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Interviews

【SF企画】幸村誠先生取材(漫画家)


PHASE 04 幸村誠の世界観

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――同時代の漫画家や漫画、小説、映像作品に、心を惹かれたり、悔しい!と思ったりするものってあります?

もう『ゼロ・グラヴィティ』が出ちゃったから、プラネテスは役割が終わりだなあ。
あんな映像作れるじゃん!テーマも被ってるし、ああ、もう御馳走様です!

――今は『宇宙兄弟』(*15)や『MOONLIGHT MILE』(*16)、『ふたつのスピカ』(*17)など、現代とプラネテスの間にあるような漫画や作品があると思いますが、それらに対して想いなどはありますか?

最近のだと『シドニアの騎士』(*18)なんかが凄いと思ってます。
でも、これと言って想いとかはないですね、他人様の漫画は他人様の漫画なので。

多分、余りオタク性があまりない漫画家なんだと思います。
専門性がなく、コアに行くこともあまりないから、ジャンルにもこだわらないですし、ぬるいと言われる。
流行りモノも、いつも年遅いって言われますが、遅くても平気なくらいテンポが遅いし、こだわりもない。
リアルタイムだったはずの『ガンダム』シリーズなんかも、全話ちゃんと見たの大人になってからですね。

そういうテンポの悪さが、僕を孤独にしているんだと思う。
最新のモノに飛びつかないのは、僕の性格なんでしょうけどね。

――先生が現在、講談社『アフタヌーン』誌上で連載中の『ヴィンランド・サガ』は2070年の世界から、1000年くらい過去にまき戻って、北欧のヴァイキングたちが物語の中心にいます。
実際に、星野之宣先生の『宗像教授シリーズ』(*19)や石川雅之先生の『純潔のマリア』(*20)など、SFや最先端の世界を描いていた人たちが急に過去に戻ることがあって
それが少し不思議なんですね。


S(ukoshi)F(ushigi)、少し不思議(*21) ですよね。
確かにそう言う人がいるのは、なぜでしょうね。僕はSF専門だという自覚もなく、面白かったら何でもいいというだけです。

――Wikipediaでみたら、実在するトルフィン・カルルセヴニ(*22)という人物がいたんですよね。デブリもですが、なんでそんなの見つけてきたんですか?

やはり子供のころ読んだ本に、コロンブスより500年早く発見した人がいたかもと、書いてあったんです。

最初は嘘だと思ったんですけど、どうやら本当らしい。
トルフィン・カルルセヴニのことは伝承のみで上陸したかも分かっていないんですけど、
数回に渡って行われたとされているヴィンランド入植の中でも、少なくともレイフ・エリクソン(*23)がアメリカ大陸に渡ったことは事実であると、考古遺跡によって証明されています。
出たんです。アメリカ大陸から、船のベットなどの鉄製品とそれを加工する道具。年代測定によっても確かな千年前のヴァイキングのものだと言えるものが。
千年前のネイティブアメリカンは鉄器を持ってません。決まりだな。これは行ったなと。

子供のころ読んで、それが不思議で、まず何のためにと考えました。
すぐに、彼らが恐ろしく北にあるグリーンランドに住む人だと分かった。
何の産業も資源もない、なぜ住む?! と思うような場所ですが、そこに住むのがヴァイキングのフロンティアスピリッツなんですね。
そこから、そうか豊かさを求めての新天地探索なのかと、そこまでは分かりました。

ただ、トルフィン・カルルセヴニというのはちょっと違う気がしました。
レイフ・エリクソンやソルヴァルド(*24)などのアメリカ大陸探索は、多分に資源の有無や入植の可否を探る、探検の要素が強い。
ところがこのトルフィン・カルルセヴニの探索は規模が違って、非常に大規模なんです。
最大で、船五隻に人員数十名、たくさんの資材、そういうものをトルフィンは莫大な資金を全部自腹で切って用意し、ヴィンランドに行った。
もう戻らない覚悟で、国を作るつもりで行ったんですね。
彼は、グリーンランドよりもまだヨーロッパ大陸に近くて交易もあるアイスランドの人間です。
それが、すべての私財をなげうってその冒険行に出たのはなぜか。
これはグリーンランド人のレイフ達とはちょっと理由がちがう。そこから『ヴィンランド・サガ』が生まれた。

――千年くらい時間が違う作品作っていて、それぞれ違うなぁとか、逆にこれは一緒だなって思うことってありますか?

『ヴィンランド・サガ』になってから全然絵を描くのに定規を使わなくなりました。
木でも何でも、どこかよたよたしていて、まぁフリーハンドで描くって楽。

宇宙船っていうのは妙にシンメトリーだったり、平行線とか決まった角度とか、測らなきゃいけないんですよ。
僕3DCGとか作れないですから、船を頭の内でイメージして、動かしながら時間をかけて描いている。それが面倒くさくて。
そういう意味で『ヴィンランド・サガ』は助かります。

話において違うといえる場所は、特にないかな。
むしろ同じことの方が多いというか、『ヴィンランド・サガ』でも『プラネテス』でも、何のためにこの漫画を描いているのかというテーマは、全く変わっていませんので。

