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Interviews

【映画企画】濱口竜介監督(映画監督)



 

カメラの夢はジョン・カサヴェテスのエモーションを小津のカメラポジションで撮ることなんではないかと常々思います

バウスシアター(14)が閉館してしまいました。あのようなミニシアターの閉鎖が映画界の衰退につながるのではという危惧があるのですが、いかがでしょうか。

作りたいという思いに対して観たい人が少ない以上、当然起こることだと思います。こういう話になると申し訳ないんですけど、あまり考えていないというのが正直な話です。1800円もしますし、インディペンデント映画に人が観に来ない、そもそも映画を観に来ないなんていうのは当然のことだとしか思わない。そんなに面白いものに出会う可能性は少ないですよね。どれだけ映画が好きでも、それはそうです。失敗する体験そのものも豊かなものとして捉えることができないと、映画館で映画を観るのは厳しい。失敗もまた楽しいという状態は、結構な本数を観ないと訪れないから敷居が高いですよね。それに対する解決策は、僕からは何も呈示できないです。けど、だからといって自分の作るモチベーションが落ちるということもないです。ただ淡々と作る、と言うか。

 

そうした、インディペンデントで儲からないという状況下でどのようにモチベーションを継続させているのでしょうか?

楽観的かもしれませんが、自分の作ったものに価値があれば、それを見せたいと思う人が出るでしょう。それは自分の考えることではない、と言うか。自分が作ったものを自分で配給するということを製作の条件としてあんまり考えていません。最近は「LOAD SHOW」という配信サイト(15)が立ち上がってくれました。すごくコストの低い出口ができたことは、この上なくありがたいことだと思っています。でも、究極的にはそれもあまり関係はないです。出口によって作るものに違いが出るというわけでもない、というのが現在の実感です。ある価値に専心すると言うか、もうそれしかないような気がする、というのが正直なところです。価値のあるものしか、時間を使って見たくないでしょう? それが当然なんだと思います。カメラっていうのはそれを記録して持ち運ぶための機械なんだと思ってますけど、一方でカメラ自体がそれを抑制するものでもある。だから基本的には、上手くは行くはずがないことをやってるんだと思ってます。それでもやるのは、単純に知りたいことがあるということだと思いますね。ある価値を見つけること、カメラの前であらわにすることを、「次はもっとやれる」ような気が毎回するので、「じゃあ次を作ろう」と思っています。

 

濱口監督はメジャーに行こうという思いはありますか。

いただいた話の中で「めちゃくちゃ面白くなりそうですね」って企画があれば、一も二もなくやると思います。それがどんな企画であろうとどんな規模であろうと、あまり関係はなくて、実現可能性は考えますけど、もしできることであってそれが面白くなりそうなものであったら何の迷いもなくやると思います。

 

自分に影響を与えた映画監督を3人挙げるとしたら誰ですか。

ひとりは、ジョン・カサヴェテス(16)。もうひとりは、小津安二郎(17)。小津のカメラポジションのことはよく考えます。そのポジション自体を模倣するということではなくて、カメラというものは存在してしまうんだ、ということ自体を教えられると言うか。あと一人は、ハワード・ホークス(18)ですけれど、ただ今の文脈で言うと、エリック・ロメール(19)の方が、カサヴェテスと小津の中間地点としてかなり具体的なやり方を示してもらったという点で影響は受けています。カメラの夢はジョン・カサヴェテスのエモーションを小津のカメラポジションで撮ることなんではないかと常々思います。そこで溝口健二という名前を思い出したりもします。無理なことなんですよ、それは。だから、夢があるんですけど。

 

 

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(14)東京都武蔵野市吉祥寺本町にある映画館。ロードショーの他に単館系作品も上映している。2014年5月末日をもって閉館予定。

(15)LOAD SHOW(http://loadshow.jp/)は2013年に立ち上げられた独立系の映画配信サイト。

(16)アメリカの映画監督。代表作に『フェイシズ』、『こわれゆく女』など。

(17)小津安二郎(おづ・やすじろう)は日本の映画監督。世界的にも非常に評価の高い映画監督である。代表作に『東京物語』、『晩春』。

(18)アメリカの映画監督。代表作に『赤い河』、『特急二十世紀』。

(19)フランスの映画監督。代表作に『緑の光線』、『海辺のポーリーヌ』。