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高野和明取材


3.二十歳の頃

ずっと映画監督になりたいと思っていました

――二十歳の頃、一体どのようなことを考えていたのでしょうか?

高野 映画監督になりたいと思っていました。娯楽映画、エンターテイメント作品の監督に。本当にそれだけしか頭になかった。小学生の頃から映画監督になりたかった。そういうふうに生まれついてしまったとしか思えないんですね。映画作りが好きになるようなプログラムを持って生まれてきた感じです。

映画監督を目指す前は、宇宙飛行士とか医者とか、小説家、漫画家なんかになりたいと思ってました。



―― エンタメ小説を志したきっかけみたいなものは……?

高野 はじめ脚本家をやって、監督へのチャンスを狙ったんだけど、全然そんなチャンスはなかったんですね。それに脚本家が作った物語がそのまま作品になるということはなくて、大抵は制作会社とか局とかから「こういうキャスティングで企画を立ててくれ」とか、「こういう世界を扱ってくれ」っていうのが来ます。それで話を作ると、ディレクターとかプロデューサーとかがいろんな意見を言ってきて、更に俳優のマネジメント会社が「もっと主役を目立たせろ」とか言い出すわけですよ。そうするともう、誰の作品だか分からなくなっちゃうし、でも出来が悪ければ自分のせいにされちゃう。それで自分の思い通りに作品を作って勝負したいっていう欲求がつのっていったんですね。誰からも指図されたくなかった。それに小説なら、一発当たれば儲かりますし(笑)。


―― 最後に私達20代の若者に向けて何かメッセージをお願いします。

高野 取材とかで若い人に会ってびっくりさせられるのは、自分が二十歳の頃よりも、皆さんの方がしっかりしているってことです。

(一同笑)

―― ほんとうですか?

高野 ホントに、ホントに。自分の若い頃を振り返って恥ずかしくなるくらい。だから、あんまり偉そうなことは言えません。皆さん、そのまま育っていただけたらいいと思います。あとは、自分が痛い思いをした経験とか不遇をかこつ時期とか、そういう時は大変だろうけれど、それは必ず後で生きてくるから、しんどい時期はなんとかやり過ごして下さい。別に頑張る必要はないし、とにかく辛い時期は凌ぎさえすれば、いつか必ずその経験が役に立つ局面が現れます。

―― それは人生経験から?

高野 はい、人生経験からですね。

―― 小説を書くにあたって具体的にその経験が役にたったことってありましたか?

高野 いっぱいありますね。小説家のメリットは、自分にとってマイナスの経験も全部材料に使えるということです。例えばお金に困った経験とか、人から嫌なことをされた経験とか、逆に自分が誰かを傷つけた経験とか。

その材料集めというわけではないんですが、自分にとって都合の悪い不愉快な経験っていうのは、たまに無理してでも思い出すようにしています。無意識の底に沈ませない。

―― それってすごく辛くないですか?

高野 辛いけど、忘れちゃいけないような気がするんですね。あまりにしんどい時は、誰かがそれをやっているのを眺めているような感覚で見てみる。

―― 客観的にということですか?

高野 はい。

―― それを書き留めたりしているんでしょうか?

高野 しない、しない。誰かに見られたりしたら大変だからね(笑)