きっと、無意識にひとつ得たテーマ、僕の暫定的な人間観、人生観、世界観に関する結論を、時代や洋の東西を問わず検証しているといってもいいのかもしれない。
どの世界、どの時代、どの人種にも当てはまるのであればおそらく真実と考えてよかろうと、そういう検証のついでにやっているような気がします。
人間に共通して必要なものは何か欠けているものは何か。
そういうことですね。

人間1人残らず、と言ったときはたしてどこまで確かなことが言えるのか。
60億もいますから、あらゆる例外が存在するはずです。

はたして人間みんなに共通してこれが必要だ、っていうのが分かれば我々はみんなで手を取り合って一緒にその課題をクリアするように努力できるはずです。
ただ今はそれが見えていないのです。
我々の足並みがそろっていないからこそ、喧嘩もするし戦争もする。人間みんなに共通して言えることって何だろうと。

――SFとかだと人間全体に共通することを考えるときは宇宙人を出して対比させてっていうことが多いと思うのですが、
あくまで人間のドラマ、ファンタジーではなくて、今と同じ人間を描くのは理由があるんでしょうか。


ハードSFで育ったからかもしれません。ハードSFと宇宙人ってちょっと相性悪い
宇宙人って限りなく想像の産物で、出すときにすごく苦労すると思うんですよ。
我々人類の今の有り様を、もしゼロから想像するのは大変なことです。
宇宙人を1人、1種類デザインするとしても、1つの文明を頭の中で作るくらいの、ものすごい労力がいると思います。

確かに比較があると分かりやすいですが、その比較対象が現実に存在してくれないと困ります。
我々の鏡写しのような宇宙人をデザインしたにしろ、僕が一から想像で作ったにしろ、
人間ではないものの存在というものをなかなか僕が想像して人間について何か証明できるかっていうと、さて難しいかなって。

――その想像したのが4巻に出てくる、自称・レティクル星人の青年「男爵」(*25)なんでしょうか?そこで彼を出した理由はなんですか?

彼は人間ですが、僕が唯一描いた宇宙人かもしれない。
それはやっぱり地球人ではない、一からの客観的観察ではない人間が描ける便利な人でしたけど。
でも彼については何も描いていない。

ま、テンプレートな宇宙人像ととんでもない設定っていう僕の想像力の限界でしたけど、それは面白かったですね。
自分は地球人じゃないっていう位置から人間をみているといろいろ不思議だと彼は思ったでしょう。

男爵は若いころはやんちゃでいたずら好きって描いてありますけど。僕は全然本当は違うと思います。

僕が想像するに多分、もし宇宙人がいて、銀河の真ん中あたりで巨大な惑星間文明を構築していて、地球までやってきたとしましょう。
我々はその人たちからみたら、赤ちゃんに見えると思います。それは技術や文明の話ではなくて、我々は非常に精神的に幼い。
せいぜいまともに大人扱いされるのはガンジーとマザー・テレサくらい。

――僕らと、ガンジーにマザー・テレサ、そして宇宙人との間に、どんな差があると思います?

僕の考えですけど、幼く未熟で精神的になっちゃいない人は、プライドが高くて、損をしたくない、大きくこの二つかな。
何かと言えばそれは利己性です。
どんなケースにおいても、一番に自分の利益と自尊心を優先させる。
そう言う人は、僕は嫌いだし友達になりたくないけど、僕もだけど多かれ少なかれ人間はみんなそうです。

右手と左手に持っている馬の糞を持っているとする。
近くで他の人がピンチになっているのに、馬の糞なのに大事に放さず人助けをしない。
それが大体人間そうだと思っています。

この二つから手を放したいと言える人間がどれだけいるか。
そんな人は何でもできます。両手が空いているから。

何でもしてのけたのが、ガンジーとマザー・テレサ。

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*15小山宙哉の漫画作品。講談社『モーニング』にて2008年より連載中。テレビアニメや劇場映画も制作された。
*16太田垣康男による漫画作品。2000年より小学館『ビッグコミックスペリオール』にて連載。
*17柳沼行による漫画作品。メディアファクトリー『コミックフラッパー』にて2001年10月号 から2009年9月号まで掲載。それを元にしたアニメ作品は『プラネテス』同様、NHKにより制作された。
*18弐瓶勉による漫画作品。2009年より『月刊アフタヌーン』にて連載中。2014年4月よりテレビアニメも放映開始。
*19宗像教授を主人公とする漫画作品のシリーズ。1995年以降『月刊コミックトム』や『ビッグコミック』などで掲載。民俗学、古代史をテーマにしながらも、SF的神秘性が多く取り込まれている。
*20講談社『good!アフタヌーン』にて2008-13年の間掲載された、百年戦争下のヨーロッパを舞台にしたファンタジー漫画。
*21藤子・F・不二雄により提唱された概念。従来のScience Fictionに代わり、この表記を用いた。
*22『ヴィンランド・サガ』の主人公。
*23 10世紀後半のヴァイキング。『グリーンランドのサガ』に登場する伝説的人物。ヨーロッパ大陸からアメリカ大陸へ初めて渡った人物と伝えられている。
*24『グリーンランドのサガ』に登場する伝説的な人物。息子エイリークと共にグリーンランド移民を成功させた。
*25『プラネテス』の登場人物。自らを宇宙人と称する。本編では結局真相は明かされないまま終わる。