生きている動物では細胞や神経ネットワークの構造を見る事は技術的に難しい。
けれども、「多光子励起顕微鏡」なるものを使えばそれが可能になる。この多光子顕微鏡は
- 赤外光=組織への透過力が強いため、深部まで届く
- 多光子=ピンポイントでの観察が可能
という二つの特徴を組みあわせたものであって、この二点によって、生体内部を深く・細かく観察することができる。
これを用いた例として、頭蓋骨の骨細胞イメージングを見せて頂いた。(色素SR101を全身投与してある)
これが物凄い迫力であって、僕は本当にビックリしてしまった。どんどん脳の奥深くまで入り込んでいって、細かく細かく分かれた細胞を見て行くその様子は、枝の生い茂る森の中を分け入っていくようであり、「こんなものが自分の頭の中に広がっているのか」と不思議な気分になる。
次に見せて頂いたのは、ミクログリアという脳の中の免疫細胞が活動する様子。簡単に用語を説明しておくと、
- シナプス=細胞間の情報の受け渡し部位
- ニューロン=神経細胞
- グリア細胞=神経細胞の伝達を効率化する細胞(何種類かある)
であって、グリア細胞の中の一種であるミクログリア細胞を見せて頂いたのである。
ミクログリアは、幼少期にマクロファージが脳の中に入ってきて居座ったものであって、「シナプスの監視」という仕事を担っている。その仕事をする瞬間をリアルタイム生体イメージングで見せて頂いたのだが、これもまた感動せずにはいられないものだった。シナプスに対してミクログリアが手を伸ばして盛んにタッチする様子が見える! しかもタッチする瞬間に、ミクログリアの先端が聴診器のように膨れてシナプスを触診しているのだ。
正常回路の場合はミクログリアは「一時間に一回、約五分ごと」に監視を行う。(しかもかなり正確な間隔で) しかし、頭を叩いたりして神経活動を起こしたりすると、「二時間に一回、約五分ごと」に監視のリズムが変わる。
つまり、神経活動のアクティビティに監視のリズムは依存している。これがヴィジュアルに見えるのだ!
正常回路でない場合、ミクログリアの動きは変わってくる。障害シナプスに対しては、たとえば20分ぐらいずっとタッチしたままになり、しかも聴診器のように膨れてタッチするのではなく、シナプスの周りをラッピングするようにタッチして精密検診を行う。(つまり、正常回路でない場合はミクログリアの働きの時間と方法が変わる)
このような非正常回路の場合において、ミクログリアが精密検診を行っている最後の10分間をリアルタイム・イメージングしてみると障害しているシナプスが除去される(ストリッピング)様子が見える。ミクログリアの検診によって、シナプスが消えたり、新生したり組み換えが起こったりするのである。つまり、ミクログリアは神経ネットワークの再編成に関係している。
ミクログリアとシナプスの間には、何らかのケミカルなインタラクションがあると想像されているが、ミクログリアがシナプスにタッチしている間に何が起こっているか、具体的にはまだ分からない。というのも、この状況を取り出した瞬間にミクログリアが活性化してしまうからである。
ミクログリアは頭をたたくだけでも活性化するし、頭蓋骨の中を見るために少しでも骨を削ろうものなら生体リアクションが起きてしまう。そのために、最先端のイメージングサイエンスは頭蓋骨を開けることなく、その内部を見ようとしているのだ。
今回のNINSシンポジウムのタイトルには「ビックリ!」というキャッチがついているが、それに偽りはない。来て、見てほしい。
シナプスとミクログリアのインタラクションが国際フォーラムのスクリーンに映し出された時、あなたはきっと「ビックリ!」することだろう。
(記事:木許裕介・東京大学教養学部文科三類2年/写真:栄田康孝)
|