February 2011
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東大世界史最終講義 -冬来たりなば 春遠からじ-

 

11月から飛び込みで「一対一で教えてほしい!」と頼まれた東大受験生に、最後の講義をしてきました。

彼はすでに大学一年生で、仮面浪人として東京大学の文科三類を受験したいとのこと。僕は二浪を経験していますから、そうした

浪人してでも受験を志すという姿勢には共感を覚えます。11月から今まで、週一回でわずか13回の講義しか出来ませんでしたが、

世界史について、時間の許す限り・僕の知識の許す限りのことを教えてきました。基本は講義で、論述の添削なども入れていくという形で

すすめてきたのですが、彼の飲みこみの良さには驚くばかりでぐんぐんと文章のクオリティが上がっていくのを目の当たりにしました。

 

最初の講義で、「軸を定めて陣を貼る」という論述の文章の書き方を教え、そのあと、問題文の分解・解読方法を詳説。

東大の世界史はただ知識があるだけでは書けないし、ただ知識を詰め込むだけでは面白くもなんともない。それぞれを

有機的に関係させながら、たまには大学以降で学ぶことも先取りしながら、論理的に「読める」文章を書く必要があります。

そこからはじめて、とりあえずは13回でなんとかほとんどの過去問に目を通すことが出来たかと思います。

 

僕はコレージュ・ド・フランスの講義の形式が大好きで、「教える側がまさにいま学んでいることを門外漢にも分かるように伝える」

という形式でやってきました。高校レベルの世界史の話をしながら、主権国家体制や革命総論、思想史、世界システムの話をし、

時にフランス語やドイツ語も使いつつ、アナール学派の歴史の見方やヴァレリーの「精神の危機」、フーコーの「人口」概念や

公衆衛生という概念の誕生など、いま自分が学んでいることを出来るだけ噛み砕いて、教えてきたつもりです。

こうした話をするたびに、彼が目を輝かせながら一心不乱にノートをとってくれているのが嬉しくて、教えるのが毎回楽しみでした。

 

最後の授業では、1848年の変動について説明しながら、世界の大きな見取り図を描きました。

1848年の変動こそが、それ以前、それ以後の世界を繋げる契機となるように思われたからです。革命というものの性格が変動すると

ともに、国家、国民という概念も揺らぎ始め、世界中に衝撃が走る。20世紀はかなり最初のほうで説明しておきましたし、

前回の講義はフランス革命とドイツ統一について説明したので、このダイナミズムで締めるのが最適だろうと考えてのことです。

 

なぜか最後の最後に英語の前置詞のイメージを説明しはじめて大幅に延長してみたりもしました(もとはacrossという前置詞は「横切る」

だけでなく、「至る所から」というニュアンスも持っていて、それはヨーロッパ的な考え方ですね、という話をしたところからです。

東大英語でも前置詞は頻出するので、気になってつい全部説明してしまいました)が、こうして僕が受け持った授業は終わりました。

 

最後に、仮面浪人という辛くも勇気ある一年を選択した彼になら響くだろうと思い、僕が浪人中ずっと机の前に飾っていた言葉、

イギリスの詩人シェリーのOde to the west wind(『西風に寄せる歌』)という詩の末句、

If winter comes, can spring be far behind? (「冬来たりなば 春遠からじ」)

を送りました。仮面浪人は大変だったと思うけど、よくここまで頑張ったね、と。

 

 

「身体に気をつけて。駒場で待ってる。」と握手した時、彼の眼が潤んでいるのに気付いてしまい、僕も少し泣きそうになってしまいました。

慌ただしい日常の合間を縫ってでも彼を教えて良かった。春が来ますように。

 

 

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