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カメラマン宮嶋茂樹取材


== 戦争報道を通じての、戦争観・国家観 ==

学生:

ちょうどこの前まで、韓国の延坪島にも行っていたんですよね。

宮嶋:

あそこは徴兵制ある国で、爆撃された時は本当にもう戦争みたいやったと思うんですけど、何かその現場見てきて、男はみんな武器や兵器の脅威について一応の知識を持ってる。

そんなにパニックにはなってなかったですよね。「やっぱこの国は戦争中なんやな」って感じた。



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学生:

この前のイラク戦争では橋田さんが現地で亡くなったり、イラクは生き残ったけどそのあとミャンマーで亡くなられた長井さんもいらっしゃるなど、カメラマン業界というのは周りで知り合いがどんどん亡くなっていく世界じゃないですか。

そういう世界でずっと生きてきて、戦争や平和に関して意見とか認識は変わってきましたか?

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宮嶋:

長井さんとは顔見知り程度で一度も喋ったことがなかったですが、橋田さんとは確かに仲よかったです。

けど、やっぱり僕は変わりません。

根本にあんのはやっぱり暴力だ、強いもんが勝つという考えは、変わりませんね。

甘ちゃんが嫌いで、話せば分かるとか、冷静な対応とか言うのは、最初なめられたからああなるんですよ。

領土紛争然り情報戦然り。武力もまして核兵器も持ってない奴が、何か言ったって誰も聞かんでしょ。

誰も怖くて言わないですけど、戦後の平和教育って根本的に間違っていたと思います。

私たちに手を出したらこんな痛い目に合うんだという武力を背景にしないと、交渉事なんてできない。

領土返せ、資源返せ、あるいは核兵器を廃絶しろ、と言ってもダメでしょうね。

今度も、反捕鯨で攻撃されたら、捕鯨をやめるって言うたでしょ。またなめられますよ。

僕はそれはカメラマンを始めた当時から変わってないですね。

反核運動も僕はそうやって懐疑的に見ていました。

歌や踊りや行進で核保有国はなくなったのかっていうと、放棄したのは南アフリカだけで、今や北朝鮮やパキスタンですら持っていますよ。

パキスタンなんて日本が最援助国で、僕らの援助で核兵器を作る、そこまでなめられるんですよ。

やから、反核に関してなら核持ってからやめよう、ゆうたらそら強烈ですよ。

こっちも核保有して、相手牽制した上での削減。ソッチの方が道早かったような気がしますね。

所で、諸外国が核兵器にアレルギーがないのは、一般人がデジタルカメラに拒絶がないのと一緒で、理論聴いても分からないからなんでしょうね。

日本には、実際被害に遭った、しかも世界唯一の国であるという時点で、DNA的な記憶があるんでしょうね。

諸外国じゃ、核兵器は名前だけなんですね。まさにデジタルな知識。何であんな大量な爆発力ができるのだろうか、あんな破壊力を出すか、物理学を知らないと聞いても分からない。

核に関しても戦争に関してもそうですが、負けたら惨めです。

もちろん、そんなことが起こらんようにするんが政治の最大の仕事ですけど、じゃあ、不正義の自由と正義の戦争を選ぶと、尖閣だって沖縄だって平和的に解決しようと思ったら最終的に中国と妥協しなくてはいけない。

したら石垣島に尖閣に中国人が住みつき、日本人は二等民族に追いやられる。

そういう状態でも平和だったらいいのか、それともいやなんとしてでも嫌だと、この国は日本人だけでやるのがいいんだっていうのとどっちがいいのかっていう。どっちがいいのか、どっちがいいと思います?不正義の平和と、正義の戦争。

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学生:

僕は、今を見ていると、正義の戦争が良いとは思えませんけど、不正義の平和よりはまだましかなって思いたくなりますね。けど、やはりどっちがいいとは言えません。

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宮嶋:

確かに、戦争知ってる世代は、あの時代だけは絶対ゴメンだというのは、そのとおりです。

前たち戦争してないんだろうって言われてもその通りで、爺さん婆さんから戦争アカンと言われればそうですと言わざるを得ないです。

ただ、知らない人に対して「お前たちが知らないからだ」っていうのは、それこそベトナムの先輩の論理と一緒で、僕はそういうのは嫌です

だから、人の写真批判するときも自分で言ってないとこは批判しないようにして、批判するにしても積極的に自分で行こうとしています。

自分が行った場所でなら他のカメラマンが撮ってる写真を批判しても、自分が行ってない場所の他人の写真がしょうもなくても、それはもうその人の事情があったんだろうって思うことにしてるんで。

で、それと同じで、私は第二次大戦、大東亜戦争は知らないですけど、イラク戦争はよく知ってますよと近代戦は知ってます、と言えます。

一つのオペレーションで何万の人間が、合計で何百万、何千万と死ぬ、そんな戦争今できないのに、今更そんな事言われたってって感じですよね。

今の日本が、外国がいうほど他国に侵略できるなんてこと、物理的に無理だとわかっています。いや、まぁほんとに戦争は駄目ですからね。

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学生:

まぁ、そうなんですけど、知らないからどうしようもないんですよね。

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宮嶋:

まぁ、そういうどうしようもなさを感じたのがきっかけで観光で戦争行った人もいて、実際死にかけたりなんかするんですけど。

何も見に行けとは言いませんけど、世の中綺麗事だけじゃないですから。

特にああいう命のやり取りしてるところでは強烈なエゴが出ますし。僕らだって見殺しやら多々するわけですよね。見に行かないに越したこと無い。

今の若い人らに、あなたは戦争に巻き込まれたら逃げますかって聞くと、結構な数の人が逃げるっていうと思うんですよ。

でも、私からしたら、まず日本が侵略されたらまず逃げられない。空港使えなくなって、海も大抵海上封鎖されるから。

人を殺すのが嫌だから隠れる、ってそれもできないですよね。それでいざ巻き込まれたら、例えば自分が殺される、恋人が殺される、兄弟が怪我をした、ちょっと表出たら友達が殺されてしまった。

そうなった場合人間って残酷になりますから。

僕は今の若い人がへたれだとか悲観してないですよね。

今はそうでも、家族が殺されたら、今の若い人らでも十分できると思いますね。

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学生:

今の日本は徴兵制がないじゃないですか。他国と比べて兵役のある無しで決定的な違いとか感じられますか?

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宮嶋:

いや、そんな事言ったらアメリカもないですよね。

ただ、圧倒的に世界的スタンダードからすれば徴兵制のほうが多いです。かつてのNATO、戦争ができんドイツですら実質的に徴兵制でしたから。

僕はあまり感じたことはないですけど、ただ僕から言わせたら、若い時の数年は、不条理で理不尽で集団生活で規則正しい生活を送り、全くバカバカしく思える愛国心だとか秩序だとか名誉だとかを受入ざるを得ない期間が数ヶ月くらいはあってもいいと僕は思いますけどね。

今の日本でも、任期制自衛官とか予備自衛官補とか、それくらいの集団生活をして奉仕活動をしてみて、最低限度の武器の使用を学ぶ、サバイバルを学ぶっていう期間が、若い時に6ヶ月くらいが理想じゃないかな。

それぐらいやったら、やってもええなって。世の中でたら理不尽なことばっかですよ。

それを6ヶ月くらい体験して、一つの共通体験ができますから、それも良いと思う。それを自分だけずるして、楽したいっていうのは、僕の場合はならないです。