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2010年度《見聞伝 駒場祭特設ページ》
2011.3.17 | by shuntaroamano

1.大学とフロントライン

S いま大学でどんな授業をなさっていますか?

内田樹(以下、内田) はい、いま、といってももう最後の学年なんですけど―今年いっぱいで定年なので―基本的にはゼミが4つですね。1年生対象の基礎ゼミと、それから4年生の専攻ゼミと、大学院のゼミ。あとメディアコミュニケーション副専攻というのがありまして、そこの最終学年の最終学期の授業にある、メディアコミュニケーション演習というゼミですね。あとは講義科目をいくつか単発でやってます。キャリア教育とか、音楽との対話とか、合気道とか、そういうのを単発でやってます。

X 単発で、というのは?

内田 うん、リレー式講義で。半期15回のうち3回とか、そういうやつですね。

L フランス現代思想はやられてないんですか?

内田 全然やってないです。もう、絶えてやったことないです(笑)。

X 先生のご専門はどういうものですか?

内田 専門は、フランス現代思想です(笑)。フランス文学とフランス現代思想。

X では、いまのフランス文学とフランス現代思想の先生の中での位置づけは…?

内田 いやなんかね、必然性がなくなっちゃったんですよ。あのね、日本の場合はね、外国文学の研究は単品でやるんじゃないんですよ。やっぱり大学の先生っていうのは明治以来輸入業者なんですね。向こうの品物を輸入してきて皆さんに紹介するっていうブリッジ役なんですね。それが割と、明治以来の日本の大学の教師の仕事だったわけですけども、フランスのね、文化的な発信力がなくなっちゃったんですよ。60年代まであったのですけどね、70年代になって急速に力が落ちてきて、この30年くらいほとんど発信力ないんですよ。それでやっぱりね、発信力のないところっていうのはあんまり魅力がないんですよ。いまフランスはこうなってますよ、っていうことをぜひ皆さんにお伝えしたいってほど緊急じゃなくて。だからいま僕がやってるのは、ずっと前に死んじゃった人の書いたものの翻訳とかです。けれど、もうお亡くなりになっていますしね、あるいはこれから100年くらい読み継がれる古典作品であるから、急いで僕が授業をして教えなきゃいけないってことはない。やっぱり大学での講義っていうのは、ホットイシューをやるべきであって。みんな聞いてくれ、という感じで。実はこんなことが起こってるんだよ、とか、これ絶対知らなきゃだめだよ、とか。それが講義科目で教えることであって、十年一日のですね、黄変したノートで教えるっていうのはちょっと違うような気がするんだよね。それは本読んだってわかることだし。大学の先生っていうのは、それとは違った形でネットワークとか、プロのセンサーとかを持っている。だから、いま起こっていることを、まだ既存のフレームができあがってないようなナマな情報を、いきなりに学生にドンッと向けて―クール宅急便みたいに―持っていく、というのが大学の先生の仕事だと僕は思うんですけどね。

L そうなると、少し内容が実学寄りになってしまうような気がするのですが…?

内田 実学とはちがうんだなあ、やっぱり。実学っていうのは、有用性のフレームがきちんとあるのですよ。これをやっておくとこういう役に立ちますよ、とか、この技術や知識があればお金がもうかりますよ、とか、地位が上がりますよ、っていう、すでに出来上がったスキームの中にあって、それを詰め込んでいくのが実学。でもホットイシューっていうのは、どういう風に取りあつかっていいかまだわからない。まだ我々もわかってないし諸君もわかってないようなナマナマなものをボンって持ってくるっていうのがホットな問題であって。じっさい明治以来、本当の大学の先生っていうのはね、そういうアツアツのものを持ってきてアチチチって言いながらホイって放り出すっていう感じでやっていて、それがすごく知的な刺激になってきたと思うんだけどね。

S じゃあその場合、先生がお教えになるっていうよりは、生徒と一緒に話し合いながら、という感じですか?

内田 そう、あのね、改めて学生になにか話したいことがあるんだ、っていう感じではなくて。教師っていうのはフロントラインにいなきゃいけないわけですけど、そのフロントラインでガーッてやっている姿を横で見せる。何かがすごく面白いよって言うためには、現に面白がっている人が面白がっているのを見せるのがいい。あー、面白い面白いってね。別にみんなに向かって、面白いからこっち来い、って言わなくても、面白がっていればいいわけですよ。

X では、先生はいまどういった場面で面白がっていらっしゃる…?

内田 それがどんどん移っちゃうんだよね(笑) 最近は経済のことに興味があって。でもどんどん移っちゃうんでね。武道のほうに行ったり、能のほうに行ったり、音楽に行っちゃったり映画に行ったり、学期学期くらいで変わっちゃう。だからそれを講義科目っていう形できちんと展開する、というわけにはいかなくて。割とアバウトなくくりの中で、好きなことをやらせてもらっている。ゼミなんかの場合だったら、学生たち全員に自由に研究や発表をさせるわけだから、まあどんな話でも面白そうだったらこっちもついていこうかな、って。自分のほうできちんと用意してしゃべるっていうのはあんまり好きじゃない。飽きちゃうんですよ。

G 先生は、そういった興味のある分野を転々としていらっしゃるわけですか?

内田 そう、転々と(笑)

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