核融合とイメージング
核融合科学研究所から講演していただくのは、シミュレーションを研究されている石黒静児先生(写真左)だ。
核融合科学研究所(以下、核融合研と略す)は岐阜県の土岐市にある。2月27日、前日の岡崎での取材から参加したメンバーと多治見駅で合流し、核融合研に伺った。
シンポジウムのリハーサルに続いて、同じくシミュレーション研究をされている中村先生(写真中央)と伊藤さん(写真右)のお二方も加わり、立花先生やゼミ生の質問に答えてもらった。
核融合は、プラズマ状態と呼ばれる電子と原子核が分離した状態で軽い原子核を衝突させ、エネルギーを生み出す。(核融合については当サイトの「徹底討論・核融合!」の解説PDFや核融合研の解説ページをご覧ください!) しかし、未だ核融合発電は実現していない。温度が一億度にもなるプラズマを制御する(閉じ込める)技術、炉の耐久性などがまだ発電できる水準に達していないからだ。これを検証し、改良していくことが求められている。
しかし、検証しようとしてもプラズマの三次元的な振る舞いを実際に捉えることは難しく、十分な判断材料が得られない。そこで、シミュレーションを使ってプラズマの状態や炉の状態を予測する研究が行われている。
核融合研には、LHD(Large Herical Device)と呼ばれる核融合の実験炉がある。LHDは磁石による磁場でプラズマを制御する「磁気閉じ込め核融合」の方法を用いている。その構造は「Herical=らせん」という名の通り、らせん状に磁石や炉が絡み合った複雑な構造をしている。
今回の取材ではその装置を間近で見せてもらった。金属の巨大建造物である実験炉、そしてその周りの設備はとてつもなく大きなものだ。(・・・LHDのバーチャルツアーの映像はこちら!――制御室とLHDの仕組みの解説・LHDの見学 )
だが、その中に生じるプラズマの構造を直接見ることは出来ない。その理由は、複雑な装置に加えて、目に見えないプラズマ粒子を、目で見えない磁力線で操作する複雑な反応が起こっているからだ。その現場を、シミュレーションで可視化し再現するのが石黒先生の仕事である。
シミュレーションを作るまでの過程には長い時間がかかる。プログラムを書き、スーパーコンピュータに計算をさせ、それを三次元で見る、という主な流れの中では、複雑な実験条件や、表現のためのプログラムを書くのが一番大変だという。
今は様々な分野でシミュレーションソフトが作られているが、核融合については作るのが難しく、自分で一から作らないといけない場合もある。そのような場合では年に一本しシミュレーションを作れないこともあるという。
そうして作られた研究成果の中で最も印象に残ったのは、シミュレーションを使ったVR(ヴァーチャルリアリティー)シアターだった。右の写真のように、中に入った人は周囲の面と下の面は全て映像で覆われていて、眼鏡をかけると3次元映像として見える。そうすると何が出来るのか? 私達が最初に見せてもらったのはLHDの中を見るプログラムだった。LHDの中をどんどん進んで行く様子にはビックリした(シンポジウムで見せてほしいと立花先生は話していたが、会場に持ち込むことができないので残念…核融合研に行くと見学できるので、興味のある方は是非行ってみてください!) 他には、プラズマ粒子が実際に飛んでいる現場に入り、粒子の軌跡を見て解析できるプログラムも見せてもらった。このプログラムの特徴は中に入ってプラズマを見られることで、成果として、実験では分からなかった反応も見つかっている。
シミュレーションが実験より進んだ予測をする段階には至ってないと石黒先生は話していたが、その貢献は着実に増えていくだろう。
(記事:西田祐木・東京大学教養学部理科一類2年/写真:栄田康孝)
|