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ありがひとし先生取材 ヒーロー(漫画)企画!



今回の取材では、古今東西のヒーローに対するありが先生のご意見を中心に伺いました。一方でありが先生を紹介する上で、先生の思い入れのこもったゲーム、ロックマンとポケモンについての話題を欠かすことはできません。実際この二つのゲームに対するありが先生の見解は非常に興味深く、ヒーローという本筋からはやや離れるものの、ぜひ紹介すべきだと判断し、番外編として掲載することにしました。ありが先生のファンの方など、ぜひ楽しんで読んでいただけたらと思います。

 

8、『思い出してほしい。君は、あのシグマに勝てたよね』

 

漫画・特撮・アニメとは別に、ゲームの中のヒーローについて話しましょうか。

ロックマンって、まさにゲームのヒーローですよね。ヒーローっていう題材はゲームにすごく向いているんですが、それはヒーローとの一体感があるからなんです。「君がヒーローだ。」どんなにラスボスが強かろうと、がんばってクリアしたら、自分はあのボスに勝てたヒーローになれる。ゲームの特徴として、ヒーローの疑似体験ができる、ということが挙げられます。

 

私もロックマンのお仕事をさせてもらっていて、カプコンのイラストレーターさんたちが描いた絵をまとめる編集、監修作業をしたことがありました。当時その絵描きの方たちからコメントをいただいていたんですが、その中でも好きだったのが、ロックマンXを描いていた方からの「人生辛いこととか、めげるようなことがあっても、思い出してほしい。君はあのシグマ(注17)に勝てたよね。」っていうコメントです。これが、ゲームのヒーローのいいところだなって思います。

 

ロックマンをコミカライズした、という表現になりますが。私の場合、キャラクターを使わせてもらって自由に描かせてもらう、という形でやらせてもらいました。そこで、本編とはまた違った、劇場版みたいな感じにしようと思ったんですね。子どもたちに何を残そうか、何を伝えようかな、ということを考えながら、色々書いていました。たとえばロックマンメガミックス(注18)に関して言えば、ニセモノのヒーロー、コピーロックマンが出てきます。それを描くときに考えていたのが、「ニセモノのヒーローもヒーローなんじゃないか」っていうことだったんですね。その条件で考えると、ヒーローかどうかというのは、信念があるかどうか、ということになる。結果的にそれが悪になるかどうかは、周りの状況などで変わるものなんですが。

 

――先ほど「ヒーローの疑似体験ができる」とおっしゃっていましたが、ロックマンシリーズは難しいゲームですし、クリアできずにあきらめてしまう子も多かったんじゃないでしょうか。

 

長いシリーズの中で、基本的に難しいシリーズである、ということにはなってますけど、それも実は難しい話なんですよね。わたしは、(初代の)1と2に関しては、それほど難しいとは思っていません。当時多かった、理不尽な死に方をするゲーム…例えばトランスフォーマーコンボイの謎(注19)とかがありましたけど(笑)ロックマンはそれらと違って、くり返し遊んでいれば、そのうちに絶対に理屈でクリアできるゲームだと思うんです。一見ランダムで理不尽な動きをすると思っていた敵にも、プレイヤーがここにいる時にかならず察知して降りてくるとか、しっかり法則性がある。そういった理由があって動いてくるのがわかっていると、繰り返しやり続けていれば、絶対にクリアできないはずがないゲームなんです。

 

――だんだん上達していく、ということですか?

 

うまくなっていく感じがあります。決まったことを、決まったアクションでするから。例えば私が好きなボスキャラクターに、ロックマンが弾を撃ったときにだけ、ジャンプするやつ(注20)がいるんですよ。それがわかっていれば、ジャンプしながら弾を撃って、同時に敵がジャンプしてくるのに合わせて弾を当てる、といった攻略が可能なんです。理屈でクリアできるゲームがロックマンだと思っています。

 

それから制作者がどんどん替わっていって、難しいのがフォーマットになっていきましたけど、それでも、理屈である程度クリアできるゲームだと思っています。だから、「ロックマン難しいですよね。」って言われても、そうですねとは答えにくい。

 

とはいえ、4とかも難しいですね、バランスもすごくいいんですけど。7も、最後らへんまではすごくバランスがいいのに、最後の最後でいきなり、ゆるやかだった難易度がゴーンって高くなるんで。クリアさせるもんかっていうわけですよね。(注21)

 

――少なくとも、ああゆう難しいタイプのゲームは主流ではなくなってますよね。

 

9、「自分の知ってる、サトシとピカチュウでいるってところでまた見てくれます」

 

――最近の男の子向けですと、ヒーローものというよりも玩具系とかカード系に流れてますよね。あるいはポケモンだったりと、自分が戦うのではなく、他のものに戦わせるものが増えています。

 

