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小久保英一郎先生
 自然科学研究機構・国立天文台 准教授
取材日 : 2010年3月9日
@国立天文台4D2Uドームシアター(東京都三鷹市)

地球の住所、地球が宇宙のどのへんにあるか、知ってますか。

宇宙が我々の想像を絶するスケールであることは、多くの人が知っている。だが、教科書や事典などで見られる、太陽を中心とする惑星の図や、渦状銀河の図では、いまいちピンとこない。それなのに宇宙における地球の位置がわかるはずない。そもそも「宇宙の全体像」がどうなっているのか分からないのだから。この「宇宙の全体像」を捉えさせてくれるのが、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト(4D2U)だ。4D2Uは4次元デジタル宇宙プロジェクトの英語4-Dimensional Digital Universeの頭文字を取ったもので、Dが2つ重なる部分はD2としている。ちなみに、4D2Uは「4-D to you」とも読むことができ「4次元をあなたに」という意味も込められている。

それでは、3-Dメガネをかけてください。

と、4D2Uシアターは始まった。4D2U立体ドームシアターでは、プラネタリウムのように、ドームに投影された星々を3-Dで楽しめる。ただ、立体視できるだけでなく、普通のプラネタリウムとは決定的に違う点がある。視点が地球を飛び出して、自由自在に動き回れるのだ。気分はGoogle Earthの宇宙バージョン。
その映像を描画するのは、インタラクティブ4次元デジタル宇宙ビューワー「Mitaka」。Mitakaは様々なスケールでの最新の天文データを可視化し、シミュレーションもできるソフトウェアだ。空間の3次元に加えて、時間による変化もシミュレーションできることから、4次元というわけ。地球から太陽系(1光年未満)、銀河系(10万光年)、銀河団(1000万光年)、宇宙の大規模構造つまり観測可能な宇宙全体(137億光年)までの莫大なサイズをインタラクティブに移動できてしまう。
まず、驚かされるのは地球の小ささだ。デフォルメされた図鑑の図とは違い、科学的に忠実に再現された映像で、地球が消えてしまいそうなほど小さいことを思い知らされる。地球からどんどんズームアウトしていくと、次に太陽系の小ささに驚かされ、夜見えている星がいかに近所に限られているかに驚かされ…ときりがない。何しろ観測できる限界(!)までを、神の視点でシームレスに行き来できるのだから。
もちろん、3-Dで見る宇宙の映像が見とれてしまうほど美しいことは言わずもがな。

4D2Uなら、様々なスケールの図を断片的に見ることしかなかった大人も子どもも、映像で分かりやすく、「宇宙の全体像を」捉え、天文学の研究成果を知ることができる。残念ながら、4D2Uシアターは15台のPCと13台のプロジェクターをつなげて映写しているので、簡単には移動させたり設置できない。だが、日本は人口あたりのプラネタリウムの数が世界トップクラス。教育や文化的な娯楽などとしても、人々がもっと天文に親しめるようになる可能性を秘めている。実際、4D2Uシアターの定例公開が始まった頃はは人気が殺到し、すぐドームシアター(写真3枚目)の定員に達してしまっていたという。

感動できるのは一般の人だけではない。研究者にとっても視覚化された天文データは重要で、直観的に捉えることは研究に多いに役立つ。プロジェクトを動かしている小久保英一郎先生本人も「知識として知ってはいたけど、4D2Uで見てみてようやくどういうことかつかめた」ということがあるそうだ。例えば、天の川は太陽系のある銀河を横から見たものだということ(地球の住所がわかればとても単純)。ここで、その解説をいくら書き尽くしても、4D2Uの投影する数秒の映像にはとうていかなわない。

百聞は一見にしかずとはこのことだ。


(記事と写真:廣瀬暁春・東京大学教養学部文科三類2年)
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