universo é scritto in lingua matematica
宇宙は数学の言葉で書かれている ガリレオ・ガリレイ 1564-1642
数物連携宇宙研究機構は2007年にできたばかりの新しい組織だ。日本が、東京大学が、威信をかけて宇宙の謎に本気で取り組む。
そのリーダーに選ばれたのが、理学系で知らない者はいないカリフォルニア大学バークレー校の村山斉先生だった。
宇宙の話をする前に、少し昔話をしよう。私たちは歴史から学ぶことができる。
今から300年ほど前、アイザック・ニュートンが運動方程式を生み出した。近代自然科学の象徴的事件だ。その後ヨーロッパを中心に、産業革命と絡まりあいながら、サイエンスは大きく成長した。20世紀を迎えるころには多くの人々がこう考えていた。「私たちが住む世界の謎はほとんど解かれてしまった。サイエンスは間もなく全てを解き明かす」
21 世紀に生きる私たちは、それが間違いであったことを知っている。アルベルト・アインシュタインはそれまでのニュートン力学が人間世界のような特殊な環境でしか成立しないことを明らかにして、星々の世界を記述するより一般的な理論を提唱した。一方で、マックス・プランク、ニールス・ボーア、エルヴィン・シュレーディンガー、ヴェルナー・ハイゼンベルクらに代表される20世紀初頭の物理学者の努力によって、原子や分子のような極微小の世界を記述する量子力学が建設された。人類は、都合のいいところしか見ていなかったのだ。
20世紀はサイエンスにとって黄金期だった。携帯電話、コンピュータ、人工衛星、原子力発電。私たちの生きる21世紀の生活は、サイエンスという大樹に実った果実なくしては最早成り立たない。20世紀の大科学者たちの努力は計り知れない。先日ノーベル賞を受賞した小林・益川が件の仕事をしたのは1970年代のことだ。物理学は着々と世界の謎を解き明かしているように見えていた。
2003年、歴史は繰り返した。人工衛星WMAPの観測データは恐ろしい事実を突き付けてきた。私たちのよく知る夜空に輝く星々(太陽を含む)は全宇宙の高々4%程度だというのだ。正体不明だが、重力が働いているものが22%、逆に宇宙を押し広げている訳の分からないものが74%も存在する。前者をダークマター、後者をダークエネルギー、科学者たちはそう呼ぶことにした。そういえば、これまでも銀河の回転速度が計算と合わなかったり、宇宙に星々が生まれる理由もよくわかっていなかったりした。これらは、プロの科学者たちでさえ謎のままにしておいた問題だった。でも、ダークマターとダークエネルギーを計算に入れると計算がぴったり合った。――もう放置はできない。
ニュートリノ観測でのノーベル賞で知られる神岡鉱山にはXMASSという地上でのダークマター検出を目指した観測が進行している。人類が作り出した最強の望遠鏡であるハワイのすばる望遠鏡は明るく輝く星々の位置を調べることで直接見ることができないダークマターやダークエネルギーの謎に迫ろうとしている。人類の宇宙観すら変えてしまうであろう発見の、もう目の前まで来ている。
間もなく訪れる「大発見」。
はたしてそれが何を意味するのか。宇宙の謎を紐解き、人類史の新たな一ページを開くのは数物連携宇宙研究機構の使命だ。
宇宙は数学の言葉で書かれている。
数学と物理の幸せな結婚を仲人した村山斉先生に期待したい。
(記事:朝倉彰洋・東京大学教養学部理科一類2年/写真:栄田康孝)
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