ポケモンに戦わせるというのは、そもそもそれがゲームですからね。ゲームのルールとしてはすごくよかったんだけど、みんなが生活するシーンを、アニメーションでちゃんと描くようになる。すると本来、ゲームの設定では違和感なかったはずの部分が、違和感として出てきてしまいます。それで、どんなにピカチュウがぼろぼろになってもサトシは傷ついてないもんね、ってみんなに言われることに。ちがう、そうじゃないよってところを示すためなのか、よくポケモンをかばってサトシが怪我してるんで、難しいところですよね。

それよりもサトシはいつになったら、ポケモンマスターになれるんだろう(笑)

 

――ポケモンマスターになっちゃったらポケモン終わっちゃいますもんね。

 

ゲームの方だと、チャンピオンを倒したらエンディングですもんねえ。殿堂入りしたら、スタッフロールが流れて終わる。

 

だけどアニメの方は、主人公は交代できなかったんですよ。その背景として、有名なポリゴンショックの影響もあったと思います。ポリゴンショックが起こった後、「ミュウツーの逆襲」の公開前くらいにまたポケモンのアニメ放映が始まりました。私の想像なのですが、それ以降、新作ゲームが出て主人公交代の機会があった時にも、一度不本意な形で放送中断していたポケモンにとって、認知されている主人公を変えて再びリセットしてしまうのはギャンブルになるでしょうし、そういう点からも子どもに受け入れられたサトシとピカチュウを続投せざるをえなかったんじゃないかなって思います。そしてそのまま、今のベストウィッシュまで続いている。

 

でも、それには良い面もあると思います。あえて「あの2人」って言い方しますけど、サトシとピカチュウがいることによって、過去のコンテンツが輝くんですよね。今放映中のベストウィッシュを見てる子が、今度はケーブルテレビで、アドバンスジェネレーション(注22)も見ているとか。昔のアニメであっても、自分の知ってるサトシとピカチュウでいるってところでまた見てくれます。だからある意味、時代遅れにならないんですよね。彼らもまた、子どもが憧れる存在としては、ヒーローなのかもしれません――

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取材後、先生に「先生の一番好きなヒーロー」を描いていただきました!!本当にありがとうございます!!!

かっこかわいい!!!!!!!!!!

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(注17)Σ(シグマ)。『ロックマンX』シリーズ(1993年-2005年)を通してラスボスとして登場するレプリロイド(この世界のロボット)。主人公エックスらの上司だったが、コンピューターウィルスに感染したことがきっかけになり、レプリロイドのための世界を創造しようと世界征服を企てる。非常にしぶとい。

(注18)ありが先生による、ロックマンシリーズを原作とした漫画作品(有賀ヒトシ名義)。90年代半ばにコミックボンボン増刊号に連載され、1996年-1998年(コミックボンボン)、2003年(ブロスコミックス)、2009年(ブレインナビコミックス)のそれぞれの時期で、加筆修正を加えながらコミックス化されている。

(注19)1986年、タカラより発売されたファミリーコンピュータ用ゲーム。「トランスフォーマーのゲーム」であることよりも、極悪な難易度であることで有名。

(注20)主に『ロックマン2 Dr.ワイリーの謎』(1988年)のクラッシュマンを想定しているものと思われる。こちらの射撃に合わせて大ジャンプし、足下めがけて爆弾を仕掛けてくる。

(注21)『ロックマン7 宿命の対決!』(1995年)は確かに子ども向けによく難易度調整されている。しかしラスボスワイリーの第二形態(ワイリーカプセル)、最後の最後になって、ワイリーは本気を出したかのような猛攻を繰り広げ、じわじわと子どもたちのメンタル、ならびに残機を削っていく。エネルギー缶×4+スペシャル缶×1のフル装備でも足りない。というより足らなかった。本当にむごい。

(注22)・ポケットモンスター…1996年、ゲームボーイ用ソフト『ポケットモンスター赤・緑』(ゲームフリーク開発)から始まり、今でもアニメ、ゲーム、カードゲームなど様々なメディア展開が行われ続けている、一連のメディア作品。トレーナーとしてポケモンを集め、様々なトレーナーたちとポケモンバトルを行う。

・ ポリゴンショック…1997年から放映されたアニメ『ポケットモンスター』第23話において、激しい赤青の点滅、ストロボの多用などにより複数の児童が体調を崩し(光過敏性発作)、騒動に。その後、ゲーム、アニメ全般において光の明滅表現が控えられるようになった。

・ 『劇場版ポケットモンスター ミューツーの逆襲』…劇場版第一作、1998年公開。戦闘目的で人工的に作られたミューツーが、自分を作ったロケット団、ならびに人間を憎み、逆襲を計画する。アメリカにおいて興行収入8000万ドル、「日本映画初の週間興行ランキング初登場第1位」を記録。

・ 『ポケットモンスター ベストウィッシュ』…2010年から現在まで放送中。ゲーム版『ブラック・ホワイト』準拠。

・ 『ポケットモンスター アドバンスジェネレーション』…2002年から2006年まで放送。ゲーム版『ルビー・サファイア』準拠。