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コンサートを終えて。

 

2011年5月4日、無事に一つのコンサートを終える事が出来ました。

人生初、プロのオーケストラとのコンサート。人生初、燕尾服(!)。お客様からお金を頂いて演奏するのもはじめて。何もかも初めてのことばかりで、コンサート当日に漕ぎ着けるまではかなり大変なこともありましたが、当日はただひたすらに楽しかった!フィガロの結婚と古典交響曲。合わせてわずか20分でしたが、この20分のために、僕はここ数ヶ月頭を一杯にしてきました。

 

至らないところも沢山ありましたが、、素晴らしいオーケストラの方々に支えて頂き、リハーサルよりもゲネプロよりも本番が一番うまくいったように思います。自分の友達や知り合いだけで100人近くの方々が来て下さったことに心から嬉しくなりながら、そして誰よりも尊敬する師、村方千之と同じ指揮台に立たせて頂けたこの幸せに胸がいっぱいになりながら、モーツァルトとプロコフィエフという二人の天才の残した作品にのめり込むことが出来ました。不思議なもので、リハーサルまではずっとスコアに縛られスコアを再現していく感覚が抜けきらなかったのですが、本番では「いま、ここで」作品を生み出して行っているような感覚になりました。沢山の聴衆の方々を背中に舞台に立ち、再現芸術のはずのクラシック音楽を即興的に、その場で、奏者の方々と一緒に作って行く感覚。風のように吹き抜けて行く早いテンポのプロコフィエフを指揮しながら、奏者の方と「次のフルート、お願いしますね!」と目を合わせてにっこり無言で会話する一瞬。それは言葉にならないほど刺激的でゾクゾクする体験でした。

 

終演後、音楽繋がりの方や門下の大先輩方から、「君が振るとオーケストラからいい音が鳴っていたよ。華やかで切れば水が滴るような瑞々しさ、青葉のような若い音を持ってる。」と言って頂けたり「今度うちに振りに来てよ。」と言って頂けた事はこの上なく幸せなことでしたし、僕の事を良く知っている大学の友達が「目を閉じても分かる。ああ木許が振っているんだなって。お酒の席で笑いながら色んな人と喋っている木許そのものだった。」というコメントをくれたことは一生忘れらません。それはオーケストラの方々が「この若造、まったく仕方ないヤツだなあ。」と思って温かくサポートして下さったおかげなのですが、色々な感想を頂けた事は恐縮しつつも思わず泣いてしまうほどに嬉しいことでした。

(コメントをくださった方々のブログを以下にご紹介させて頂きます。

江倉さまのブログ:http://ameblo.jp/eclateclateclat/entry-10882370898.html

なべしょーくんのブログ:http://show0425.blogspot.com/2011/05/blog-post.html)

 

僕には師匠のような呼吸の深い演奏はもちろんまだ出来ませんから、今は、師匠に教わった「音楽」を精一杯自分の中に取り込んで、その上で、23歳・大学生という今しか出来ない音楽をすることが出来ればと思っていました。そして師匠は僕のそうした「若さ」、あるいは「未熟さ」を当然見抜いていらっしゃったからこそ、「フィガロの結婚」序曲と「古典交響曲」という、モーツァルトとプロコフィエフの二人がいずれもかなり若いころに書いた、エネルギーに溢れたこの二曲を薦めてくださったのだと気付きます。自分の出番が終わり、他の誰にも真似出来ない「運命」を振る師匠を舞台の袖から見ながら、「師匠はやっぱり凄いなあ。」と感動と感謝を噛み締めました。

 

そうしてコンサートを終えて、朝まで続く打ち上げのあと、家に帰って静かな部屋でひとり本棚にフィガロと古典のスコアを並べようとしたとき、頭の中に流れていた音がそっと消えていったような錯覚に襲われました。考えてみれば、しばらくの間僕はどこに行くにもこの二冊のスコアと一緒で、電車でも喫茶店でも空き時間があればスコアを開き、読み、考え、そうやって数ヶ月を過ごしていたのですから。「音符は音楽なんかじゃなくて、それを表現する人がいないと音楽にならないんだよ。」と師匠がかつて教えて下さったことがありましたが、本棚にスコアを並べようとしたときにふと覚えたのは、昨夜舞台上で鳴り響いていたあのモーツァルトとプロコフィエフの「音楽」が、静かに「音符」へと還って行ったようなそんな感覚でした。次に指揮するときはもっと上手く振るからね、と心の中で呟きながら、書き込みだらけでボロボロになったこの二冊を静かに立てかけ、久しぶりにゆっくりと眠りにつきます。カーテン越しに入ってくる朝の光が目に眩しく、けれども最高に幸せな気持ちで。

 

指揮を習い始めてもうすぐ一年半。オーケストラを作って、初めてのコンサートを大学で行ったのがちょうど一年前。それから一年後に、まさか国内最高クラスのプロ奏者の方々を前に指揮台に立つことになるなんて思いもしませんでした。(もしかしたら東京大学在学中にプロオケを振ったのは僕だけかもしれません。)ここに至るまで教えてくださった師匠、門下の先輩方には心から感謝しています。そして、自分のつたない棒で一緒に音楽をしてくれるドミナント室内管弦楽団のメンバーにも。演奏者の方々に本当に多くを教えられた日々でした。

 

僕は音楽の入り口にようやく片足をかけたばかり。

これからも身をスポンジのようにして、師匠から、一緒に音楽をして下さる方たちから、学べる限りのことを学んで行きたいと思います。

 

木許裕介 Photo by Yasutaka Eida