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坂口亮先生
 デジタルドメイン(Digital Domain Productions, Inc) エフェクトリード
取材日 : 2010年2月23日
東京大学からロサンゼルスへテレビ電話取材

 サイエンスは、エンターテイメントの世界をも席巻している。第9回シンポジウムの講演の最後を飾るのは、アメリカで映画製作(視覚効果)のお仕事をなさっている坂口亮さんだ。

 2月23日、東京大学の教室を借りてロサンゼルスの坂口さんとテレビ電話をつなぎ、NINSシンポジウム始まって以来の「海外取材」は始まった!

 坂口さんは、ハリウッドで製作される映画の「視覚効果」を製作するチームで活躍していて、2008年には、CGでリアルな水の表現を実現する技術を開発した功績が称えられ、アカデミー科学技術賞を受賞された。


 現実ではありえない、街を津波が襲う迫力のシーン。地震によって破壊される大都市。こういった映像は、従来「ミニチュア」をそれらしく撮影することで製作されてきた。しかし、現在は実写に代わってCGを使うことで、従来より格段にリアルで臨場感のある映像が製作され始めている。


 だが、根本的な疑問が浮かぶ。ミニチュアとはいえ、現実のモノを撮影して製作される映像と比べて、コンピュータが作り出した映像が勝ることが、果たしてできるのだろうか?

 そんな疑問に対して、坂口さんはこのように答える。
 「水は縮まないんですよ。どんなに精密な模型を作っても、そこに流れる水の性質まで変えることはできないんです」
 つまりこういうことだ。ここに1/10の精巧に作られた街の模型を用意する。そこに、洪水に見立てて水を流す。しかし、水の物性、つまり「どう振舞うかのスケール」は、決して1/10になってくれないのだという。
 たとえば、水が建物にぶつかったとき、そのしぶきの粒の大きさは、実スケールの1/10になるか? 否、そうはならない!

 つまり、水というのはとても「正直」なものさしなのだ。ミニチュアを作り、そこに水を流すという行為自体が、これは模造品ですよ、というメッセージを映像の中に込めてしまうのである。
 我々が、ミニチュアの特撮を見て、「なんだかヘンだなぁ・・・」と思ってしまう理由のひとつは、きっとここにあるのだろう。


 さぁ、ここでサイエンスの登場である。
 坂口さんは、流体力学の知識を身につけて、そこに書かれているサイエンスを活用しようと考えた。実際、航空機や船の設計においても、流体の動きは、ある程度シュミレーションで予測できるようになっている。本当に街に水が流れ込んだときどう振舞うか、その動きは、科学の力で再現できるはずなのだ。これまで得られた流体力学の知見を上手に利用し、水の動きをリアルに視覚化しようとしたのだ。

 ここで「水の物性の真実に迫りたい!」と、研究を始めるのが科学者である。もちろん、科学はそれで構わない。

 しかし、坂口さんは、監督の求めるエンターテイメントを創り上げるプロである。極端なことを言えば、映画監督が「ここで水がビルの壁を駆け昇る」と言えば、本当に水に壁を駆け昇ってもらわねばならない。科学的にありえない映像であっても、「もっともらしく」その映像を作らねばならない。それがVFXの仕事なのだ。

 「監督が描いたイメージが第一です。科学的にありえない映像だからと言って、こちらから監督のイメージに対して苦言を呈すことは99%ないですよ」
 坂口さんは自信を持ってそう言い切る。

 では、具体的にどうやって「自然科学」を「超自然」のエンターテイメントに仕立てていくのだろうか? その過程は、シンポジウムの講演の中で明らかになるだろう。


 世界中の人々を感動させる映像技術。その中にも、サイエンスの最先端が生きている。


(記事・写真:栄田康孝・東京大学教養学部理科一類2年)

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