃射することも可能です。
 ADSは「非」殺人兵器として開発されているもので、兵員輸送車の屋上などにアンテナを装着して発射し、暴徒を追い払うことができます。有効射程距離は約500mです。

 アメリカ空軍の科学補佐官ジーン・マコール氏は、ADSをイラクに展開していたならファルージャの悲劇は防げたはずだ、と強調しています。

 前の稿で、高周波電場ががん治療に役立つという話をしました。今日の話題は、高周波電磁波が警察や軍の活動に役立つというものです。

 人間という動物はいろいろなことを考えるものです。
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