»
S
I
D
E
B
A
R
«
マイ バック グラウンド ミュージック
11 月 10th, 2009 by 内藤 拓真

僕があなたと出会ったのは、そう、02年の年明けのころ。
いいえ、本当はもっと昔から僕はあなたのことを知っていたのかもしれない。
意図しないどこかで、私はあなたの声に、姿に触れていたのかもしれない。
けれども僕が「あなたがあなたである」という、明確な形で知ったのは、
中学2年へと足を踏み出そうという、その冬のことだった。

出会いの形は、それはひどいものだった。
あなたは僕の目の前にうんざりするほど何度も姿を見せた。
今からすれば邪魔なくらいに長い黒髪、革の手袋に襟の長いコート。
そして、信じられないけどあなたが来るときはいつも雪が降っていたっけ。
とにかく あなたは飽きるほどに僕の視界に現れた。
しかもこともあろうに、うんざりするほど何度も「愛の言葉」を囁いて見せた。
その時の僕は、彼女なんて当然いるはずのない、ぶかぶかの学ランを着た普通の田舎坊主で、
恋愛について悩んで一日中ぼんやり過ごすことも、
自販機で缶コーヒーを二つ買う、なんてシチュエーションも全然なかった。
けれどあなたは、自分が生きるのに君が好きということ以上の理由はない、と、
そう何度も囁くのだった。
幼かった僕は、正直うざったいとしか思わなかった。
ドラマの合間のCMのように、「またか」というのが本心だった。
今じゃあ考えられないけどね。

それから少し時間があいて、夏のこと。
初夏の真っ白な日差しがよく入るシンプルな部屋で、
あなたは清潔な白のブラウスの前をはだけ、
なにか内省するような表情で、一人掛けのソファに深く腰かけていた。
少し切った髪は、光を受けてブラウンに光っていた。
そのころの僕は、誰もが病める中学2年。
少し他人よりも優等生だったから、悦入っていろんな人の想いや価値観を巻き添えにしていた。
今でも思い出しては叫びたくなる思春期の自分。
けれど、そんな僕にあなたは語りかけた。
間違いではない、答えはひとつではない、と。
自画像の背景を何度も描き直しては汚していくのが人生だ、と。
運命的な言葉だった。
これ以降、あなたという人は僕の人生にとって欠かせない存在となっていく。

しかし、その直後、あなたは突然の病に伏してしまう。
僕だけでなく、みんなが嘆いた。
そして恐れた。
あなたの言葉を失ってしまうことを。あなたが僕らの過去になってしまうことを。
みんなが快復を待ち望んだ。

あなたの病気は名前の迫力の割には軽いものだったらしく、意外にも早くその姿を再び目にすることになる。
同じ年の12月。
偶然にもあなたの声が僕の耳に触れた。
姿こそ見せないものの、再びあなたの言葉が僕の心を奪っていった。
僕にとっての憧れが、ヒーローが帰って来た。
あなたは力強く言った。
愛する人達がいるから命を投げ出せない自分を臆病である、と。
繰り返されていく毎日が愛しい、と。
ただひとり君に手を差し伸べるヒーローでありたい、と。
病から立ち直ったあなたは再び僕たちにその手を差し伸べて来たのだった。

それから約1年後、次に見たあなたは泥まみれだった。
シャウトするように語るあなたの顔はとても苦しそうで、
その言葉は世の中を切り裂くような鋭さと、それでいて愛に満ちていた。
それは人間は認め合えないといういらだちと、
けれど本当は人間は認めあえるという希望の言葉だった。
信じてるもの、暮らしていたい場所、愛している人。
ひとつにならなくていい、認め合えばいい。
そんな悲痛な訴えに僕は圧倒された。

同じ年のクリスマス、あなたとても重たいプレゼントを背負ってやってきた。
中学3年の僕にとって、それは抱えることのできないとてつもなく大きな問題であり、
でも同時に、僕たちひとりひとりがこれからの人生をかけて背負って歩かなければならない、
そんなテーマをあなたは投げかけていった。
世界にある悲しみや怒りを許せるのか、
でも何をすべきなのか、
泣きながら祈る他にないのか。
かろうじてできることと言えば、相変わらず人を愛することぐらいだ。
聖夜に響いたその言葉は、
まるで雪のように美しく、そして鋭く、多くのしあわせの上に降り注ぎ、
けれどその純白の下にずっしりとした重さを携えて僕らの心に降り積もった。

04年、僕は高校生になった。
あなたと出会ってから2年が経って、
僕の中にはあなたとのたくさんの思い出が蓄えられた。
それは日常というルーティーンの中にあるのだけれど、
そのひとつひとつが至福の1日として確かにメモリされている。
あなたの微笑みも、叫びも、言葉も、
その幸福という名のアルバムをめくればいつだって思い出せる。

そしてこれ以降今に至るまで、やはりあなたはいつも僕と共にいた。
今後もそれは変わらない。
きっとあなたはいつまでも言葉を放ち続けるだろう。
僕は僕で、これまで何度も塗り重ねてきた汚れた自画像に、
また何度も何度も違う背景を描き足していくのだろう。
その時もきっと、あなたの言葉はBGMのように鳴り響いている。
ずっと。

(「Mr.Childrenに恋をして。」終)




Leave a Reply

Powered by WP Hashcash

»  Substance: WordPress   »  Style: Ahren Ahimsa