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永山國昭先生
 自然科学研究機構・岡崎統合バイオサイエンスセンター センター長 
取材日 : 2010年2月22日
@東京大学駒場キャンパス

 生理学研究所教授の永山國昭先生は今回のNINSシンポジウムのコンセプトを担っている、いわばカギを握るお方だ。
 取材は2月22日、授業も終わり閑散としている東大駒場キャンパスは515教室の1限目、という奇妙な空間の中で行われた。


 今回のNINSシンポジウムのテーマの一つはイメージングサイエンスである。イメージングサイエンスとは、永山先生によるとサイエンスの中でビジュアル的な表象ならなんでもそれに該当する、ということらしい。具体的にはCGによるシミュレーションなど、科学の成果として視覚的に表現されているもの全般と考えていいのだろう。

 これまでそうした視覚化された科学の成果というのは、あくまで科学の研究のためのものでしかなかった。天文台の写真にしても、顕微鏡写真にしても、私たちがニュースで、最新の成果とか言って見るものというのは、決して私たち一般人が見やすいものにデザインされているわけではないのだ。研究者が見てわかる程度の表現のレベルになっている。
 科学ではイメージングとはいっても、その表現の部分というのは当然といえば当然ながら、常に後回しだ。わかりやすい、伝わる表現というのは目指されて来なかったのである。
 だがその研究のために作られる、視覚的に表現されるものを、もっと一般人に「見せる」ためのものとして作ってみたらどうなるだろうか。表現の部分をもっと追究していったとき、科学全体に、何か返ってくるものはないのか。

 そう、その「見せる」の究極が今回の4Dによるイメージングと言える。4Dは現象の理解を、はるかに容易にしてくれる。

 永山先生ご自身、三鷹の国立天文台の4D2Uでの体験は衝撃的だったという。先生は色など、「サイエンスとアート」というある意味相反する二つのものの接点をテーマとして研究をされてきたが、4D2Uの体験はまさしく、サイエンスとしての物事の理解と、アート的な物事への感動が一体となって感じられるものだったそうだ。
 つまり4Dの体験というのは、普通の自然体験のように、自分が映像世界と一体になっている感覚、映像世界に没入して行く感覚をえられる。そこに永山先生はサイエンスを理解するための新たな手法の可能性を見ているのだ。


 デカルト以来科学というのは、観測者と観測される客体、というのを完全に分離する、二元論的な手法を用いて発展してきた。観測者は自然の外から自然を観測し、分析してきた。しかし、4Dを用いれば、はるか銀河の彼方の天体であろうと、プレパラートの隙間のミクロの世界であろうと、単に観測するだけのものとしてではなく、自分を取り巻いている世界として、自分と一体のものとして感得できる。いわば一元論的な、現象の理解が可能になるというのである。
 それはこれまでにない全く新しい形での科学を理解する手法になる。

 先生はまた、この4Dを通して見る「自然体験」が新しい文化、もしくは産業として発展していくことにも大きな期待を寄せていらっしゃる。
 例えばプラネタリウムを利用して、全国で4Dによる自然体験ができるようにしてみてはどうだろうか。実は日本は世界で最も「プラネタリウムの密度」が高い国である。プラネタリウムを通じてこうした4D体験を子供のころからしていた場合、科学に対する認識が将来、今の世代とは変わってくるかもしれない。4Dの体験ほど刺激的な科学教育の素材がありうるだろうか?


 また、この4D体験はNHKやBBCの動物ドキュメンタリーとはまた違う軸の上にある。と、先生は言う。つまり表現される映像はあくまで科学のフィルターのかかったものであって実物では有り得ないということだろう。そして同時にファンタジックになりすぎてもいけない。ただ一方で魅力的な映像にしていくためには、ファンタジーとは言わないまでも、ハリウッド的な、何かしらストーリー性は必要になってくるという。

 その意味では、この「サイエンスのハリウッド化」はサイエンスコミュニティからの反発は必至と言えるが、先生は「一般社会で受け入れられればサイエンスコミュニティ側も認めざるを得なくなるんだから・・・」と強気だ。今回のシンポジウムは、その一般社会に「サイエンスのシアター化」が大きく示される最初の場となるかもしれない。


 以上、抽象的な話が多くなってしまったが、百聞は一見に如かず、である。シンポジウム当日、4Dの映像世界を体感すれば、永山先生と同じ感覚を多くの人が共有できるはずだ。


(記事:上田和輝・東京大学教養学部理科一類1年/写真:西田祐木)

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